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23、正直

23、正直



正直言って、二度と会う事も無いと思っていた。


野村部長はどうして病院へ来たんだろう……もしかして、真白の事が心配だったんじゃ……一応義妹だし。


でも『大竹、無事か?』そう言っていた。


部長は私のために病院へ駆けつけてくれたんだ。やめてよ……変な期待はしたくない。


私は街の大通りを走る車の中から外を眺めた。私は野村部長の運転する車で自宅まで送り届けてもらう事になった。


真白と葵は今ごろうまくやってるかな?


私達二人はいつの間にか、りっちゃん真白という仲になった。まぁ、何と言うか、お互い共通の知り合いが多くなったせい。


でも、真白からは部長の事は何も出て来ない。もしかして、真白は部長の方が……?いやまさか。今のこの状況に動揺しすぎて、ありえない考えが浮かんで来る。


その車内はありえないくらい険悪だった。運転席の部長の仏頂面は見られなかった。横目でチラッとみると、その眉間には深いシワが刻まれていた。


「あの……部長、なんか……すみません……」

「なぜ謝る?勘違いしたのはこっちだ」

「いえ、勘違いさせてすみません……」


元はと言えば私が真白を騙したせい。だって真白ってば素直じゃないんだもん!


あの後、隆司に電話をした後。一昔前のギャルメイクを落とすために、メイク落としを借りて洗顔をした。そして、リビングで化粧水を借りて肌を整えた。それを見て真白がこんな事を言い出した。


「りっちゃんは、葵君と似てるね。凄く思いやりがあって優しい。そんなりっちゃんだから、葵君を大切にしてくれると思って別れたの」

「私のせい!?」

「違うよ。私のせい。自分の罪悪感で身動きの取れないバカな不幸女なの」


さっき、隆司にあんな事言っておいて……


「真白が隆司に言った事、そっくりそのまま返す。自分の為を一番に考えればいいんじゃないの?」

「そんなのただのワガママじゃない?」

「あんたが言ったんでしょ?」


真白は私の目の前のテーブルにコーヒーを置くと、ソファーの隣に座った。


「それは、山崎さんにはワガママを許してくれる人がいるでしょ?子供とか奥さんとか」

「真白の周りにだっているじゃない!友達とか葵とか!葵なんか許しまくりだし!甘やかしすぎ!部長だって…………」

「………………」


部長の話が出ると真白は急に下を向いて黙った。


「あの人は……多分……許してくれない」

「どうして……?」

「お姉ちゃんの事、本当に愛してたから……」


真白がそう言った瞬間、何か胸に衝撃を受けた気がした。何か重い何かがのしかかったようだった。


それは、多分……部長は本当に奥さんを愛していた。その言葉が重かった。


「それに、私も自分が許せない。私だけ……葵君と幸せになんかなれないよ」

「部長が幸せじゃないから?部長が幸せならあんたは素直になるの?」


真白はその問いには答えはしなかった。


だけど、もういい加減正直になればいいのに。私はそう思ったから、真白を病院に呼んだ。


その一方で、私はしばらく胸の重みに苦しんだ。


その胸の重みが何なのか1人でよく考えてみた。考えて考えて…………あの夜の事を思い出した。


本当はあの夜、何も無くなかった。部長が何も無いと言ったから、無かった事にしたけど……


本当は……何も無かった事にしたく無かった。


これは、決して葵のためなんかじゃない。ましてや真白のためでもない。


自分のため。


部長の運転する横顔を見て、決心した。告白するなら今しかない!!


大丈夫。失恋の準備はちゃんとできてる。


「部長、こんな事言っても本気にしてもらえないかもしれないけど…………私、多分部長の事が好きです!」


部長は驚いて急ブレーキを踏んだ。


「すまない。突然何を言い出すのかと思えば……」

「い、いえ、変な事言ってすみません。今のは忘れてください」

「いや、でも大竹は幼なじみの事が……」


そうゆう話だったっけ。


「幼なじみは、恋とは違いました。真白と友達になってから、嫉妬しなんです。それってきっと、友達を取られると思ってたからだと思います。私、意外と幼稚だったみたいです」

「そうか……本当は、私も実は以前からお前の事が……」


ん?いや待て?その台詞前にも聞いたような……?


「待った!部長、その続きはわかります!亡くなった奥さんが忘れられないんですよね?私の事は好きだけど、元奥さんには敵わない!私の事がメス猿に見えるんでしょう?」

「メス猿?」


部長は思わず車を路肩に止め、呆然としていた。


「それ、今年に入って2回あったんですよ?もう騙されませんよ?どうせその先が無いんでしょ?わかってますよ!」

「いや……結婚を前提に付き合って欲しいんだが……」

「ハイハイ、結婚を前提にね…………って結婚!?えぇえええええええ!!」


部長の流れるような告白に思わず絶叫した。


「お前から告白しといて何を驚いている?」

「いや、だって部長、私ですよ?いいんですか?真白みたいに可愛げ無いし、いや真白もそんなに無いな……真白みたいに美人じゃないし……」

「ぶ!……あははははは!お前のその、何をやっても滑稽な所が気に入ったんだ」


部長はハンドルを抱えて大笑いした。


「滑稽?ちょっと部長!それ褒め言葉じゃないですよ!告白の後ですよ?今二人の関係がスタートしたんですよ?初めが肝心なんですからもうちょっと甘く口説いてくださいよ!」

「悪い悪い。つい……いや、メス猿って何だ?」

「あ……それは……真面目に忘れて下さい」


すると、部長はまた車を走らせて、小高い山の中腹に車を止めた。車を降りるように言われて、案内された場所は…………


夜景の綺麗に見える公園だった。


「わぁ~!綺麗!部長、私こんな所初めてです!」

「気に入ってもらえて良かった。実は……私も初めてなんだ。妻を連れて来る約束をしていて……結局……」


ここに来るべき人は……私じゃなかった。


部長はベンチに座ろうとして、私に謝った。


「あ、すまない!こんな話……」


でも、私は生きてこの夜景を見る事ができた。生きるが勝ち。


「いいんですよ!私の勝ちですから!部長と初めて夜景を見たのは私なんですから!」

「そうだな……」


そう言って私は部長の隣に座った。


「実は……あの事があってから、大竹の事はあの噂でしか知らなかった。だが、実際の大竹の人となりを知ると噂とは全く違った」

「大竹やめません?私も部長やめます」

「大竹の名前は?」


部長が困っていたからアシストした。


「律でいいですよ。みんなそう呼びます。部長は浩だからヒロポンでいいっすか?」

「それは無しだ」


やっぱり無しか!


「律の印象も最初の頃とだいぶ変わった。私も……変わりたいと思った。だから……この関係を進めてみたくなった」

「真白も、きっと変わってると思いますよ」

「……………………」


部長は真白の名前を聞いて黙ってしまった。


「私の幼なじみ、真白の彼なんです。今は別れてるけど。真白は、私の自慢の幼なじみが好きになった子なんです。以前の真白はどうだったかは知らないけど……人は変わりますよ。良くも悪くも、生きていればいくらでも変わりますよ」


私は立ち上がると夜景を背に、部長の前に立った。


「それに、変わらなければ酸いも甘いも何も無いじゃないですか!」

「変化を恐れない律のその若さが羨ましいな」

「部長~!何オヤジ発言してるんですか?」


この変化は、化学変化を起こして、何か新しい未来を生み出したらいいな。


そんな事を考えながら目の前に広がる綺麗な夜景を見た。


正直に、想いを伝えて良かった。これ、3度目の正直ってやつかな?



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