魔王を倒す決意
俺達はきちんと祝賀会とやらを回ることにしていた。
「エリアス射的とか出来るの?」
「…いや、出来ないぞ」
ベティの質問に答えながら玩具の銃を構えた。
「ほらな」
しかしそれはやはりと言うか狙いの物に当たらないどころか何にも当たらなかった。
「残念だな兄ちゃんまた挑戦してくれや」
店主にそう言われたし違う店に行くことにする。
「あーあれやりたい」
「ん?」
レアの指差す方を見るとボールが浮かんだ水を張ってある箱があった。
客を見ているとどうやらあの箱の中からボールを紙で掬い出す遊びらしい。
「あんなんが好きなんだな…」
「何よその顔」
顔を赤くしてみてくるレア。
「どうせ子供っぽいとか思ってるんでしょ」
「思ってな…」
「思ってるんでしょ。いいもーん。エリアスのばーか」
言いたいこと言ってシエルの手を引いて行ってしまうレア。
見ていると2人で遊び始めた。
「とりあえず待つか」
「そうだね」
ベティと2人でレア達が遊び終わるのを待つことにする。
「レアっていつもあんな感じなの?」
「大体な。めちゃくちゃな事言って俺を困らせてくれるよ有難いことに」
よくあんなことを言って俺を振り回してくれるな。
「本人に言ってあげれば喜ぶよ?」
そう言われたがそれだけは死んでも言えない気がするな。
「死んでも言えないな」
「エリアスって結構皮肉屋?」
「いや、別に人並みに言うくらいでそんな頻繁に言う方でもないぞ」
「でも結構キレッキレの皮肉言いそうな感じある」
「何だよそれ」
軽く笑う。そんなこと言われたの初めてだな。
「えーそう言われない?」
「言われたことは無いな」
「意外だ」
2人でそんなことを話していた。
レアが遊び終わって戻ってきたので三人で話していた。
「失礼。酒場はどこかな?」
そんな時赤髪の女に声をかけられた。
ストレートの髪をそのまま真っ直ぐに下ろした女性だった。
「そこ行って直ぐだが」
近くにあるんだがな、そう思いながら返答した。
「すまない。案内してもらえないだろうか?」
俺の説明が分からなかったのだろうか。また聞き返されるのも面倒なんで行くことにしようか。
「…まぁ、いいけど」
「助かるよ。ありがとう」
「レア達はここで待っていてくれるか?」
何も言わない3人にそう告げて俺は女を案内することにした。
「あれって…」
エリアスの去った後レア達は話し合う。
「間違いないです。あれは…魔王…」
「でも、何でここに」
そのまま全身から力が抜けて座り込んでしまうベティ。
幸いだったのはそこにベンチがあったからか。
「それより早く知らせないと…」
「ごめんなさい…恐怖で足が…」
「私…行ってくる…エリアスが…」
レアは1人でエリアスの後を追うことにした。
恐怖に竦む足を無理やり動かして躓きそうになりながらも必死に進む。
「こんなものか…」
暫く走ったところで脇道からさっきの女…いや、男がでてきた。
そして、気付いた時には遅かった。
「レ…ア…?」
酒場に案内していたはずの俺は猫が見えたから見たいと言った女に誘われるようにこの通路に進んだ。その結果…臓器を握りつぶされたようだった。
…体温が下がり体が死に向かっている中赤く染った視界の中で彼女だけははっきりと見えた。
「うぅ…」
「そこで見ていろ。勇者。守りたいものほど守れないという貴様の宿業。貴様の呪い」
女…魔王はその左手でレアの首を掴み壁に押し当てていた。
右手には氷の刀。
「くそ…」
無駄だって分かりながらも諦められるわけが無い。
這いずって2人の近くに向かう。
「その子を…離せ…」
「エリ…アス…」
俺の届くはずもなく伸ばした手を取るようにレアも伸ばしてくれた。
「あの世で繋げ」
瞬間レアの胸部に突き立てられたその凶器。
それは一瞬にして引き抜かれた。
ゴミのように打ち捨てられる彼女の体。
「…貴様を…殺す…」
覇気のない怒りが込み上げてくる。
「まだ立ち上がれるというのなら旧王城で待っている」
そんな俺にそう告げてこの通路から姿を消す魔王。
残るのは這いつくばった俺と同じく這いつくばったレア。
体が…冷たい…空気が…凍りそうなくらい冷たい。
「…俺の旅路は…終わり…なの…か…?」
何が最強だ。
何が最弱だ。
俺は…何にもできないのかよ…。
「くそ…」
最期は声も出ないまま息を引き取った。
「…あれ…」
血まみれになった石畳の上で寝転がっていた俺。
立ち上がって辺りを見回す。
「…そうだ…」
前を見る。
「あ…あぁ…」
自分が何故立ち上がれるかなんてどうでもいい。
何故傷が塞がっているかなんてどうでもいい。
あの後何が起きたのかなんてどうでもいい。
「レ…ア」
声が出ない。
それでも無理やり絞り出して俺を救ってくれた彼女の下に走ってから膝を着いて頭を抱き抱えた。
「…レア…?」
瞳を閉じて眠るように俺の腕の中で横たわる彼女。
「なぁ…笑ってくれよ…あの時みたいに…さぁ…」
初めて…涙を流した。
「あれ…何で…」
零れ落ちる涙は止まらない。
「馬鹿だって言ってくれ…馬鹿だって…言ってくれ…頼むから…その口を開けてくれ…」
「エリアス…馬鹿だよね…」
声が聞こえた気がしてレアの顔を見た。でも…その口は閉じたままだった。
「何で…俺だけ置いていくんだよ…」
その細い手を取った。
「何で…どうして…お前が…」
あぁ、決めたよ。俺はお前を許さない。
「グランアーシェ…貴様は俺がぶっ殺す…」
一筋の涙が零れ落ちた。
それがそのまま落ちてレアの頬に当たる。
「俺は…お前ともっと生きていたかった。初めて…俺を認めてくれた人。初めて俺に生きる意味を与えてくれた人。初めて…一緒にいたいと心の底から思えた人…」
勝手に置いていくな…
「お前は…嫌でも俺の横にいてもらう…」
そうだ。俺ならできるはずだ。
レアの胸に手を当てた。
『…生き返ってくれ…』
瞬間彼女の体が光を放った。
「…」
その光の中で時間が巻きもどるようにレアの体に着いた傷が癒えていく。
そして…やがて
「あれ…エリアス…?なんで泣いてるの?」
「…」
黙って抱きしめた。
「え、ちょっと…?」
「良かった…良かった…」
「泣き虫だよね…」
俺を抱き締め返してくれるレアの手が何よりも暖かかった。
レアと2人俺の部屋にいた。
「エリアスの魔法すごいね」
「…俺もまさか蘇生まで出来るとは思わなかった」
時間を巻き戻すようにレアを救うことが出来た。
これ以上ない。いい事だった。
嬉しかった。
「俺が誰かを助けられるなんて…考えたことも無かったな」
「ありがとうね…」
俺の胸に手と顔を当ててくるレア。
「俺がしたかったから…願っただけだ」
いきなりのことに照れを隠すように顔をそむけた。
「俺は…まだレアと一緒にいたいってそう思ったから」
「そう思ってくれてるの?」
「…俺を救ってくれたこと忘れはしない。まだ恩を返せていない」
「違うよ。もう返してもらったよ」
「…俺はそれでも納得出来ないから」
「なら、これからいっぱい返してもらおっかな」
顔を赤くしてそう言った彼女。
「あぁ。俺も頑張って返すよ」
「待ってるから」
「あぁ。待っていてくれ。この命救ってくれたことを忘れはしない」
俺は今日理解した。これが何かを好きになるという気持ち。
それから堪えきれないほどの憎悪を。
俺はあいつを倒す。




