いざ古代遺跡の迷宮へ
俺達はダンジョンの近くまで来ていた。
「古代遺跡の迷宮」
そう呟くレア。
「始めてきたけど中々手強そうね」
「そうですね。おっかないです」
レアとシエルの二人は入る前からハードルを上げているらしい。
「今日こそ攻略するかぁ!」
そんな俺達の横をとあるパーティがすり抜けていく。
そうして遺跡エリアに入ろうとしたところ男がこちらを向いた。
俺というよりはレアたちを見ている。
「あれ、君らつい最近までパーティ募集してたよね?」
「それが何?」
「辞めといた方がいいぜ。ここモンスター最強の種族ドラゴンが出てくるって言われてる場所だし」
それに、と口にして俺を見る男。
「有名な最弱連れて何が出来るんだよ」
ははははと仲間と共に笑い出す男。
「知らないわけじゃないよねぇ?最弱のエリアス。可哀想に騙されたの?全属性に適性があっても魔法が使えないんじゃ意味ない。分かるよねぇ?」
「それが何?何が言いたい訳?」
「帰りな帰りな。俺達が何年もかけてまだ踏破できてない迷宮だ。お前らが突破出来るとも思えない。スライムでも倒してろよ」
下卑た笑みを浮かべる男。
「君らが俺の言うこと聞いてくれるってんなら連れて行ってあげてもいいけどね?」
舐め回すような目で2人を見る男。
「お断りだから」
「可愛げのないやつだな。でもそれくらいの方が」
レアに手を伸ばしかけた男の手を先に取る。
「嫌だって言ってんだろ?」
「離せよ最弱。誰に手出してんのか分かってんのか?」
「生憎田舎者でね偉そうな坊ちゃんの名前を教えてくれると助かる」
そう口にすると顔を茹でられたように赤くする男。
「調子に乗んのもいい加減にしとけよ?」
「お前がな」
戦いの火蓋は切って落とされた。
「魔法…?」
俺の体から漏れる冷気に気付いたのか男が眉をひそめた。
「最弱のエリアスは魔法を使えないはずだがな。使えるようになったのか?それでもそんなちょっとしか冷気出せないんじゃ意味が無いけどなぁ!」
「守れ」
そう言って振り上げてきた男の剣を宙に生み出した氷の盾で防ぐ。
「…盾だぁ?おっといけねぇ俺としたことが手を抜いちまった。お前の貧弱な魔法くらい壊せないわけないもんな」
そう言って笑って飛び下がる男は剣を収めた。
「魔法使えるようになったんだな。それでも最弱のままだろうがな。それより帰ってママに泣きついてた方がいいぜ」
笑いながら奥へ進んでいく男。
やがてその姿は奥に吸い込まれて見えなくなった。
「俺達も行こうぜ」
「…絶対見返そ」
「そうだな」
「酷い人たちですね…それよりありがとうございますエリアス。あなたが言ってくれてスカッとしました」
「俺に出来るのはあんな事くらいだ。また必要になったら言ってくれて構わない」
先行して遺跡エリアに踏み込む。
早くしなくては先を行かれるかもしれない。
「あの人たちで…攻略できてない遺跡…奥まで行けるでしょうか?」
「いや、奥に行くだけならこれに書いてある」
あのクソ野郎が持たせた紙をヒラヒラと動かす。
「行くだけなら行けるはずだが」
「当たって砕けろの精神よね」
「そういうわけだ」
まだ気乗りしていなさそうなシエルの手を取る。
「後は猪のように突撃するだけだ。分かったな」
「…でも怖いです」
下を見る彼女。
「俺が守るよ。俺に出来るのはそれくらいだしな。だから安心してくれ」
「…守ってくれますか?」
「誓おう。付き合わせているのは俺だ」
「ちょっとちょっと何いい感じになってるのよ!」
俺の後頭部を叩いてきたレア。
その衝撃で前にツンのめってしまった。
「ひゃっ…」
「…」
「何してんのよ!このスケベ!」
「いや、あんたのせい…」
「うるさい!」
1人怒ってスタスタ先に進んでしまうレア。
「…悪かったな」
事故とはいえ抱きついてしまったのは事実だ。謝っておこう。
「…いえ…いいですよ。別に。エリアスなら」
「それはその先も許された、ということでいいのか?」
「へっ?…そこまでは許してませんよ…」
顔を赤くするシエル。
「冗談だ。あのバカ隊長放っておいたらどんどん猪の如く突撃するから早く捕まえないとな」
鼻血を拭いながら走り出す。
「おい、猪隊長」
「誰が猪よ」
そう言って振り向いた彼女の顔は赤くなっていた。
「いや、だって猪じゃん」
「それはエリアスだよね?」
「喧嘩しないでください…」
「喧嘩じゃないもーん。この馬鹿猪に教育してるだけだもーん」
「…ま、そういうわけだ」
俺が認めると素直に静かになるレア。
「張り合いないよ」
「俺が大人だから。あんたみたいにくだらない事で張り合うほど子供ではない」
「言ったわね…言っとくけど私はシエルより大きいんだから!身長が!」
「精神年齢はシエルより低そうだけどな」
「うっさい!」
顔を赤らめるレア。そろそろ辞めとくか。
「それより入口は何処なんだろうな」
エリアの中に入ったはいいがまだ迷宮ではないはずだ。
「あれじゃないですか?」
シエルの指差す方向を見ると神殿のようなものがあった。
そのすぐ横に下へと続いている階段が見える。
「とりあえず突撃してみよう」
「やっぱりエリアスが1番猪だよね」
「待っていても何も進まないなら突撃するしかないじゃないか」
「それもそうだけど」
「なら善は急げだ」
俺は迷宮へ続く階段を降り始めた。
地図を見ながら下に下に奥へ奥へと進んでいく。
少し寒気を覚えるほど正確な地図だった。
「…どんだけ俺に進ませたいんだ…」
「何もいないね…」
「確かにな」
薄暗い通路、モンスターはそこかしこにいるが襲ってくる気配がない。
殆どが岩陰に隠れてこちらを伺っているだけだ。
不気味な程にそれしかしていない。
「襲ってこないんですね…多分エリアスのせいですけど」
「何で俺なんだよ。それよりその言い方だと俺が悪いみたいだな」
せめてせいではなく、お陰と言って欲しいところだ。
「ごめんなさい…」
俯くシエル。
「悪かったな。責めてるわけじゃない。それより俺のせいってのは?」
「通常王者とか強者って人々は何となく纏う空気が違うんです。私たちみたいにこうしてあなたのそばにいる存在ならそれには気付かないかもしれませんが」
そう言って岩陰で怯えているモンスターに目を向ける彼女。
「彼らのように危険を感じられる存在は貴方に恐怖を感じているのかもしれませんね」
「…俺は最弱のはずなんだがな」
言いながら更に歩みを続ける。
「魔王はあなたに何をしたんでしょうね…」
「さぁな。まぁ何かされたのは間違いない。俺は魔法を使えなかったんだから」
「でも初めて魔法を使ったとは思えない程の魔法だってユリヤは言ってたよ?あんな魔法初めてじゃ無理だって」
「そう言われても俺はあの時初めて魔法を使った」
「そういえばどつして魔法は使えなかったの?」
「説明しなかったっけ?魔力がまともに作れなかったんだよ」
「魔力が作れない?」
「あぁ。笑ってくれ」
これを言って笑わなかったやつはいない。少なくとも俺は見た事がない。
「笑わないよ。何で笑うのかな?」
「そうですよ。笑えるわけないですよ」
2人のその言葉を聞いて目を見開く。
「魔力が作れなかったんだぞ?どの属性にも適性があったのに肝心の魔力が作れないんじゃ普通は笑いものだ」
「作れない人いっぱいいるし」
「そうですよ。気にしても仕方なく無いですか?」
「…ありがとな」
その言葉を聞いていたら気持ちが楽になってきた。
その時だった。
「誰か助けて!」
「!」
救いを求める声が聞こえた。
「行こ」
「あぁ、そうだな」
悲鳴はこの奥の奥から聞こえてきた。
「嫌な予感がします」
「まぁいい予感はしないよな」
そう返しながら更に奥へと進む。
声の聞こえた方へ。
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