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第94話 孤児院

 高級馬車 "試作1号機"の試乗から10日ほど経った。


 その間にサスペンションも完成し、今は馬車を量産する為の職人集めをしている所なんだけど、その人材がなかなか思うように集まらなかった。


 なんせここは剣と魔法の世界だ。

 鍛冶職人を目指す若者が作りたいと思うのは剣や鎧なのですよ。


 生活用品を作るような職人となると、もう夢を失って日々の暮らしを考えるようになった年配者に限定されてしまうのだ。


 そこで職人育成計画が持ち上がったんだけど、将来を見据えた場合、欲しい人材ってのはやっぱ若者ということになる。


 しかしタマねえやティアナ姉ちゃんが通ってる学校の生徒なんかは、冒険者を目指すような夢いっぱいの人達ばかりなので、声をかけた所で無駄だろう。



 そこでクーヤちゃんは閃いたわけですよ。



「ボク達には貧民街(スラム)があるじゃない!」


「・・・ん?突然何意味不明なこと言ってるの?」



 この計画にはタマねえの力が必要だ。


 口の堅さに定評のあるタマねえになら教えても問題無いと判断し、職人集めの概要を説明する。


 学校に通えるような裕福な家の子は馬車職人なんかにゃならないけど、貧民街(スラム)で暮らしている人達ならばおそらく何だってやる。


 しかし擦れている大人は悪事に手を染めている可能性があるのでダメだ。


 日々を生き抜くための仕事を求めている子供達がいる場所。



 ―――――そう、目指すのは孤児院だ。



 この話は孤児院からしても悪くない話だと思うんだよね。子供達が定職に就けるだけじゃなく、孤児院にお金を入れるほど稼げるようになる可能性だって十分過ぎるほどある。


 そして生い立ちを考えると、情報を漏らす可能性も低いんじゃないかな?雇用主の信頼を裏切ったら、もうその孤児院から人を雇うことは無くなるのだから。



「えーと、貧民街(スラム)に知り合いがいることにすればいいの?」

「ボクが突然貧民街(スラム)に行って孤児院を集めて来たらちょっとおかしな行動になっちゃうけど、タマねえって元々貧民街(スラム)で遊んでたでしょ?だから知り合いがいても不思議じゃないと思うんだ」

「知り合いなんかいない」

「うん、別にいなくてもいいんだ。大人の人達が変に思わなければいいってだけ」

「ふむふむ」

「ライガーさんとかに孤児院との繋がりを聞かれた時に、『貧民街(スラム)の知り合いに孤児院のことを聞いた』って言ってくれればそれでいいから!」

「わかった」



 よし!あとは孤児院を探すだけだ。

 悪そうなお兄さんには用事が無いから、今日はそっとしておいてあげよう。






 ************************************************************



 ―――――そして貧民街(スラム)に移動。




「悪そうなお兄さん、召し捕ったりぃ~~~~~!」


「くっ、これまでか・・・」



 ふ~~~、やっと捕まえたぞ。梃子摺(てこず)らせおって!


 あれ?

 そういえば今日はそっとしておいてあげる予定だったような。まあいいや!



「んとね、孤児院がどこにあるか教えてほしいの!」

「孤児院だあ?んなとこ行ってどうすんだ?」

「知り合いの鍛冶屋さんが従業員を募集しているから、どうせなら生活が苦しい人を助けてあげようと思ったの!」

「ほーーーーーーーーーー!素晴らしい考えじゃねえか。そいつぁ喜ばれること間違い無しだ!でも従業員って子供でいいのか?」

「うん。職人を育てたいから子供の方がいいんだ」

「なるほどな~。貧民街(スラム)の住人に救いの手を差し伸べるってんなら、手伝わないわけにもいくまい。じゃあついて来い」



 なんかすごく簡単に手伝ってくれたな~。


 同じ貧民街(スラム)の住人として、この街の人達が幸せになるというのは喜ばしいことなのかもね。



 悪そうなお兄さんについて行くと、大きな廃墟に案内された。

 いや、廃墟ってのは言い過ぎかもだけど、いつ崩れてもおかしくない建物だ。



「ここが孤児院だ!後は好きなようにしな。じゃあ俺は帰るぞ」

「案内してくれてありがとー!」

「チョコあげる」

「お、いいねえ!コイツを食うのも久々だな」



 悪そうなお兄さんは、チョコを齧りながら来た道を引き返して行った。



「じゃあ孤児院の中に入ってみよう!」

「ドアを開けたら建物が崩れそう」

「いや、さすがにそれはないと思うけど・・・」



 トントン ガチャッ



「たのもーーーーー!」

「たのもーーー」


 ノックした意味がないくらい高速でドアを開けて、威勢良く中に飛び込んだ。


「・・・え!?」


 すぐ目の前に40代くらいの女性が立っていて、目をまん丸くしていた。


「あら可愛いお客様ね!え~と、何の用事かしら?」

「結構大事な話だよ!あっ、子供達って全部で何人くらいいるの?」

「大事な話??え~と、子供なら25人いますが・・・」


 多くね!?いや、孤児院ってそんなもんなのかな?

 そもそも孤児院に来るのなんて初めてだから基本がわからん。


「じゃあ集められるだけ集めて下さい!お土産を持ってきたの!」

「これ、みんなで食べて」


 タマねえが女性に手提げ鞄を手渡した。

 中には手土産のハンバーガーが30個入っている。

 1人につき2個を想定してたのに足りなくなるとこだったよ!


「これは一体・・・あっ!いい匂いがするわ!!」

「ハンバーガーっていう料理だよ!めちゃめちゃ美味しいからみんなで食べて!」

「変なものは入ってないから大丈夫」


「え~と・・・、よく分からないけど中に入って下さいな」



 ちょっと強引にだけど、とりあえず孤児院に侵入成功です!

 あとは子供達がハンバーガーを食べるのを見ながら交渉開始だ!

 

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