第46話 タマちゃん
―――突然ですが、誘拐されました。
なぜこんな事になったのかというと、むしろ俺が聞きたいくらいです。
昨日までの平和空間を考えても、次の日誘拐されるなんて誰が思います?
『このまま家族の一員として、ぬくぬく成長して行くんだろな~』
そんなふうに考えていた時期が、俺にもありました。
しかしですね、不幸というモノは突然やって来るのです。
あの時、庭にさえ出なければ、こんな未来は訪れなかったでしょうに。
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―――――ショタの回想シーン―――――
クリスお姉ちゃんは会社へ出勤し、ティアナ姉ちゃんは学校へ登校して行った。
レオナねえはまだ冒険から帰って来ていない。いや、冒険なのか知らんけど。
そしていつものように朝からゲーム大会が始まったんですが、リリカちゃんが『モンキーコング』にドハマりしました。
主人公はサルで、恋人ザルを助け出すのが目的のゲームなんだけど、敵ボスのゴリラが樽を転がしてきて、主人公のサルがそれをジャンプしながら最上階まで辿り着くと、最初のステージはクリアだ。
次のステージに行くと突然難易度が上がるんだけど、それがまた面白かったりするのですよ!これも間違いなく伝説の名作ゲームですね。
しばらく一緒に遊んでいたのだけども、昔遊びまくった俺はさすがにリリカちゃんほどハマれないので、庭に洗濯物を干しに行くお母さんのお手伝いでもしようかと、一緒に庭までついて行った。
うん。身長が低すぎて、物干し竿まで手が届きません!
お母さんごめん!ショタはお手伝いすらまともに出来ないのか・・・。
・・・ん?
「にょあっ!!」
何となく隣の家に生えている木を見上げたら、木の枝に座ったおかっぱ頭の女の子がこっちを見ていて、目が合ってビックリした!!
10歳くらいかな?しかし黒髪って初めて見たかも・・・。
日本じゃ黒髪が当たり前だったけど、この世界に来てからは、街でも黒髪の人は歩いてなかったと思う。茶髪なら見たけど。(ちなみにクーヤちゃんは金髪です)
そうこうしてるうちに黒髪の子は木をスルスルと降りて行った。
・・・何か変な子だなあ。
「って、こっち来たーーーーー!!」
黒髪の子は塀を乗り越え、うちの庭へと侵入。
入って来るなら普通に正面の門から入って来なさいよ!!
「あらタマちゃん、おはよ~」
「おはよー」
どうやらお母さんとは面識があったらしい。
まあそりゃそうか、隣の家の子だしな。
「タマちゃん?」
「タマねえ」
なにィ!?一瞬で呼び方を訂正してきやがった、だと!?
なんかよくわからん展開だけど、『タマねえ』って呼べばいいのか?
クンクンクン
あの~、匂いを嗅ぐのヤメてもらえませんかね?なぜみんなショタの匂いを嗅ぐのでしょうか?毎日お風呂入ってるけど、嗅がれるとすごく気になるのですよ!
「うぇっ!?」
両脇を掴まれ、タマねえに持ち上げられた。
世間一般でいう『高い高~い』の体勢だ。
「これは良い」
「あんまり良くない!」
なんかわからんけど、この人すげー苦手だ!!
「気に入ったから秘密基地に連れて行ってあげよう」
「秘密基地?」
地面に降ろされたと思ったら、今度は脇腹に抱え込まれた。
スタタタタタタッ
「のわあああああぁぁぁーーーーーーーーーーーーっ!!」
ショタを抱えたまま、タマねえがダッシュ。
「あら、お出掛けかしら?夕食までには帰って来るのよ~~~?」
ちょ、お母さん!言うことはそれだけなんスかーーーー!?
目の前でショタが連れ去られてるんですけど!!
そんなわけで、タマねえに抱えられたままショタは街へと飛び出して行った。
◇
タマねえは速度を落とすことなく街を駆け抜けて行く。
なんつー体力だよ!!
小っちゃいショタとはいえ、人を抱えたままずっと走れるものなのか!?
そういや10歳くらいなら職業持ちか。もうこれは間違いなく戦闘職だろ!!
職業の恩恵ってスゲーな!この女の子が特別凄いのかもしれんけど。
・・・・・・ちょっと待て。
なんか街の風景が殺伐として来てませんかね?
ココってもしかして、貧民街とかそういう場所なのでは・・・。
「着いた」
ようやくタマねえの脇腹から解放され、大地に降り立つことが出来た。
目の前には倒壊寸前の建物。
辺りを見回すと、非常に殺風景で、嫌な予感しかしない。
さっきまで快晴だったのに、なぜかこの辺だけ空が曇ってるし。
それにしても秘密基地って、この廃墟なの!?
「入って」
ここはキミの家ですか!?
「あい!」
でも良い返事を返してしまうショタであった。
廃墟の中に入ると、タマねえによって掃除がされているわけでもなく、どこにでもあるような普通の廃墟だった。
半分崩れている危ない階段を上がって2階に到着。
「・・・・・・・・・・・・」
屋根も崩れていて、曇り空が見えてるんですけど・・・。
その天井の穴の下辺りにタマねえが座ったので、なんとなく隣に座る。
「夜になると綺麗な星が見える」
「ほうほうほう。でも空は曇ってますよ?」
・・・・・・いや、ちょっと待てや。
「夜までこの廃墟にいるつもりなの!?『夕食までには帰って来るのよ~~~?』ってお母さんに言われたんだけど!!」
「少しくらい遅くなってもヘーキヘーキ」
「平気じゃないよ!!みんな心配するでしょうが!!」
―――激しくツッコんだ直後、突然目の前が真っ暗になった。
『なんだ!?』
『え?なに?』
「よーし、捕獲成功だ!」
「お前ら、暴れるんじゃねえぞ?」
何なんだよ一体!?
もしかして、背後から袋を被せられたのか!?
「うっし!アジトに帰るぞ」
「この黒髪のガキも連れて行くのか?」
「黄色いのだけ連れて帰ったら、人を呼ばれるかもしれんだろ!」
「そうじゃなくて面倒臭ェんだよ!殺せばいいだろ!」
「馬鹿かお前は。不吉な黒髪を殺して呪われたらどうすんだ!!」
「んなもん信じてんのかよ!」
「じゃあお前が殺れや!!」
「くっ!まあいい、連れて帰ってから考える」
「じゃあ行くぞ!!」
おーーーーーーい!!なんかめっちゃ物騒な会話が聞こえるんですけど!!
まあ、とりあえずタマねえは殺されずに済んだってことか・・・。
そんなこんなで、俺とタマねえは袋を被せられた状態で、奴らのアジトに連れて行かれたのだった。
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―――――話は冒頭に戻る―――――
俺とタマねえは、奴らのアジト内の牢屋に閉じ込められていた。
目の前には鉄格子があるので、これで牢屋だということがわかった感じ。
「さて、どうしようか」
「・・・ごめんなさい。こんなことになるなんて」
タマねえもショックだったらしく、しょんぼりしている。
5歳児相手に謝罪してるくらいだから、本当に後悔しているのだろう。
「このままだとボク達どうなるの?」
「たぶん外国に売られる。奴隷にされるかもしれない」
そりゃイカンですよ?
せっかく狙撃ハウスを脱出したのに、今度は外国で奴隷生活ですか?
「じゃあ売られる前に逃げるしかないね」
「どうやって?」
家族にはデンジャーショタだと知られるのを避けてたんだけど、ここにいるのはタマねえだけだ。それにこんな状況なのだから、本気を出さざるを得ないでしょう。
悪者どもに思い知らせてやろう。かわいいショタには棘があるってことをな!!




