魔王が超すごい装備をくれたらしい
レアが何か持ってきてくれるまでおとなしく待っていた。
「大したものじゃないけどどうぞ」
「いや、大したものだ」
「皮肉?」
「そんなつもりはない」
手を合わせてから彼女が持ってきてくれたものを口に放り込む。
何日も何も口にしていない俺の体はただ貪欲に目の前の食べ物を次から次に取り込む。
ただの機械となっていた。
「そうやって食べてくれると嬉しいなぁ」
頬杖をついてニコニコしているレア。
「ごちそうさま。美味しかったよ」
「お粗末さま」
そう言って皿を下げる彼女。
しかしすぐに戻ってきた。
「忘れてた。これなんだけど」
戻ってきた時には今まで持っていなかった紙をその手に持っていた。
「それは?」
「いや、分からない。エリアスのかなって」
「俺の?」
「うん。エリアスを運んできた時ポロッとポケットから落ちたんだよね」
そう言って俺に渡してくる彼女。何回かに折られた紙だった。
「開けても?」
「どうぞ。エリアスのだしね」
俺に覚えはないがそう言うのなら開けてみよう。
「…」
左下の文字を読んだ途端破りたくなった。
どこまでコケにすれば気が済むのだあいつは。
「見ていい?」
そう言いながら覗き込んでくるレア。返事をする暇もなかったが、見られて困るものじゃない。
「これ魔王よりってどういうこと?」
「分からない」
「それよりこの…灼炎って…?」
「神刀だろうな」
神刀【灼炎】。
神が作ったと一部で言われるほどの神々しさを持った業物だそうだ。
「馬鹿にしてんのか…何なのか…」
ご丁寧にそれの在り処が書かれていた。
「…」
ベッドの横に置かれてあった自分の装備を身につける。
「ちょちょっと?もしかして取りに行くつもり?」
「そうだ」
「罠かもしれないんだよ?」
「罠だろうがなんだろうが俺にはこれしかない。魔法を使えない最弱の俺がアイツを倒せる勝ち筋を作るなら最強の武器に最強の防具が必要だ」
そう答えて扉に向かって歩く。
自分から行くつもりはないがあいつはしつこそうだ。持っていて無駄になることもないだろう。
「もう…分かったからちょっと待ってよ」
俺の腰のベルトを引っ張って必死に止めようとするレア。
俺を見る彼女。
「ちょっと待って、仲間紹介するから。それからこの王都を適当に案内してから…明日にそこ行こう?一人で行っちゃだめだよ。最弱がいけるような場所なの?」
「…それは」
「もっと頼ってくれてもいいんだよ?」
「…なら今回は頼ることにする。計画に関しても明日の出発で構わない」
そう答えると嬉しそうな顔をするレア。
何が嬉しいんだか…
「だが灼炎は俺のものだ。渡さない」
「別にいいよ。でも…どうしてそんなに魔王に固執してるの?」
「…あいつに散々ボコボコにされて舐められて…黙ってられないから。あとあいつが俺のところに来るかもしれないからだ」
あいつは…許したくない。俺がこの手で捻り潰したい。そう思わせる何かがあった。
「でも仕方なく無い?勇者もボコボコにされるくらいなんだから…エリアスじゃ仕方ないよ」
「…それは…理解できるけど…でも許せないんだ」
「分かったからとりあえず落ち着いて?灼炎は取りに行くから。でもとりあえず落ち着いてよ」
「…わかった。落ち着いているから黙ることにする。それで構わないだろう?」
結局俺が情けなく喚いてるだけだからそうやって落ち着いていないように見えるんだろう。
「まぁ、いいけど」
「それより…その前に話を聞かせてくれないか?あんたは誰なんだ」
「さっきも言ったよね?レア。レア・ヴィンテージ」
「そういうことが聞きたいんじゃなくてあんたは何をしてる人なんだってことだ」
俺がそう口にすると顔を赤くするレア。
「う、うるさいわね。ちょっと勘違いしただけじゃない!勘違いしないでよ!」
「…怒らせたなら謝ろう。それであんたは誰なのか」
「私はパーティのリーダーしてるよ」
「パーティ?あんた勇者なのか?」
首を横に振る彼女。
「そんな大層なもんじゃないよ。まだまだ半人前のパーティ」
「そうなのか」
「エリアスこそ何なの?」
「俺はただの最弱だ。職業として最弱をやっていた」
「何それ」
「ただ馬鹿にされるだけの職業だ。一銭にもならないがね」
「…ごめん…」
「気にするなよ」
「うん」
「それよりあんたの仲間とやらを紹介して欲しい」
「あ、ごめん。そういう話だったよね」
「こ、こんにちは…」
挨拶すると直ぐにドアを閉めて部屋の中に戻る少女。
何なのだ。
「ちょ、ちょっとレア〜人がいるならちゃんと言ってよ〜」
情けない声がドア越しに聞こえてくる。
「だってこの人がすぐ案内せよって言うんだもん」
「せよとは言っていないが?」
「揚げ足取らないで」
「…悪かったな」
「そういえばそれさ」
彼女が俺の服を指さしてきた。
「…やっぱり、そうだ。それ最高レアの装備だよね?図鑑で見た事あるよ」
「そうなのか?」
「うん。まさかエリアスが着てるわけないかなって思って気にしてなかったけどやっぱりそうだよ。脱がせる時もそうかなぁって思ったけどやっぱり違うかなって」
しかし俺はそんな装備を持っていた記憶はない。
「いや、服が変わってるな…」
「え?」
「俺が倒れた時こんな服は着ていなかった」
「何それ…じゃあ誰かが着せ替えたって言うの?」
「…そうとしか考えられないな」
俺としても不思議な話だがこんな綺麗な服は持っていない。
見たこともないから誰かが俺に着せた。そうとしか考えられない。
そしてその相手は大体分かる。あの腐れ魔王だろうな。
「ここ来るまでに鑑定士がチラチラ見てるなって思ったけど…やっと分かったよ。それのせいだ」
「お待たせしましたー」
そうやって話しているとドアが開いて中からさっきの少女がでてきた。
そして俺の顔を見て目を丸くした。
「あのー?さっきチラッと見えた時も思ったんですけどその服って…やっぱり…」
「多分そうだよ」
レアが少女にそう言った。
「…そんなの着てるってやっぱ凄い人なんですよね?」
「いや、ただの最弱だ。気にしてくれるな。むしろ身の丈にあっていないと笑ってくれ」
「いや、笑えないですよ…」
そう言われてしまった。本当に大したやつではないのだがな。まぁいい。一先ず自己紹介しとこうか。
「俺はエリアス。よろしくな」
「私はシエルです」
「とりあえず王都の案内といきましょうか」
そう言って歩き始めるレアに俺も続く。