第74話 メルドアの代わりを選ぶ
「行っけーーーーーーーーー!ゴーレムキーーーーーーーック!!」
ショタの無茶振りにゴーレムの動きが10秒ほど止まる。
ドゴッ
渾身のゴーレムキックは、なんかしょぼかった。
あ、ちなみに今は三人共ゴーレムから降りてます。
「あれえ?ゴーレムって、キック出来ないの?」
「これは弱い」
「そういや、カロリーゼロが蹴っている姿って見たことねえな」
「そっかー、キックをした経験が無いんじゃ難しいよね。ボクも詳しくは分かんないし」
操縦者も格闘技に精通していないと、最適なイメージが送信出来ないのだ。
ここにレオナねえでもいれば、キックの先生になれたかもだけど。
そういえば悪そうなお兄さんって、悪そうなくらいだから喧嘩もするよね?
「ねえねえ!悪そうなお兄さんってキックとか得意?」
「俺か!?・・・まあ、喧嘩になったりした時は蹴ったりもするが、達人のようにはいかねえぞ?知ってるのは、腰を入れりゃ重い蹴りになるって程度だ」
「ゴーレムに伝えるから、ちょっとやって見せてほしいの!」
「なるほど・・・。そういや召喚士ならば召喚獣に意思を伝える事が可能だったか。その辺はテイマーよりも有利な点だな。召喚獣を手に入れるまでが地獄だが」
へーーーーーーっ!これは良いことを聞いたぞ!!
すなわちテイマーってのは、魔物の入手自体は楽なんだけど、使役する魔物に細かい命令が出来ないのかもしれない。
あと食事を与える必要があるってライガーさんが言ってたな。
それに比べて召喚士は、魔物を単独撃破という厳しい条件を達成しないと召喚獣にすることが出来ないけど、召喚獣と心を通わせることが出来るんだ!
言い方は悪いけど、死体みたいなもんだから食事の必要が無いし、何度死んでも蘇ることが出来るってのはとんでもない利点だ。
ただし魔力を馬鹿喰いするので、大量の召喚獣を同時に使役するのが厳しい。
あひるポンチョのショタは、その欠点を強引な手段でクリアしましたけどね!
そう考えると、どの職業にも長所と短所ってのがあるのかもしれないね。
おそらく取っ付き難い職業ほど、クリアした時の恩恵が大きいんだと思う。
悪そうなお兄さんが2~3歩後ろに下がり、ローキック・ミドルキック・ハイキックなど、何種類かの蹴りを見せてくれた。
「こんな感じだな」
「大体何となくわかった!ゴーレムに伝えてみる!」
キックってのは腰の使い方も重要だったんだね。いや、パンチもか!
・・・けど、ゴーレムの腰ってカッチカチじゃね?
「よしゴーレム、最初はローキックから行くよー!」
ドゴン!
「ん-ーーー、ちょっと強くなったような気はしなくもない」
「普通」
「思ったよりも微妙だな・・・」
「じゃあ次はミドルキックだーーー!」
ドゴン!
「変わらん」
「普通」
「腰の入ってる蹴りじゃねえな。つーかあの鉄のようなカッチカチの腰じゃ、無理があるんじゃねえのか?」
「ハイキックだーーーーーーーーー!」
ドデッ!
無理な体勢過ぎてゴーレムが転んだ。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
「キックはもうやめよう。ゴーレム、変なことさせてごめんね・・・」
「もう蹴らない方がいい」
「こりゃあ無理だな。カロリーゼロが蹴りを使わないのには、それなりの理由があったっつーわけだ」
そもそも蹴りをやらせる必要が無いもんな。
このまま終了は可哀相だから、最後はパンチで締めくくろう。
「じゃあ最後はパンチで建物を粉砕だーーーーー!!」
ドゴーーーーーーーーーーーン!!
「おおおおおおおーーー!やっぱりこっちはつえーぞーーーーーーー!!」
「これは強い!」
「やっぱ殴るとスゲー破壊力だな!!よし行け!カロリーゼロ!!」
ドゴーーーーーーーーーーーン!!
ドゴーーーーーーーーーーーン!!
ドゴーーーーーーーーーーーン!!
そしてゴーレムの活躍により、倒壊寸前の建物は瓦礫の山と化した。
これほどの仕事が出来るのだから、解体業者としてもやって行けるに違いない。
いや、ここまで破壊してしまうと、逆に残骸を拾い集めるのが大変か・・・。
何にしてもゴーレムの名誉挽回は出来たので、謎空間へと送り返した。
「ところでメルドアジェンダは南の森に放してきたのか?代わりの魔物を置いて来るとか言ってたろ?」
「「あっ!」」
「さてはお前ら、完全に忘れてやがったな?」
スッカリ忘れてたよ!
でもメルドアは貴重な戦力だから、森の守護神として放し飼いにするのもな~。
今日は新しい召喚獣を見せびらかすために黒豹とサソリに乗ってきたけど、自分としてはやっぱりメルドアが近くにいてくれる安心感って別格なんだよね。
普段は森に放し飼いってことでもいいけど、メルドアは結構頻繁に呼び出すから、その都度森に返しに行くのが大変すぎる。
やっぱ、代わりの子を置いて来るべきだよな・・・。
「ん~~~~、黒豹とサソリじゃ力不足?」
「なんだそりゃ?」
「え~と、貧民街に来る時乗ってた魔物だよ」
「ああ!グルーディノとシェイピメラスか。そうだな・・・、シェイピメラスは駄目だろ。アレは岩場や砂場にいるような魔物だから、森だと脚に草木が絡まって弱いんじゃねえか?グルーディノは森なら厄介な魔物ではあるが、メルドアジェンダと比べるとかなり見劣りする」
「えーーーーーー!どっちもダメなの?」
「森の主なめんな。グルーディノを軽く蹴散らせる力があるから、あのデケー森を支配出来てたんだよ。メルドアジェンダはその辺の魔物とは格がちげえんだ!」
メルドアごめんねー!まだ魔物とかよく知らないから過小評価してたみたい。
そんなに危険な魔物だったのか・・・。選手交代とか無理じゃん。
「あ、そういえば強そうなのもう一体いた!ゴリラくんカモーーーン!!」
シュッ
目の前に強面の黒い魔物が出現する。
「ゴリラくん、久しぶり~~~!」
「あー、こんなのいた!」
『ウホッ』
うん、やっぱりゴリラっぽい風体だ。呼び出すのは検証した時以来だな。
「テンデリオノウサスか!コイツはつえーぞ!!」
「ほんと!?メルドアの代わりになる?」
「いや、メルドアジェンダの方が遥か格上だろう。しかし森のテンデリオノウサスはかなり危険な魔物なんだよ。侵入者の排除くらい出来るんじゃねえかな?」
「じゃあピンチヒッターはゴリラくんで決まりだね!」
「ピンチヒッター?何だそりゃ」
よし、とりあえずゴリラくんを森に放せばミッションコンプリートだな!
しかしカブトムシで魔物を倒すと、相手の強さが全然わかんないのがちょっと問題ですね~。文字が読めないから自分で調べることも出来やしねえ・・・。
ちなみにゴーレムは貴重な遊び道具なので、森に放流なんて有り得ません。
この二人も同じ考えだったようで、明らかに強いのに最後まで候補として上がりませんでした!