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異世界生活のはじまり

 

「目がしょぼしょぼする」


 気付けば日が暮れそうになっていた。メニューウィンドウのバックライトが薄暗い室内をほんのり照らしている。

 大体のことはまとめ終わった。もう何も考えることはないだろう。でもまずは、灯りをつけないとね……。

 入り口の壁際に魔道具のスイッチらしきものがあったのを思い出して、フラフラと歩み寄る。なんか乳白色の丸い石板が壁に埋め込まれている。

 変な魔法陣が刻まれていて、『ライト』と異世界文字で書いてある。やっぱりこれだ。

 触ってみる。何も起きない。魔道具っていうくらいだし魔力が要るのか?魔力出ろ〜……何も起きない。


「あー、あー…こういう時はアレだ。全身の魔力の流れを意識してそれを押し出すようにみたいな……あっ」


 パッと部屋が明るくなった。

 お、おう。イメトレだけで何とかなったぞ。なろうの先人の知恵は偉大だなぁ…。

 この時はじめて、私は異世界に来たんだという実感が湧いた気がした。


「さて、数時間に渡ってまとめた調査結果を振り返るとしよう。まずはヘル太郎くんに感謝を」

『別に感謝される謂れはありませんよ。仕事ですので』

「いやぁ、君が居てくれて助かったよホントに。孤独も紛れたしね」


 誰と喋ってるのって?別に私の頭がおかしくなった訳ではない。

 このイケボの正体はメニューのヘルプ機能、ヘル太郎くんだ。いわゆるS○riだ。

 クールで無愛想系のAI?が質問に回答してくれる形式の優れ者で、話しかけた時以外は喋らない都合の良いヤツでもある。

 彼が居なければアチーブメントのポイント計算をチマチマ手打ちでする羽目になっていただろう。ホントに助かった。

 ちなみにヘル太郎っていうのは私が勝手につけた渾名だ。


「えーと、生活費は当面問題なし!家賃光熱費はタダだし食費も1年分は掛からない、1年のうちに自給自足を目指す!生活用品はデイリーミッションのSPで事足りるから考えなくていいよね、ヘル太郎っ!」

『食物の自給自足に些か問題がありそうですが良いんじゃないですか、どうでも』

「そう、どうでもいいんだよ。1日1500円の収入は確保できるからね!」


 ヘル太郎の情報から、デイリーミッションは1日3つ5SPずつで固定というのは既に分かっている。それだけあれば食うには困るまい。生活用品は毎日買う訳でもないし。

 もともとスローライフ志望、自給自足はするつもりだったのだ。他にやることも無いんだからスローライフを頑張ろう。


「次に当座で必要な日用品について!服、消耗品、外の探索に使う物品類を買わなければいけないと判明した。必要なSPは834!非常に由々しき事態だよ、なんでポイントがこんなに足りないのヘル太郎!」

『欲しい服が多すぎるからじゃないですか』

「シーズン物と室内着とパジャマとアウトドア服は外せません!お黙りっ!」

『……………』

「はい、という訳で現在残高478SPだから356SP足りませんと。これはアチーブメントと初級ミッションを熟すしかないね」


 初級ミッションは10個用意されていて、どれも簡単にクリアできそうなものだった。合計で100SPが得られる。

 残り256SPはアチーブメントに頼る事になるのだが、簡単なものだけだと数を熟す必要がある。後で高ポイント条件を吟味しないと。


「アチーブメントは難易度が1〜5で区分けされていて、大体達成出来そうなのが2まで。頑張れば出来そうなのが3。難易度3までのアチーブメント数は789個…合計83056SP。800万円かぁ。300年も生きようと思うと全然足りないんだよね」


 そう。なんとエルフは寿命が平均400歳なのだ。生物図鑑を調べたら書いてあった。

 それだけの年数をどう生きれば良いのか全く分からない。色んな趣味を極めるしかない。…それはそれで楽しそうだから良いか。

 まぁデイリークエストをそれなりに熟せば追加で年5000SPは稼げる見込みだ。生涯年収はアチーブメントと合わせて約158万SP。何とかなると思うしかない。


「服や家具、生活用品も自給自足出来るようになれば収入なんて無くても生きていけるし大丈夫だよね、ヘル太郎」

『生産魔法チート持ってるんだからそれぐらいは出来るようになりますよ』

「うんうん。ポーションも自分で作れるらしいし心配することはもう無さそうだね」


 そう。生産魔法には『魔法薬製作』や『魔道具製作』なんてファンタジックな物もあったのだ。ヘル太郎曰く材料さえあれば高級ポーションくらいなら難しくないだろうとの事。材料さえあれば。

 でもやっぱり不安だし最低限、骨折レベルを治せる中級ポーション300SPは早い内から手に入れておきたい所だ。

 とはいっても急ぎという程じゃない。危急で考えるべきことはもう、考え尽くした。


「とりあえずの目標は…普通の暮らしが出来るようになる、356SP稼ぎながら外を探索する体制を整える!以上終わり!お腹空いたよヘル太郎〜〜」

『スローライフ満喫してますね。さっさと自炊してどうぞ』

「イェア!行くぜ!一人暮らし歴7年の底力を見せてやるよォ!!」


 私は貯蔵庫へ食材調達へと向かう。やっとスローライフらしくなってきたじゃないか。

 それなりにお腹に溜まるものが食べたい。けど調理器具も充実してないから楽に作れるものがいい。せっかく異世界転生したし和風よりは洋風。となれば…リゾットだ!

 材料をアイテムバッグに収納してキッチンへ。


「未世ちゃんの、さっと一品。今日作るのはリゾット。材料は〜…お米、ウィンナー、コーン、トマト缶、コンソメ1個、オリーブ油、塩胡椒です。まずオリーブ油を温めて具材を炒めます。軽く炒まったらお米もイン!米が透き通るまで炒めてね、ヘル太郎!」

『いちいち話しかけないでくれません?』

「つ、冷たいなぁ…。次にトマト缶とコンソメ、水を入れて煮込んじゃうよ〜。水の分量は適当でOK。すぐに米に吸われるからね!あとは水を注ぎ足しながら20分くらい煮込むだけ。味見して塩胡椒で味を調節して…あっ!卵とチーズも入れよう!!」


 急いで追加食材を取ってきて鍋にぶち込み、火が通るまで蓋をしておけばトマトリゾットの完成〜!洗い物が少ないのに豪華で量もバッチリ。一人暮らしにオススメだよ。

 器に盛り付けてリビングに戻る。うーん、お焦げが美味い!チーズが美味い!ウィンナーが美味い!

 テレビもスマホも無いのが残念だ。部屋も殺風景だし一人だし。でも、自由がある。

 大学生活を思い出すなぁ…あれもまたスローライフと言えばスローライフだった。自堕落ライフとも言う。


「さて、面倒くさい洗い物だけど…ここで例の裏技を使ってみよう」


 メニューから生産魔法の生活タブを開く。そして…『洗浄』の魔法をポチッとな。

 調理台に置いた鍋と食器を水が包み込み、一迅の風が吹いて水が消え去る。ベトベト汚れがキレイさっぱり無くなっていた!


「魔法サイコーかな!?クセになる便利さだわ〜!」


 主婦が使いたい生活魔法ランキング第一位ですわコレ。この『洗浄』で洗濯も掃除も出来るらしいからマジで便利。

『水と風の神の権能を行使、汚れを清めたまえ──洗浄』とかいう呪文を唱えてイメージして魔力を使うやり方でも使えるらしい。

 今は面倒だからメニューからボタンひと押しだけどね。その内ちゃんと魔法の勉強もしようと思う。魔法の勉強…ふひひ。


 さて、今日は色々考えて疲れたしもうお風呂に入って歯磨いて寝たいなぁ。でもデイリーミッションも出来るものはやっておきたい。

 魔法を10回使う…これは魔道具の使用でもカウントが入るみたいだから明かりをテキトーにオンオフしておこう。

 鑑定を20回…これに関しては家の中の物には使えなかったので、お風呂上がりに散歩でも行ってこようと思う。

 現地の食物を食べる……めんどくさい。散歩して何かそのままイケルのがあったら挑戦してみるか。


「おっふろ〜おっふろ〜おっふっろ〜…そう言えばヘル太郎って24時間起動してるの?」

『してませんよ。質問されてから30秒間はスタンバイモードのままですけど』

「えー、そうなんだ〜。聞いといてよかった。知らずにお風呂とかトイレとか着替えしたら大変じゃん。キャー!ヘル太郎さんのエッチー!」

『は?』

「す、すんません」


 なんだこのAI怖い……。ていうかAIなのか?やたら人間味があるけれど…まいっか。

 バスルームの棚に早速ショップで買ったお風呂セットを並べ、これまたショップで買ったパジャマと下着を用意する。

 脱いだ服は…脱衣カゴも無いのか。早いとこ生産魔法を使いこなせるようになって、諸々調達しないとなぁ。

 壁に取り付けられた薄青い石板に触れて、魔力を送り込む。天井から(シャワー)が降り注いできた。


「これ温度調節とか水量調節どうすんの?イメージか?イメージでどうにかすんのか?わーーっ!!」


 哀れバスルームはスコールに見舞われた。

 あ…シャワーカーテンも欲しいな…と、水浸しになった床を見ながら独りごちる未世でした。悲しみ。

 何とか無事にバスタイムを終え、濡れ髪のまま外へ散歩に出る。

 森の中だからか空気が美味しい。ちょっと涼しいくらいの気温もまた良きかな。今って何月なんだろ?何となく春っぽいけど。


「ヘル太郎、今って何月何日の何時何分?」

『さぁ。メニューに時間表示機能は無いので分かりません。デイリーミッションが更新されれば時刻ぐらいは分かるようにしますよ』

「そっか。日付、星の位置とかで調べられないの?」

『………マンスリーミッションが更新されれば日付表示もアップデートできます』

「分かんないのね」

『……………』


 おもむろに足元の草を引っこ抜いて鑑定してみる。『鑑定』と念じればウィンドウが出てくるのだ。

『ペルペル草 ただの雑草』………なんか悔しい気分。よし、何か良いのが出るまで片っ端から鑑定してやる!

 ブチブチと草むしりに励んでいたら、見覚えのある黄色い花を見つけた。タンポポじゃないか!鑑定!!

『ポンポポ草 食用・薬用として利用できる』………鑑定ってこんな情報しか出てこないの?レベルが低いからとか?

 何にせよ多分タンポポなんだろう。これは一応とっておこう。アイテムバッグにイン。

 その他雑草をかき集めた結果、薬になる草を2種類と生産素材になる草が3種類、食べられる植物も2種類ゲットした。豊作豊作!


「山菜とベリーか。ベリー頂きましょう」


 適当に『洗浄』を掛けて、いざ実食。見た目はラズベリーと苺の中間みたいだが味は……ふむ。味気ないがほんの少し酸味があるね。

 …野生種だしこんなモンか。デイリーミッション達成〜っと!

 もう一粒味見しながら、何気なく夜空を見上げると月が7つも見えてギョッとした。

 い、異世界だなぁ…どんだけ衛星あるのよ。

 薄っすら色のついた月?たちを見ていると写真でも撮ってSNSにアップしたくなる。

『異世界なう』ってか。ふふふ。いやぁ遠い所に来てしまった。


「これからこの世界で、何をしようかなぁ」


 ぽつりと呟いた声に混じっていたのは期待か、寂寥か。

 異世界生活一日目の夜が更けていく。


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