第98話 グロスメビロス
悪そうなお兄さんの案内で、グロスメビロスのアジト前までやって来た。
貧民街にしては珍しく、ちょっとした豪邸だ。
イーデミトラスとは違い、アジトの所在を他人に知られても構わないといったスタンスなのだろう。
まあ単純に、調子に乗ってるとも言える。
それだけ組織の力に自信を持ってるんだろうね。
「「ぐあああああああああああああ!!」」
タマねえによって目の前に放り投げられたクズ2人が、痛みで転げ回っている。
「時間も無いし、早速始めちゃおう!」
当然ながら、ショタの適当なセリフに悪そうなお兄さんからツッコミが入る。
「オイオイ!作戦とかねーのかよ!?」
「だって壊すだけだもん。ただその時に頭のおかしなおじさん達が瓦礫の下敷きになっちゃったりするのはしょうがないよね。こっちも仕事だから手を抜けないし」
「古くなった建物が崩れて怪我するなんてよくあること」
「解体業者みたいなこと言ってんじゃねえよ!そっちは自然災害みたいに言ってやがるしよ!!」
災害って、酷いこと言いますね!
・・・さて、突撃メンバーは誰にしようかな?
いっぱい出したら疲れちゃうし、主力チームだけでいいか。
「じゃあ特別攻撃隊のみんなを呼ぶね!略して特攻隊だよ」
「なんか格好良い!」
「ほ~~~、確かに格好良い名前だな。えげつねえのが出てきそうだが」
クーヤ・タマねえ・悪そうなお兄さんの背後に、『メルドア、ゾウ、ライオン、サソリ、蜘蛛、黒豹、ゴーレム』といった主力級の召喚獣がずらっと出現した。
「ま、ま、魔物だあああああああああああああああああ!!」
「ひいいいいいいいいィィィィィッッッ!!」
驚いたクズ2人組が、痛い足を引き摺りながらアジトへと逃げ帰って行く。
「バカなの?今からその屋敷に攻撃するのに」
「苦労は皆で分かち合うもの」
「オ、オイ!なんだよこの魔物の数は!!」
後ろを振り返った悪そうなお兄さんも、これにはさすがに驚いている。
どこに出現させようか迷ったけど、何となく後ろに並べてみることにしたのだ。
ビジュアル的に格好良いかなーって。特別攻撃隊だし?
「うわあああああああああああ!魔物の大群だあああああああああああ!!」
「逃げろおおおおおおおおおおおお!!」
「いやちょっと待て!アレって黄色と黒じゃ・・・」
「ん?」
なんかクズ2人だけじゃなく、通りすがりの貧民街の住民達まで逃げて行ったようだ。
「と、とにかく俺は一度帰って仲間を集めて来るぜ。暴れ終わってもすぐ帰らず、この場所で少し待っていてくれ」
「わかったーーー!」
「急いでね」
ガシンッ! ガシンッ! ガシンッ! ガシンッ! ガシンッ! ガシンッ!
2体のゴーレムが、屋敷の左右へと移動する。
ゴーレムを10体全部呼び出してしまうと他の召喚獣達の見せ場が無くなっちゃうから、今回は2体だけにしたのです。
「じゃあ攻撃を開始するよー!蜘蛛達はあの屋敷から逃げて来た奴らをやっつけてね。怪我はさせても良いけど殺しちゃだめだからね?」
召喚士とのパスを通して、召喚獣達から『まかせて!』といった感情が流れ込んで来る。かわいい。
ショタが小っちゃい手を前へ振り下ろすと、2体のゾウが玄関のドアに向かって突撃して行った。
ドドドドドドドドドドドドドドドドド
ドゴーーーーーーーーーーーン!!
「全軍突撃ーーーーーーーーーーーーー!!」
ドドドドドドドドドドドドドドドドド
そして左右のゴーレム達も屋敷へ攻撃を開始する。
ドガーーーーーーーーーーーン!!
そのクソヤバイ光景を横目に見ながら、悪そうなお兄さんは仲間を集めるために戦線を離脱した。
「メルドアはボク達の護衛ね!格好良い所を見せたかっただろうけど、ボク達を守る方がもっと重要な任務なんで、信頼が揺らぐことなんて絶対無いから!」
『オン!』
「クーヤとタマはここで見てるだけなの?」
「うん。知らないおじさん達と話すことなんか何も無いもん。それにあの2人が逃げ帰ったから、誰が攻め込んで来たのかってのもボスに伝わっているハズだよ」
「なるほど。でも退屈だからチョコ食べたい」
「はいはーい」
タマねえにチョコを渡した。
ガシャーーーーーーーーーーーン!!
ズガーーーーーーーーーーーーン!!
破壊音をBGMに、タマねえ・メルドアと一緒にまったりと寛ぐ。
今頃屋敷の中でもライオン達がグロスメビロスの連中をしばいてるハズだ。
前回は牢獄からの脱出劇だったからバッチバチの戦闘になったけど、一方的に破壊するだけならばこんなに楽ちんなのね・・・。
でもそれは、悪そうなお兄さんがケツ持ちをしてくれるおかげだ。
もしこれが自分らだけでケリをつけなきゃならない場合、組織のボスを傷めつけて恐怖で従わせるか、もしくは奴らを皆殺しにする必要があっただろう。
・・・しかし異世界転生ってのは危険だね。
自分の身体って感覚が薄いのかわからんけど、三人称視点で見てる所がある。
ゲームの主人公を操作してるような感覚っていうのかな?
とにかくしっかりと自制しなければダメなのです。
だからボクは人を殺さない。
これは優しさなんかじゃない。『自分の心を守るために』だ。
殺しを他人事のように考えるようになったら、きっと何かが壊れてしまうから。
待てよ?建物が崩壊したら死人が出てしまう可能性が・・・。
いや大丈夫でしょ!この世界の人々はみんな頑丈だから!!
よし、やっぱり屋敷の中を見に行くのはやめよう。
後は全部悪そうなお兄さんに丸投げだ!
そして30分も経った頃、何人もの男を引き連れた悪そうなお兄さんが、現場へと戻って来たのだった。