百合アニメの壁になりたかった男
俺の名前は芳一。初詣で「百合アニメの壁になりたいです。」ってお願いしたら次の日、体中にペンで壁になりたいアニメの名前を書いたらそのアニメの壁になることができるようになったぜ!
今回訪れるアニメは『どうして私が勉強なんか!』だ!
このアニメは内気でおとなしい藍ちゃんとギャルである茜ちゃんの友情、いや愛情を書いた素晴らしい作品だ。今期の俺的尊さランク堂々のナンバーワンだぜ!
「そう、そこでこの式を立てるの。それでこうして…」
む、こうしているうちに百合がはしまったぞ。男は黙って見守るべしだ。
「ちょっ、近い、近いって。それに胸、肩に当たってる」
茜は顔を真っ赤にして言った。藍は座っている茜に覆いかぶさる形の体勢になっており、茜の右肩に大きなむねが乗っている。さらに藍はペンを握る茜の右手をその上からつかみ、その手を介護するように動かして問題の解き方を教えている。
「こんなんじゃ集中できないじゃん!」
茜が騒ぐ。すると藍は茜の手から右手を外し、ふんわりとカールした茜の髪を耳にかけ、そして息を吹きかけるように耳元でささやいた。
「暗記するときはね、ニオイとか音楽とかそういうほかのことと関連して覚えると忘れにくいの。」
ッッッッッッッ。来てしまったよ。来ましたよこれ。そうなんですよ。これなんですよ。まず、藍ちゃんはみんなの前ではおどおどしているんだけど、幼馴染の茜ちゃんにはあたりが強くなっちゃうんだな。そして普段誰とでも乗りよくしゃべる茜ちゃんが一方的にペースを握られる。この構図ですよ。
そして、見ましたか?藍ちゃんが茜ちゃんの耳に髪の毛をかけるシーン。些細なシーンだけどそこがいいんだよ。これがあるのとないのでは全く違うね。こういうのは女の子同士でしかわからないんですよ。しかもそのしぐさの色っぽさたるや。この世のに存在する言語だけではとても語りつくせぬもので……
「おい、そこの教室に茜いるか見に行こうぜ!藍が勉強教えてるらしいな。」
「あーね。じゃあかえり誘ってこうぜ。帰り一緒にカラオケ誘っちゃったりしてぇ!」
廊下から野郎の話声が聞こえた。
てめぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!邪魔をするなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!百合の間に男が入ってくるんじゃねぇ!てめぇらは俺の目が黒い限りは絶対にこの部屋に入れんぞ。ドアの鍵をロックだ!ウジ虫なんぞ入れんわ!ボゲが!
ガチャガチャ
とびらは開かない。
「鍵かかってたわ。」
「いないんか。しゃあねぇ帰るか。帰りにゲーセンよってこうぜー」
「おう、そうすっか。」
帰れボゲが!壁に耳あり障子に目ありじゃ!貴様らが来たことはすぐに察知して部屋に入らせねぇからな!貴様らごときがこの美しき世界に近づけると思うなよ!
そうこうしているうちに二人の位置が変わっている。先ほどとは打って変わって藍は茜の正面に向かって座っている。茜はぶつくさ独り言を言いながら問題を解いている。
「藍!ここどうやって解くんだっけ!」
茜はノートをにらみながら藍に尋ねる。
「藍!藍?ちょっと、聞いてる?」
藍は両手で頬杖をついてその様子をほほえましそうに茜を眺めている。そして茜はその姿を見て少しぎょっとしている。
「藍?藍さん?」
「ふふっ、困った茜かわいい。」
ぐあああああああああああああああ。なんて素晴らしいんだ。ここは天国か?ここが天国でなければほかに天国は存在するのだろうか?さっきみたいにしっとりした百合もかなりキテルがこっちも好きだなぁ!俺は!そこには確かな純愛があるのを感じますよ。少し引き気味の茜にぐいぐい押していく藍がたまらん!しかもバリバリの陽キャ属性持ちの茜が押されているのがやっぱりいい。普段は人を押す側だからそのギャップが最高に生えるってわけ。これがもうたまりませんわ。
カツカツカツと廊下から誰かがくる音が聞こえる。
「全く、茜君ときたら、生徒指導室に来なさいというのにどこにいるのかね!」
てめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!この野郎!次は教頭だ!百合の間におっさんはお前ありえんだろ!しかも小太り中年だ!お前場合によっては逮捕もんだぞ!絶対に通さん!ガードだ!鍵をかけろ!
「んん?あかないな。ならば鍵を使おう。他の生徒の報告でここにいるとわかっているんだ。」
まずいぞ!教師だから鍵を持ってこられる!ええい、こうなったらこうだ!
ピンポンパンポーン!教頭先生。教頭先生。御来客がじきお見えですので職員室にお戻りください。
「んん、そうか今行く。」
よし、一生来ない客を応接室で待っていやがれ。神聖な花園だぞ。汚物で汚すんじゃねぇ。
ずずずっ
間髪入れずに来やがった。今度は何だ?この波ができてゆくような音は。
同じ階の遠くの廊下に三角形の物体が立っており、スムーズにその物体は近づいてくる。あれは紛れもなくサメの背びれだ。
何だと!?あの背びれはッ!サメだッ!サメが来やがった!どうしてサメが!?そうか!アニメではこの部屋とほかの教室以外描写されたことがない。いわばここはアニメの外側。想像の世界だから何があってもおかしくないということか!
くそ!こうなったらほかのもんで何とかするしかない!しかしどうすれば?
そこに男女二人が百合の教室の隣に入っていこうとしたのが見えた。
「待たせたね。幸子部活が遅くなっちゃって。」
「遅いよ雄太!もう、ほかの子に帰るの遅いの変って怪しまれたんだから」
「ごめんな。これがお詫びの印だよ。」
雄太は幸子のおでこにキスをした。幸子は顔を真っ赤にしてうつむく。
「バカ。」
クソ!こっちはこっちでやばい!どうすんだ!隣の教室に聞こえたら!いやそれはそれでよさげなシチュエーションに……
一瞬の思考の隙にカップルは扉に手をかけ、サメは近づいてくる。
そうだ!これでいいんだッ!
ガチャガチャ。扉が開かない。
「アレ?金曜日は毎日空いてるはずなのに。どうしてだろう。」
「うーんしょうがないか。じゃあゲーセン行こう。この前取ってほしがってたぬいぐるみ取ってあげるよ。」
「やったー!雄太大好き!」
カップルは階段を下りて行った。そしてそれに合わせて尾びれも階段のほうにスーッと移動していった。
サメの大好物はバカップル。これでリア充も自爆してサメも追っ払って一石二鳥だぜ!あとお前ナンパするチャラ男も好物だろ。一緒に食ってこい。
とにかく、神の芸術をB級以下に変えようとするな!カップルどもも男の人は男の人で、女の子は女の子どうしで恋愛すればいいんだよ。そういう世界だろうがよ、ここは。貴様らはこの女神が戯れる神聖な世界にいらんのだ!
しかし、何とかなったがこれ以上のものが来たらやばいぞ。俺は壁だ。できることは限られている。
ドシン、ドシン。
地面が揺れる。今度は何だ?カップルが降りていったほうとは逆の階段を見ると3メートルはある巨体で腰みのを巻いた皮膚がごつごつした豚鼻の大男がいた。おいおいおいおい。お前はダメだろ!もうすでにだいぶあれだがR18にする気か!抜きゲーでも同人誌でもなくてこれは放映されてる百合アニメが舞台なんだぞ!これはダメだろ!
「ぐおおおおお」
オークはこん棒を振り上げ、勢いそのまま壁に打ち付ける。
うぐっ
重い一撃だ。
ドーン
さらにもう一発。意識が飛びそうだ。目がちかちかする。さすがにこれには耐えられない。壁もひびが入り始めた。
もうだめかッ。
その時部屋の中から声が聞こえてきた
「一緒の大学に行きたいの。分かれちゃうなんて我慢できない。あなたがきてくれないと私…」
それからかすれた小さい声でまじみは言った。
「いやなの。」
藍は茜の胸で肩を小さくしている。それを茜がぎゅっと抱きしめて言った。
「藍の気持ちちゃんと伝わったよ。藍の気持ち、今から当ててあげよっか。」
藍は茜の胸に顔をうずめたまま返事をする。そのせいか声がくぐもっている。
「ダメ。」
それを見て茜はいたずらに笑って言い返す。
「こっちこそダメ。藍の気持ち当てるからしっかり聞いてて。さっきのお返し」
茜は藍を抱いたまま藍の耳に顔を近づける。そして茜がやられたように、ストレートで短い髪を藍の耳にかけた。
こんなの見て力が出ない男がいるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!
俺よ!耐えろ!血が出ようと、痛みで精神が壊れようと、俺は壁としてお前の前に立ちふさがり続けるッ!俺の体は砕けはしない!お前に百合は壊させない!
ここで、くたばってたまるかああああああああああ!!!!!!!!!!!俺がこの女神たちをまもるんだあああああああああああ!!!!!!!!
それから何度も攻撃を耐えた。息が上がったオークは壁は壊せないと観念したらしく大きな足音をあげながらこの場を去っていった。
勝った。守り切った。これで百合を近づけるものはいない。これで百合をようやく堪能できる。女神たちの楽園を堪能できる!
「藍、お前私のコネ使ってエリート大学生の男作りたいだけっしょ!」
藍は茜から外れていたずらっぽく舌を出して言う。
「だって、あんたすぐ男と知り合いになるじゃん。合コンも誘ってくれるし。」
「まあそうだけど。」
茜はスマホの液晶を見ながら言った。
「ん?は?今日金曜日っしょ。なんで雄太からライン来てんの?19時から?はやっ!もう一時間しかないじゃん!コンビに寄らなきゃだし、あーし帰るわ!」
そういって茜は教室をダッシュで出ていった。
「げ、この前のおじさんからのライン気持ちわるっ。でも金欲しいから適当に返しとこ。」
藍はスマホを見て悪態をついたのち、部屋の電気を切って帰っていった。
真っ暗の中壁の俺だけが残された。
ッスーーーーーーーッ。
よし!ほかのアニメいこう!
触らぬ神に祟りなしである。
長編の小説も投稿しているので興味があったら覗いていってください。
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