第85話 こうなった理由を家族に説明する
ブオーーーーー
「にゃふ~~~!風が温かくて気持ちいいにゃ!!」
洗面所の鏡の前で髪を乾かされているぺち子姉ちゃんは、とてもご満悦だ。
「ぺち子姉ちゃんって、なんでお風呂が嫌いなの?」
「にゃっ?濡れるとゾワゾワするにゃ」
ん?
「濡れてるのが嫌なら、乾かせばいいだけじゃ?」
「乾かすってにゃんにゃ?」
「いやいやいや、今乾かしてる最中でしょうに」
それを聞いたぺち子姉ちゃんの頭から、ピコンと『!』が飛び出た。
「身体を乾かす魔道具にゃんてあったにゃか!!」
「エーーーーーーーー!お風呂の素人にも程がある・・・」
「理由ってそれだけ?」
「それが重要にゃんにゃ!ほんとにゾワゾワするにゃよ!外出先で雨に濡れたりすると、一日中具合悪くて瀕死にゃんにゃ!!」
たぶん獣人にしかわからないヤツだなそれ。
一日中39度の熱が出ているような辛さなのかもしれない。
「じゃあそこにある風を出す魔道具を買った方がいいよ。これがあれば濡れてもすぐ乾かせるから」
「破産したから買えにゃいにゃ」
「そういや破産猫だった」
「そのネコって何?」
「えーと・・・、ボクが住んでた国に、ぺち子姉ちゃんに似てる『猫』って動物がいたの。全身の毛がぺち子姉ちゃんの毛の色と一緒なんだ」
「へーーーーーーーーー」
多種多様な毛色の猫がいたけど、まあ細かく説明する必要もないでしょう。
「よし、背中の毛も全部乾いたよ!でも服を洗濯したばかりだから、乾くまで身体にバスタオルを巻いててね」
「すごいにゃ!もう全然ゾワゾワしにゃいにゃ!むしろ清々しいにゃ!」
ぺち子姉ちゃんにバスタオルを渡した。
「これをどうするにゃ?」
「あーそっか!お風呂の素人なんだっけ。じゃあ手伝うよ」
ぺち子姉ちゃんの後ろに椅子を運んでその上に立ち、タマねえからバスタオルを受け取る。
「えーと、おっぱいの上の辺りで巻けばいいんだよね?あっ、タマねえの方が巻くの上手なんじゃない?」
「バスタオルは身体を拭くだけ。巻いたことない」
「そうなのね。じゃあボクが頑張るしかないか・・・」
ぺち子姉ちゃんに少し腕を上げてもらってから、バスタオルを身体にぐるぐる巻いていく。そしてバスタオルの端っこを脇の下あたりに挟めた。
「こんなもんかな?」
「わかんないけど、クリスねえがよくそんな格好してる」
「じゃあこれでいいね!ぺち子姉ちゃん、あんまり激しく動いたらバスタオルが落ちちゃうから、服が乾くまでは大人しくしててね」
「わかったにゃ!」
でも服が一着しかないってのは不便だな。
誰かの服を借りるか、お下がりを貰った方がいいかもしれない。
洗面所を出た。
「ん?」
「レオナねえだ!家に帰って来てたんだね!お疲れさま~」
「あ、ああ、ただいま!ってか、そのバスタオル姿の獣人は何者だ?」
レオナねえがぺち子姉ちゃんを指差した。
「レオにゃんにゃ!!」
ぺち子姉ちゃんがレオナねえに駆け寄り抱きついた。
「うぇえええええええ!?ちょ、ちょっと待て!一体誰なんだよ?え?初めて会ったと思うんだけど・・・」
「レオにゃん酷いにゃ!ウチのこと忘れたにゃか!?」
「だから知らんって!・・・ん?レオにゃん?」
レオナねえがぺち子姉ちゃんをジッと見つめた。
「もしかして・・・ペチコ・・・なのか?」
「覚えてたにゃ!さすがレオにゃんにゃ!!」
喜んだぺち子姉ちゃんがレオナねえに頭を擦り寄らせる。
「いやおかしいだろ!まず色が違う!それにペチコはもっと臭かったハズだ!」
「ししょーとタマにお風呂でゴシゴシされたにゃ」
「・・・は?ししょー??」
ぺち子姉ちゃんが指差す方向には、超絶かわいい天使が立っていた。
はい、もちろんクーヤ師匠のことです。
「えーとね、これからみんなに説明しようと思ってたんだけど・・・」
『ただいまー』
ちょうどいい所でクリスお姉ちゃんが帰宅したので、家族全員の前で今日あった出来事を説明した。もちろん貧民街に行ったことは内緒だけど。
◇
「・・・というわけで、しぶしぶ家まで連れて来たの。でも野性味溢れる匂いに耐えられなかったので、毎日お風呂で身体をピカピカに洗うことを条件にしました!」
長い説明が終わり、額に浮かんだ汗をタマねえに拭いてもらう。
「なるほど・・・。クーヤとタマに徹底的に洗われた結果、このふわふわペチコが誕生したわけか。二人とも良い仕事をしたじゃないか!今までのくっさいペチコなら、確実に家から叩き出してた所だぜ!」
「レオにゃん酷いにゃ!」
「えーと、レオナねえとぺち子姉ちゃんって知り合いだったの?」
「ギルドでよく見かけるしな。なぜかアタシを見つけると抱きついて来るんだけど、匂いが洒落になってないからその都度殴ってた」
「レオにゃん酷いにゃ!」
「だから何度も風呂に入れって言ってただろ!臭くなけりゃ殴ったりしねえよ!」
「お風呂にゃんて大嫌いにゃ!あ、でも今日はそんにゃに嫌いじゃにゃいにゃ」
要は濡れてる状態に耐えられないってことだよね?
毎回ドライヤーで乾かしてれば風呂好きになるかもしれないぞ。
「でも3日くらいじゃ、仕事を見つけるのって難しくないかしら?」
「それに寝る部屋がないよ?」
「レオにゃんの部屋で寝るにゃ」
「それはアタシが嫌だ」
「そんにゃ~~~~~!」
「う~~~ん、食事くらいなら食べさせてあげられるけど、困ったわね~」
「仕方ない。ウチの空いてる部屋で寝ていい。でも寝るだけ」
お!?タマねえが動いてくれた!
クーヤちゃんは居候の立場で口を挟めなかったから、すごく助かる!
「ありがとにゃーーー!タマ!」
「タマ師匠」
「にゃ?」
「条件。これからはタマ師匠と呼ぶこと」
「タマししょー?わかったにゃ。タマししょーって呼ぶにゃ」
さてはタマねえ・・・。
クーヤちゃんが『ししょー』って呼ばれてるのが羨ましかったのか!
何はともあれ、ぺち子姉ちゃんの寝床が決まって良かったよ。
後はハロワで仕事探しだな。この世界にもあるのかは知らんけど。