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こんな能力でも僕は  作者: 熊宏人
7/8

こんな能力だからこそ僕は

 僕は一人、夏祭りに来ていた。秀人は結局僕を手伝いに誘うことはなく、そして僕は誰に誘われるわけでもなく、使命感という強い気持ちでもなく、決まり切ったルーティンとしてここに来た。

「いらっしゃい! ってカズキじゃねーか!」

 その屋台には秀人と秀人のお父さんが焼きそばを焼いていた。かき氷、わたあめはなかった。

「祭りに来たからちょっと寄ったんだ」

「寄った、って……俺が屋台やっているなんて話したっけ?」

 そうか。この時間軸では、秀人が屋台をやっていることを本来僕は知るはずがないのか。

「いや、たまたま見かけたんだよ。それで顔出していこうと思って」

「なるほどね」

「秀人、少し聞きたいことがあるんだけど、未来から手紙って届いたか?」

 秀人はとても怪訝そうな顔をした。僕の言ったことがスッと頭に入ってこなかったようで眉をしかめた。

「未来から手紙ってどういうことだ? ミライって人?」

 嫌な予感は的中した。小さなズレが結果的に大きな歴史の改変につながってしまったのだ。

「いやいいんだ。この話は忘れてくれ。それじゃ、また」

 僕は屋台を後にした。歩き出して10秒も経たないうちに秀人の声が聞こえた。

「カズキ、これ持ってけよ」

 透明な容器にホカホカの焼きそばが弾けそうなくらい入っていた。赤い輪ゴムでギリギリ押さえられている。

「あ、悪い。えっといくらだっけ」

「金はいいよ。それより顔色悪いぞ」

「そんなに?」

「ああ」

「じゃあ後でお面でも買って被っていようかな」

「笑えねえって。早いとこ食って家で休めよな」

「うん。ありがとう」

「じゃあ、俺は父さんの手伝いがあるから。体調管理しっかりしろよ」

 そう言って秀人は屋台へ走っていった。

 僕はもらったばかりの焼きそばを持って、ベンチに腰掛けた。割り箸を割って、早速焼きそばを口に運ぶ。

 ちょっとしょっぱいな……。でも熱々でうまい。無心で頬張ってしまった。

 あれだけパンパンだった焼きそばはすぐになくなってしまった。容器と割り箸を近くのゴミ箱に捨てて、またベンチに腰掛けた。

 これからどうしようか。いやどうすることもできないんじゃないか。頼みの綱の秀人の能力はもしかしたら今回使えないかもしれない。

 秀人に未来から手紙が来ていないということは、未来の秀人に何かあったってことだ。僕と松原さんがいつもと違う行動を選択したから歴史が変わって、この夏祭りで皆がいなくなってしまう歴史になってしまったのかもしれない。そりゃあ、送り主が消えてしまったらその手紙も消えるよな。

 もし、今回高嶺を止められなかったら……。いやそんなことは考えるべきじゃない。一度歴史が変わってしまったのなら、もう一度歴史を変えればいい。高嶺を止めて全員が生き残る歴史に。

 その時、爆発音が聞こえた。どうやら始まったらしい。今日こそ決着をつけよう。

 駆けつけると、高嶺と松原さんが向かい合っていた。松原さんが高嶺に向かって祭りの櫓以上の高さから滝のように水を流し込もうとした。しかし水は地面に触れる前に全て消えてしまった。

「無駄だ。全部俺の思い通りなんだよ」

 まずい、このままでは松原さんがやられる。何か良い方法はないのか? でも高嶺には何の攻撃も意味をなさない。僕の赤いチューリップを出す能力じゃ全く歯が立たない。どうすればいい。わからない。わからないけど何かしなくては。

 僕は無我夢中で近くにあった野球のボールくらいの石をつかんで高嶺に思いっきり投げた。

「痛っ!」

 石は高嶺の肩に当たった。

 え? どうして当たったんだ? あいつは全て思い通りにできるはず。こんな石すぐに消せるはずだろ。なぜ消さなかった?

 身体中の血液が脳に行ってフル回転しているように感じた。思い通り……思い通り、思い通り……。

「倉田か。ゴミみたいな能力でよく俺とやり合おうと思ったな。後悔させてやる」

 肩を押さえながら高嶺は僕を見て言った。

「倉田くん逃げて!」

 松原さんが決死の覚悟で水を放つものの、高嶺は松原さんを見て即座に消されてしまう。

 見る。思い通り。見る。

 高嶺の能力の弱点がわかったかもしれない。

 いい加減ループにも飽きてきた。一か八か、これに賭けよう。

 僕は高嶺の周りに赤いチューリップを大量に出現させた。それらは即座に高嶺を囲む。高嶺はそれらを見て消そうとする。

 もっと早く。もっとたくさん。高嶺を包め。

 高嶺が赤いチューリップを消すよりも早く、赤いチューリップの大群は高嶺を包んだ。丸くて真っ赤な玉ができた。まだ油断してはいけない。何層も赤いチューリップを重ねる。

 高嶺は一気におとなしくなった。というより何もできないのだろう。

「一体どういうこと? どうして高嶺くんは中から出てこないの?」

「出てこないんじゃない。出てこれないんだ。おそらく、高嶺の能力は『目に見える範囲においてのみ思い通りにできる』ってことだったんだよ。だから、死角から飛んできた石に反応できず当たったんだ」

「じゃあ、今高嶺くんは……」

「赤いチューリップの塊の中で真っ暗になり何も見えていない。つまり能力は使えないね」

「そうなんだ。ようやく終わったんだね」

 松原さんはほっとしたのか、その場に座り込んでしまった。

「これでループから抜け出せるよ」

「さすがだね、倉田くん」

 ニコッと笑顔を見せる松原さん。

「いや、たまたまだよ」

「そうかな? 私じゃ高嶺くんを倒すことはできなかったよ」

「僕だって松原さんがいなかったら、そもそも高嶺と向き合おうとも思わなかった。何かしら言い訳を見つけて逃げていたと思う」

 次に何と言おうか言葉を探していたその時、騒ぎを聞きつけた警察がやってきた。僕達は警察に事の顛末を話した。

 赤いチューリップの中の高嶺は警察の能力者によって電気を流し込まれ気絶させられた。その状態で目隠しをされ警察に連れて行かれた。

 僕も一歩間違えれば高嶺と同じようになっていたかもしれない。何もかもが能力で決まる、その感覚が僕にはあった。いや正直なところ今でも少しはある。たまに能力のせいにしそうになる。でも以前よりはだいぶその考え方から離れられるようになってきた。

 もちろん能力に価値がないと言うわけではない。ただそれが全てではないんだ。それこそ能力は使い方次第で、生かすも殺すも自分次第。それに気づけるか、あるいは気づかせてくれる人がいたか。高嶺と僕の差はそこにあったんだと思う。

 だから松原さん。

「ありがとう」

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