第449話 魔剣じゃないですか!!
掃除機を2台とも稼働させ、泣きそうになりながら広い鍛冶屋さんをお掃除中。
なんせ千年ぶりの掃除ですので、工房をキレイにすればいいってだけじゃなく、鍛冶が出来る状態に戻さねばならないのだ。
特にヤバいのが『炉』です。
チャムねえが言うには、ファンタジー鉱石を溶かすには普通の『炉』じゃ話にならないみたいで、ラララ工房にあるのは『魔高炉』なんだってさ。
とんでもなく高温になるから非常に頑丈な作りで、そしてデカい。
リズお姉ちゃんとアイリスお姉ちゃんなんか、その魔高炉の中に入ってお掃除してるんですよ?
中から『もうダメだーーーーー!』とか『地獄すぎる!』とか聞こえてきてちょっと笑いそうになりますが、絶対持ち場を交代したくないので、笑いを堪えてガン無視し、みんな自分の仕事に没頭しております。
そうこうしている間にお昼を過ぎたので、一旦掃除を止めて食事休憩です。
メメトンカツサンドを初めて食べたベレッタお姉ちゃんとチャムねえが、目をキラキラさせている。
「千年後の料理がどれもこれも美味しい件」
「ホント全部美味しいっスよね!早く病気を治して、地上の料理屋さんを攻めてみたいっス!」
「昔の料理とそんなに違うのか~」
「いや、クーヤんとこの料理が特別美味いってだけで、街の料理屋はここまで美味い物ばかりじゃねーぞ?串焼き肉は美味えけど」
「だね!レオナん家の料理はクーヤちゃんが監修してるから、たぶん王様が普段食べてる料理よりも美味しいんじゃないかな?」
「えーーーーー!?クーヤちゃんって伝説の料理人なの!?」
「料理の鉄人と呼んでください。作るのはお母さんですが!」
「それって、マリアンネさんが凄いんじゃ・・・」
まさか自分で料理を作らない伝説の料理人が存在するとは!!
「あの、話が変わるのですが、向こうの部屋で凄く格好良い色のルーン武器を何本も見つけました!あれって売り物じゃないヤツですか?」
「「なんだって!?」」
「あ、それはウチが最近作った武器っスね」
「チャム、最近じゃなくて千年前だよ!」
「ハッ!?言われてみると全然最近じゃなかったっス!ウチの記憶では一週間前に完成したばかりなんスけどね!」
「不思議なこともあるもんだね~」
「にゃはははは!ってかそれチャムねえの作品なの!?見たい見たい!」
「向こうの部屋なんだろ?見に行こうぜ!」
というわけで、ゾロゾロと奥の部屋に移動した。
この部屋はプリンお姉ちゃんが一人で掃除していたようで、まだ全然廃墟のままなのですが、机の上がキレイに拭かれていて、そこに武器が6本乗っていた。
なぜ見えたのかって?ナナお姉ちゃんに抱っこされているからです。
「おお?少しキレイになってるっスね!」
「リズさん、そのツーハンデッドソードを抜いてみて下さい」
「へーーーーー!鞘もすげー格好良いじゃねえか!」
チャキン
リズお姉ちゃんが剣を鞘から抜いた。
「うおおおおおおおおお!真っ赤じゃん!何だこれ!?死ぬほど格好良い!!」
「ビックリですよね!?」
「「わあああああああああーーーーーーーーーーーーーーー!!」」
「それがヒヒイロカネで作った大剣っス」
「チャム、こんなの作ってたんだ!?」
「しかもルーン武器だよ!」
「ねえねえ!光らせてみて!」
リズお姉ちゃんが魔力を流すと、真っ黒いルーン文字が浮かび上がった。
「魔剣じゃないですか!!すごくカッコイイ!!」
「うん、カッコイイ!」
「そう褒められると照れるっスね~」
「でもヒヒイロカネの剣ってほとんど見たことないけど、強度とか大丈夫なの?」
「かなりの自信作っスよ!これを完成させるために気合を入れ過ぎて、父さんがキレてたっスけどね!」
「成功率が低いから、無駄なことしてるように見えたのかもだね~」
「でも挑戦しなければ、いつまで経っても倉庫の肥やしのままなんス!ウチはヒヒイロカネに青春を捧げたんス!」
真っ赤な装備品とか格好良すぎるし、その気持ち、ボクにはすごくわかります!
でもルーン文字が真っ黒って、チャムねえ中二病を患ってません?
チャキン
「うお、このロングソードもカッケエ!剣身が金色じゃん!」
「色が濃いけどオリハルコンっスよ!敢えて少し精錬を甘くするとそんな色になるんス。でもそれくらいならしっかり精錬したオリハルコンとほとんど強度が変わらないから、ウチは格好良い方が良いと思うんスけど、半人前の仕事だって言われて武器屋に置いてもらえなくてお蔵入りした悲しき剣なんス・・・」
「わかる!!性能も大事かもだけど、見た目も重要だよね!」
「おお、ウチの気持ちがわかってくれるっスか!」
そういえばロコ姉ちゃんって、可愛いロッドを二刀流にしてたな。
どう考えても見た目で選んでたよね。
そしてチャムねえ、鍛冶の話になるとめっちゃ饒舌!!
ビジュアル重視の同士を求めていたのかも。
ビュン ビュン
「この黒いメイスいい!」
「お目が高いっスね!色の濃いアダマンタイトだけををかき集めて作った渾身の作品っス!それなのに、呪われてるとか言われて武器屋に置いてもらえなかった悲しい思い出が・・・」
「こんなにカッコイイのに!あの武器屋全然わかってない!」
「おおおぉぉ、ウチの芸術がわかってくれるっスか!!」
「千年前って見た目よりも性能重視だったのかな?」
「いや、そんなこともないんだけど、武器や防具の場合、思ってた色と違うと信頼されないところはあるかも」
「なるほど~」
当時はミルラの塔を攻めてたわけだし、なおさら性能重視だったのかもね~。
しかしまあ、オリハルコンとかアダマンタイトとかヒヒイロカネとか、ファンタジー鉱石の最高峰ばっかりじゃないですか。お値段がクソヤバそうです。
・・・あれ?そういえばミスリルくんは?
「ねえねえ!ミスリルの剣ってないの?」
「ミスリルは軽いから剣にすると攻撃力が落ちるんス。ミスリルの鎧なら女性に好まれるっスけど、強度を求めるならオリハルコンかアダマンタイトっスね」
「ミスリルは魔力の通りがいいから杖に使われるんだよ。クーヤちゃんが持ってるロッドがミスリル製だね。軽いでしょ?」
「これってミスリル製だったのかーーーーー!」
「おおーーーーー!わたしのこの杖もミスリル?」
「正解~♪っていうか、どっちも私が作った杖だね。使いやすいでしょ?」
あ!ボク達の杖って、ベレッタお姉ちゃんの店から勝手に拝借したヤツじゃん!
「あーーーーー!そういえばベレッタお姉ちゃんのお店にあった杖を、勝手に使ってたんだった!」
「そうだった!返さなきゃ!」
「返さなくていいよ!動画で言ってたでしょ?好きな商品を持ってっちゃっていいからって。あの店にある杖やアクセサリーは全部、発見した人達の物だよ♪」
「いや、でも・・・」
「私は千年前に死んでるの。生前に作った魔法アイテムは未来の子供達に受け継がれたんだよ。でもなぜかうっかり生きてたみたいだから、これから作る魔法アイテムはあげないけどね!」
「その通りっス!ウチも千年前に死んだっスから、そこにある千年前の武器はみんなにあげるっス!」
「「おおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーー!」」
「工房をピカピカにするのが条件っスけどね!」
「あ、そうだ!私も、病気が治るまで美味しい料理を食べさせてくれるのを条件にしなきゃ!」
「それは重要っス!」
「にゃはははは!料理なら毎日持って来る予定だったのです!」
「お安い御用だよ!わたし達に全部任せて!」
「掃除とか超得意」
「地獄だけどな!!」
「「あーーーーーっはっはっはっはっはっはっはっは!」」
チャムねえの一言で、みんなのやる気が復活しました!
あの中二心をダイレクトに刺激する魔剣達は、絶対欲しいだろうからね~。
それにしても、ベレッタお姉ちゃんのお店にある物全部持ってっていいとか言われたけど、すごく持っていきにくいです!
ん~、まあ、必要になったらその時頂くということで・・・。