第457話 中二病が役に立たないとは・・・
ベレッタお姉ちゃんがピンクメメトンを消すと、うざいピンクの光も消滅した。
見た目は可愛らしかったけど、これは使う機会が無い魔法だと思います!
「じゃあそろそろ魔法作りを始めよっか!」
「もうやる気マックスです!」
「一つ質問があるのですが、魔法の形って自由に変えられるんですか?今、ライトがピンクのメメトンだったよね?」
「良い質問です!私は見た目に拘るタイプだから、全部自分で形を決めてるよ。『天駆ける竜の雷』もドラゴンの形してたでしょ?」
「「・・・ん?」」
そんな形だったっけ?
「あれってドラゴンの形だったの!?」
「普通に電撃がビリビリしてたように見えたけど」
「あ、そういえばみんな真後ろにいたんだった!確かにあの角度じゃドラゴンだってわからないかも・・・」
「ボク達はドラゴンのお尻だけ見てたってこと?」
「ドラゴンのお尻魔法」
「ちっがーーーーーう!ちゃんとドラゴンが空を駆けてるの!もう一度見せるから全員外に出て!」
ドラゴンのお尻魔法と言われたベレッタお姉ちゃんがお怒りになり、また魔法を見させられることになった。
今度は横に並んで魔法を見る。
「天駆ける竜の雷!」
バリバリバリバリバリッ!
今日は天気も良く、まだ午前中だったので電撃はちょっと見えにくかったけど、確かに魔法がドラゴンの形をしているのがわかった。
「「ドラゴンだ!」」
「ね?ドラゴンのお尻魔法じゃなくて、ちゃんとドラゴンの形をしてるの!」
どうやらベレッタお姉ちゃんは魔法に強い拘りを持っていて、誤解されるのをすごく嫌がるタイプのようです。
というわけで、魔法屋さんに戻って来た。
「私も一つ質問!詠唱破棄の話なのですが」
「はいどうぞ」
「最初の説明で、記憶した呪文を『キーワード』で呼び出し、呪文がルーン言語に変換され、魔法が発動するって言ってたけど、今の詠唱破棄って順番が違ったよね?呪文が身体の周りを回ってから、キーワードを叫んで、魔法が発動してた」
「ああ、それね!本来はキーワードを叫んだ後に呪文が出現してから魔法が発動してたんだけど、私が気にいらなかったから仕様を変更したの」
「そんな重要そうな部分をいじれるもんなの!?」
「難しかったけど頑張ったよ!だってさ~、本来の流れだと、途中で言葉の変換処理を挟むからテンポが悪いんだよね。叫んだ瞬間魔法が放たれた方が絶対気持ち良いじゃない!」
「「わかる!!」」
「それにね、変換処理してる間しか呪文が視覚化されないから、呪文が回ってるあの格好良い状態が一瞬で終わっちゃうんだよ?そんなの寂しすぎるよ」
「おっしゃる通りでござる!」
「だからね、使う呪文をイメージした瞬間言語の変換処理を始めて、キーワードを発した直後に魔法が発動するよう改良したんだ~。そのやり方だとキーワードを叫ぶまで呪文が回ってるから、ギャラリー達にしっかり見せることができるの!その分ちょっと魔力を食っちゃうけど」
「ベレッタお姉ちゃん凄い!」
「私もそっちの方が絶対いいと思います!」
いやいやいやいや!
すごいの一言で済ませられないほど、とんでもない改良をしてますよ?
魔法をイメージしただけで呪文をサーチして変換を開始するとか、何をどうやったらそんなことが可能なんですか!?この人、とんでもない天才だよ・・・。
「えーと、呪文の変更とかキャンセルもできるのですか?」
ベレッタお姉ちゃんが驚いた顔でこっちを見た。
「クーヤちゃん、魔法職じゃないのによくそこに気付いたね!なかなか大変だったけど、キャンセルもできるようにしたし、呪文の変更もできるようにしたよ!」
「おーーーーー!途中で魔法を変えられるのはすごく便利なのですよ。思考を読み取る魔道具なんて驚きなのです!ベレッタお姉ちゃんは天才なのです!」
「ありがとう!」
魔法使いとしてじゃなく、根っこの部分のプログラマーとしての実力を評価してもらえたことが嬉しかったようで、その『ありがとう』の一言に、ベレッタお姉ちゃんの喜びが伝わってきました。
「じゃあそろそろ魔法を作ってみようか。イメージした魔法を言葉で表現しなきゃならないから、紙に文章を書いて・・・」
そこまで言ったところで、ハッとした顔になった。
「あああああっ!紙って生きてるの!?」
「そこにあった本棚の魔導書は全滅してた」
「聖書もほとんど壊滅してたもんね~」
「そんなあ・・・」
「引き出しの奥に入れてあった紙なら生きてるかもですが、机の上に置いてあったならアウトですね。でも紙ならボクが持ってるから大丈夫です!」
「ホント!?クーヤちゃん、私達に紙を貸して下さい!」
「落書きしまくって使い切っても新品になって復活する『召喚獣ノート』と、使い切ったらおしまいの『普通のノート』、どっちがいいですか?」
「えーと・・・、失敗作も何がダメだったか後でチェックしなきゃだから、普通のノートの方がいいかな」
「了解なのです」
ペカチョウを呼び出し、前にアイテム召喚でゲットした、20冊セットになったノートを出してもらった。
魔法使い達にノートを1冊ずつ手渡すと、ベレッタお姉ちゃんがノートをパラパラっと開いて目を輝かせた。
「なにこれ凄い!!こんな綺麗な紙があるなんて・・・」
「あ、そっか!千年前って紙の質が今よりも良くなかったんだね」
「なるほど~。でもね、千年の歴史もあるかもだけど、街で売ってるノートよりクーヤちゃんノートの方が綺麗だよ~♪」
「うん。このノートすごくキレイ。使うのがもったいないくらい」
「でも20冊セットのすごいのが出たから、気にしないで使っていいですよ~」
「さあさあベレッタお姉ちゃん、クーヤちゃんが気にしなくていいって言ってるんだから、ありがたく使わせてもらおう!」
「う、うん。クーヤちゃんありがとう!じゃあ始めよっか」
ナナお姉ちゃんとミルクお姉ちゃんがテーブルの上にノートを広げ、イメージした魔法を思い浮かべながら文字に起こしていく。
「単語を並べるだけじゃなく、文章にしないと魔法は発動しないからね。最初は長くなってもいいから必要な単語が引き立つような物語を書くの。そして魔法が発動するのを確認したら、必要のない部分を削っていくって感じね」
「物語を作るのかーーーーーーーーーー!」
「いきなり物語を書けって言われても難しいね~」
ハッハッハ。そういうのは中二病が目覚めつつあるボクに任せてくだされ!
「敵も味方も全て死に絶えた。でも戦え!戦い抜け!屍を乗り越え突き進め!私が滅ぼしたのは邪悪。ならば私こそ正義。魂の叫びを聞け!罪を抱いて堕・・・」
ざわっ
「「クーヤ・・・ちゃん?」」
む!?日本語では思い浮かぶのに、この世界の難しい単語とか知らないから、思ったように変換できないぞ!
「金色の刃となって全てを蹂躙せよ。悪を滅ぼす為なら私に罪の意識など無い!」
あ、これはいけた。
しかし困った。寵愛とか堕天とか、こっちの世界だとなんていう単語なんだろ?
刹那は?常闇は?渇望は?神羅万象は?冥府魔道は?
ぐおおお!なんということだ・・・。
中二病の肝となる格好良い単語がほぼ全滅・・・だと?
頭に浮かぶ中二病語録がほとんど変換できないじゃないですか!
そうだよ!ボクが覚えた単語って全部お姉ちゃん達に教えてもらった単語だから、思い付いた単語を『これなんていいんじゃない?』って言ったところで、最初からみんなボク以上に知ってるのだ。
「なんてこった!タマねえ、ボクもお手伝いしようと思ってたのに、中二病語録がクソの役にも立たないのです!」
「チューニビョーって何?」
「うわあああ~~~~~~~~~~ん!」
バタン
悲しみのあまり、魔法屋さんの外に飛び出した。
「くそーーーーー!言葉の壁で魔法を作ることができないだなんて・・・」
どこかに中二病を患ってる人とかいないだろか?その中二病師匠に難しい単語をいっぱい教えてもらって、いつかリベンジしたいです!
しかし、こうなってみると召喚士で良かったような気がしますね。
仕方ない。魔法のことは魔法使いに任せて、ボクはスズメちゃんの特訓でもして過ごそう。母鳥役を誰にお願いするかだな~。




