第489話 カロリーゼロバトルの準備が整いました
ようやく死の病が完治したベレッタお姉ちゃんとチャムねえを、ボク達の住むオルガライドの街まで連れてきました。
しかし税金を納めていない新参者は、街を出入りするたびに通行料を取られてしまいますので、それを回避するため、冒険者ギルドカード、商業ギルドカード、魔法ギルドカードなんかを作る必要があります。
ちなみに3種類のカードを作った場合、20000ピリン+20000ピリン+20000ピリンの合計60000ピリンかかるわけですが、税金を3倍取られるわけではありません。最初に作ったカードから1人前引き落とされるみたいです。
ボクの場合、商業カードってことになりますね。
使用頻度の高いカードを選択することも可能で、役所に言えばすぐやってもらえるそうです。
でもカードでお買い物する時や、お金を引き出す時なんかは、どのカードも使えるというハイテクっぷりなのですよ。
商業カードを作った時にそう説明されたベレッタお姉ちゃんとチャムねえが、カードに入金できるシステムにすごく興奮してましたぞ!
千年前はギルドカードじゃなく、小っちゃいプレートを冒険者ランクの証明として使ってたみたいで、『これだよ!』って最高ランクのオリハルコンプレートを見せてくれました。
うん。ベレッタお姉ちゃんは当たり前のように最高ランクでした。チャムねえも商業ギルドのプレートを見せてくれましたが、そっちはアダマンタイトプレートで、上から2番目なんだそうです。
商業ランクは上がりにくいみたいで、アダマンタイトの時点で超一流の証明なんだってさ!でもって、チャムねえのお父さんはオリハルコンランクだったそうな。
まあとにかく、ただの小っちゃなプレートでしかないから銀行のカードみたいに使えるなんてことはなく、もうそれだけで千年後の世界がどれほど文明が発達しているか判明した感じです。
魔法や装備品や戦闘技術に関しては千年前の方が上だけど、二人が空飛ぶ島の魔法屋さんに取り付けた窓ガラスを見て、『透明で美しすぎる!』って話してたことがあったし、文明レベルは断然今の方が上みたい。
文明が衰退してるんじゃないか疑惑があったけど、全然そんなことはなく、ちょっと誇らしい気持ちになりました!
まあそんなこんなで中央区を見て回った後、もう十分でしょうってことでパンダ工房に向かって出発しました。
そろそろ夕方だから訓練が終わる頃だと思う。
みんな盾の使い方をマスターしたかな?
◇
ドゴッ!
ズザザザザーッ
「ぐおおおおおおッ!!」
カロリーゼロのメガトンパンチで後ろに弾き飛ばされたけど、筋肉神装備に身を固めたハイパーガストンが根性で耐えきった。
「よし、十分だろう!これ以上やって怪我でもしたら本番に支障が出る」
それを聞いたガストンさんが、ようやく防御の構えを解いた。
「ふ~、なんとか耐え抜いたぞ!しかし重い攻撃だ。本物は違うな~」
「だろう!?盾の訓練ばかりさせられた理由がハッキリと分かった。大事なのは防御力の方だったんだね~」
「実は重さも重要だったのだな!装備品が重いから踏ん張れるのだ。そして対人戦と違って、ほぼ真上から迫り来る強烈な攻撃を防がなければならないから、本番前にこれを経験できたのは本当に良かった!」
パチパチパチパチパチパチ
「みんなお疲れさん!」
「お疲れ様でした!これなら三人共カロリーゼロを撃破できます!」
リズお姉ちゃんとプリンお姉ちゃんが、自信作が完成したような不敵な笑みを浮かべていますので、これは期待できますぞ!
「では訓練はここまでとする!たっぷりメシを食って、風呂に入って、十分な睡眠をとって本番に備えてくれ」
ライガーさんがボクを見た。
「クーヤ、風呂を頼む」
「なるほど、『筋肉の湯』ですな?」
「最善を尽くしたいからな」
説明しよう。『筋肉の湯』とは、『女神の湯』を言い換えただけである。今回は伯爵家の三女であるセシルお姉ちゃんが挑戦するから、ライガーさんとしては、あのお風呂で筋肉を癒した最高の状態でカロリーゼロに挑ませたいのでしょう。
「大丈夫なのか?」
コクッ
声に出さずに一つ頷いた。
レオナねえは伯爵家にハム水を知られる心配をしていますが、脱衣所の鏡を外せばたぶん大丈夫だと思う。髪を乾かす時にちょっと不便だけど、鏡が割れてしまったって言われたら諦めるしかないですからね~。
ちなみにパンダ工房の従業員であるガストンさんは社員寮に住んでますが、セシルお姉ちゃんとアンリネッタさんも、家に帰る時間がもったいないということで、遠隔操作をマスターするまでパンダ工房内の客室で寝泊まりするみたい。
これは強制じゃなく、話し合いの結果本人が選択したんだけど、『特別待遇ではなく従業員のように扱ってくれ』ってセシルお姉ちゃんから申し出があったそうな。さすがに従業員扱いは無理だから、客人扱いでしょうけど。
それでもやはり一般のお風呂を使わせるわけにはいかないから、二人には特別に、お偉いさん専用のお風呂である『筋肉の湯』を解放したそうです。
というわけで、ナナお姉ちゃんを連れて『筋肉の湯』に行き、浴槽をハム水で満たしたあと火魔法で沸かしてもらい、最後に鏡を外して、その場では美肌効果に気付けないようにしました。
貴族であるセシルお姉ちゃんの私物は確認しようが無いのですが、カロリーゼロと戦うのに手鏡を持ってきてるとは思えないから、とりあえずバレないと思う。
後から肌が綺麗になったような気はするかもですが、『筋肉の湯』に入った効果だってことにさえ気付かなければセーフなのだ。
みんなの所に戻り、ライガーさんに任務が完了したことを伝えた。
「ありがとな!さてと、夕食の時間だからまずは食堂に行こう。そしてゆっくり風呂に浸かってぐっすり寝て、カロリーゼロの討伐だ!」
「いよいよ本番か・・・」
「なぁに大丈夫だって!あとは己の筋肉を信じるのみさ!」
「三人共カロリーゼロを手に入れて、喜びを分かち合おうぞ!」
貴族だからセシルお姉ちゃんだけ浮いてるんじゃないかと思ってたけど、一緒に訓練した仲って感じで、すごく打ち解けてますね♪
ライガーさんと弟子三人が意気揚々と食堂に向かったので、ボク達も解散することになりました。もちろんカロリーゼロバトルは全員が興味津々ですから、明日の朝パンダ工房に集合しますよ!
◇
結局忙しくてプリンお姉ちゃんはまだアパートを見ていないのですが、カロリーゼロバトルが終わってからアパートに行き、必要な物をメモってから家具屋さんに突撃することになった。
彼女はそこで初めて『大奥』とご対面するのです!
ずっとタマねえの家に居候してたから、本当にワクワクしてるみたい♪
ベレッタお姉ちゃんとチャムねえを連れて、我が家へと帰還しました。
ガチャッ
話し声が聞こえていたのでしょう。リビングのドアを開けると、クリスお姉ちゃんとティアナ姉ちゃんがこっちを見ていた。
「ベレッタちゃん、チャムちゃん、オルガライドにようこそ!」
「わわわ!話には聞いてたけど普通の女の子だ!ティアナです。よろしく!」
「私達の家にようこそ!狭い家だけどゆっくりしていってね~♪」
「あたしはリリカ!」
ウチの家族達の歓迎に、古代人コンビが笑顔になった。
「ベレッタです。よろしくお願いします!」
「チャムっス!よろしくっス!」
一般家庭に興味津々な二人がキョロキョロしていますが、ソファーの前にデンと座っているパンダちゃんと目が合った。
「なんかすごいのがいる!!」
「あれはパンダだ」
「我が家のペットなのです」
「ペット!?いや、デカすぎっスーーーーー!」
「「あーーーーっはっはっはっはっはっはっはっはっは!」」
こうして、ようやく古代人コンビが我が家にやって来ました!
なんか庶民の家の中がすごく気になってるようですが、千年前の一般家庭と結構違ったりするのかな?
・・・いや冷静に考えたら、ウチって一般家庭と言っていいのか微妙ですね。