第462話 パンダ工房の従業員達に映画を見せよう
「カロリーゼロを手に入れたぞ!!」
「「おめでとーーーーーーーーーーーーーーー!!」」
ワー パチパチパチパチパチパチパチパチ
我らがヒーロー『筋肉神ハイパーライガー』の勝利に、現場は拍手喝采で大盛り上がりだ!
「うわ”ああああああああああーーーーーーーーーーん!!」
「なんだ!?」
ガシッ
伝説の筋肉バトルを見て感極まったリズお姉ちゃんが、号泣しながらライガーさんに駆け寄って力いっぱい抱きしめた。
「本当に最高の戦いだった!他人の戦いを見て、こんなに魂が熱くなったのは初めてだ!心の底から尊敬する!」
「お、おう、応援してくれてありがとうな!」
リズお姉ちゃんがこれほどまでに感動してたとは思いませんでした!
同じ筋肉教なので、元々ライガーさんに好意を抱いてたってのもあるかも。
「わかるぜ!アタシもさっきから武者震いが止まらねえ!」
「素晴らしい戦いだったわ!今夜は興奮して眠れないかも・・・」
「うん。凄かった」
「見ている私達まで魂が揺さぶられる、気迫溢れる殴り合いでした。カロリーゼロ獲得おめでとうございます!」
すたすたすた パシッ!
悪そうなお兄さんがライガーさんに近寄り、右手で肩を叩いた。
「リズじゃないが、本職でもないのにカロリーゼロを撃破した姿に心が震えた。アンタは本物の戦士だ。尊敬する」
「そう言ってもらえるのは嬉しいが、この最強装備あってのことだ。俺に大きなチャンスを与えてくれた皆に感謝するぞ!」
この街最強クラスの冒険者達をこれほど感動させるとは、やっぱライガーさんって凄い人だよな~。
そしてカロリーゼロを手に入れたことで、すべての召喚士に夢を希望を与える伝説のマッチョになったのです!
クーヤちゃんの方が先にゲットしてただろ!って話もありますが、ボクの場合カブトムシで撃破したから、他の召喚士が誰も真似できないんだよね~。
現実的じゃないから、ボクじゃ召喚士達を導くことができないのです。
「ライガーのおっちゃん、カロリーゼロを出してみてくれ!」
レオナねえの催促を聞き、リズお姉ちゃんがライガーさんから離れた。
「そうだな。よし、そっちに出すか。カロリーゼロ出て来い!」
ライガーさんに撃破されたカロリーゼロが、元気になって復活した。
「「おおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」」
ボクが何度も召喚してるので、ぶっちゃけみんな見慣れているわけですが、ライガーさんのカロリーゼロというだけで、なぜか凛々しく見えますぞ!
「ぬう、やはり魔力をかなり持っていかれたな。パンダ社長を同時に出す事も出来なくはないが、維持する魔力を考えると単体で使った方が良さそうだ」
「これほどの大物だからな~。むしろ魔力を全部持っていかれなかっただけ良かったと思うぜ?」
「うむ。実は少し不安だった。こいつを同時に何体も召喚して使役するクーヤはまったく参考にならんしな」
「なんですとーーーーー!?」
「クーヤちゃんは謎生物だから」
「だな。クーヤは見なかったことにした方がいい」
一応文句を言っておきましたが、毎日悠々とドラゴンを召喚して乗り回してる魔力お化けなんで、参考外なのは自覚してますとも!
「それで遠隔操作ってのは、どうやればいいんだ?」
「えーとですね、まずは別の召喚獣に頼んで、『ねえ主、あの建物を見て!』って感じで意識を引っ張ってもらうの。すると召喚獣と視覚の共有ができるから、まずはそこからですね~」
「あ~そういや言ってたな。しかし視覚の共有なんて出来るのか、知らなかった」
「パンダ社長はおっとりしてるから、そういうの苦手かもしれない。馬にやってもらうといいかも?」
「なるほど。今日はもうカロリーゼロを呼び出してしまったから実験は明日だな」
そう言いながら、ライガーさんがカロリーゼロを見上げた。
身長4メートルの大巨人は本当にド迫力だ。
「ダメだ。顔が勝手にニヤけてしまう」
「わははははは!こんなすげーの手に入れたらそりゃニヤけるって!」
ライガーさんがカロリーゼロに指示を出すと、ガシンガシンと向こうに歩いていき、地面にメガトンパンチした。
「うおおおおーーーーー!あんなデカいのが俺の言うことを聞くぞ!感動だ!!」
「わかります!ボクも嬉しくて、悪そうなお兄さんに自慢しにいったもん」
「そういや、そんな事もあったな!」
「あれは面白かった」
さてと、そろそろ満足しただろうし、次の話に進めよう。
「筋肉神ハイパーライガーの超絶バトルは、ウチの戦場カメラマンがしっかり撮影してましたので、帰ったらパンダ工房の全従業員に披露しよう!」
お姉ちゃん達はもちろん、ハム王妃様が頭に映写機を乗せて撮影してたことに気付いてたけど、ライガーさん共々こっちを振り返った。
「それって、お前達が気持ち悪い魔物と戦っていたのが記憶されていたように、俺の戦闘を魔道具に記憶したってことか?」
「うん!本当はこうしてる今の会話も貴重だから撮影しておきたかったけど、トップシークレットを含む話をするかもしれないから、キリの良いところで終了しておきました。リズお姉ちゃんがライガーさんに抱きつく前くらいです」
「良い判断だ!」
「あぶねーーーーー!オレの泣き顔が映るとこだったぜ・・・」
「アレはアレで感動シーンだったけどね♪」
みんなの賛辞がどれもこれも素晴らしかったから、もう少し長く録画しておけば良かったかなって少し後悔したけど、あのシーンはボク達の胸の中に記憶されているので、それで十分です。
何度も映像を垂れ流したら、あの感動も色褪せちゃうだろうから。
「皆に見られるのは恥ずかしいのだが?」
「どうせ召喚士達を指導する時の参考映像として何度も再生するのですから、その前に身内サービスで先行上映するだけなのです」
「恥ずかしいことなど何もありません。視聴するのに5000ピリンかかるとしても、連日超満員になるほど大ヒットすると思いますよ」
「金取るのかよ!!」
「映画だ!」
「そんなの毎日チケット買って最前列で見続けるぞ!」
「いやいや!さすがに従業員達から金取るなよ!」
「でも本当に素晴らしい戦いだったから、胸を張っていいわ」
「ううむ、まあ1回で済んだ方が何度もカロリーゼロの説明をするよりいいか」
「そういうこと!」
そうと決まったら遊んでる暇は無いと、カロリーゼロを消し、筋肉神の鎧を脱がせていつものライガーさんに戻してから、トナカイに乗ってパンダ工房へ帰還。
当然パンダ工房の従業員達は仕事中なんだけど、『ライガーのおっちゃんがとんでもないことをやらかした。お前ら仕事なんかしてる場合じゃねえぞ!』と、レオナねえが拡声器のような魔道具で、急いで食堂に集まるよう呼び掛けた。
ジャーキー職人のように、火を使って危険だから目を離せないような人は仕事を続行してもらったけど、ほとんどの従業員が食堂に集結した。
従業員だけじゃなく、ベイダーさんと一緒にいた、マグロのおっちゃんとメルお姉ちゃんも来ましたよ!せっかくなので彼らはVIP席に誘導。
「やったのか!?」
「だから集めたんだ!ベイダーのおっちゃん、まだ言うなよ?」
「お、おう!」
「一体何が始まるんだ?」
「マグロのおっちゃんには直接関係ない話なんだけど、ハイドリムドにも大きな影響を与える一大事なのです」
「ハイドリムドにも!?ちょっと怖いんですけど!」
「悪影響じゃないよ。まあ最後まで付き合って下さい!」
全員に見えるよう、食堂の壁の高い位置に向けて映写機の角度を調整する。
「それではこれより、『筋肉神ハイパーライガー、激闘の記憶』を上映します!」
「ブホッ!変なタイトルをつけるな!」
ライガーさんのツッコミをスルーし、再生ボタンをポチッ。
『見えた!カロリーゼロが1体、他に魔物の姿は無し。チャンスだ!』
タマねえのカロリーゼロ発見報告を聞いてから録画をスタートしたので、レオナねえのセリフから映画が始まった。
ブオンッ
メイスを一振りしたライガーさんが歩いていき、カロリーゼロと対峙した。
「うおおおお!ライガーさんの全身が光ってる!」
「なんて豪華で強そうな鎧なんだ!」
「おい嘘だろ!?カロリーゼロと戦うつもりなのか!?」
「カッケエ・・・」
『いざ勝負!!』
タタタッ ドゴッッ!
筋肉神と大巨人による凄まじい殴り合いが始まり、従業員達が興奮して立ち上がって後ろの人に『見えねえ!』と怒鳴られたり、会場の盛り上がりが半端ないです。
ズザザザーーー
『かはッ!』
ライガーさんが吹き飛ばされると、そこら中から悲鳴が聞こえ、全員が一体となって筋肉神を応援している。
ゴシャッッ!
『『おおおおおおおおおおーーーーーーーーーー!!』』
『よし、いけーーーーーーーーーー!』
『頭だ!!』
『でも手負いの魔物は危険ですので気を付けて下さい!』
カロリーゼロの左足を粉砕すると、映画の中のお姉ちゃん達だけじゃなく、従業員達も総立ちで『今だ!』『倒せーーーーー!』と叫び散らし、会場の盛り上がりは最高潮に達した。
―――――そしてとうとう筋肉神ハイパーライガーが、大巨人を撃破した。
「「うおっしゃああああああああああああああああーーーーーーーーーー!!」」
本当はここでライガーさんとお姉ちゃん達も雄叫びをあげたんだけど、従業員達の雄叫びにかき消され、そこからはもう従業員達の声しか聞こえなかった。
映画が終わると同時にベイダーさんが振り返り、ライガーさんの左肩をバシッと叩いた。
「見事な戦いだった!」
「とうとうカロリーゼロを手に入れたぞ!」
「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーー!」」
その瞬間、ライガーさんが従業員達に取り囲まれ、まさかの胴上げが始まった。
「どわああああーーーーーーーーーーッッ!」
「「ライガー副社長バンザーーーーーイ!!筋肉神バンザーーーーーイ!!」」
・・・うん。
この映画、空前の大ヒットを記録しますね。