ダンジョン攻略の準備
「エリアス君今から魔法の使い方を教えます」
何処から持ってきたのか分からないが白いヒゲと変なメガネを装備したレアが椅子に座る俺の前に立っていた。
「いや、今更教えなくても知ってるけど」
「まぁまぁ聞いてよ…せっかく準備したんだし」
「…分かったよ」
ため息を吐きながら続きの言葉を待つ。
「魔法とは魔力を使って行使します。魔法の発動のさせ方ですが基本は頭の中でどんな魔法を使うかを考えることとそれによって変化する現実を想像することです」
「知ってる」
「例えばこのように」
彼女は自分の手のひらの上に水球を生み出した。
「…」
「そう。我々の魔法というのは我々の妄想力次第でどこまでも可能性を広げていきます。しかし範囲が広いとかそれは無理だろうと思われることは出来なかったりします。そこは、本人の干渉する力の強さが影響します」
「それも知ってる」
「うるさいわね!終わればいいんでしょ!」
俺に本を投げつけてくるレア。
それを首を横に倒して避ける。
「かかったわね!」
「ごぁっ!」
しかしそれはブーメランのように戻ってきて俺の後頭部を叩く。
「ちゃんと聞いてればいいのよおばかちん」
「…散々な言い様だな」
勝ち誇ったような顔をするレア。
「団員は私を尊敬するためにいるのよ。ねぇシエル」
「な、何ですか?そのルール」
同じく俺の横で聞かされていたシエルが声を出した。
どうやらそんなルールは存在しないらしい。
「という訳らしいが?」
「ちょっとシエル何裏切ってんのよ!」
「私のせいですかー?!」
「そうよ。シエルにはお仕置きが必要なようね」
博士変装セットを外しながらシエルに何やらしている。
今日もそこそこの一日が始まりそうだな。
「今日の朝はハンバーグ」
そう言いながら朝から重いものを持ってきたレア。
「朝から肉かよ…」
「文句言うなら食べなくていいよ?」
にっこり笑いながそう言われた。
「いや、有難くいただこう」
流石に昨日も満足に食べていない中食べないという選択肢はなかった。
「そういえば昨日凄かったらしいね」
「?」
「魔法使ったってユリヤに聞いたよ」
「あぁ。そのことか」
「ばばーんずどーんってぱりーんって凄い魔法使ってたって言ってたよ」
「その子供みたいな表現はどうにかなんないのか?」
「子供に向けて話してるんだからこれでいいでしょ?」
「馬鹿にしてんのか」
今少しピキりときた。だがここで文句を言っても仕方ない。
「それよりどうして魔法使えたんでしょうか」
顎に人差し指を当てて首を捻るシエル。
「あのクソ野郎のせいだよ。魔王。話しただろ。あいつが俺に何かしたんだよ」
「あの人でもそんなこと出来るんでしょうか?もともと使えない人に使わせる、なんてこと」
「自分で自分のことを最強だとか世界一だとか言っちゃう自信家だぞ。出来ても不思議じゃない。というより出来なくてはおかしい」
それが出来るからこそあれだけ豪語したんだろう。
思い出せばムカつく話だ。
あいつの何もかもがムカつくな。
「結局俺は掌の上で踊らされただけかよ…」
思わず俯いた。
この貰い物の力も結局あいつの思い通りに俺を動かすために必要なだけだったらしいし。
「でもそれだけの力が使えるなら魔王を出し抜けるんじゃないの?」
「…どうだろうな」
「何となくだけどそんな自信家が自分の絶対勝てるラインの力をピッタリとあげるとは思えないんだよね。だから…エリアスが頑張れば倒せるんじゃない?」
「…そうかな」
「そうですよ。諦めるのはまだ早いです」
とは言われてもな。
「…考えさせてくれ。今はまだ休んでいたい。灼炎だけ取ったらとりあえず暫くは休ませてほしい」
「そうだね。とりあえず灼炎だね」
「それまでは俺も頑張るけど…その先はもう少し待ってくれ」
「うん。待ってる」
そうして朝食も終わって俺達は1つのテーブルを囲い3人で同じ地図を見ていた。
「ここだよね。灼炎があるダンジョンって」
「そうだな」
あのクソ野郎は俺に苦労させたいのかわざわざ奥の宝箱に入れたぜ、とメッセージまで残してやがった。
「早く行こうぜ」
上着を羽織る。
「気が早すぎない?もっと、こう準備を整えたりしないの?」
「先を越されたらどうする。そうなってからじゃ遅い」
「でも、先を越されるって誰に?」
「誰かに、だ」
同じくダンジョンに潜っている奴なんているだろう。
「心配性だなぁって言いたいとこだけどそうだね。何があるか分からないし行こっか」
「でも、このダンジョン怖いモンスターとか出るんじゃ…?」
心配そうな顔をするシエル。
「俺達が守ってやるから付いてこい」
「そうだよ。3人いるから大丈夫だよ」
「大丈夫なのかなぁ…」
それでも不安そうにするシエル。
「そういえば2人はダンジョンとかいったことあるのか?」
「ないよ」
「ありませんよ」
ふと頭に浮かんだ質問をした自分を殴りたくなってきた。
「ないのかよ…」
「エリアスはあるの?」
「ない」
俺がそう答えると3人で顔を見合うことになってしまった。
「しかし突撃魂を忘れてはならない。どんな場所だろうと俺達は突撃して生還する。それで問題ない」
「そ、そうだよ。何事も初めてというのはあるし無事に帰ってきたらそれでいいのよ」
「そんなんで大丈夫なんですか?」
俺たちに訴えかけてくるシエル。
「付き合わせて悪いとは思うが乗りかかった船というやつだ。沈む時は全員一緒だ」
「何沈む前提なのよ、乗り切るんだから!」
そう言って俺の目を覗き込んでくるレア。
「そうだ。沈む訳では無い。レア隊長に続けば必ず生還できる。そう悲観するな」
「で、でもこのダンジョンボスがいるみたいですよ」
「ボス?」
「ドラゴンの子供が奥の部屋を守っているって聞いたことがありますよ」
「ドラゴン?」
聞き返すレア。
「はい。子供と言ってもモンスターの中では最上位の種なので無闇に近付くのはダメって言われるほどですよ」
「近付くなと言われて近付かない奴がいるなら見てみたいがね」
そう答えて適当に身支度を済ませる。
「そんな地図見てても時間の無駄だ。歩きながら考えた方が早い」
「それもそうだよね」
立ち上がるレア。
「大丈夫なのかなぁ?」
不安そうになりながらそれでもシエルも立ち上がってくれた。
「じゃ、行こうぜ」
俺たちは席を立つことにした。
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