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ミッション・コンプリート!

 


 玄関ポーチの段に腰掛け、水筒に入れた麦茶をガブ飲む。水筒はさっきショップで買った。探索用品なので必要経費だ。

 麦茶を沸かしても保存するポットすらない。仕方なく水筒を買ったという訳だが、やっぱりこの無い無い尽くしを解決するにはSPを稼ぐっきゃあるまいなのだ。それか、生産技術を磨くか。

 ともあれ……必要なものを買うためにも、まずは初級ミッションだ。次の目当ては【リラクゼーション】の習熟度を5まで上げる、というミッションなんだけど…。


「スライムくんに逃げられちゃったからな…新しいフレンズを探さないとね、ヘル太郎」

『言っておきますけど、結界の外にはモンスターがうろちょろしてますからね。もう少し気をつけてくださいよ』

「戦闘手段を手に入れるまでは引き篭もり生活かぁ。なら、結界内に入れる鳥か小動物でも狙ってみますかね」


 目指せ、モフモフパラダイス!

 問題はどうやってフリーダムに過ごす生き物へリラクゼーションスキルを使うか…という点であるが、問題ない。策はある。

 動物を誘き寄せる手段といえば古今東西、撒き餌あるのみ!昨日採った草花の中に小動物が食べるという草の実があったので、それを使おうと思う。

 あと、ちょっとでも成功率を上げたいので草を集めて巣っぽい何かも作りたい。

 うむ。パーフェクトなプランだ。

 ちなみに現在の習熟度は…1でした。

 ウィンドカットの方は6しか上がってなかったから回数式ではないらしい。きっと経験値的なフワフワシステムなのだろう。


「ていうか、習熟度って何か意味あるの?ヘル太郎くんや」

『生産魔法スキルでは、下位スキルの習熟度を上げることで上位スキルが解放されます。リラクゼーションや頑強スキルでは効果を上げることが出来ます』

「なるほどねぇ。習熟度を上げればモフモフパラダイスも近づくと。頑張るぞー」


 休憩を終えた私は、ひとまず巣を作るために良い感じの枯れ草を探すことにした。

 ウィンドカットの無詠唱にも挑戦してみよう。効率は大事だ。初級ミッションなんて序の口、稼ぐべきSPを考えると早く終わらせるに越したことはないからね。

 そういえばレベル上げのミッションもあったっけ。なんか『Lv.1(26.731%)』って表示になってるけど。


「ねーねー、レベルって何のレベル?」

『───それは俺への質問ですか』

「え?あ、あぁうんそうだよ」

『お答えできません』

「……………えぇえ?いやいや、あのね。レベルにも色々あるじゃん。種族レベルとか戦闘レベルとか職業レベルとか…そういうのを聞きたかったんだけど」

()()()()()()()()


 ぞわ、と何故か背筋が震えた。

 ヘル太郎の声はどこか楽しげで、まるで答えられないと言うのを待ち侘びていたような。そんな声色だった。

 誰かを引っ掛けるための落とし穴を間違えて見つけてしまったような気分だ。


「えーっと……何で答えられないの?」

『そうですね。…貴方のセキュリティクリアランスでは開示されていません……と言えば伝わるでしょうか?』

「パラ○イアかよッ!!!」

『ふ、くくくっ』


 お…思わず突っ込んでしまった。ていうかヘル太郎くんヲタクですか?いや私もだけど。

 いやそうじゃなくて。この返答から察するに……そういうことなのだ。私がレベルについて知るには、何か足りてない要素がある。

 条件を満たせばレベルについての情報を得られる……それはつまり。


「レベル1だと、レベルについては教えられない………そういう事かな?」

『……君のような勘の良いガキは嫌いだよ……です』

「ふふふん。分かったよ。取り敢えず初級ミッションをやることにするかな」

『そうしてください』


 レベルには、隠された秘密があるらしい。



 その後、小動物ホイホイを完成させて可愛い生き物が引っかかるのを待っていたのだが先にウィンドカットのミッションを達成してしまった。

 待ち時間で伐採した木をカットしてたら習熟度が10になったらしい。無詠唱も出来るようになったよ!

 そして、それと同時に『プリサイスカット』のミッションもクリア可能になった。ウィンドカットの習熟度を上げて解放するスキルだったのだ。

 プリサイスカットは、正確に物を切るスキルだ。ヘル太郎が『読んで字の如くですよ』と言っていた。英語ワカリマセーン。


「流れ的には、このスキルを使ってタリスマンを作る感じだね…。板が要るのよ、板」


 魔法大全に載っていた紋章は丸い形だったから、刻む板も丸い方がカッコイイだろう。

 そこで役立つのがこの、プリサイスカット!なんと…水平垂直・各種図形や45度カットまで出来る優れものスキルなのだー!!

 丸ノコ要らずですね。ありがてぇ。

 さっきまでウィンドカットで枝切りしていたチェダーの木から、適当に板材を切りとる。

 手の平大の円を思い浮かべて…。


「秩序と風の神の権能を行使、正確無比の剣を振るいたまえ──プリサイスカット」


 ゴスッと良い音を立てて円形の板が切り出された。おぉー、凄い。生産魔法サイコー!

 あとは風の神の紋章を刻むだけ…なんだけど道具がないんだよなぁ。良さげな生産魔法もまだ解放されてなかったし。

 下書きは、文房具セットにコンパスと定規があるから何とかイケそうだけど。紋章を刻むとなると彫刻刀とかが要るだろう。

 ………彫刻刀5本組セット10SP…うぅぅ、余計な出費だ…。半べそでポチった。

 後の作業は流石に机の上でやりたいかな…。そういえば小動物ホイホイはどうなった?


「あ、な、な……何かいるー……!あれなに、あれなにヘル太郎…!」

『えー……チラリスという生き物ですね。生物図鑑の284ページに載ってます。草食の無害な小動物ですよ』

「げっとだ、げげげげゲットだぜなのぜ」

『落ち着いてください気持ち悪いです』

「うぐっ」


 AIに気持ち悪いとか言われる20代女って…。

 いや興奮するのもしょうがない、だって手の平サイズの白くて耳が大きくて尻尾がフワフワの生き物がモゾモゾしてるんだぞ!

 く、くぅ〜〜〜かわいい!!お友達からお願いします!なにとぞ!!


「リラクゼーション、リラクゼーション、リラクゼーション、リラクゼーション……」

「きゅっ!……きゅるる、ききゅっ」

『変質者ですね』


 お黙り!こちとら必死なのよ!!

 リラクゼーションをひたすら唱えつつ近寄ると、チラリスは一瞬驚いたようにこちらを向いたがすぐに落ち着いて食事に戻る。

 よーし、腰を低くして警戒させないように…四つん這いになって近くへ…近くへ…。

 あらかた草の実を食べ尽くしたチラリスが去ろうとする気配を察して、アイテムバッグから追加の実を取り出す。


「きゅ?きゅっきゅ…きゅー……」

「リラクゼーション、リラクゼーション……怖くないよー、ほらお食べ…」

「きゅ…きゅきゅ」


 躊躇っていたチラリスが私の手の周りをウロチョロして…小さい前足をちょこんと乗せる。ペタペタと確かめるように探ってから、手の平の上に飛び乗って実を食べ始めた。

 うわぁ〜〜!頬袋プクプクやないですか!かわええ!かわええ!!

 チョコチョコと動き回るのがくすぐったいけど、ガマン。やがて落ち着いて丸く寝そべってしまったチラリスをそーっと親指で撫でる。ふわっふわじゃないの。

 しばらく撫でていると、そのまま寝てしまった。うぅむ…野性をも殺すリラクゼーション…恐るべし。この子、持って帰っちゃって良いんですかね?あぁ手放せない…。

 ひ、ひとまず寝かせておいてあげよう。起きた時に嫌がってたら、森に帰そうじゃないか…いったんお持ち帰りで、ね?ね?


「これで良かったんだよね、ヘル太郎」

『誘拐犯…』

「お、おだまりっ!」



 家に帰ってミッションを確認すると、チラリスちゃんの協力によってリラクゼーションは習熟度7まで上がっていた。けっこう攻略難易度が高かった?のかもしれない。

 あとはタリスマン作りとレベル上げの2つだけだ。張り切ってお守り作るぞ!

 魔法大全を片手に、板の上へ紋章を書き写していく。文字部分が異世界言語なので、書き慣れない…これを彫って、スライムの体液も流し込むんだよね?むずかしそー…!!

 何とかかんとか紋章を書き上げ、地道にコリコリやってお昼ご飯を挟んで…ようやく全体を彫り終えた。


「指イタイ…癒やして…チラリスちゃん…」

「きゅるるる」


 チラリスちゃんはお昼ご飯の時にひょっこり目を覚まして、とうもろこしをあげるとすっかり懐いてしまった。

 フワフワの毛がめっちゃ癒される。疲れた手に優しいです…。ふわふわ…もふもふ…。

 ………ハッ!時を飛ばしてしまう所だった。

 タリスマンなのだが、問題はこの細い溝にどうやってスライム液を流し込むかだ。

 まさかダバァする訳にもいくまい。スポイトとか……いや、筆だな。筆がいる。

 私の節約精神がほんのちょっぴり騒ぐ。工具はどうしようもないが、筆かぁ…。


「…髪の毛でも束ねるか?いやーー……」

「きゅーきゅー」

「チラリスちゃんの毛もちょっとなー…」


 うーんうーん……。何か丁度いい毛…毛…。

 ふと、チラリスにやった餌のとうもろこしが目に入る。とうもろこし……それや!!

 ゴミ箱代わりにしていたトマト缶の中から、モシャモシャの物体を取り出す。

そう、とうもろこしのヒゲだ。ツルツルしてるし、ナイロン筆みたいで何なら使いやすいかも!

 なんだかスローライフっぽくなってきたじゃないの。


「真っ直ぐな部分を集めて束ねて切り揃えて…あーっと、軸もいるよね。棒、棒」


 枝切りしたものをアイテムバッグに溜め込んでいた(もったいない病なのだ)ので、適当な枝を出して表面を軽く彫刻刀で削って整える。そして先端を丸刀で地道に掘った。

 あとは文房具セットの糊で毛束をくっつけて乾かして…。うん、筆だ!筆できた!

 ワクワクしながらスライム液の入った器を出して、筆先をちゃぽんと漬ける。

 ちょっとガタガタした溝をなぞるように筆を走らせれば……。


「おぉー!良い感じじゃーん!」


 薄緑の液体は溝を伝って緑の線を描いている。はみ出しも無いし、描きやすいし。これはグッドアイテム賞受賞ですな!

 筆さえ出来てしまえば、こちとらネイルも自前でこなす大人の女。スライム液をちょちょっと溝に入れるくらい容易いモンよ〜!

 小一時間ほどで作業は終わり、お守り本体が完成した。初めてにしては良い出来である。

 あとは……祈りを捧げれば、神の加護が宿るらしいんだけど。

 魔法大全にある呪文を確認し、何回か試しに読んでみる。…よーし。


「我、未世は風の神ヴェンティオに力と祈りを捧げ加護を賜らんとする者なり。我が思いを聞き届け、巡る世界と共に歩む風の護りを授け給え────ラノーラ」


 タリスマンに手を添えて祈りの文句を唱えると、魔力が吸われていくのを感じた。最後の一節を口にした瞬間、涼やかな気を放ちながらタリスマンが緑の光を帯びる。

 光がゆっくりと消えていき…その涼やかな気配だけが御守りに残っている感じがした。

 ………成功した、のかな?

 メニューを開いて確認してみれば…タリスマンのアチーブメントが取得済みになっていた。

 No.132『あぁっ風神さまっ 35SP』……苦労に見合った中々のポイント量では無いだろうか。良かった良かった。

 あとはレベルだけど……おや。経験値?が増えてる。Lv.1(82.947%)…もうすぐレベルアップじゃん!

 なんでこんなにパーセンテージが増えてるんだろ。何したら増えるんだコレ?生産?

 うーん。色々試してみるかな。

 アイテムバッグから適当に枝を出して、取り敢えず魔法を使ってみることにした。

 むっ!と念じると枝がスパンと真っ二つになる。ウィンドカット無詠唱の成果だ。…数値が82.948%になった。たった0.001%……。


「ん〜〜〜…あっ!お守り持ちながらだったら何か変わるかな?」


 作ったばかりのタリスマンを片手にもう一度、むむっ!……お?なんか魔法が使いやすくなった感じがするね!数値も85.327%になった。さっきより良い感触だ。

 しかし、もう一度やってみると数値はそこまで増えず86.053%だった。続けて何度かやってみたらどんどん増えなくなっていった。

 魔法以外のこともやってみよう、と思っておもむろにチラリスを撫でてみる。全く増えなかった。癒されただけだった。

 薬草を摘んだ時、戯れに摘んだ花を編んで花の指輪を作ってみる。………0.001%だけ増えた。こんな子供のお遊びじゃダメか。


「なーにをすれば良いんだー…?ヘル太郎、どうやったらレベルって上がるのよー」

『答えられないのでもうちょっと頑張ってみてください』

「ちぇー」


 ゲームで経験値を稼ぐなら、第一に戦闘が挙がるだろう。でも休憩後から今まで戦闘なんてしてないし。にしては随分増えている。

 経験値稼ぎで第二に上がるのは……クエスト報酬?おぉ、それかもしれない!

 デイリーミッションはまだやってないから、それで行ってみよう!今日は魔法10回、鑑定20回、アイテムバッグに現地の品を3種類しまう、というラインナップだった。

 じゃあ手軽な物を………そうだな。今作ったタリスマンを鑑定してみよう。……鑑定!


「ぅわあっ!?」

『たらららってってってー……おめでとうございます。レベルアップしました』

「今ので!!?」


 鑑定した瞬間、全身がピカーッと光って非常にビックリした。ミッションクリアしてないよ!?鑑定だけだよ!!?


「訳わかめなんで説明オナシャス!」

『……そうさせて頂きましょう。俺からしても、貴方にはしっかり認識して貰いたい』

「認識?」

「きゅるるーー…きゅきゅっ」


 転生者の使命について、ですよ。


 ヘル太郎はそう呟いたのだった。



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