インターネット SNS 親友
薬物乱用防止教室。暴力団排除教室。みたいなノリでインターネットの危険性を教師陣に説かれて当然のように聞き流していた幼い日のことなんて、もはや記憶はあるけど実感はない。脳みその中にしか存在しない過去なんて日に日に虚構じみてくるものなんだから仕方ないよな、悪いけど文句は人間とかいう生物を設計した存在、すなわち存在するのかもわからない神さまとやらに言ってくれ。だけど俺がその教育に思いっきり反逆しているのは決してそれが理由というわけじゃなく、俺はまさにその当時から市とかの推奨する時間を遥かに超越した使用時間スマートフォンを触って、何ならパソコンだって繋いで、この薄汚れた広大な海──つまるところ、有名なSNSのなかでも偏屈な者ばかりが集まるとされる魔窟たるツイッターに浸かりきっていた。って言っても、所属している界隈が狭くて閉鎖的だから開放感を覚えたことのほうが少ないけど、それこそニッチなカルト感。不健全な理想郷、あまりに居心地のいいぬかるみに足を取られきったまま、俺は義務教育を終えて、何とか高校も卒業して。中学の卒業証書も高校の卒業証書も写真に収めて投稿し、フォロワーから数多の『おめでとう』を貰うなり押し入れに仕舞い込んだことなんかは、まだ記憶に新しい。楽しい日々だったな、と思う。何せ、退屈な出来事だって脚色して語るだけで面白くて気の合う相手と交流できるんだから。ともだちひゃくにんできるかな♪とか明るく歌っていた幼いころそれは到底不可能だったのにフォロワー100人だったら簡単だったし、ツイッターをしているあいだだけ、まるで俺は世界を総べてでもいるかのような気分にさえなれた。誰より自分が強くて、世界にだって愛されているような錯覚に陥ったりもしていた。
けれど現実とは非情なもので、面白いことに、今の俺は大学受験にも就職活動にも敗れてニートまっしぐらの単なる社会的弱者でしかないし、世界に愛されているどころか家族に疎まれていて、──そのせいで。
「なんで俺がおまえを頼んなきゃいけないんだよ、なあ」
「親友だからだろ? 言ったじゃん、おまえのためなら何でもするって」
小学校から今まで、ずっと隣の家に住んでいるから縁が切れたことはないし、どうしてか昔から俺に献身的なため──今だって、家には帰りたくないけど外泊するお金もないから、と電話ひとつで呼びつけた腐れ縁の幼なじみの顔を、複雑な感情で睨みつける。
「はぁ? おまえなんか俺のこと、何も知らないくせに。何で、そんなに、ずっと」
こいつに罪はないし、というか、自分に長年良くしてくれているイケメンを嫌う理由なんてあるはずがないのは自明の理だ。でも、ツイッターが理想郷なら、こいつは牢獄たる現実の象徴だから。憎くて仕方ないのだと、そんな伝わるわけもない愛憎を拗らせながら睨みつけていると、惨めったらしくて涙が出た。ただ、それを慣れた手つきでこいつが拭ってくれる暖かさに、内心で安らぎを感じたのも束の間のこと。
「──何も知らないくせに、って言うけどさ」
投げかけられた声のトーンに不吉なものを感じて目を合わせたころには、さっきまで穏やかな表情をしていてくれたはずの幼なじみは、どうしてか酷く昏い瞳をしていて。
「知らないでいてほしいんだろ?」
「そりゃ、そう……だけど」
要求や願望なんてものはいつも自分を主軸にミラーリングされているので、自分のことを知らないでいてほしいのは、相手のことを知りたくないからだ。それなのに今、何かから目を背けられなくなる気がして──悪寒と共に、どくん、と強く心臓が脈打った。




