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6、地雷

6、地雷


真白さんのドアを叩いていると、真白さんのお友達が帰って来た。


「ただいま~!」

「おかえりなさい」

「うわっ!何?男?」


真白さんのお友達の……確かチエさんの方だった気がする。チエさんは茶髪の少しパーマのかかったショートヘアで、真白さんの話では料理上手だった。


「あ、なんだ葵君か……」

「すみません……男が勝手に上がりこんでしまって」

「あーいいのいいの!葵君は女子みたいなものだから」


それどうゆう意味だろう?


「シロちゃん部屋から出て来ないの?」

「暗黒モードに突入してしまって……」

「何?シロちゃんまだへそ曲げてるの?」


そう言うと、チエさんはキッチンの方へ行った。


暗黒モードというのはネガティブと思い込みで真白さんの中で自問自答を繰り返す、こじらせモードの事だ。真白さんはこうなるとしばらく自分の部屋から出て来ない。


キッチンではビニール袋のガサガサという音が聞こえて来た。きっとチエさんが買い物の中身を冷蔵庫へ入れている音だ。さらに、冷蔵庫の空く音や中の瓶が当たる音がした。バタンと冷蔵庫の閉まる音がしたと思うと、チエさんが僕の目の前に現れて缶ビールを手渡してくれた。


「あ、ありがとうございます」

「どう?シロちゃん出て来ない?昨日は仲直りするって言ってたんだよ?」

「仲直り……」


僕もそのつもりで来た。だけど、余計こじれた気がするのは何故だろう?


「でもね、葵君、今すぐ結婚したくないとはいえ、あの冗談は良くないよ?」

「いえ、冗談とかじゃないんです!別れたいんじゃなくて、結婚したいから告白したんです」


すると、ドアの向こうから真白さんの声が聞こえた。


「結婚なんかしないもん!結婚もしないし、別れてもやらないもん!」

「えぇええええええ~!」


暗黒モードの末に、ワガママあまのじゃく気質が出て来た。これがまためんどくさい。真白さんがめんどくさいのはわかってる。それがわかってて3年間付き合って来た。


チエさんは僕の前に座り、何故か正座してその前に持っていたビールの缶を置いて言った。何となく、僕も正座をした。


「あのね、もし、もしだよ?その……葵君が狼男だとしてもね」

「いえ、吸血鬼です」

「その……吸血鬼?だとしても、正直な告白が時に正解とは限らないと思うの。正直な事は大事。付き合って行く上で一番大事だよ?だけど、気づいてもない浮気に堂々と土下座されても困るだけだよね?」


その秘密で真白さんを困らせるより、黙っていれば良かった?


やはり吸血鬼である事は、誰にも信じてもらえていないようだった。


すると、もう一人のお友達が帰って来た。もう一人のお友達は優理さん。優理さんは綺麗な黒髪で仕事のできる大人の女性という感じの人だ。


「ただいま~!え?男!?修羅場!?」

「優ちゃんお帰り~!修羅場じゃないよ。あ、でも修羅場かも……」


すると、優理さんは突然廊下に正座して僕に頭を下げた。


「お願いします!私からシロを取らないでください!」

「ちょっと優理!」


優理さんはド直球に本音を投げ掛けて来た。でも、ここは引けない!退いちゃいけない気がする!


「いえ、真白さんを僕にください!」

「嫌!絶対に嫌~!私からシロを取らないでください!お願いします!」


僕も床に座ると、手をついて頭を下げた。


「お願いします!」


頭を上げると、今度はまた優理さんが頭を下げた。


「お願いします!お引き取りください!」


まだまだ!


「お願いします!」

「嫌です!シロが出て行くなんて嫌~!」

「え?出て行く?一緒に住む話は出てないですよ?」


さらに頭を下げようとしていた優理さんの動きが止まった。


「え?今日はその話じゃないの?」


すると、チエさんが優理さんに耳打ちした。


「一緒に住むどころか、まだ別れの危機みたいだよ?」

「えぇええええええ!嘘でしょ?吸血鬼とか言って別れるとか最低」

「別れませんよ!別れないためにここへ来たんですけど……」


僕は真白さんのドアの方を見上げた。


「はぁ~」


と、深いため息をつくと突然ドアが空いて、ゴンッとドアが頭に当たった。


「痛っ!」

「あ!ごめんね!ごめん!」


そう言って真白さんはトイレへかけ込んだ。しばらくしても真白さんはなかなかトイレから出て来なかった。


「ねぇ、今度はシロちゃんトイレから出て来ないんじゃない?」

「え!真白さん?」


すると、トイレから返事が帰って来た。


「トイレ急かすとか最低!」

「す、すみません!すみません……」


トイレの流れる音がして「ふ~危なかった」と言って普通に真白さんが出て来た。そして、何もなかったかのように自分の部屋に戻ろうとした。


「ちょっと待って!」


僕はとっさに真白さんの部屋のドアの前に立ちふさがった。


「ちょっと、どいてよ」


ここは……どけない……


僕が困っていると、いつの間にかリビングに移動した優理さんとチエさんが真白を呼んだ。


「シロ~こっちに来てみんなで飲もう!」

「シロちゃん、今日はシロちゃんの好きな鯛と平目のカルパッチョがあるよ~?」


真白さんは少し考えて「行く!」と言って僕を置いてリビングへ向かった。


持つべきものは彼女の友達だ。彼女達は真白さんの取り扱いを熟知している。僕なんかよりずっと。


「葵君もおいでよ!」

「ほら、シロちゃん隣空けてあげなよ」


真白さんは、しぶしぶ少し移動してスペースを開けてくれた。僕はテーブルの前のその開いたスペースに座った。


「で?葵君の話ってマジなわけ?」

「どの話ですか?吸血鬼だと言ってフラれようとしているという話は否定します」

「吸血鬼って本当にいるの?」


本当にいるから困ってるのに……


「本当なんです!信じてください」


優理さんとチエさんは首を傾げなから顔を見合わせていた。すると、真白さんが僕を見て言った。


「いや、だって信じられる?このうっすら日焼けした肌。何なら私より焼けてるし……」

「そうねぇ……まぁ、吸血鬼にしては健康的すぎるかも」

「吸血鬼がみんな白くて虚弱なんて偏見です。これは田舎に引っ越した叔母さんの畑を手伝った時に焼けたんです」


独身の叔母さんは去年OLを辞め、田舎に農地を買った。そしてほぼ自給自足の生活をしている。今回は梅雨に入る前にじゃがいもを収穫したいと呼び出され、一面じゃがいも畑の収穫をした。


「あ、これ叔母さんの畑で取れたじゃがいもです」


僕は玄関に置きっぱなしになっていた、じゃがいもの入ったビニール袋ををチエさんに渡した。


「わ~立派なじゃがいも。ありがとう!」


そう言ってチエさんはキッチンへ行ってしまった。僕が真白さんの隣に戻ると、真白さんはまだ腹を立てていた。


「それ……私、知らなかった」

「え?畑?真白さんは興味無いかと……」


真白さんは大学の園芸サークルで一切植物に興味を示さなかった。だから畑にも興味は無いと思っていた。


「興味がある無いじゃないないの。そうゆう問題じゃなくて……」


もしかして、真白さんは僕が叔母さんの畑に誘わなかった事に怒ってる?


「あの、もしかして田舎に行きたかったとか?」

「別に?……でも、幼なじみと一緒に行ったんだよね?」


え…………?


「僕、律と行ったって言いましたっけ?」


すると、優理さんがスマホを見せて教えてくれた。


「あのね葵君、このSNSって友達のいいね!した投稿は友達の友達は見られるんだよ?」


あ…………そういえば律に半強制的にいいねを要求された。よく見ると律の投稿した写真に小さく僕が写っていた。まさかそんな事で真白さんに知られるとは……


「あの、律は叔母さんの事も知ってて……それに、真白さんの肌が焼けるような所には連れて行きたく無かったんです……それに、あそこは本当に田舎で何も無くて……」


すると、真白さんはまた自分の部屋に籠ってしまった。


「真白さん!」


リビングに取り残された僕に、チエさんと優理さんが言った。


「あ~あ!葵君それシロちゃんの地雷だよ?」


それは承知の上だ。真白さんはその白い肌に気を使われるのを嫌う。それでも、真白さんの肌は日の光に焼けると肌に湿疹が出てしまう。


「葵君はさ、シロをお人形のようにああやって部屋に閉じ込めておきたいの?」

「いえ、別にそうでは……」


本当は……できるならそうしておきたい。


「どうして幼なじみの存在を隠してたの?」

「律……ですか?いえ、別に隠していたわけじゃないです」


紹介するタイミングが無かった。真白さんには興味の無い事だし。


え?まさか真白さんの不機嫌の原因は、吸血鬼どうのではなく……律の存在?


それって…………嫉妬!?真白さんが……嫉妬!?あの真白さんが!?


困った。顔がニヤけて仕方がない。こんな状況なのに顔がニヤける……。ダメだ……嬉しすぎて胸の高鳴りを抑えられない!!


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