第465話 意識の共有
ライガーさんがアホ面で気を失ったまま10分経った。
ボクもやったので覚えてますが、馬の身体を動かせないか試してるんだと思う。
ウーム、暇ですな。
てくてくてく
ライガーさんの頭にハゲヅラを乗せてみた。
「「あーーーーーっはっはっはっはっはっはっは!」」
「こらクーヤ!気絶してるライガーさんにいたずらすんじゃねえ!」
「だってなかなか帰って来ないんだもん」
「天使様もでしたが、なんで視覚の共有をするとアホ面になるのですか?」
「そんなの知らないです。意識が召喚獣の中にいるから、本体は抜け殻みたいなもんなのです」
「逆に召喚獣に意識の共有をされてるような?」
「ん~、それとも違うと思うんですけどね。よくわかんない!」
「うおっ!」
あ、ライガーさんが戻ってきたみたい。
「おお、帰って来ることが出来たか!」
「おかえりー!視覚の共有はどうでした?」
「面白かったぞ!馬ってあんな感じで景色が見えているのだな!・・・ん?」
自分の頭に何か乗ってることに気付き、ライガーさんがハゲヅラを取った。
「なぜ俺の頭にハゲが乗っている!?さてはクーヤの仕業だな!?」
「「あーーーーーっはっはっはっはっはっはっはっは!」」
ぺしっ
ライガーさんにハゲヅラを投げつけられた。
「アホ面で気を失ってたからつい・・・」
「なにッ!?俺はアホ面で気絶していたのか!!」
「実はですね~」
ボクが初めてハム姫に意識を引っ張られた時、家族全員にアホ面を晒して大変恥ずかしい思いをしたと説明した。
「なぜそれを最初に言わん!?恥をかいたではないか!」
「でもこれから召喚士全員が通る道なのです。アホ面で気絶する経験をしておくことも大事なのです!」
「言うほど大事か!?いやまあ、気絶するという情報は大きいが・・・」
「でも離れた場所まで意識を引っ張られたことで、なんか召喚士の可能性を感じませんでしたか?」
「確かにそれは感じたな。だから何か出来そうな気がして色々考えていたのだが、目玉一つ動かせなかった」
「そうなんですよね!視覚の共有だと召喚獣が見たいモノしか見ることが出来ないのです。お願いすれば視点を変えてもらえるのですが・・・」
「とりあえずこの技で可能なのは離れた場所の偵察か。それだけでも凄い発見と言えるだろうな」
「たぶんこれだけでも召喚士の有用性アップですが、まあ次に進みましょう!」
あ、カロリーゼロを出さなきゃならないから、外に出ないと。
「みなさんお待ちかねの意識の共有を始めようと思いますが、初心者は対象の近くでやった方がいいと思うから外で実験します!ただですね、意識の共有の方も初心者は気絶しちゃうのですよ」
「また気絶するのか・・・」
「何回か実験すれば気絶しないコツがわかってくるので、とにかく数をこなすしかないです」
「まあ、やるしかあるまい。自分の身体に帰還する時はどうすればいい?」
「意識の共有だと主導権が自分にあるから、帰ろうと思っただけで帰れるよ」
「あ、そうなのか。まあとにかく外に出よう」
ジャーキー工房の玄関先が良い感じに段差になっているので、そこにライガーさんが座り、筋肉神に心酔するリズお姉ちゃんが気絶したライガーさんの身体を支えることになった。
ガチャッ
「こんなとこで何してんのよ?」
ジャーキー工房からラン姉ちゃんが出てきた。
「カロリーゼロの実験です」
「え?もしかしてライガーさんのカロリーゼロ!?」
「うん」
「とりあえずカロリーゼロを呼び出していいんだな?」
「呼び出してください!」
ライガーさんがカロリーゼロを召喚した。
「おおおおおーーーーーーーーーー!クーヤので少し見慣れてるけど、ライガーさんのカロリーゼロだと思うと逞しく見えるのが不思議ね!」
「わかるかも!」
ボクのせいで全員が見慣れてるんだけど、それでもライガーさんの大巨人ってだけで、なんか感動してしまいますな!
「では一度カロリーゼロに意識を引っ張ってもらって、視覚の共有をしてください。おそらくその時に意識を乗っ取れるような気がするハズです。んで、カロリーゼロから帰る時は馬に意識を引っ張ってもらって、そこから帰還できます」
「ん?わざわざ馬経由で?カロリーゼロは帰してくれないのか?」
「カロリーゼロはそういうのが苦手なのです。まあやればわかります」
本人の目の前では言えませんが、おバカなので・・・。
「よし、やってみよう」
段差に座っているライガーさんが、真剣な表情でカロリーゼロを見つめている。
念波みたいなヤツでカロリーゼロに話し掛けてるハズですが、馬と違ってすごく反応が鈍いので、なかなか意識を引っ張ってもらえませんね。
ボクも経験したからわかりますが、実はこの時ちょっとイライラします。
自分の召喚獣だから可愛いんだけどさ、彼は本当に反応が鈍いのですよ・・・。
「おっと!」
お、ようやく視覚の共有に成功したみたい。
15分くらい掛かったかな?
リズお姉ちゃんに抱えられたまま、さらに15分ほど経過し、ようやくライガーさんが気絶状態から復活した。
「やっと戻って来られた・・・」
「ボクが言ってた意味がわかりましたか?」
「よく分かった。馬を経由しないと自分の身体に戻って来るのに半日くらい掛かっていたかもしれん・・・」
本人が目の前にいるのでライガーさんも口には出しませんが、言いたいことは絶対ボクと同じハズです。ぶっちゃけ、おバカすぎるのだ・・・。
「意志が希薄だから乗っ取れそうな気がしませんでしたか?」
「うむ。お前が感じた全てを理解したぞ!そして視覚の共有から始めた意味もだ。アレを経験しなければ『共有』の感覚が掴めないだろう」
「じゃあ、意識の共有いってみよーーーーー!」
「よし、やってみるか!」
それから1分後くらいにライガーさんが気を失った。
カロリーゼロが人間みたいにキョロキョロしている。
うん、あれは間違いなく意識の共有に成功してますね!
カロリーゼロが気絶しているライガーさんを見てフリーズした。
たぶんあれは、アホ面で気絶している自分を見て、『これはひどい・・・』とか考えてる状態です。ボクにはわかります。
またキョロキョロしてるけど、たぶんメガトンパンチする場所を探してるものと推測されます。でもパンダ工房の玄関先はどこも美しく手入れされてますので、諦めたライガーさんはシャドーボクシングを始めた。
満足したところで、ライガーさんが目を覚ました。
「意識の共有に成功したぞ!」
「「おめでとーーーーーーーーーーーーーーー!」」
「ただ、アホ面で気絶するのだけは何とかせねばならん!」
「にゃはははは!やっぱ気になりましたか~」
「しかし気絶しないで意識の共有をする方法も何となく分かったぞ。おそらくカロリーゼロの意志に勝つギリギリのパワーで意識を乗っとる感じだろう?」
「おお、まさにそれなのです!自分の肉体に意識を残しつつ最小限の力でカロリーゼロの意志をねじ伏せれば、意識の分割に成功します!」
たぶんボクとライガーさんにしか意味が分からない会話ですねこれ。
それから何度か意識の共有を繰り返し、とうとうライガーさん本体が気絶することなくカロリーゼロを遠隔操作出来るようになった。
「よし、遠隔操作も成功だ!!」
「「おめでとーーーーーーーーーーーーーーー!」」
ワー パチパチパチパチパチパチ!
「意識が二つあるのが変な感覚ではあるが、こっちで会話しながらカロリーゼロを操れるとは、これこそが召喚士の神髄なのかもしれん。よくこんな大技を発見したもんだ。クーヤの発想力は凄いな!」
「たまたまなのです。とにかくこれで次に進めますね!」
「うむ。しかしまだ初心者だから、2~3日練習してから重大発表するか」
「それでいいんじゃねえか?何も焦る必要なんかねえさ」
これでボクが伝えられることは全部伝えたかな?
あとはライガーさんの方で自主練して精度を上げたら、計画スタートです!