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ミッション・エレメンタリィ

 

 異世界生活二日目である。今日は初級ミッションとやらに挑戦してみようと思う。

 どんなミッションがあるかと言うと──


『生産魔法 収集スキル【探知】を使用 1SP』

『ショップでパン(1SP)を購入 3SP』

『本を読んで【鑑定】を強化する 5SP』

『スライム3匹の討伐 5SP』

『薬草30本を収集する 6SP』

『【リラクゼーション】の習熟度を5まで上げる 6SP』

『生産魔法 収集スキル【ウィンドカット】の習熟度を10まで上げる 10SP』

『生産魔法 加工スキル【プリサイスカット】の解放 15SP』

『アチーブメントNo.132の達成 20SP』

『レベルを2に上げる 30SP』


 ──といった感じである。

 ミッション10個、獲得SPが合計100。1日で全部出来るかな?頑張ろう。

 さっそく朝ご飯ついでにショップでパンを買ってみた。ロールパン3個入りの品だ。適当に具を挟んで食べてみたら、パン屋さんの味でテンション爆上げである。

 これでSPまで貰えるとかお得ですねぇ!

 腹ごなしも済んだ所で本格的にミッションへ取り組んでみようと思うのだが、その前に。


「アチーブメントの132ってどんな条件なんだろ?ヘル太郎〜」

『No.132は風の神のタリスマンを作成するアチーブメントです。タリスマンというのは、まぁ魔道具のことですね』

「ふーん…どうやって作ればいいのかな」

『魔法大全の143ページに載っていました。ご確認ください』

「ほうほう。ありがと〜」


 何故ヘル太郎が本の中身まで分かるかって?それは、昨日私がアイテムバッグの中に本を全部突っ込んだからである。

 なんでも、ヘル太郎はアイテムバッグの中身を詳しく調べられるらしい。しかも一度入れればその情報はヘル太郎のデータベースに永久保存されるという。

 凄いぞ、ヘル太郎!

 これによって『本を読んで鑑定強化』のミッションもクリア済みだという。ありがたい限りだ。……ちょっとズルしてる気も、しないでもない。

 それはともかくタリスマン?についてだ。

 何々…『タリスマンとは神の紋章(シジル)を刻みつけたお守りのことである。どの神の紋章を使うかで齎される加護も変化する』…なるほど。

 例えば『風の神ヴェンディオ』ならば風の神の力を使う魔法を強化する他に、変転を齎す加護があるのだとか。

 多分ミッションに【ウィンドカット】を使う物があるから、それを強化する為にタリスマンが必要なんだろう。ゲーム的な流れを考えればそんな所だ。

 何かに紋章を刻み込んで、風属性の素材を組み込むとタリスマンになる…と書いてある。魔法大全では板に紋章を刻んで、その溝に風スライムの体液を流し込む方法が紹介されていた。なるほど、スライムのミッションはこっちに関連してた訳だ。


「よーし。じゃあ外に繰り出すか!まずは薬草探しだね。昨日ちょっと草むしりしただけで薬草ゲット出来てたし、すぐ集まるでしょ。…でも折角だから役に立つものを集めたいし。ヘル太郎くん、初級ポーションの材料って分かる?」

『植物図鑑の25ページにクァリ草の葉が材料だと書かれています。良質な土と日当たりがあれば何処にでも生えているそうですよ』

「丁度良さそうだね。そいつを探そう!」


 図鑑片手に庭へ出て地面を眺めること1分。玄関先に生えているのを発見した。四葉の先端がクルッとカールしてる草だ。

 あ、そうだ。魔法の練習もついでにやろう。ウィンドカットを使えば採集も楽そうだし。


「えーっと…風の神の権能を行使、御袖で空を裂きたまえ──ウィンドカット」


 何の気無しに呪文を唱えたら、ズパァッ!という快音と共に目の前の茂みの天辺が切り裂かれてしまった。

 ……ちゃんとイメージしながらじゃないと、こうなっちゃうのね。

 失敗の痕跡から目を逸らし、今度はクァリ草の根本に指先を当てる。ハサミくらいの刃をイメージして詠唱しながら指を振ると、スパッと想像通りに切ることが出来た。

 気持ちいい切れ味である。やったね!


「そんじゃ次は、これを使って探知の魔法に挑戦するかなっと。便利だなぁ、魔法」


 ミッションにもある収集スキルの【探知】は手に持っている物と同じ物を探す魔法だ。

 複数の同じ物を探したい時には打って付けの魔法である。詠唱は…おっとっと。イメージをちゃんとしておかないとね。

 そうだな…半径2m以内のクァリ草を1つずつ知覚する感じで…。


「遠見の神の権能を行使、手中の宝を探したまえ──探知!……おぉっ」


 数歩先にモヤッと気配のような物を感じる。あそこにあるんですね、探知先生!

 探知で見つけたクァリ草をウィンドカットでスパッと採集。そうすればまた右後ろに気配を感じたので、近付いてスパッ。


「採集祭りじゃ〜〜〜!!」


 そして私はひたすら気配を刈り取る薬草ハンターになったのだった!

 あっちへフラフラ、こっちへトコトコ。その姿はどんぐりを探す幼女の如し。その内ト◯ロに出くわしそうだ。異世界なら◯トロも居るかもしれない。

 あまりにも探知に引っかかった数が多くて、だんだん詠唱するのが面倒になってきた。10個ぐらい刈った所で呪文が適当になり、最終的に『ウィンドカット!』だけで魔法が使えるようになってしまった。

 イメージさえ出来ていれば魔法は発動するらしい。慣れれば無詠唱でも出来るかな?


「ウィンドカット!…ウィンドカット!おっとそこにも、うぃんどかっと……ぉおお?」


 いきなり視界に変な物が映って奇声を上げてしまった。地面に何やら薄赤い水まんじゅうが転がっているのだ。

 これは、もしかしなくても。スライムか!?


「ヘル太郎、これスライムだよね?」

『そうですね。火スライムです。ちなみに貴女は今、防御結界の外にいます』

「え。…いつの間に。危ない危ない……でもスライム討伐しなきゃだしな。火スライムって何か攻撃とかしてくるの?」

『 温度と魔力を奪うそうです。ごく微量なので危険は無いらしいですけどね。風系の魔法で倒せますよ。詳しくは生物図鑑の67ページをどうぞ』

「おー、ありがとう。……なんか近寄ってきてるんだけど?」

『温かい物を好むらしいので』

「なるほど」


 ぺたぁ、と足首にまとわりつく火スライム。少しひんやりしていて気持ちいい。手のひら大で何だか可愛く見えてきた。なんでも可愛く見えるジャパニーズである。

 そういえば日差しが暑いと思ってたんだよね……頭に乗せたら日除けになるかしら?


『ちょっと、何してるんですか』

「え?帽子がわりにしようと思って…ちょ、暴れるでない。頭に乗ってておくれ!えーとそうだ!『リラクゼーション』!」


 頭の上でブヨブヨ蠢いていた火スライムが、プルンと揺れて大人しくなった。

 …勢いで使っちゃったけど、リラクゼーションすごいじゃないか!

 あっという間にスライム君がぺたっと平たくなってリラックスし始めてる。


「おー、涼しい涼しい。君は生かしておいてやろう。良きに計らえ〜」

『……………不思議な生き物ですね』

「そうだねぇ。火スライムなのに冷たいって不思議なかんじ」

『いえ、貴女のことです』

「私かーーい!!失礼なやつめ!」


 誰が不思議ちゃんだ。まったく。

 えーと……薬草は何個集めたっけ。34個か。もうミッションクリアしてるじゃないか。

 丁度いいしスライム討伐に取り掛かろう、タリスマンの材料の風スライム探しだ。

 生物図鑑の風スライムのページを開く。

『風の吹く場所を好み、高い木の上などで見かけられる。土属性の魔法をかけると体表の魔力膜が溶けて倒すことができる。体液には風属性の魔力が含まれている』…ふむふむ。


「高い木…高い木…あの杉っぽいのとか良さそう。スライム見えないけど」


 どうやって確かめた物か…この火スライムで探知使っても、火スライムしか探せなさそうだしなぁ。

 木を見上げながら鑑定を使ってみる。木の情報しか出てこなかった…ダメか。

『チェダー 常緑針葉樹。枝張りが良く背が高いので防風に役立つ。樹齢に比例して風属性の魔力が宿る。また、材木としてもよく利用されている。独特の香りが特徴である』


「鑑定、ずいぶん細かくなったなぁ。風属性の魔力が宿ってるのか……タリスマン用の木材に良さそう。よし、伐採だー!」


 敵の太さは30cmほど。私だって木の切り方くらいは知ってるぞ、受け口を作るんだよね!厚めの斧っぽい刃をイメージして…必殺ウィンドカット!


 ガコッ!!……ドザザザザッ!


 良い手応えに喜ぶ間も無く、上から何かが降ってきた。それはベシャリと地面に打ち付けられてプルプルと震える。

 薄緑色の風スライムだった……。


「…何か可哀想なことしちゃったな。おっと火スライムくん、髪に潜りこまないの!」

「(……ぷるぷる)」


 そういや火スライムは風属性に弱いんだったか。早いとこ風スライムをやっつけよう。

 土魔法かぁ。生活魔法で何か簡単なヤツ…お。これなんか良いね。


「土の神の権能を行使、其の掌にて受け止めたまえ──アースボウル」


 風スライムの下の地面が盛り上がり、水まんじゅうを土が覆っていく。パシャンという水音と共にスライムは崩れてしまった。

 (ボール)じゃなくて(ボウル)だよっと。スライムを倒せて入れ物も出来る、一石二鳥だ。さぁさぁ逃げるでない、そっちのスライムくんも仕舞っちゃおうね〜。

 全部で6匹の風スライムがアイテムバッグにないないされた。火スライム君も一安心したようで頭の上で平たくなる。


「スライムのミッションもこれで終了!もうミッションも残り半分か…これ切って休憩にしよっかな。ウィンドカット!…あっ!?」


 風の刃が木に放たれると同時に、スライム君がピョーンと跳ねていった。慌てて振り向くと草むらの中へポヨンポヨンと逃げていくのが見える。

 ……ウィンドカット、風魔法だもんね。異世界初の友達に逃げられちゃった…。

 木の倒れる音が虚しく森に響き渡るのだった。


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