最弱の俺は最強へと成り上がった
砦を抜け草原に立つ。
遠くから微かにだが魔物たちの声が聞こえる。
「さっきは切れて悪かったな」
「いえ、気にしないでください」
とりあえずもう一度さっきの魔剣を出そうと思った。すぐに出てくる魔法の剣、体が不思議と使い方を理解していた。
「魔法は使えないのでは?」
右手には氷の剣。
凍てつくような冷気を周囲へ漂わせる魔法の剣、氷の魔剣。
それが俺の右手にはあった。
「どうやら使えるようになったらしいんで少し手伝わせてもらう」
この力でどの程度までできるのかは分からないが、やれるところまでやってみようと思う。
「助かります」
遥か遠くにモンスターの大軍が見える。1000…結構多いな。
「それより俺とあんたの2人だけかよ」
「私達がここで足止めを行います。その他の人たちには上からの援護をお願いしています」
「こっちに二人って何考えてんだ?到底二人でどうにかできるものじゃないが」
「前に出られるのが今は私とあなたの二人しかいないんですよ」
「どうしてだ」
「みんな魔王の討伐に行ってるんですよ。手柄は欲しいですからね」
だからここには俺達しかいないということか。とりあえずは理解した。
「勝算はどれくらいだ」
「…諦めなければ勝てます」
苦笑する。具体的な数値を言うのを躊躇うくらいか。
結局これ以上手空きのパーティが来るような感じはしない。
今こうしてすぐに出られるのは本当に俺達だけなのか。
「何処へいくつもりですか?」
「誰かが言ったんだよ。ビビって勝てる訳がないってな」
足が1人でに前に進む。
前へ前へ。獲物を追い求める様に勝手に前へと歩き出していた。
「…死にますよ?援護が届く位置にいてください」
「仮に、の話だ。俺があれらを全滅させればお前は俺を信じるか」
一旦足を止めユリヤを見る。
俺なりに考えていた。こいつがどうして首1つ振って俺を信じてくれないのかを。そして答えは出たのだ。
「結局お前が俺を信じられないのって俺が嘘をついたからだよな。最初に魔法を使えないって嘘をついた…いや嘘となったのは悪いと思っている」
俺としては嘘を吐いたつもりはない。
現に俺はあんな氷の剣を作れることを知らなかったのだから。あの時までは。
今は使えるってそう理解しているけど。
「名誉挽回、といっておこうか。俺はあれをあんたと2人で全滅させよう」
「本気で言っているんですか?無理ですよ。あの量を2人で、は。多くのパーティが協力して殲滅できる量ですよ。それに貴方は最弱と呼ばれていたんですよね?」
「本気だ。最弱なのも理解している」
言いながら体を動かす。
自ずと分かってきた。そうだ。魔法が使えるなら…。
「いつも夢見てきたんだよ。全属性に適性があるこの俺に魔法が使えたならって…今まで馬鹿にしてきた奴らを見返せる。だからさ、そうやって妄想するのだけは得意だったんだよ」
いつもしてきたのは妄想だった。その点、それを現実に出来るようにあのクソ野郎が俺にこれを与えた事には感謝してやってもいいくらいだ。
空いている方の左手を前に突き出す。
方角を指定するようにそちらを見る。
周りを凍てつかせるほどの冷気が俺の体から溢れ出始めた。
「何ですかこれ…体から冷気が?」
ユリヤが驚いている。俺も驚いているくらいだ。まさか本当に使えるなんて。
『我が白刃は全てを切り裂く』
刹那俺から前方に氷の床が前方へと急速に広がっていく。
「…何て…魔力…」
『舞踊れよ。足を止めるな。俺を楽しませろ』
今俺の中にあるのは氷の上で踊るモンスターの姿ただそれだけ。
『お前達の舞を我が目に焼き付けるがいい。我が名はエリアス。お前達を支配する者。絶対なる君臨者』
周りの音は聞こえない。空気すら音すら光すら
━━━━そして、時すら凍ったかのように動かない。
いや、事実全てが凍っていた。これこそが俺の世界。この世界で俺に勝てる者は誰一人としていない。いるとすれば我が法則を否定できる者。しかしここにそいつはいない。
『凍てつけ動くな』
俺の床に少しでも触れたモンスターから瞬時に全身を凍らせていく。
思想はやがて現実となる。
思いこそが俺たちの武器なのだ。
『世界よ凍れ。そして砕けろ。━━━━永久氷界』
全てのモンスターが氷ったのを確認した後に左手を握り締め、全ての氷像を砕く。それだけを、その光景だけを強く頭の中に思い浮かべた。
そうすれば一つも残すことなく現実でも氷が砕け、パラパラと細かい欠片となり辺りに降り注ぐ。
「…あの大軍を…一撃で…」
ユリヤの顔を見るために振り向く。
「今度こそ俺は嘘をつかなかった。俺が今お前に見せられる物といえばこれくらいだ」
この背後に広がる氷の世界。それを閉じた。
消え失せる全てのもの。
散らばった氷の欠片も例外ではない。何事も無かったかのように草原が広がっていた。
「…どうして魔法を?それより…あんな魔法…初めて見ました…。あんなのデタラメ過ぎませんか?ありえないですよ…あれを無詠唱で使っちゃうなんて…すごすぎますよ…」
「何故魔法を使えるようになったのは俺も分からない。聞かないでくれ。返答に困る」
座り込んでいるユリヤに手を伸ばした。
こう見るとまだまだ子供だ。態度のせいで大人っぽく見えるが俺とそう変わらない。
「あ、ありがとうございます…」
少し顔を赤らめながら俺の手を取って立ち上がる彼女。
「最弱のエリアス…嘘ですね」
「嘘になったな」
「これだけ魔法使えたら魔王を倒せるのでは…?」
そうだな。今確信した。
俺はあいつにあいつを倒せるだけの力を埋め込まれたと。
「それも含めて後で全部話そうと思う」
とりあえず俺たちは話をまとめるためにも王都に戻ることにした。
それにあの詰め所にはまだレアたちを残している。