ショップ、希望と絶望
服も無エ、タオルも無エ、洗剤探して石鹸しか無エ、街も無エ、村も無エ、頭とお目目がぐーるぐる、服屋は無エ、店は無………いや。
「店はあるぞ!!!」
俯いて落ち込んでいた私はガバッと頭を上げて屋根から落ちそうになったのだった。
そーっとそーっと窓から室内に戻って、再びリビングへ。転がっていた梨を一口かじった。美味い。ソーダを飲んで息をつく。んまい。
……文化的生活を諦めるのはまだ早い。スローライフがサバイバルになったと落胆する前に、まずは!この!!
「ショップ!ショップ機能!お前に掛かってるぞショップ機能!!」
私が買い物できる唯一の店を調べよう!
左手をグーにして祈りながら、震える右手でショップアイコンを押す。
出てきたのは、ア○ゾン風のショップサイトだった。
ごくりと唾を呑む。見つめるのはカテゴリ欄だ。おぉ…本、コミック、雑誌、ゲーム…ゲーム!?か…家電、食品、お酒、ドラッグストア・ビューティー!よしよし!服・シューズ・バッグ!!あるじゃん!服あるじゃん!
神は私を見捨ててなかった!やった!
ポチポチと服のカテゴリをタップしてラインナップを確認する。デザインのバリエーションはあまり無かったが、着る物は充分確保できそうだった。
今着てるのに似たワンピースを見つける。お値段は…30SP!
今たしか500SP持ってたから全然買える!やったー!!
嬉しさに衝動買いしかけて、手を止める。
「待って…今、一番に買うべきは服じゃない…。そもそも500SPあるけどSPって…どうやって手に入れるの?」
まさかこの500SPしか与えられないってことは無いだろう。こういうのでお決まりなのは…クエスト報酬!
クエストではないけど、確かメニューにミッションとアチーブメントがあったはずだ。後者は私がリクエストしたヤツですね。
ミッションの方がそれっぽいからそっちを先に見よう!
「なになに…デイリーミッションと初級ミッションとマンスリーミッションがあるのか…」
デイリーミッションは、『魔法を10回使う』『鑑定を20回使う』『現地の食物を食べる』の3つがあり、達成すれば各5SP貰えると書いてあった。
やっぱり“こういう系”だったか!デイリーでこれだけ手に入るなら安心できそうだ。
しかし、なんだかソシャゲかネトゲやってるみたいで異世界みが薄れるというか。ある意味テンプレだけどね。
初級ミッションもSP1〜30まで選り取りみどりだ。あ〜杞憂杞憂っと。
「マンスリーの方は…ん?」
『オーガリーダーを撃退する 50SP』…ってなんですかね?このミッションだけ他と毛色が違うような気が…。
だって撃退って、攻撃してくるのを退けるから撃退なんですぞ。オーガリーダー襲ってくんの?ていうかリーダーってことは子分が居るの??
しばし無言で考えた結果、私は目を逸らしてウィンドウをそっ閉じすることにした。
「さ、さーて次はアチーブメント機能を見てみようかな!おっと、こっちでもSPが貰えるみたいだ、やったねミヨちゃん!」
ごまんと条件が用意してあるらしい。スクロールバーが長いぜ!!
『すべて』のタブの一番上の条件が達成済みになっていた。
『Hello,World! 500SP』とのこと。なるほど、500SPの源はコイツだったか。多分、異世界転生した記念アチーブメントだろう。
タイトルが捻ってあるのもイイ。達成する楽しみが増すというものだ。
色々見てみたが、達成難度に応じてSPが割り振られているらしい。全体数がとんでもなく多いから簡単なのを熟すだけでもSPには困らなそう。
「やーっと肩の荷が降りた気分だよ…。やっぱり異世界転生スローライフはサクサク楽々でなくちゃ、やってらんないよねぇ」
梨をシャクシャクしながら改めてショップを開く。とりあえず、最低限の生活用品だけでもゲットしよう。
ご飯、風呂、歯磨き、睡眠。最低限それが出来れば快適な生活は成り立つのだ。ご飯は良いとして…シャンプーとコンディショナーは欲しい。いや、ここは節約してリンプーにするべきだろうか。2SP…安い、買った!
「…ん?何も出てこないけど!?」
詐欺か!?と焦ったが、モノは『アイテムバッグ』の中に収まっていた。瓶のアイコンをタップするとテーブル上にゴトリと現れる。
買えてる買えてる!じゃあボディタオルと歯ブラシと歯磨き粉も追加で…。洗顔料と泡立てネットも欲しいなぁ。あと化粧水と乳液も………いやちょっと待てよ。
「……現状、買い物はこのショップでしか出来ない。そして、収入源はミッションとアチーブメントのみ……」
既にお風呂セットだけで11SPを使用している。化粧水と乳液は合わせて10SPかかるらしい。どうも100円=1SPのレートで価格が設定されている。
今みたいな生活用品を買うだけならデイリーミッションを熟す程度で収支は合うだろう。ならば良し、と考えを放棄してもいい…。
だが。例えば1000SPの何かが緊急で必要となった時、貯蓄が無かったら?
ミッションもアチーブメントもすぐ熟せるとは限らない。むしろ時間がかかるだろう。
私は商品カテゴリの最下層…『アイテム』の文字をタップする。
「低級ポーション…300SP……!!」
予感が当たってしまった。アイテムカテゴリにはマジックアイテム系統の品が並んでいたが、どれも3、4桁台の値がついている。一番高いのは10万SP、万病薬……。
心配してもしょうがないけど、私はこれから何十年…いや、エルフだし何百年…?そんな長い時間を一人で生きなきゃいけない可能性すらあるのだ。
怪我しても病気になっても医者には罹れない。大怪我したら、この高級ポーション5700SPを使うことになるだろう。変な病気になったら診断も出来ないから、百病薬700SPや千病薬8000SPを片っ端から買って使うハメになるはずだ……。
「だ、ダメだ…考えがどんどん悪い方向に流れていってしまう…」
異世界転生してこんな小難しいネガティブを拗らせる主人公、私くらいじゃないか?
異世界に来てまで懐事情に頭を悩ませることになるなんて…くそぅくそぅ!
こういうのは頭の中で不安だけを膨らませるからいけないんだ。私が今やるべき事は…。
「文房具セット5SP、自由帳1SP、購入!電卓5SP、購入!!」
バサッと買ったものを机に並べた。こういう時は、書いてまとめるに限る!!
まずは生活費と日用品にかかる諸経費の計算、そして最低限のポーション代、市場チェック!アチーブメントで得られるSPの総金額を調査!!
私は猛然と電卓を叩き鉛筆を走らせ始める。
スローライフとは一体なんだったのか。