思うままに、転生
私の名前は未世。働く25歳、人生これからというのに生きるのに疲れた系どこにでも居る部所属のしがない女だ。
トラックに轢かれる寸前のネコチャンを守って死んだら異世界転生することになった。
「はい、えー死人番号2375920さんね。君はこれからどうしたいの?どんな生き方したい?」
「えっと…せ、専業主婦とか」
「せんぎょうしゅふゥ?あのねぇ、ダメだよそんなんじゃ。もっとね、夢持たなきゃ。夢!ここどこだと思ってんの?異世界転生局だよ!?」
そんなこと言われても。ていうか死んでまでこんな、クソ上司の権化みたいな奴にクドクド言われなきゃいけないとか。ロマンも消し飛ぶんですけど…。
目の前の強面親父が私の来世を握ってるかと思うと嫌気でゾワゾワしてしまう。
「こっちも仕事だからさ、ほらさっさと決めて。何やかんやキミ徳積んでるから、色々できちゃうから。何でも言ってみてよ」
「………………ほんとに何でもいいんですか」
「いいよぉ、オレもいろーんな転生者見てきてるからね。チートにハーレム俺TUEE、何でもござれさ。叶えてやるよ」
「土地と家が欲しいです。あとペット。可愛くてモフモフの。人里離れたスローライフできるところで、誰にも邪魔されずに、のんびり物作りでもしながら自由気ままに生きたいんです。可能ですか?」
「ははぁ。スローライフ志望者ね…分かるよぉ。キミみたいなの最近多いんだよね…」
「健康な身体と精神を保ったまま長生きしたいんですけどそれも出来るんですか?異世界っていうなら魔法も使いたいし、あっ物作りしたいから生産魔法とかそういうの良いですねそれと飽きないようにアチーブメント機能とかつけて定番のステータス参照とか鑑定とか言語翻訳とかも欲しいし。家は5LDKくらい欲しいかな広めの庭つきで、周りに色んな植物生えてて材料調達とかしやすい感じで、ペットもいっぱい居て私に懐いてて、それで適当に楽しんだら何か良い男が現れて結婚する流れにして欲しいです」
「……お、思ったより具体的に来たね。ちょっと待ってて下さいね、ハイハイ…」
強面親父が何やら書類にチェックを入れていく。私の要望を検討しているらしい。
どのくらい無茶苦茶言っていいか分からなかったから、理想を垂れ流しにしてしまったが…ちょっと恥ずかしくなってきた。
というか結局行き着く先が専業主婦だし。
働きたくない、旦那欲しい、自由な時間が欲しい。女なんて大体そんなモンだ。実際楽で幸せだもの。
「えー…と。異世界転生基本能力パック、生産魔法チート付き、エルフコース、5LDK家付き土地セット、動植物多めの地域希望っと…ラノンサス転生が一番良さそうなんでそこでいいですか?」
「…転生した途端死んだり捕まったりしませんか?」
「あー大丈夫大丈夫、人里離れた安全な所だから」
「危険な生物とか居るんですか」
「まぁ居るけど…戦闘系チートもつけとく?」
「………家の周りに永久的な防御結界を張るとか出来れば、それでいいです」
「マンガチックなこと言うねぇ。まぁ出来るけどさ。他に質問は?」
「1年分くらいの飲食物と快適なライフラインもお願いします。あと良い男はどうなるんですか」
「あー、あー……そうね。ハイハイ。ったくメンドクセェなぁ…お家に食料貯蔵庫と魔道具各種も追加ね。良い男は……ハーレム因子くっつけとくから、それで頑張って」
「……分かりました。それじゃあ、それで」
色々言ってみるものだ。もっと細かく聞きたいことがあったけど、男の声色が明らかに投げやりになってきたのでこれくらいにしておく事にする。
ふいにされては堪ったモンじゃない。
「ハイ、決定ね!ここにサインして。色々と説明書もつけとくよ。転生後のクレームや要望は聞けないからそのつもりでね」
「はい。お世話になりました」
「良い異世界生活を」
書類にサインしたと同時、意識がフェードアウトする─────
そして目が覚めると知らない天井が視界いっぱいに広がっていた。
どうやらベッドに寝転がっているらしい。ボヨンボヨンと身体を上下させる。スプリングがしっかり効いている。布団はどうやら羽毛布団らしい。
抗いがたい睡眠欲を退け、私は起き上がる。ベッド以外は何にもないような部屋だった。外国の古いアパルトメントみたいな木造仕立てだ。
ふと金色のキラキラしたものが目に留まり、つまみあげる。それは髪だった。なんと。私は金髪になっているらしい。
そういえばエルフコースとか言ってたな、と思い耳を触ってみると横長に伸びているらしかった。肌もどことなく白い。ふむふむ。
手足を眺めると、どことなく元の私の身体に造作は似ているがちょっとスラッと華奢になっているように思う。これがエルフ補正か。凄いぞエルフ。
見るものも無くなったので立ち上がってドアの向こうを確認することにした。窓の外も気になるけど、まぁまずは家からだ。
ドアを開ければ短い廊下と2つのドア。開けると10畳と6畳くらいの空き部屋があった。ここは2階らしく、下へと続く階段があったので降りてみる。
濃い茶色のフローリングに漆喰塗りの壁。降りた先はLDK部分に繋がっていて、ガランとしたLDと2列型のキッチンスペースがあった。キッチンは魔道具らしき設備で構成されていて、パッと見では何がなんだか。
ダイニングには簡素な木のテーブルセットがあるばかりだった。その上に何冊かの本と紙切れが1枚乗っているが、それは後回しだ。
ガランとした部屋を見渡して、次は玄関に繋がるだろう両開きの扉に手を掛ける。
やはりその先は玄関ポーチへと繋がっていて、他にも3つ扉があった。空き部屋が2つとバストイレに続く扉だった。
洗面所は何の装飾もない鏡と魔道具らしき蛇口、ブロンズ色の洗面ボウル。
トイレは便器があるだけ。……なんか空洞になってて、穴の底に変なスライム?が居た。
そしてお風呂。外国式の、シャワーと猫足バスタブがあるタイプだった。レトロなのがまた良い。
うむうむと頷き、満足して玄関から外に出る。ちょっとドキドキしながら。
外に広がるのは一面の森、森、森。家の周りだけは少し開けてるけど後は全部森!!
すぅっと息を吸い込めば、草木の薫りが身体いっぱいに染み渡る。
「わたしは自由だぁぁあーーーーーっっ!」
開放感に満たされた私はただ叫んだ。
ちなみに後になって知ることになるのだが、ここはベルドネッセ大陸極東、魔族占領地付近、誰も立ち入らない辺境の地。
俗に言う魔境というやつのすぐ側だった。