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アルシオ  作者: ねぎ
1/5

1. 赤い竜


その昔、赤い竜に私は訊いた。

「何故、空を飛んではいけないのか」と。

竜は答えた。

「見つかってしまうから、いけないのだ」


「何故、見つかってはいけないのか」

と、私が訊くと

「争いを招いてしまうからだ」

と、竜は答えた。


私はさらに訊く。

「何故、争ってはいけないのか」

竜は答える。

「我らは強いが、我らは少ない。

 (しゅ)を絶やしてはいけない。

 それが一族に伝わる、掟なのだ」



私は訊いた。

「では何故、翼があるのか」と。

竜はとても、誇らしげに答えた。

「それは『竜』であるからだ」



私には、判らなかった。


竜が為に翼はあり、

竜が為に空を飛べぬ。

それは、意味のあることなのか。

飛べぬのならば、翼など必要ない。

飛ばぬのならば、竜である必要がない。

それは、意味のあることなのか。



私は、赤い竜に訊いた。

「竜とは、なんの為にあるのか」と。


竜は答えなかった。

「お前は、危険だ」と、私を雪の洞窟に閉じ込めた。

何が危険なのかと訊く間もなく、竜は何処かへ去ってしまった。


翌日、竜は洞窟の前に来て、私に言った。


「この赤い毛並みは、寒さに耐える為にある。

 この硬い皮膚は、身を守る為にある。

 この柔らかな角は、気配を探る為にある。

 この長い尻尾は、均衡を保つ為にある。

 この熱い吐息は、外敵を滅ぼす為にある。

 この大きな翼は、竜であるが為にある。

 だから我らは、それを誇りに思うのだ。

 竜がなんの為にあるかなど、

 世界が何故あるのかと訊くに等しい。

 世界に疑問を抱くなど、愚かなことはお止めなさい」


私が「否」と答えると、それを聞いた竜は、

赤い瞳に怒り宿し、また何処かに去っていった。



その繰り返しが幾日か過ぎ、ある朝竜は姿を見せなくなった。

2日待っても来る気配はなく。

私は、洞窟の外へ出た。

入口にある縛めなど、いつでも解くことはできたのだ。

外にあっても、洞窟にあっても、私の存在は変わらない。

だから、外へ出る必要を感じなかっただけのこと。

私は、世界に興味はなかった。

私は、私であればそれで良かった。

私はただ、『竜』という存在の意味が、知りたかった。



しかしそこに、赤い竜はいなかった。

いつも隠れる洞窟にも、白く染まった森の中にも、

凍ることのない小川にも。


雪原に足跡の一つも残さず、赤い竜と赤い竜の子供たち、

そして、赤い竜の一族すべてが、何処にもいなかった。

冷たい風の吹く、灰色の空を見上げても、

赤い竜の姿は、何処にもなかった。



私は、竜を探さなかった。

探そうとも、思わなかった。

それはとても面倒で、無駄なことだと判ったから。

あの赤い竜にはもう、私の望む答えを解くことは叶わないのだ。

あの赤い竜の中には、初めから答えなどなかったのだ。




それから幾度か、竜に出会った。

緑の竜や、黄色い竜。

それらの竜は、決まって私に怒りをぶつけた。

「裏切り者」と。


私は出会う竜たちに、訊いた。

「竜とは、なんの為にあるのか」と。

しかし竜たちは皆、答えなかった。

私を罵り、私に挑み、私の強さに消えていった。



どの竜の中にも、初めから答えなどないかのように。

飛ぼうとしない翼を掲げ、誇りと共に私を追った。


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