誰かに必要にされるということ
あの1000くらいいたはずのモンスターの大軍を殲滅した俺たちは詰め所へと戻ってきた。
「あ、帰ってきた」
「エリアス私は君を信じることにする。しかし他の人が信じてくれるかどうかは別の問題です。1度…王に会ってもらえますか?」
「王に?」
「はい。あれだけの魔法を使えるならば恐らくお会いになってくださると思います」
「別に構わないが」
「ほう。なるほどな」
その時扉が開いた。
「シド様…」
ユリヤはすぐに膝をついて敬意を表した。
というより俺以外は彼が姿を見せた瞬間に片膝を付いていた。
「空気を読むということが出来ないのかお前は。面白いな」
シドと呼ばれた金髪の男は詰所の椅子に座った。
その横にはこちらも金髪の男が立っていた。
「生憎空気は読めない方でね」
言いながら俺も椅子に座った。
「エリアス…死にたいのですか」
ぼそっと俺にだけ聞こえる声で俺を椅子から引きずり下ろすユリヤ。
「気にするな。法と秩序の王都で魔法を使った馬鹿な男に俺から会いに来たのだ。それに俺もそいつには興味がある。アーロイ」
「はっ」
アーロイと呼ばれた金髪の男。
そいつが俺に顔を向けたと思えば一瞬の事だった。
「はぁ…はぁ…」
一瞬のことだった。防御が間に合ったのはギリギリのこと。
俺の氷の剣に打ち付けられたアーロイの光の剣。
「やるな。全力で打ち付けたはずだが」
アーロイと呼ばれた男はそう呟いて剣を消してシドの元へ戻った。
「危ないだろ…」
今あいつは本気で俺を殺しに来た…。
「悪い、試させてもらったよ」
シドが笑いながらそう言う。
「それより凄まじい反応速度だ。アーロイの不意打ちを凌ぐとは、かつての英雄の姿を思い出す」
「…」
改めて椅子に座ろうとしたらユリヤに椅子を引かれ尻餅をついてしまった。
「いてぇな!」
「座らせてやれ軍団長殿」
「しかし…」
「俺が許可している。それ以上口答えするな」
そう睨まれると何も言わなくなったユリヤから椅子を奪い座り直す。
「エリアスと言ったな。俺はレイシェンの王。シド・ドゥ・レイシェン」
「…失礼しました」
机に額を押し付ける。王だったのかこの人…
「顔を上げよ」
言われた通りに上げた。
「おいアーロイ」
アーロイと呼ばれた男は頷くと俺の前に水晶と紙を置いた。
「手を当ててくれ」
頷いて手を置くと。水晶は7色に輝き始めた。
そうしてから
「…」
静かに割れた。
シドとアーロイの顔を見る。アーロイは真顔でシドは笑っていた。
「まさか…壊すとは…ははははは」
腹を抱えて笑い続けるシド。
「申し訳ありませんシド様…」
代わりにユリヤが謝っていた。
「よい。よい。面白いものを見せてもらった。エリアスとやら俺の右腕になる気はないか?」
その言葉に場が騒然とした。
「シド様このようなものを…」
「アーロイ。お前の心配は分かっているつもりだ。しかしこいつを有効活用させられるのは俺だけだろう。どうだお前にとっては悪くない提案だと考えるが?」
「悪いが先約があってな。そこのレアと約束がある」
そう答えると眉をひそめたシド。
「本当にそれを優先するのか?お前の実力は確かに最高レベルと言って差し支えない。しかし、それを評価してくれる奴はいないぞ。魔力生成の可不可は1度定められたなら変更は不可能だ。お前は出来ない。それがこれから先変わることは無いのだ。そしてそれから導き出された最弱という称号も消えないものだ」
「…」
「一応説明してやるが過去に魔法を使えなかったものが使えるようになった、という例は確かにあるが魔力を生成できなかった者がある日出来るようになったという例はない。ただの1度もない。これは長い間研究され続けた末に出された答えだ。それを簡単にお前1人の前例で覆す訳にはいかんのだ。故に貴様にはこれからも最弱、Zランクとして過ごしてもらわなくてはならん。お前にそれに耐えられるのか?」
「今まで耐えてきたのだ。苦ではない」
「俺の右腕になりたくない、と?お前を正当に評価してやれるのは俺だけ、だというのにか?言っておくが本当に誰も正当にお前を評価せぬぞ?」
「…急にSSSランクとして働けと言われる方が無理だ。なら俺はZで構わない」
「地位も名誉も喝采も、何もかもが思いのままだと言ってもか?」
「興味はない。全部いらない。欲しいのはただの日常だ。それに隊長との約束がある」
「ほう」
軽く笑うシドと俺の頭を叩いてきたレア。
「…馬鹿なの?何断ってるのよ」
「だって刀取りに行かないと」
「エリアスってほんと馬鹿ね…」
それ以上言うことなく後ろに下がったレア。何なのだ。でもその顔はなんとなく嬉しそうに見えたから悪いことではないのだろう。
「まさか断られるとは思っていなかったが、それも良いだろう。アーロイ」
「これを」
声がかかってから直ぐアーロイは俺に何かを渡してきた。
「貴様の身分を証明するカードだ。無くすなよ。さっきも言ったが貴様のランクは異例のZのままだ。そしてそれは変えられない。お前がいくら足掻こうが変わらないものだ」
「分かった」
答えてからポケットにしまう。
「それには貴様の全てが詰まっている。無くすなよ?」
俺が無くしそうに見えるのか2度も同じことを言われた。
「あぁ」
「にしても俺を前にして敬意の欠片も見せんか。そういうところは気に入った。また顔を見せるがいいエリアス。お前なら俺はいつでも迎え入れよう。門番にも貴様が来たら通すように伝えておく。故に気軽に王城に来るがいい」
そう告げると詰所から出ていく2人。
「あなた馬鹿じゃないですか?!」
「馬鹿ですよね?」
「馬鹿なの?」
王たちが出て行った次の瞬間ユリヤ、シエルそれからレアの3人全員にそう言われた。
「何で?」
「王の右腕って…とんでもない光栄な事なんですよ?名誉も喝采も…何もかも思うままなんですよ?それにお給料もいいはずですよ」
ユリヤが説明してくれる。
「さっきも言ったが別に名誉も喝采も金もいらない」
「無欲な人ですね」
苦笑するシエル。
「先に約束した方との約束は破るなって聞かされてきたし。だから俺はレアと刀を取りに行く」
「…馬鹿じゃないの?」
泣きそうになりながら俺の胸に飛び込んできたレア。
「私との約束なんて突っぱねていけばよかったのに…」
「それはだめだ。俺はお前と行く。そう決めたから顔上げてくれ」
赤くなっている顔を見る。
「泣くほど嬉しいのか?」
「だってエリアスが入ってくれないとそろそろ解散しないといけなかったもん…」
「そうだったのか?」
「えぇ。…私たち弱小パーティに入ってくれる人なんていなくて…困ってたんです」
シエルが視線を落としながらそう言ったかと思えばシエルも俺に抱きついてきた。
「ありがとうございますぅぅ…神様〜」
「私からも礼を言いますエリアス」
そう言って俺を見てくるユリヤ。
「2人を頼みますね」
「そういう事情があるなら頼まれますよ」
静かに笑って答える。そうか俺が必要なんだな。何だか嬉しくなった。
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