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愛してるぜハニー

作者: ころ

だから言ってたろ?

「ヒューーーー!最っっっ高だぜ!!愛してる!」

「分かったから!早くトドメ刺せよ。」

抱き着いてくる横のバディを一蹴し、けしかける。

ったく、放たれた火魔法を少し風魔法で援助して大火炎にしただけなのに大袈裟な。


「オレの相棒は本当にクールだなぁ!もっと燃えてこーぜ?」

「余計なエネルギーは使わない主義だ。」


今日も無事に依頼を達成し、帰途へとつく。

目的物は回収出来たし、まぁまぁの稼ぎになるな。これで暫くは食っていける。


「じゃあなヒート。私は先に帰る。ギルドへの持ち込みは任せていいか?」

「つれねーなレイン!飲んで行かねぇのかよ?打ち上げしよーぜ。」

「悪いな、今日は早く帰りたいんだ。今日の報酬はまた次の機会か振込んでくれると助かる。」

「まーた店に籠るのかよ〜。魔道具開発してるお前も輝いてるけどさぁ…また寂しくソロ活動かぁ。」

「お前は引く手数多だろ?ありがたいけどさ、偶にはこんな引きこもりじゃなくて華のある奴らと組んでみろよ。」

「っかー!分かってねぇな!俺は!!お前だから良いの!」


愛してるって何回言や良いんだ!と喚いてるが、それはこっちのセリフだ。

私だってお前が良いさ。

S級ランカーは基本的にこんなにフランクに接してくれないし、材料集めの為の依頼なんて受けない。

お前はもっと上に立つ男なんだよ、ヒート。

口には出さないが、なんの縁か最初に組んでくれた時から思っている事だ。

孤高のS級はそろそろ果てしなく続く大地に返さないと行けない。

…こちらとしてももう時間が無いから。


「じゃあな。また次の時に声をかける。森の木こり亭に居るよな?動けるようになったらまた向かう。」

「おう!2、3日遠方依頼に出てるかもしれねぇが、5日後には必ず帰ってくる。魔道具開発頑張れよ。」


ニッと爽やかな笑顔に拳を上げて応える。

本当にいい男だよお前は。




「ただいまー。」

「おかえりお姉ちゃん!今日も炎獅子様と一緒だったんでしょ?どうだった?」

「はしたないよクラウディ。どうもこうも…いつも通り依頼をこなしただけだよ。」

「なぁんだ、つまんない。そろそろ抱き着くぐらいしてきたら良いのに!」


いや、つまんないって言われてもな…。

色恋に夢見る妹のクラウディは、毎回炎獅子様ことヒートと仕事をしてくる度に話をせがんでくる。

ヒートは高ランク冒険者に加えて見目も良く、

更には気前も良いので若い女の子達の注目の的だ。例にも漏れずうちの妹も。

こうしてみると恐ろしい男だな本当に。


「クラウディ!何言ってんだよ!レイニー姉さんは『男』として活動してるんだから、何かあったら困るだろ。…今日もありがとう。素材取ってきてくれたんでしょ?良いんだよ、もう無理しなくて。」

「サニー、ありがとう。サニーの作ってくれた魔道具がよく働いてくれてるからね。今回もバレずに事なきを得たよ。流石の腕だ。」

「姉さん…。でももうそろそろ限界だよ。うちも姉さんのお陰で軌道に乗ったんだ。そろそろ好きに生きてもいいんだよ。」


サニーは私の弟で、身体は母似で弱いが昔から魔道具の開発に才があった。母がクラウディを産んだ時に亡くなり、魔道具師の父が4年前に病で亡くなってから、この2人を育てるために私はレイニーからレインと名を変え冒険者となった。

魔道具開発の才はからきしだったが、私には幸いにも魔導士の才があった。その才を生かし冒険者を始めたとき、女の身では何かと危険だとこの優秀な弟が作ってくれたのが『誤認の護り』だ。


効果は本当に微々たるもので、実際には存在しなかったものを「あれ、ここにあったかな」ぐらいに認識を歪めることが出来る。これを生かして肩や腰や胸など、女性的なラインが出るところは詰め物をしたり、サラシで補正した上で『護り』の効果を付けている。

だが、直接的に触られたり見られたりすると『誤認』は解けてしまうというカラクリだ。

そして20になった今、『誤認』も限界に近づきつつある。


…だから今日の様に肩を組まれたり、密接な関係になってしまうと大変危険なのである


「あぁ、分かってる。そろそろ誤魔化せなくなってきてるから。次を最後に冒険者は辞めようと思う。」

優秀な弟と気立ての良い妹のサポートに回るよと心配そうな顔をする弟の頭を撫でてやる。

ずーるーいー!とそこにクラウディが突撃してくる。2人とも大きくなったし、私もそろそろ腹を括らねば。




「おー!レイン!!会いたかったぜ!」


ほら見ろよ、北の大陸産ドラゴンの鱗だぜと

まるで幼い少年のような笑顔で見せてくる


「また大冒険してきたんだな?土産話、聞かせてくれよ。」

「あぁ!今日の夜にでもどうだ?飲みながらゆっくり話そうぜ。」

「…今日か。分かった、こっちも話したいことがあるんだ。後で店だけ決めよう。」

「オイマジかよ!殆ど酒なんて付き合ってくれないのにどうしたんだよ!楽しみだな、さっさと依頼終わらせてこようぜ!」

「喜びすぎだろまったく。優先順位が変わってるぞ?仕事を疎かにするやつとは酒を酌み交わせないな。」

「言葉の綾じゃねぇかよー!さぁ今日もぶちかますぜ相棒?」


軽く拳を合わせて、本日の任務地へ転移する

あぁ…終わらなきゃいいのに。

初めてそんな身勝手なことを思ってしまった



「っくそ、数が多いな!頼めるかハニー!」

「誰だよハニー!全く、しくじったら凍らせるからなダーリン!」

「そう来なくっちゃな!頼りにしてるぜ!!」


3.2.1…合図と同時に大地を一気に凍らせる

大多数は不動化出来たタイミングで一陣の風が吹き抜けていった

後に残ったのは首を落とされたモンスターの亡骸のみ


「タイミング完璧!流石だぜ。」

俺の相棒愛してるー!と肩を抱いてくるのを躱しながら、素材を回収する


終わってしまったな。

こうしてヒートと連携を取るのは嫌いじゃなかったんだけど…まぁ本人には絶対言わないが。

終わってみると惜しくなるもんだとしんみりしながら帰り支度を始める


「…レイン、お前なんかあった?ハニーが嫌だったか?」

「今更何言ってんだダーリン?違うよ、大丈夫。さぁ打ち上げに向かうぞ。今日はお前の奢りな?」

「うぇえ?!レインが俺を頼ったの初めてじゃねぇ!?なんだよもー!全部好きなもん頼めよ!!」

「いやヒート、そこは嫌な顔しろよ。人が良すぎるんだよ心配になる。」


たわいもない会話をしながら店へ向かう

さぁ、今日の正念場だ。やっぱり緊張するもんだね。


「さー!何飲む?レインってエール苦手だったよな?果実酒でいいか?」

「あぁ、それで良い。ありがとう、ヒート。」

「こんくらい気にすんな!じゃあ今日もお疲れ様!」

カチンとグラスをぶつけ合う

乾杯か、随分久しぶりだな


「ぷはぁー!レインに付き合ってもらうと更に酒が美味いな!1人とは大違いだぜ。」

「大袈裟な。…ヒートなら誘えばその辺の綺麗なおねーさん引っ掛け放題だろ?楽しく飲めそうじゃないか。」


現に今もチラチラと視線が送られてくる

ヒートは圧倒的に華がある存在だ、見てしまうのも分かる


「んあ〜まぁそうだけどさ。でも俺は気に入ったやつとしか飲みたくねぇし、そうじゃないなら1人で良い。」

「えらくバッサリいったな。泣いてる女の子多いぞ?お前、人気あるんだからさ。」

「有象無象に気に入られてもな。…お前は泣いてくれないだろ?本命に届かなきゃ意味がねぇんだわ。」

「ん?すまない、最後が聞き取れなかった。」

「いや、独り言だ。気にすんな。」


たわいもない会話をしながら杯を重ねていくある程度酒も回ってきたところで、今日の本題を切り出す


「あの…さ、ヒート。朝言ってた話なんだけど。」

「そうだ。何か言いたいことがあるんだよな?」

「あぁ、それなんだけどさ…」


ぐっと言葉に詰まる

今までの記憶がぶわっと蘇ってくる

ヒートには散々世話になった

憎まれ口しか叩いて来なかったけど、本当に感謝しているから伝えて終わりにしないと


「私…さ。今回で冒険者を辞めようと思うんだ。」

「…そうか。」

おや、想定外。

非常に落ち着いている上に思った反応と違うな…割と覚悟して話切り出したつもりだったんだけども。

何か?唯一の相棒だと思ってたのはこっちだけだったのか。うん、凹む。


高速で脳を動かしていると、ゆっくりヒートが席から立ち上がった


「ど、どこ行くんだよ?もうお開きか?」

見切りを付けられたのだろうか

そうか、だってもう一緒に活動出来ない

次のバディを探しに行く必要もあるだろう

今までの付き合いでヒートと積み重ねてきたものが酷く脆いものに感じた


「あぁ、そうと決まれば早く行動するに越したことはないからな!」

こんなにすぐに断ち切れるものだったのか私とお前は。…なんだか腹が立ってきた。


「っおい!少しぐらい惜しんでくれてもいいんじゃないか?!短くはない時間を共に過ごしてきたんだ、達者でなの一言ぐらいあってもいいだろう。」


余りにもあっさり立ち去ろうとするので思わず胸ぐらまで掴んでしまった

しまった、ヒートに接触してしまった!


カッとなった熱が急速に冷める

だけど冷静になったところでふと思う

いや、少しぐらい構いやしないか?これでもう最後だ、いっそ記念に1発殴っておくか


私のへなちょこな拳など、この男にとっちゃどうってことないだろうと拳を握り「歯ぁ食いしばれ」と振りかぶったところで


「強請るならそこは口開けてくれだろ?全くうちのハニーは素直じゃないぜ。」


気付いた時には口と口が接触していた


「…は?ちょ、うむ…んん!!!」

ぷはっと息が限界に達したところで解放された


「おま、は?何してんだ!!」

「ん?愛の確認じゃねーか。」

さぁて、行くか!と手を取られる


こうなるともう訳が分からない

先程まで唯一の相棒だと思っていた男に

冒険者引退を伝えたら?突然口付けられて?

何処かに向かうと??


「全くもってお前の言動が理解出来ない、ヒート。もうお前とは解散だって私は言ったんだ。愛の確認とかふざけてんのか!」


「真っ赤なかわいー顔してそんな怒んなよ。この場で襲うぞ?冒険者時代はツーカーだったのに、今はこんなに伝わらないんだな!」

もっと伝えていかねぇとなと爽やかな顔して発言しているが、何か物騒な発言が聞こえた気がする


「…色々と言いたいことはあるが。いや、言いたいことしかないが。とりあえず何処に向かってるんだ。」

「んなもん決まってんじゃねぇか。お前の家だよ!」

「決まってねぇよ何言ってんだバカ!何でそうなるんだ?!だから解散だって言ってるだろ!」

「冒険者辞めるんだろ?ならもう遠慮することねぇじゃねぇか。やっと女として生きていくってことだろ、待ってた俺健気じゃね?まずは家族に挨拶しなきゃな!」

「はぁ?!!挨拶ってなんのだよ!もうどこから突っ込んで良いのか分からない…。」

「お前を嫁にくれって挨拶だよ。こういうのは筋を通さなきゃな!レインが家族を大事にしてるのは知ってるし。女だてらに家支えてきたんだろ?惚れるしかねぇって。」

「勘弁してくれ、もう着いていけない…。ん?ヒート、お前、私が女だって、最初から気付いて…?」

「当たり前だろ?こんな良い女見抜けねぇ訳ねぇって。」

「『誤認の護り』はちゃんと効果を発揮してたし、接触も気を付けてきた!どこで!いつ!」

「バレてねぇと思ってたのか?そういう所も可愛いな。誤認ってのは認識が曖昧な時点で使わなきゃ意味がねぇ。俺は最初に会った時からお前が女だって『確信』してたからな!ハナから効果はねぇよ。」


嘘でしょ…私の努力は一体…


「まぁ、俺もお前を女だって分かった上でバディ組んで愛の言葉を伝えてきたつもりだったんだが…その分だと伝わってなかったか。残念だけどよ、その分これから伝えていくしかねぇな!」

「いやいや、どこが愛の言葉なんだ。聞いたことも無い。夢と混同してるんじゃないか?」

「おいおい、ガチでショックだぜそれ。

ずっと言ってきたろ?『愛してるぜ』って!」


聞いた瞬間ありとあらゆる記憶が脳を駆け巡る

あれは私を女として言ってきてたのか…


「伝わるわけないだろダーーーリン!!」

今日1番の氷魔法が発揮された瞬間であった


浮かれたヒートに連れられて家へ帰ったら

噂の炎獅子に発狂した妹と

事の顛末を知って魔道具師を辞めると落ち込んだ弟をフォローする羽目になったんだが

全部このダーリンのせいである


責任取って欲しい

しっかり今後も面倒見てくれないと困るよ?ダーリン

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― 新着の感想 ―
[良い点] すごく面白かったです! レイン女前。ヒートかっこいい。二人の人となりが手に取るように伝わってきて、キュンとしながら読ませて頂きました。 [一言] 名前が天気シリーズなのが素敵でした(*´ω…
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