第471話 死の森VTRを見せる
アンリネッタさんが、右手に持ったルーンメイスを見ながら何やら考えている。
あれ?って顔をしながら筋肉神ハイパーライガーを見た。
「これ・・・どうやったらその鎧みたいに光るんだい?」
「スイッチなんか無いぞ。魔力を流し込むんだ」
「はあ!?魔力を?・・・どうやって」
「そんなもん気合だ。やってみるといい」
「ぐぬぬぬ・・・」
マッチョと言えど魔力に親しみのある召喚士なので、戦士系の職業よりも早くルーンメイスを光らせることができた。
でも10分くらいかかったかな?
「なるほど!魔力を流すなんて初めての経験だけど、やれば出来るもんだね!」
「ついでだ。最強装備を光らせた意味も教えておこう」
「格好良いだけじゃないのかい?」
こうなることを予測していたので、用意しておいたちょうどいい大きさの岩を食堂の床に二つ並べた。
「一旦魔力を流すのを止めて、メイスが光ってない状態でこっちの岩に全力で攻撃してくれ」
「本気でぶっ叩いていいんだね?」
アンリネッタさんが魔力を流すのをストップし、光ってない状態のルーンメイスで思いっきり岩をぶっ叩いた。
ドゴッ!
メイスの攻撃で、岩が三分の一くらいグシャッといった。
「これは強い!」
「今度は魔力を流し込んでメイスを光らせ、そっちの岩に全力攻撃してくれ」
「わかった」
アンリネッタさんがルーンメイスを光らせ、隣の岩をぶん殴った。
ゴシャッ!!
ほぼ同じ大きさの岩が、さっきよりもグシャッとなって縦に割れた。
「なッ!?」
「「おおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーー!」」
これにはギャラリー達からも歓声があがった。
「凄いだろ?感触はどうだった?」
「殴った感触が全然違う!この光るメイス凄すぎだよ!」
こういう展開になると見越していたので、比べた時に今みたいな差が出る、ちょうどいい大きさの岩を厳選しておいたのですよ!
「これは本当に伝説の最強武器だ!でもこんな大勢の前で見せちまったのは失敗じゃないかい?魔が差して、盗もうと考えるヤツが現れるかもしれないだろ」
「しっかり対策してあるから、たとえ盗んでも逃げ切るのは不可能だ。実はこの最強装備には『追跡』の魔法が掛かっていてな、盗まれてどこかに運ばれたとしても、後ろのAランク冒険者達には隠し場所が分かるのだ。間違いなく処刑されるから変なことは考えない方がいいぞ!」
「はあ?そんな魔法聞いたこともないぞ?」
「ならば逃げ切れないという証拠を見せてやろう。冒険者の諸君!食堂から出て、入り口のドアを閉めてくれ」
「おう!」
バタン
レオナねえ達と一緒にゾロゾロと食堂から出た。
実はですね、ブロディのおっちゃんから筋肉神装備を受け取った後、ルーンメイスと筋肉神の鎧に、アイテム召喚でゲットした大ハズレの『すごく小さな金属片』を接着剤でくっつけておいたのだ!
金属片はボクの召喚獣ですので、どこに隠そうがボクにはバレバレなのです。
というわけで今、食堂の中でライガーさんが、ルーンメイスと筋肉神の鎧を隠してる最中です。隠し終わったら呼びに来る予定です。
ガチャッ
食堂のドアが開いたので、またゾロゾロと中に入っていった。
「装備品を隠したから、探し当ててくれ!」
「ふーん、一瞬で分かったぜ?」
マッチョで溢れ返っているので、どうやら二つともマッチョ達の筋肉で隠しているようですね。
ボクとレオナねえとナナお姉ちゃんの三人で、筋肉神の鎧の隠し場所に真っすぐ歩いていく。
三人とも分かってるような感じで堂々と歩いてますけど、実はボクにしか分からないので、ほんのちょっとボクが前を歩いていて、レオナねえとナナお姉ちゃんはボクについて来ているだけです。
「そこのマッチョ三人、退いてくれ」
マッチョが横にズレると、テーブルの下に筋肉神の鎧が置かれていた。
「「おおおおおおおおおお!」」
「すげえ!一瞬でバレたぞ!」
「いや、まだだ!もう一つの方はわからんだろ!」
レオナねえが筋肉神の鎧を拾い上げ、次はルーンメイスの方に向かう。
「ん?さては貴方が後ろ手に持ってますね?」
「なにッ!そこまでわかるのか!」
ナナお姉ちゃんに言い当てられたマッチョが、背中に隠していたルーンメイスを差し出した。
「凄い!本当に分かるんだね!あたいがデスタに渡したんだから間違いないよ!」
無事ルーンメイスと筋肉神の鎧を取り戻したので、ライガーさんに返した。
「これで分かっただろう?伝説の最強装備を盗むのは不可能だ。モノがモノだけに魔が差したと謝ったところで絶対許されない。Aランク冒険者十数名、探索メンバーにはラグナスレインの者もいるので、貧民街の最大組織であるラグナスレインに所属する全構成員、そしてここに集まった召喚士全員を敵に回すことになる」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
一瞬でバレて八つ裂きにされるのは明白ですから、それでも盗もうとする人がいたら、もはやただのバカだと思います。
今日の出来事は召喚士達の話題の中心となるハズですから、『盗むのは不可能』って情報も撒き散らかされることでしょう。
すたすたすたすた
レオナねえが、古代の映写機が置いてあるテーブルの前に移動した。
「ライガーのおっちゃんの話の中で、『呪われたダンジョン』って出てきただろ?たぶんみんな気になると思って魔道具に記憶してきたから、今から見せてやる」
「「おおおおおーーーーー!」」
レオナねえが、『筋肉神ハイパーライガー、激闘の記憶』を映写機から外し、別のミルラ宝石をセットした。
食堂の壁に、死の森が映し出された。
ハムちゃん隊が破壊したハゲの道じゃなく、別の場所から撮影した映像です。
奥にミルラの塔が聳え立っているのも確認できますね。
「奥に聳え立ってる塔がダンジョンなんだが、そこに辿り着くには目の前にある『死の森』を越えて行かねばならない。これどう思うよ?」
樹々は真っ黒に変色しており、すべての枝がグニャグニャひん曲がっていて、本当に死の森としか言い様がない嫌悪感溢れる呪われた森なのだ。
中央に映ってる木なんか赤い血の様なモノを流しているし、こんな森に入ろうなんて普通は考えません。
「「キモッ!!」」
「呪われてるってのは見た目だけじゃなくてさ、マジもんの呪いなんだよ。アタシらは浄化の魔道具のおかげでなんとか耐えてるけど、この場所に立ってるだけで震えが止まらなくなるから、これ以上先に進むなんて普通は無理だろな」
レオナねえが一時停止ボタンを押した。
「じゃあ浄化の魔道具を止めたらどうなるかも見せてやるから、呪いを全開で浴びたアタシらの状態異常っぷりに注目してくれ!」
レオナねえが一時停止を解除すると、オシャレ装備姿のボク達一行が映り、黄色いのが画面に映ってないマイナスイオンハムちゃんを消した。
その瞬間、全員の顔が苦痛に歪み、目で見てわかるほど震え始め、顔面がどんどん蒼白になっていき、映像なのに呪いがこっちまで流れて来るような臨場感だった。
『げ、限界だ。浄化ハ、魔道具を、た、頼む!』
マイナスイオンハムちゃんを召喚して空気をキレイにしてもらうと、ようやく全員の顔色が正常に戻ってきた。
「「無茶しやがって・・・・・・」」
「いやいやいやいや!あんたら無茶しすぎだって!どう見てもガチもんの呪いじゃないか!!」
「だってよ~、『呪われたダンジョンとか適当に言ってるだけだろ』って陰口されたらムカつくじゃん。だからこうやって証拠をだな・・・」
「もういいからヤメてくれ!!」
証拠VTRを撮りにいった時、ボクも『やめたほうがいいんじゃない?』って忠告したのですよ。
でもお姉ちゃん達がですね、この呪われた森を見せないと視聴者が納得しないだろって言って聞かなかったのです。
とにかくこれで呪いの証明はできたかな?




