第442話 ゾルヴィア・ダグニ
数百年後の世界だと言われても半信半疑だった二人でしたが、建物に草木が絡まり古代遺跡となってしまっている街を見て悲鳴をあげた。
ボク達がこの空飛ぶ島から家に帰ったら、オルガライドの街が廃墟になっていたって感じだろうから、そりゃショックですよね・・・。
「ハッ!?うちの工房は!?」
タタタタッ
「ちょっと待て!魔物が出るから一人じゃ危険だ!」
「聞いてないみたい!追うよ!」
「ここも危ないからベレッタお姉ちゃんも一緒に!」
地面にへたり込んでいるベレッタお姉ちゃんを無理矢理連れてくのは可哀相だったけど、こんな場所に置いていけるわけがないので、強引に立ち上がらせてショートカットの子を追った。
でもその工房がある場所は結構近くだったみたいで、ショートカットの子が、朽ち果てて半開きになっていた門を抜けて、建物の中に飛び込んでいったのが見えた。
「近くでよかった!」
「魔物は!?」
「たぶんいない・・・と思うけど」
「平屋の大きな建物だね。工房って言ってたから鍛冶屋さんかな?」
『うえええええぇぇぇぇぇん』
建物の中から、あの子の泣き声が聞こえてきた・・・。
「いくぞ!」
半開きの門を抜けて鍛冶屋さんの中に飛び込むと、埃の積もった床の上にへたり込んで大泣きしているショートカットの子を見つけた。
とりあえず建物の中に魔物が住み着いていないようで安心した。
「どうしてこんなことに!数日前まで美しい工房だったのに・・・」
もちろん数百年経ったから廃墟になってしまったわけだけど、彼女達からすると美しい街が一瞬で滅びてしまった感覚なのだ。
超常現象の前には、ボク達もどうやって慰めていいかわからず、彼女が泣き止むまでただ見ていることしかできなかった。
◇
「これ、数百年どころか千年以上経ってない?」
「千年以上っスか!?」
な、なんですとーーーーー!?
「いや、古い遺跡を調べたことなんて無いから何となくだよ?工房に積み重なっていた埃の量とか、ちょっと尋常じゃなかったし」
「その埃の中でさっき泳いじゃったから、下半身が最悪っス・・・」
「それはまあ、うん、しょうがないよ」
いっぱい泣いたおかげか、ようやくショートカットの子が立ち直ったので、みんなで魔法屋さんに向かっているところです。
でもボク達で勝手に模様替えしちゃってるんだよな~。
怒られなきゃいいけど。
「魔法屋が見えたッス!」
「うぅ、入るのがすごく怖いんですけど!」
「廃墟になってるんスもんねえ・・・」
「いや、アタシらが掃除したから中はピッカピカだぞ!」
「「えええ!?」」
「いや~、まさか店の主人が生きてるなんて思わなかったからさ~、アタシらがくつろげるように改装しちまったんだよ。悪い!」
「いえいえ、うっかり生きてた私もいけなかったんだし、気にしないで♪」
「そりゃベレッタお姉ちゃんが悪いっスね!千年も家を留守にするなんて、ちょっと頭おかしいっス!」
「いや、貴女もでしょ!」
「たはーーーーー!ウチもうっかりしてたっス!」
うっかり生きてたってなんやねん!
でもベレッタお姉ちゃん達が元気になってよかった~。
重苦しい空気はつらいです。ボク達はこんな感じじゃないとね♪
魔法屋さんの入り口のドアの前まで来た。
「ベレッタお姉ちゃんの店なんだし、先に入ってくれ!」
「う、うん。緊張するなあ・・・」
ギィィィィ
「わっ!すごく変わってる!!」
「お?おおお!?おおおぉぉーーーーー!!」
どうやらベレッタお姉ちゃんが出発した時と全然違うようだ。ちなみに動画ではほとんど背景が見えなかったんだよね~。どんな感じだったんだろ?
二人が店内を一周し、何とも言えない顔をしてボク達のいる方に戻って来た。
「杖や魔道具はあったけど、ローブが一着も無いよ?」
ああ、微妙な顔をしていた理由はそれでしたか!
「残念ながら、全部襤褸切れになってたんだ」
「千年の月日には耐えられなかったみたい」
「あっ、そうか・・・。布じゃ長生きできないよね~」
「寂しいけどしょうがないっス。でも逆に千年もの時を生き抜いた杖と魔道具が凄すぎないスか!?」
「確かに!ベレッタお姉ちゃんは感激です!」
会話を聞きながら、テーブルの上に水筒を三つ出して、ハンバーガーを並べる。
「そんな所で話してないで、二人ともここに座って!冷たい飲み物を出すね♪」
「ハンバーガーもどうぞ!すごく美味しいですぞーーーーー!」
「ありがとう!」
「冷たい飲み物はありがたいっス!」
というわけで、全員のコップにジュースを注いで昼食タイムとなった。
ハムちゃんに腐るほどハンバーガーを詰め込んでおいて正解でしたな。
「「美味しい!」」
「未来のジュースも美味しいし、お肉が挟まったパンがすごく美味しい!」
「この肉、メッチャ柔らかいっスね!味も濃くて最高っス!」
「だろ!?いずれガイアんとこで大量に売りに出す予定らしいから、いつでも食えるようになるぜ!」
「ちょっと待て。ガイアと言われても誰か分からんだろ。まずは自己紹介だ」
「あ、すっかり忘れてた!」
というわけで、人数が多くて覚えられないだろうけど、一斉に自己紹介した。
ショートカットの子は『チャム』って名前らしい。
呼びやすくていい名前ですね!『チャムねえ』って呼ぶことにしよう。
ようやく落ち着いたので、一番知りたかった謎を二人に聞いてみる。
「ミルラの塔で何があったのか全部聞かせてくれないか?」
「そうそう!千年も時が止まるなんて、ちょっと異常だよね」
それを聞き、二人の表情が苦々しいモノになった。
「前に一度大規模な制圧作戦があってね、それに参加してたから3階までのルートは知ってたんだ。だからチャムと二人で最上階だけを目指して、極力戦わずに真っ直ぐミルラの塔を駆け抜けたの」
「メチャクチャ戦闘したっスけどね!」
「そして4階の例の場所まで進んだ時、あの男が現れた。ゾルヴィア・ダグニという名の宮廷魔術師だった男。禁呪である死霊魔術に魅入られ、終には人間をもやめてネクロマンサーとなり、ミルラの塔を支配した裏切り者」
「アイツは王家を裏切ったどころか全人類を裏切ったっス!!」
なんだそりゃ!?
人間をやめてまで魔術を極めようとしたのか・・・。
「最初からゾルヴィアを倒すつもりでミルラの塔に突入したんだから、持てる力の全てを出し尽くす覚悟で戦ったんだけど、アイツは正真正銘の化け物だった。っていうか魔法が効かないなんてズルいよね!?」
「ウチの剣も全然効いてなかったっス」
「ん~、チャムは本職の戦士じゃないから、物理攻撃が無効なのかどうかは何とも言えないけどね~」
「面目ないっス!」
本職じゃないのにミルラの塔についてったんかい!
「でね、もう本当にどうしようもなかったから、最後の手段で絶対防御の魔法を使ったんだ。私の記憶はそれで最後」
「ウチもそこまでしか記憶無いっス」
「「絶対防御!?」」
「うん。頑張って作ったオリジナル魔法だよ。物理攻撃も魔法攻撃も効かなくなるんだけど、すなわち魔力が切れるまで耐えるだけって感じで、相手が諦めて帰ってくれるのを期待するだけの魔法だね~」
「いやいやいやいや!いくら何でも千年は耐えすぎだろ!!そりゃアンデッドも諦めて帰るわ!」
「違うの!魔法を使ってる間は魔力を消費し続けるから、長くても半日で魔力が尽きるハズだったの。千年も継続されるような魔法じゃないんだよ!」
レオナねえのツッコミで噴きそうになった。
「あ、わかったかも!」
全員クーヤちゃんに注目した。
「ボク達がベレッタお姉ちゃん達を発見した時、最初真っ黒い塊だったの。でね、マイナスイオンハムちゃんと一緒に黒い塊に向かって『邪魔ですよ!』って説教してたら、黒い殻が一枚ずつ剥がれ落ちていったので、あれはきっと強力な呪いだったと思うのです」
お姉ちゃん達は殻が剥がれるのを一緒に見てたから、ウンウン頷いている。
「すなわちですね、絶対防御の上からネクロマンサーの強力な呪いコーティングされたことで、その相乗効果で時が止まっちゃったんじゃないかと・・・」
そうとしか思えないのです。
「たぶんそれで正解だな。絶対防御が破れない事にイラついたネクロマンサーがぶちキレて、最凶の呪いを掛けまくったんだろ。最強の防御と最凶の呪いの組み合わせで時が止まった。これしか考えられん」
「えええええ!?私達そんな状態になってたの?」
「その時の様子をハム王妃様が映写機で録画してるから、見てみます?」
「ウソ!?そんなの録画してたっスか!!」
「見せて下さい!」
戦場カメラマンの仕事に隙は無いのだ。
でも一旦録画を停止したのって、黒い塊を発見する前だったと思うから、ベレッタお姉ちゃん達が出現するまで結構長いですぞ・・・。




