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第13話 公爵様のお仕事

 執務室ではうんうん、と唸りながらオズが仕事をしていた。

 ついに王太子からも辺境部の領地改革を突っ込まれており、これをなんとかしなければならないのだが、うまい案が思い浮かばない。


 すると、ドアをノックする音が聞こえてきて、オズはどうぞと声をかける。

 この時間にいつもお茶などを差し入れてくれるのは、メイドのリンであったため、おそらく今日もそうだろうと特に視線をそちらに向けなかった。

 しかしいつまでたってもお茶をいつもの場所に置かないため、おかしいと思ってドアのほうに目を遣ると、忙しそうにしているのに気を遣ってか、入るか入るまいか悩んでいるフィーネがいた。


「フィーネ?!」

「オズ、ごめんなさいっ!! ちょっと顔を見たくてリンにお願いしてお茶の差し入れを代わってもらったの」

「ああ、ごめん。そうだったのか。気づかなくてごめんね。こっちにお願いできる?」

「はいっ!」


 オズの右側にそっと紅茶を置くと、それを受け取ってゆっくりとオズは飲む。


「美味しい」

「よかった……」


 そう言えば、といった感じオズは気づき、彼女にふと軽い気持ちで聞いてみる。


「ねえ、フィーネ。毎年氾濫する川を押さえるにはどうしたらいいと思う?」


 オズが彼女に聞いたのにはわけがあった。

 フィーネは昔から歴史書が好きで様々な国の歴史の本を読んで知識を得ていた。

 どうやら彼女が教会にいたときによく好んで読んでおり、そして地下牢には禁書として領民から取り上げていた本が眠っており、それを暇つぶしに読んでいた。


 ふとその話をこの家に来た時に話していたのを思い出して聞いてみたのだ。

 すると、顎に手を当てて考える仕草をしたフィーネは、少し遠慮がちに提案をした。


「昔の東国のある領地では、時間はかかりましたが大きな川の氾濫を防ぐために何十年とかけて堤防をつくったそうです」

「ていぼう?」


 海のないこの国では堤防は馴染みのないものであり、オズはすぐにピンとこなかった。

 それをフィーネは丁寧に身振り手振りをつけて説明する。


「水流を見極めて高さのある石垣のようなものを作るんです。すると壁になって川が氾濫するのを防ぐことができます」

「石の壁か……!」

「ええ、おそらく人員もかかりますし、すぐにできるものではないと思いますが」

「いや、それ、いいかもしれない」


 さっと山積みにしてあった資料の束から該当の資料を手に取ると、さっと目を通していく。

 実は領地改革にはいくつもの問題が並行しておこっており、代表的な二つが川の氾濫問題と働き口不足だった。

 作物も育ちにくいその辺境部では、一次産業も育たずに、ただ隣国からの移住民なども多く入ってきて町に人があふれかえっていた。


 オズは資料を順番に眺めると、頭の中でシミュレーションをしてみる。


「もしかしたらいけるかもしれない」

「え?」

「ありがとう! 実は辺境部で川の氾濫と人口増加が問題でね、それを解決する仕事を請け負ってたんだ。その堤防を作る公共事業を作ってしまえば、働き口も確保できるし、いけそうだ!」

「私、お役に立ちました……か?」


 オズはがばっとフィーネを抱きしめると、嬉しそうにそのまま少し飛び跳ねる。


「大活躍だよ!! これで僕のクビがつながった!!」


 そんな大変なことになっていらっしゃったのね、とふと思ったが、いつもみたいな紳士のように大人な様子ではなく、子供のように喜ぶ彼を見てなんだか可愛いと思ってしまう。



 数日後、この案を王太子に提出して無事に可決された後、堤防作成の事業は正式に開始した。

 王都から技術者も送り、街としての機能を整える準備をしているのだそう。


 そんなフィーネの支えもあって仕事を無事にこなしたオズは、久々にフィーネとアフタヌーンティーを楽しんでいた。


「フィーネは昔からベリーが好きだったね」

「はい、ベリーはとても好きです! 見た目も可愛いので!」


 君の方が可愛い、なんてふとオズの心の中では再生されたのだが、あまりにもキザすぎるか、と言うのをやめた。

 紅茶とシフォンケーキが並んでいるテーブルにはひらひらと薔薇の花びらが舞って来る。


「ここは綺麗ですね」

「ああ、母上が大切にしてるんだ。父上が薔薇をプロポーズの時に送ったそうでね」

「わあ! 素敵ですね!」

「そうかい?」

「はいっ! 私も好きですよ、薔薇」


 そんな風に言いながらテーブルに落ちてきた薔薇の花びらを拾って匂いを楽しむ。

 花びらなので匂いは強くなく、程よかったようで満足そうに微笑んだ。



 そんな横顔を見ながら、オズは明日のことを考えていた。

 そう、明日は彼女を苦しめた教会へと行く日だった──

日本の戦国時代の歴史をモデルにこちらのお話を書きました。

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