面倒なことになった
始めて歩く街の案内をしてもらっていた。
「でね。あそこがねー」
レアが楽しそうに説明しているのをふんふんと頷いて聞いていた。頭には残らない。
「よう。兄ちゃん。いいもん身に付けてるな」
次の店の説明に移ろうとしていたその時だった。デカい体をした男二人が俺に話しかけてきた。
「その装備俺らに売らないか?金貨1で買ってやっからよ」
豪快に笑う男2人。
「あぁ。構わない」
そんなに価値のある装備だったのだな。
「は?」
「へ?」
「え?」
「はい?」
何故かこの場にいた俺を除く4人が一斉にアホみたいな顔をした。
「流石にここじゃ脱げない。その辺の服屋に入って脱ぐからそこで買ってくれ」
探すと近くの路地の先に武具屋があるらしい。そこで個室を借りようと思い男達に声をかけて移動しようとした時。
「ちょっとあほなの?!」
レアに押し倒された俺の体は路地に倒れた。
「あほとは失礼なことを言うな」
「あほですよ!その装備値段付けられないくらいの価値があるはずなんですよ!」
大人しそうなシエルにもそう言われてしまった。
「金貨1で売るなんて馬鹿なこと言わないでよ」
「…そうだったのか。なら売れないな…」
パンパンと手で服についた埃を払いながら立ち上がる。
「なら、奪い取るまでだな」
「悪く思うなよ。これが俺らの仕事なんでな」
そう言って構えを取る二人の男。
やり合おうという訳か。
その時痛みが頭を襲った。
「づっ!」
「へ、頭痛か?眠ってろ!」
その隙を狙うかのように繰り出された突き。
それは未来予知のように出される前に理解出来た。
「当たるかよ」
痛む頭を左手で抑えながらそれを避けると右手の手刀で男を眠らせる。
「やりやがったなてめぇ!」
もう一人の男はそれを見てナイフを取り出してきた。
『使い方は自ずと分かるはずだ』
「ぐぅ!」
またひとつ声が流れた。それと同時に右手を駆け抜けた違和感。
「ここで…魔剣…だと?!お前気が狂ってる!」
右手を見ると…魔法で生み出した氷の剣を握っていた。
男は既に眠っている男の足を引きずって撤退を始めた。
「づぅ…」
頭痛はようやく収まる。
それと同時に魔剣も消えた。
「…魔法は使えないって…言ってなかった?」
レアの質問。
「知らない…今のは俺は知らない」
「それより、大変ですよ…」
「魔力の流れを感知しました。同行願います」
大通りに一人の女が姿を見せた。
「あなたでしたか…詰所で話を聞きます」
「待ってユリヤ。誤解だから」
そこにいたのはユリヤだった。その手は剣の柄を握っている。
「話は聞きますがとりあえず同行願います。そこの2人も、話を聞きますよ…?」
ユリヤに睨まれた男2人がひっと声を上げている。
しかしそれだけだった。
「話は理解しました。あの2人は調べたところ有名な盗賊パーティの一員でした。レア達の言い分は正しいと認められましたよ。しかし、これとそれは話が別です」
「…」
「どうして魔法を使ったんですか?そもそも使えないという話は何なんですか?」
「そんなの知らない。気付けば…使ってた。頭が痛くなって…体が勝手に動いて気付けばあんたがそこにいた」
「普段から頭痛はあったんですか?」
「いや、なかった」
「…それより頭痛がある中でよくあの二人を捌きましたね…並大抵のことではないですよ。何か隠してないですか?最弱の称号、というより最弱と呼ばれている貴方が正真正銘の最高レア装備を身に付けているのも気になります。全部話してくれませんか?」
そうだな、全部話してしまおうか…
「別に隠してたわけじゃない。全部話すことにする。俺はあの時魔王に殺された」
「殺された…?嘘ですよね。今生きていますし」
「いや、心臓を握り潰されて死んだはずだ。そのことは何となく分かるんだ」
「でもおかしいよねそれ、私が見つけた時のエリアスは無傷だったし、それに今生きてるし」
隣で話を聞いていたレアがそう口にした。
「…禁忌魔法に指定されていますが蘇生魔法というものがあるのは知っていますか?」
「蘇生…魔法?」
「死んでしまったものを蘇らせる魔法です。生をまっとうして亡くなった人に対する冒涜だということで禁忌魔法となっていますが。封印されたはずの魔法です。そもそも使える人が本当にいるのかどうか疑わしいほどの魔法ですが」
「それが何なんだ。誰かが使ったとでも言うのか?俺なんかのために」
「そこまでは分かりませんが、貴方が死んだという話を本当のことだとするならその可能性もあります」
「何が言いたい」
「貴方誰なんですか?」
「俺はエリアスだって言ってるだろ」
「とても信じられませんよ。私の知っている最弱のエリアスは魔法を使えません。死ねばそのままです」
「そんなもの知らないよ…俺も何が起きたか分からないんだから」
「ふざけないで答えてくれませんか?」
「だから知らないって言ってんだろうが!」
机をぶん殴って立ち上がる。椅子は勢い余って倒れた。
「散々なんだよ。もう嫌なんだよ!どうしてそうやって俺ばっか責めるんだよ!」
「落ち着いてください。私は確認しているだけです。貴方を信じるために」
「エリアス落ち着いて、ユリヤは貴方にかかっている疑惑を晴らそうとしてるだけ」
「晴らそうも何も俺の言うこと信じてくれないじゃないか!」
「証拠を見せてください」
「何のだよ」
「あなたの言い分が正しいという証拠。それがあれば誰も何も言えません」
「証拠たって…」
何をどうしたらいいんだよ…何から触れていいか分からない…。
その時だった。
「団長!軍団長!」
「何ですか騒々しい」
詰所の扉が開かれた。
「モンスターが…こちらへ向かっています」
「モンスターが?そんなものそこらのパーティにでも任せておいてください」
「それが…推定1000程いて…」
「今、何と?」
「種類はごちゃまぜで1000程います」
「…私も出ます。全衛兵、それから手空きのパーティは応援に来てくれるよう募集をお願いします」
厳しい顔でそう手短く言うと扉に向かうユリヤ。
「俺は放置か?」
「あなたも来て貰えますか?レアとシエルはここで待機を」
「…分かったよ」
面倒なことになったな。