第444話 死の病
絶対防御が魔法で破られるとは思っていなかったベレッタお姉ちゃんが、口に両手を当ててショックを受けている。
「どうしてこのタイミングでハムちゃんズの身体検査を始めたのかって話でしたが、それにはまずハムちゃんの特性から説明する必要があります」
「ハムちゃんの特性?」
「それはすごく気になるっス!」
「えーと、ハムちゃんって全員一つだけ魔法が使えるのですが、色と模様の組み合わせで使える魔法の属性なんかも多種多様なのです。赤なら火属性、青なら水属性といった感じですね」
「なにそれ面白い!」
「魔法使いの魔物っスか!そんなのよく捕まえたっスね?」
ボク一人なら絶対無理でした。
お姉ちゃん達のおかげなのです!
「そうそう!クーヤは召喚獣に名前を付けるからハムちゃんって呼んでるけど、本当はアルペジーラって名前の魔物でさ、彼らが住んでる森に入ったら、ありとあらゆる魔法で一斉攻撃されるから、マジで死ねるぞ!」
「うは!そんな危険な魔物だったんだ!?」
「そんな森を攻めて、よく死ななかったっスね・・・」
ボクはともかく、最初にアルペジーラの森に行って生還した『突撃もふもふ隊』が化け物チームなのだ。っていうか瞬時に危険を察知して魔法障壁を張ったナナお姉ちゃんが凄まじいよね~。
「というわけで、捕まえたハムちゃんの魔法を調べるためにすぐ身体検査をしたのですが、自分でも何の魔法を使っているのかわからない白ハムちゃんがいっぱいいたのですよ」
「攻撃魔法なら見た瞬間分かるんだけど、毒消し魔法だったりすると身体に毒が回ってないとわからないでしょ?本当は凄い魔法を使っていたとしても、そういう状態じゃないと効果が見えないから、結局分からないままだったんだ~」
助手のナナお姉ちゃんが補足してくれた。感謝!
「だからこそ、あのタイミングで身体検査だったのです!もしかしたら魔法を打ち消す魔法が使えるハムちゃんがいるんじゃないかと思って一縷の望みに懸けたの。結果は御覧の通りです!あの魔法は『ディスペル』と呼んでください!」
ボクの意味不明な行動を理解した二人が、なるほど!とウンウン頷いている。
「ディスペル・・・。なんて凄い魔法なの!絶対アレを使えるようになりたい!ベレッタお姉ちゃんは燃えてきました!!」
「うぇええええ!?あの魔法をマスターするつもりなの!?」
「あっ!ベレッタお姉ちゃんって、オリジナル魔法が作れる大魔法使いだった!」
「魔法を消去する魔法って、もし覚えたらとんでもない偉業じゃない!?作るのに成功したら私にも教えて下さい!!」
「あ、ずるい!私も!!」
ベレッタお姉ちゃんがやる気を出したことで、ナナお姉ちゃんとミルクお姉ちゃんもすごい盛り上がってますね~。弟子入りしそうな勢いですぞ?
ケホッ ケホッ
誰かが咳をしていると思ったらチャムねえだった。
・・・風邪かな?
「あっ!こんな大事なことを忘れていたなんて!!ごめんなさい!謝って許される事じゃないけど、もしかしたら皆さんに病気を感染しちゃったかもしれない・・・」
「「病気!?」」
「えっと・・・、これは私達がミルラの塔を攻めた理由に繋がるんだけど、実はこの国に死の病が蔓延していたの。あ、いや、千年前の話なのですが・・・」
「あの動画の中で言ってた病気か!?」
「確か王様も大教皇様も街の人達もみんな病気になっちゃったって言ってた」
「はい。原因も治療法も感染経路も不明で、もう地上に逃げるしかないって状況だったのですが、コントロールタワーをあの裏切り者に乗っ取られてしまってたから、逃げる事すら出来なかったの」
「それでミルラの塔にラストアタックを仕掛けたのか」
「その結果、千年も時が止まっちゃったわけなんだけど、病気の進行もただ止まっていただけで、全然治ってなかったみたいです。ごめんなさい!」
なんてこった!病気ってどうやったら治るの?
「ベレッタお姉ちゃんも病気なの!?」
「えーと、さっきまで興奮してたから忘れてたけど、身体の調子はかなり悪い様な気がします」
「大教皇様ですら病気になったってことは、神聖魔法じゃ治せないのか・・・」
「どうしよう!?」
治療法がわからない病気ってヤバくない?
ベレッタお姉ちゃん達も心配だけど、もしボク達に感染でもしたら・・・。
―――――お姉ちゃん達の様子を見てみたが、全員バカみたいに元気だった。
「うん。誰にも感染らない気がしますな。死の病程度で寝込むような軟弱者は一人もいないでしょう」
「なんスかその満ち溢れる謎の自信は!?」
「死の病?効かんなあ~」
「どんな病気にも負ける気がしませんね」
「二人の病気もすぐ治る」
「なんで自信満々に断言できるの!?死の病だよ??」
「クーヤ、ハム水二人前だ!」
「イェッサー!」
水玉ハムちゃんを召喚し、二つのコップにハム水を注入してもらった。
「ここで飲ませちゃダメだよ!」
「飲むなら店の外で!」
飲んだらどうなるか目に見えていたので、魔法屋さんの外に出て、通行ルートから外れた位置まで移動し、ベレッタお姉ちゃんとチャムねえにコップを手渡した。
「「はい!イッキ!イッキ!イッキ!イッキ!イッキ!イッキ!」」
「え、何?その急かすような掛け声は!?」
「この水を飲めってことっスよね?」
一気コールのプレッシャーに耐え切れなくなった二人がハム水を飲み始める。
ゴクッ ゴクッ ゴフッ! ブシャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!
ワー パチパチパチパチパチパチ!
「ゲホッ!ゲホッ!何これ?まっず・・・」
「ぶへえええええ!!ちょ、ゾンビ味だったんスけど!!」
「「あーーーーーっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!」」
「ゾンビ味って言い方いいな!あんなん食ったことねーけど」
「カロリーゼロに踏み潰されて1週間の味よりも簡潔に纏まってるね!」
「でも全部飲まなきゃダメ」
「全部なんて、飲めるわけないじゃないっスか!」
「いえ、それでも飲んで下さい。ハム水はどんな酷い怪我だって癒す奇跡の水なのです。天使様やレオナさん達はかなり前から飲んでるみたいですが、もう本当に病気知らずで、常に最高の健康状態で生活しています」
「病気知らず!?」
毎日飲んでるように聞こえるけど、罰ゲームの時くらいしか飲んでませんよ?
でも毎日女神の湯に入ってるから、水蒸気を吸って健康を保ってるんだと思う。
ハム水を満タンに戻してあげた。
「こうなったらもう飲むしかないっス!」
「迷惑はかけられないもんね・・・。チャム、いくよ!」
ゴクッ ゴプッ ゴク ゴクッ ゴフ!
「おかわりは自由だから、好きなだけ飲んでいいぞ」
「げふ、くっ!一杯で十分っスから!!」
「その一杯が地獄だよ!クーヤちゃん、溢れるほど注ぐんだもん!」
「大サービスなのです」
「噴いたら満タンに戻す」
「「な、なんですとーーーーー!?」」
絶賛病気中だったのもあり、二人は根性でハム水を飲み干しました!
いや~、とうとうハム水を飲み干す猛者が現れましたな。
あとは毎日大浴場に通わせて、完全回復させなきゃだね~。
祝・444話! 嫌な数字のキリ番ですが恒例の行事ということで。
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