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15、再会

15、再会



引っ越しの準備をしていると、珍しい人から連絡が来た。それは、しばらく会う事はないと思っていた野村部長。息子がまた自分の作った食事を食べに来て欲しいという連絡だった。


「どうやら崇が大竹の事を気にしていて、二度と来たくはないかもしれないが、もてなしを受けてやって欲しいんだ」

「息子の頼みじゃ断れ無かったんですね。顔に似合わず溺愛じゃないっすか~」

「うるさいな」


あの後、気まずいまま帰って来ちゃったからなぁ……今度はお詫びをしに行こうと思った。


夕方駅で部長と待ち合わせをして、部長のお宅に伺った。みんなで夕食を……と席につくと、部長の携帯に電話がかかってきた。


「すまない。森高がトラブったらしい。私はこれから会社へ行くから大竹、ゆっくりして行ってくれ。崇、後頼む」

「えぇっ!部長!?」


部長は急いで家を出て行ってしまった。私は中学生の息子と、手付かずの夕食と共に取り残されてしまった。


「えっと……これ、全部君が作ってくれたの?凄いね」

「……………………」


息子さんは返事をしなかった。返事をせずに立ち上がると、リビングを出て行こうとした。


「待ってよ……食べないの?」

「食べたきゃご自由に」


あれ?なんかこの前とキャラ違くない?


「いや、でもこのままにしておく訳にはいかないし……」

「うるせーな!勝手に食えよ!」


まさかの……は、反抗期!?え、子供産んでないから反抗期の男子とか相手にした事ないよ!まさか崇君中2?中2なの?中2のビョーキなの?


「せっかくだから一緒に食べようよ。美味しそうだし。この前のお味噌汁も凄く美味しくて、料理苦手なのに自分でも作ってみようと思ったの。そうしたら……」

「俺に取り入っても無駄だからな?親父が誰と付き合おうと俺には関係無い」


うわぁ……話通じねぇ……めんどくせぇええええ~


「あのね、私と部長は何でも無いの」

「何でも無い訳ねーだろ。こうやって食事に招いてるんだから」

「はぁ?息子が食べに来いって言うから……」


その息子には全然歓迎されてないこの現実。え?何なのこれ?私、知らぬ間に部長のお付き合いしている人ですって紹介されるの?何それ、怖いよ。


それとも、あの時何も無くなかったとか!?嘘でしょ!?だとしたら私、葵が好きだって言ってたのにとんでもないアバズレじゃん!!


「ふーん。そうゆう事。じゃあ、二度とこの家に来たくなくなるようにしてやるよ!」


私が困惑していると、崇君は私の胸ぐらを掴んだ。


ヤバい!!殴られる!!そう思った瞬間、ピンポーン!とインターホンが鳴った。


「お、お客さん!」

「客なんか放っておけばいいだろ」

「ダメだよ!大事なお客さんかもしれないし……部長……あ、もしかしたらお父さんが忘れ物を取りに来たのかも」


私がそう言うと、崇君はやっと襟ぐりを離してくれた。絶妙なタイミングのインターホンだったな。とにかく助かった!と思って急いでドアを開けた。


「はーい」


すると、そこにいたのは…………


二度と会う事もないと思っていた人がいた。


「こ、こんばんは…………」


おそらく、むこうも同じく二度と会う事もないと思っていたに違いない。まさか……こんな所で会うなんて!!


「葵君の幼なじみ……ですよね……?」

「葵の彼女……?どうしてここに?」

「私は……お継兄さんと甥っ子に会いに……」


すると、リビングから崇君がやって来て言った。


「どうせ親父に会うつもり無いんだろ?」

「だって会ってもらえないんだもん。だからこうやって留守中に崇に会いに来てるんでしょ?」


何をどうしたらあの部長に追い返さるんだろう?


「あれからもう9年になるのに、親父相変わらず頑固だよな。この様子じゃ半世紀先までああだぞ?」

「仕方がないよ。私はそれだけの事をしたって事。頑固な所がいいんだってお姉ちゃんも言ってたし」

「なんだよそれ。そうゆうの止めろって言ってんだろ?」


何だか、この家には複雑な事情がありそうだ。そんな話をしながら、葵の彼女は慣れた様子で冷蔵庫にタッパーを入れ始めた。


「料理ももういいよ。ほとんどのものは俺が作れるし。そんなに入れたら真白のだってバレる。バレたら捨てられるんだぞ?」

「え~!捨てないでよ~私が作ったんじゃないんだから」

「真白が作ったんじゃねーのかよ!」


葵の彼女は冷蔵庫を閉めると、手付かずの夕食を見て感激していた。


「これ、全部崇が作ったの?凄い~!崇、大きくなったね……ねぇ、これ、三人分あるけどお継兄さんが帰って来たら食べるの?」

「違う。親父は仕事行ったよ」

「え、じゃあ、これ食べていい?」


すると、葵の彼女は立ち尽くしていた私に気がついた。


「別に?食べたきゃ食えよ」

「じゃあ大竹さんも一緒にどうですか?」


何故か私も誘われたけど……遠慮して帰る事にした。


「私はもう……」

「そんな……せっかく……えーと、大竹さんはどうしてここに?」


私はざっと、ただの上司と部下だと言う事を説明した。


「やだ!お継兄さんのお客さん?じゃあ、ちゃんとおもてなししないと!」

「い、いえ。別に勘違いで呼ばれただけなんで。葵の彼女さんと崇君の二人でどうぞ」


私がそう言うと、気まずそうに彼女は言った。


「あの、私葵君とお別れしたんです。だから、葵君の彼女じゃ無くなったんです」

「そうなんですか……」


という事は葵はとてつもなくショックを受けていて、きっといつもみたいに飲みに誘われるかも。そう思ってしまった。


「えぇっ!?別れた?」


思わず崇君と声がハモった。すると、崇君がホッとして言った。


「やっと別れた!だから言っただろ?そんな顎で使うような男、すぐにフラれるって」

「違います~!私からお別れしました~」


何となく、崇君は彼女の事が好きなんじゃないかと思い始めた。いや、でも叔母と甥っ子の関係じゃない?しかも何歳差よ?


「私があと10歳若かったらな~崇にもらってもらえたんだけど……残念~!大竹さんは葵君と同じ年だよね?じゃあ崇の一回り上か……よし、許容範囲。いけ!崇!」

「はぁ?年増のババアを勧めんじゃねーよ!」

「あぁ?もっかい言ってみな?私大竹さんより年上なんですけど?」


葵の彼女……元カノは、崇の顎を掴んで睨みつけた。


「失礼な事言う子はお尻ペンペンだらかね?」

「ぶっ!あははははははは!お尻ペンペン!それ、葵もたまに使うけど、今時ペンペンって!」


私が少し笑うと、元カノは暗い顔をした。


「……………………」


なんで?なんでそんなに辛そうな顔をするの?そっちから別れたんでしょ?


「崇の料理美味しそう。あ、その前に料理の写真撮っていい?チエに見せてダメ出しもらって来てあげる」

「プロに評価訊くなよ!」


その垣間見せた表情を隠すように、料理の写真を取り始めた。


「はい、崇!」

「いい加減そのかけ声やめろよ」

「どうして?崇が映る時はいつもこれで撮って来たんだもん。今更変えられないよ」

「それもガキ扱いなんだよ」


彼女の、甥っ子をからかう姿はあまりにイメージと違っていた。だって……あんたは葵に興味無くて、葵を振り回して、いいように使う悪女でしょ?


「いただきま~す」


そう言って元カノと崇君は夕食を食べ始めた。ほっけの塩焼きと煮物とほうれん草のゴマ和え、大根の浅漬け、白菜やネギの野菜がたっぷり入ったお味噌汁。どれも美味しそうだった。


「崇~!味噌汁美味しい!腕上げたね~!あ、煮物の人参固い。まだまだだね……」

「いや、それうまいの?まずいの?どっちだよ!」

「どっちも。純粋な評価と感想だよ」


どうして、私はこんな所で葵の元カノと部長の息子と夕食を食べているんだろう…………


「あ、大竹さん、お魚に醤油かけます?これちょっと塩味足りない感じかもしれない」

「あ、ありがとうございます」

「真白、マヨネーズそんなにかけるなよ。味覚バカかよ」


夕食を食べ終わるまで居心地の悪い思いをした。何だか、この前の仕返しされたみたいな感覚。


最後の最後まで、部長の奥様は?とは訊けなかった。私の席から見えるお仏壇には……高岡さんに似た女の人の遺影が見えたから。



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