苛烈な姉弟
俺達3人が木の陰からこっそり赤い髪の二人を見ていると
「ん?そこに居るのは誰だ!!??」
こちら側に背を向けていたにも関わらず、見ないでこちらの気配に気づいたのか!!
「チッ、愚弟。このクマを私があのコソコソ見てる不届き者をぶち殺すまでにぶち殺しておけ!!」
「いや、姉様。村人かもしれないのに殺すのはまずいですよ。そこの人すぐに逃げたほうがいいですよ!!」
「おい、愚弟。この私に意見できるのは私よりも強い人間だけだ!!」
そう言うと15メートルほど距離があったのに一瞬で近づいてくる。
「おい、貴様ら何者だ?他国の人間か?」
「いえ、俺達は気がついたらこの森で倒れていたのです。」
「なにをしにこの森に来たかわからないということか?」
「はい。それにこの森に来る前、どこから来たのかもわからないのです。」
「記憶喪失、、か。胡散臭いな、お前。おい、女。こいつの言っていることは本当か?」
聞かれたのは沙穂。上手く答えてくれよ。
「は、はい。」
「貴様らの服、どうやら相当良い物のように見える。他国の貴族、なんてことはないよな?」
威圧感がすごい。ライオンに威嚇されているみたいだ。
「貴族じゃないです!」
、、、沙穂。そこは知りませんが正解だ。
貴族じゃないです。
なんて言ったらなんでそんな事がわかる?と聞かれるに決まってる。
「おい、記憶がないんだろ?なぜ貴族じゃないと断言できる?」
「きっと貴族だと言われることに彼女は本能的に嫌だったのでしょう。」
「ほう?まあいい、ゆっくり我が屋敷で話を聞いてやる。愚弟!!まだ終わってないのか!!」
声デカ!!
赤い髪の弟の方を見ると本当に角グマ相手に剣一本で戦っていて自分から攻撃はしていないがクマの爪の攻撃を剣で軌道を変えて上手く当たらないようにしている。
今も上から大きく振りかぶって爪で攻撃したクマの攻撃を剣で流すように少し横にずらして当たらないようにした。
「姉様!!申し訳ございません!!」
「愚弟!!そこのクマにスキルを使わせるくらい追い詰めることもできんのか?、、、、もういい!!私がぶっ殺しておく!!」
そう言うとまた一瞬で15メートルほど動き、素手でクマのお腹にパンチを入れる。
「グオオオオオ!!」
随分痛かったのか角グマが叫び、腕をおおきく振りかぶって腕を巨大化させる。
それに伴って爪も伸びより鋭く、重くなった。
その巨大化した角グマの腕を赤い髪の女性は真正面から受け止め
「野良グマのくせになかなかやるな!!だが私がスキルを使えばお前など一撃だ!!」
そう言って角グマの腕を受け止めた腕ではなく逆の腕でまた角グマの腹にパンチを撃ち込む。
すると角グマの腹に穴が大きく空き、そのまま角グマは後ろに倒れる。
「フッ、ウオーミングアップにもならんわ!!おい、貴様ら、愚弟。着いてこい!!」
そう言ってすごいスピードで歩いていく。
あれに着いていくには走らないと追いつかない。
「君たちごめんね。姉様、ああなるともう止められなくて。逃げても良いんだけどもし見つかったら確実に殺されるから意地でもついてきたほうが良いよ。
あ、あと僕はフィット・ウルガンス。よろしく。」
「ああ、よろしく。俺の名前は、、、」
この世界はどうやら外国っぽい名前が主流のようだ。
ここで本名を言えば目立って仕方ない。
もしかすると俺達と同じように地球から来ている人もいるかも知れないし力もないのに目立ちすぎるのは良くない。
「名前は?」
「アーサーだ。」
「へー。アーサーね。2人は?」
「我が名はアテナ!!我が知識!!我が力!!ひれ伏せ!!」
「、、、、、、」
フィットくんも引いている。
「私はレイン。よろしく。」
「あ、、うん。よろしく。急いで姉様を追いかけよう。」
俺達はステータスを上げてないからなのかずっと赤い髪の女性を追いかけるために走らされかれこれ3時間は走っている。
「3人とも大丈夫かい?」
フィットも少し小走りぐらいで全力で走っている俺達より速い。
「だ、大丈夫じゃない。はあ、はあ、」
「でもそろそろ見えてくるよ。僕たちの町が。」
そこから1時間走り、4時間弱ぶっとうしで走りついにフィットたちの住む街に到着した。
「おい、貴様ら着いたぞ!!」
「え?」
「やっとーー??」
「我がはじまりの街!」
「我が家、ウルガンス家が治めているウルガンス領ガルフの街だ!!」
顔をあげると中世ヨーロッパのような町並みが見られる。
俺達は森を抜け丘に登ってきていたようだ。
建物はほとんどが1階から3階くらいまでしかない。家は殆どが真っ黒か真っ白で塗られている。
だが街を覆うように真っ黒な壁が建てられており恐らく10メートル以上あるだろう。
門の前には馬車や門番のような人も見られる。
「おい、急いでいくぞ!!」
赤い髪の女性はそう言って丘を駆け下りていく。
「フィット、あの人の名前聞いてなかったよね?」
「ん?あ、、忘れてた!ごめん、ごめん。」
「いや、良いんだけど」
「あの人、いや姉様の名前はシルビア・ウルガンスだよ。」
「さっきから気になってたんだけど、ウルガンス領ってことはフィットとシルビアさんはこの領地の統治者ってこと?」
「ああ、そうさ。シエルス帝国、辺境伯ヴァイン・ウルガンスの娘と息子だからね。」
この世界には貴族制があるのか。
これから俺達はウルガンス家に行くようだが下手をすれば一生牢の中だろうな。
この世界に平等なことなんて一切ないと思った方が良い。
「さ、行こう。」
俺達は街に入るため門の方に丘を下っていく。