魔王はここに眠った
ホールの真ん中には階段があり途中の踊り場から左右に更に階段が続いていた。
よくある王城の階段の形だった。
「間違いない。あそこにあいつがいる」
「いよいよ…魔王に会えるんだね」
後ろの奴らが二階にある部屋を指さしている。
「…」
俺は先陣を切って階段を登り両開きの大きな扉に手をかけた。
その先はダンスホールなのか横にも縦にも広く大きな部屋があった。
「グランアーシェ…」
そしてその真ん中には燃えるような赤髪を振りながらこちらを見る魔王の姿。
「中々早かったな。エリアス」
「待ちわびてたんだろ?来てやったぞ」
灼炎を抜く。
これがあれば…奴に手が届く。
「魔王!今日こそお前を倒し世界に平和を取り戻すぞ!」
後ろからの声。奴らが今走り出す。魔王に向けて。
「甘い」
しかし奴にはどんな魔法もどんな攻撃も通らなかった。
「馬鹿な…」
呟く人間。
俺が前に出ることにした。
「燃え尽きろ…!」
守りの薄そうな首を狙って突き上げるように振るうこの刃。
しかしそれは届かない。
「甘いわ!」
それを外した隙を着くように飛んできた鋭い蹴り。
「…づぅ!」
こめかみから血が流れでる。
流石と言うべきか…今までの敵とは違う格の差を見せつけられる。
「…本気でいかなきゃやばそうだな」
奴を氷漬けにするために室内を氷で包み込む。
俺の許可していない者の存在は許さない結界。
その氷の床や壁から伸びる腕がやつを捕まえるために追いすがる。
「逃げんなぁ!」
そしてその回避先を塞ぐように氷の壁を床、壁、天井どこからでも突き出し奴の動きを阻害する。
「ちぃ!」
そのお陰もあって奴はひとつにぶつかるとそのまま地に落ちる。
しかし
「…!」
態勢を一瞬で整えると俺に向かって飛び込んできた。
拳に火を纏い掌打を打ち込んでこようとした。それを避けて一旦距離を取りながら灼炎の先から火を飛ばす。
「燃えろ!」
「…!」
それはやばいと感じたのかサイドステップで避ける魔王。
しかし甘かったな。
「その先には罠がある!」
氷の腕に捕まれ身動きが取れなくなる魔王。
「…終わりだ」
それに一瞬で近付き灼炎の切っ先を喉元に突きつける。
「…俺の負けだな。お遊びが過ぎた」
両手を上げ嗤う魔王。
「降参だ。早くトドメでも刺すがいい」
「聞きたいことがある。これで蘇りはなしか?」
「どうだろうな。俺にも分からない」
「どういうことだ…?」
「━━━━」
何を言ったかは何故か聞き取れなかった。
「…嘘…だろ…」
魔王は自分で剣を生み出すとそれで喉を掻っ切っていた。
「…」
何も話さない魔王。口すらも動かずその場に突っ伏して砂のように消えていくその体。
「…」
とりあえずは終わったのか?
警戒しながらも人間軍の元へ向かう。
「手柄はお前達のものにしておけ」
「いいんですか?」
「俺は何もいらない」
「名前を教えてくれませんか?」
さっき骨折していた女が俺の袖を引っ張って聞いてきた。
話したところで誰も信じないだろうが。
「最弱のエリアス。俺の名だ」
その女の耳元で囁くと俺は王城を後にした。
俺が帰ってしばらくすると凱旋があった。勿論俺のものではないが。
きちんと自分たちで倒したことにしてくれたようで良かった。
「どこ行ってたのよ!」
しかし、帰るなり俺を怒鳴る声があった。
泣きそうな顔で瞳をウルウルとさせているレアだった。その彼女が俺を見上げている。
「…世界を救いにな」
「どういうこと?」
ベティが不思議そうな顔をして聞いてくる。
「世界を救ってきたんだよ」
窓の外から見える凱旋に目をやると彼女も自然と俺と同じものを見た。
「あぁ、なるほどね」
結果きちんと納得してくれたようだ。
「でも、ちゃんと謝罪は欲しいよね。何私たちを心配させてるのよ」
怒鳴ってくるレア。
「心配してくれたのか?」
「そりゃ…もうするよ…」
俯いて顔を赤くしたと思ったら両手の人差し指を合わせてツンツンしている。
「ありがとな…」
呟いてそんな彼女の頭を撫でる。
「…エリアスのためじゃないんだから…」
シューっと更に俯くレア。
それを見ていたら悪いが少し笑ってしまった。
「貴方のためじゃないから…礼を言うのは筋違いっていうか…」
「分かったよ」
「分からないでよ」
「どっちだよ…」
それを見てクスッと笑うベティとシエル。
「ほら笑われてるぞ」
「うぅ…」
顔を赤くして頭を抱えるレア。
「…好きな人が急にいなくなって心配するのがそんなに悪い?!」
「好きな人?」
言っちゃ不味かったことなのか口を抑えるレア。
「…盛大に言っちゃいましたね…」
「だね…」
シエルもベティも顔を赤くしている。
「ごめん…私なんか…嫌だよね…」
「何でそう思うんだ?」
「ガサツだし…猪だし…弱いし…足引っ張るし…エリアスには釣り合わないよね…」
「俺はそうやって自分のダメなとこ理解出来る奴は凄いと思うよ」
目を見開く彼女。
「自分の欠点を認めるのは嫌だし怖いことだ。でもレアはそれが出来てる。俺は…そういう奴は信頼できると思ってるよ猪隊長」
そう言って頭に手を載せた。
「じゃあ…」
顔を上げて喜んだような顔をするレア。
「1つ聞きたいんだがレアは思いを伝えて俺にどうして欲しいんだ?」
「性格悪…」
ベティが俺を鬼畜を見るような目で見てきた。
「…もう色々グルグルしてるけどエリアスが好き…」
「そりゃグルグルしてるな。俺もレアの事好きだよ」
「じゃあ…」
パーっと輝くレアの顔。
「…エリアス私も好きです」
「私も…」
何故か便乗してきたシエルとベティ。
「ちょっと二人とも?」
「俺も2人のこと好きだよ」
レアはそんなことを言っているが俺もちゃんと返事をしておく。
「何目の前で浮気してるのかな?」
「浮気ではない。浮ついている訳では無いのだから」
「…でも…エリアスっぽいよね」
その言葉を聞いてクスッと笑うレア。釣られてシエル達も笑っていた。
「でもどうして俺なんだ?」
「…あの時私を助けようとしてくれたの…すごくかっこよかったから」
レアは昨日のことを話しているらしい。
「私はダンジョンで助けてくれた時」
「私は気付いたら…です」
ま、なんにせよ好きになってくれるならうれしい話だ。
「ま、魔王は倒したことだしこれからは楽しく生きていこうぜ。皆でな」
「そうだね」
「うん」
「はい」
3人が各々の返事を返してくれた。
そう。魔王は既に倒れたのだ。この俺が倒してしまった。
空は快晴。
それは俺達の未来派これからも明るい。そう言ってくれているような青さだった。
ここまでお付き合いくださってありがとうございます。
これで完結です。




