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20、友達

20、友達



葵君のお友達の山崎さんが姿を消して1ヶ月が経とうとしていた。夏も終わり、気持ちのいい秋晴れの日が続いていた。


その頃から、私達の友情に陰りが見えて来た。それは、チエの彼氏の一言だった。


「いい年して三人で住むって結婚しないつもりなの?」


その一言が優理の逆鱗に触れ、チエと優理は険悪になった。それで、チエは彼と住むからここを出て行くと言い出した。


チエのためにそれは構わないんだけど……私達の心配は、その無神経な事を言う彼。それだけが心配だった。チエは「悪い人じゃないんだけどね」と言っていた。


だけど……何度も騙されている私が言うのもなんだけど、あの人との同棲はかなり心配だった。


でも、意外にも優理は冷静だった。冷静に二人で住むには広すぎるから、引っ越しをしようと私に提案した。


「でも、チエがまた戻って来れるように……」

「それは逆に幸せを願って逃げ場を無くした方が正解だと思うけど?」

「それとも、二人で住むのもやめる?」


それには首を降った。


「私、多分一人で暮らせない……」

「でしょうね。大丈夫。私がずっと側にいるから」

「ありがとう……優理!」


チエのいないキッチンは何だか寂しくて……優理と寄り添って、コンビニのお惣菜をおつまみに缶ジュースのようなお酒を飲んだ。


「引っ越しして、環境が変わればあんな男すぐに忘れるよ。シロにはもっとふさわしい人がいるって」

「そうかな?」


あれから葵君との話は平行線で、結局喧嘩別れになってしまった。


「私ね、ずっと後悔してるの。葵君と付き合って……葵君を傷つけて、葵君を信じなくて、本当に後悔してるの」

「シロ……」


酔っ払ってるせいか、何だか泣けて来た。


「あいつはそんな男じゃないと思うよ?今まで真白に記憶が見える事を黙ってた。ただの記憶じゃない。トラウマだよ?あいつ、私の記憶を見た後私の見方が変わった。可哀想な目で見た」

「それは……優理の思い違いじゃない?」

「見えるって正直に言えばも見せる事も無かったのに……」


嫌な感じだった。喧嘩別れしたのに、優理に葵君を悪く言われるのは何故か嫌だった。


「本当にあいつを信じるの?あいつは多分……調べただけ。私達の経歴を知って、それで妄想して映像で見える~とか言うだけなんだよ。シロ、今度もきっと騙されてる。そのうち……」

「やめて!!もうやめてよ!!」


優理にそう言われる度に、胸が苦しくなる。


結局悪いのは自分だってわかってる。自分を守るために葵君と離れたのに、葵君に言われた事を思い出しては苦しむ自分がいる。


『結局、一生無害でいれば良かった。それなら真白さんの側にずっといられた……』


そう言った苦しそうな笑顔が、今も頭から離れない。


違う……今まで無害だから一緒にいたんじゃない。好きだから一緒にいた。別れてから初めてその事に気がついた。でもまだ、気づき始めたばかり。


好きだから葵君に触れたかった。好きだから吸血鬼だなんて信じたく無かった。好きだから……嫌な過去は見られたくは無かった。


会いたい……でも会えない。


私のプライドが邪魔するのか、最低だと思われたく無いのか、それはわからない。だけど……私の何ががそれを許さない。


その夜は優理に空っぽな言葉に慰められ、泣き果てて一夜を明かした。


朝起きると、テーブルにメモが貼ってあった。そこには優理の字で『仕事で呼び出しがあったから会社にいくね』と書いてあった。


部屋が……あまりに静かで何だか怖くなった。この世に……私1人だけしかいなくなったみたい。


「テレビでもつけようかな……リモコン……」


独り言を言ってみると、いつもと聞こえ方が違って余計に寂しい。


結局リモコンは見つからなかった。とりあえずシャワーを浴びて、冷蔵庫を開けようとすると……ほうれん草のテープが冷蔵庫に貼ったままだった。そのテープにはマジックでIDが書いてあった。


「これってもしかして……」


私はそのテープをひっぺがして、慌てて携帯を探した。携帯でそのIDを検索すると……


出た!!これ、マジで本物の山崎さんのIDだ!


これ、使えないかな?


「で?どうして私を呼び出したの?」


半分無理やりりっちゃんを家に召喚した。


「だって葵君と別れて、友達と喧嘩して、他に相談する人がいないんだもん!」

「何?あんた他に友達いないの?」


大学には友達はいない。派遣の仕事もすぐに場所が変わって友達と呼べる存在はいない。私には、優理とチエだけだった。その事に今更気がついた。


「りっちゃん今ノーメーク?」

「そうだけど?悪い?休日くらいノーメークで……」

「メークしてもいいかな?」

「はぁ?」


私はりっちゃんに一昔前のギャル風メイクを施した。


「何?何するの?」

「写真撮っていい?」

「え?写真撮ってどうするの?」


そして、それを写真に収めた。


「もっとバカっぽく!」

「はぁ?」

「ちょっと頭悪そうだなぁ~って感じに」


無茶ぶりしてみると……


「変顔とか?」

「あ、いいね!誰だかわからなくなるから変顔尚良し!」


意外とりっちゃんはノリがいいという事がわかった。


りっちゃんの写真を自分のアイコンに設定して、ほうれん草のテープに書いてあったIDを入力して友達申請した。


「何してるの?これ、結局何なの?」


すると、友達申請が受け入れられた。それでも、これが本当に山崎さん本人かどうかはわからないから……


『始めまして。リッチーです!』


そうメッセージを送った。すると……


コミカルなスタンプと共に『ケバいぞ律』


と返って来た。


「山崎さんから返信があった!」

「はぁ?」


すぐにりっちゃんは私の電話で電話をした。


「携帯変えたのか?」

「あんた、ほうれん草のテープに自分のID書いて渡すとか……メス猿に何してんの?え?」

「どうしたメス猿。律がイメチェンしてすっげ~俺好みのメス猿になってたから思わずリアクションしちまったじゃねーか」


りっちゃんは「バカじゃないの?」と言った後、何度も山崎さんにバカ!バカ!と言っていた。


「もう知らない!」


私はりっちゃんから携帯を返された。でも、携帯を返されても私からは山崎さんにかける言葉が無かった。


「うーん。私からかける優しい言葉なんて無いかな」

「いや……普通に帰った方がいいとか……」


電話口の山崎さんは困惑していた。


「帰った方がいいなんて山崎さんが一番わかってますよね?がんばれって言葉は、頑張るつもりのある人にかける言葉ですよ?頑張るつもりの無い人には……さよなら?かな?」

「は?それなんか冷たくない?」


冷たい?そりゃ雪女だものね。


「子供が産まれそうな奥さん残して消えた人の方がよっぽど冷たいと思いますけど?まぁ、人間結局は自分のためにしか生きられ無いんですよ。誰かのためとか言って、結局周り回って自分のため。自分のためにどうするのが一番か考えたらいいんじゃないんですか~?」


携帯に向かってそうなげやりに声をかけた。すると、その挑発にりっちゃんが怒った。


「ちょっと!何それ!」

「それで傷つく人もいるでしょうね。傷つけられた傷は一生残ります。でも、それ以上何倍も愛があれば傷の痛みなんて忘れますよ。痛みは一瞬、傷と償いは一生です」


痛みは……残らない。忘れてしまう。私は忘れちゃいけないんだ。忘れちゃいけないから、葵君と幸せになる資格が無いんだ。


言い過ぎたかな……?これでもし帰って来なかったら……私のせいかも。


りっちゃんは私から携帯をもぎ取って山崎さんの説得を続けた。


「隆司、隆太は隆司の事待ってるんだよ?運動会、見に来て欲しいって。親子競技はママはお腹が大きいからパパと出るんだって言ってる。ミエさんも隆太も待ってるんだよ?そんなに葵に会うのが嫌なら、私と葵はもう隆司の八百屋には行かないから!お願い……」


私はこんなにも友達のために説得なんかできない。仲間想いな所は、りっちゃんはどこか葵君と似てる。



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