祝賀会が開かれるみたいだ
王城を後にした俺たちは夜の街を歩いていた。
シドも俺の返事を聞いても特に気を悪くしたような感じでもなかった。特に関係が悪くなることもないように思える。
「馬鹿だよね…エリアス」
「馬鹿で構わない。元々俺は馬鹿な訳だしな」
街にある小さな橋の背もたれに背を預けて答える。
隣のレアは逆に橋の下に広がる水面を眺めていた。
「何で…私なんか選んじゃったの?どう考えても側近になった方がいいじゃん」
そんなことを言っているが俺の答えはずっと決まっている。この人と一緒にいたいって決めている。俺を助けてくれたのだから裏切りたくはない。
「あんたにはまだ借りを返せてない。俺を拾ってくれたこと。世話になったこと。もろもろまだ何も返せていない」
「そんなの…大したことじゃないのに」
「あんたにとって大したことじゃなくても俺は嬉しかった。俺みたいななんの取り柄も無い最弱を連れ帰って看病してくれて…どれだけ嬉しかったか分かるか?」
「分かんないよ…」
そう口にしながら横目に映った瞳から涙を流していた。
「泣くなよ」
頭を撫でる。
「泣いてなんかないもん…」
「ただ黙って笑ってろ。あんたに泣き顔は似合わない」
空を見上げる。そうだな。これくらい曇りのない笑顔。それが一番君には似合うはずだ。
「何で…そういう時は優しいのよ…」
「俺は鬼じゃない。弱ってるやつを更に叩き潰すような真似はしない」
「何かムカつく」
そう言うと手をかけていた欄干から手を離した彼女は俺の前に立った。
そのまま顔を真っ赤にして俺の肩を両手で押すレア。
「おい…」
数秒後俺の体は背中側から水面に叩きつけられていた。
何とか水中に沈んだ体を水面に出し呼吸する。
塗れた髪を後ろに流し橋を見た。
「ばーか」
そう言いながら自分も飛び込んでくる隊長。
「冷た…」
飛び込んで顔を出した最初の一声がそれだった。
「…何やってんだよ。そりゃ冷たいに決まってる」
「エリアスが馬鹿なのが悪いから」
「俺のせいかよ」
「…」
ぎゅっと俺に抱きついてきたレア。
「甘えたい年頃か?」
「…こうしていたくなっただけ」
「何でもいいけど…このままだと風邪引くぞ??」
「一緒に引けばいい」
「あほか…」
「あほでいいもん…」
目をうるうるさせながら俺を見てくるレア。
「…俺はあほになりたくないからな」
そう口にして移動を始める。本当に風邪を引いてしまう。
「…ほら」
先に陸に上がるとまだ入っているレアに手を差し伸べる。
「感謝なんてしないから」
「あぁ、しなくて構わないよ」
答えながら引き上げる。
「みんな待ってるし戻ろうぜ」
「…うん」
「祝賀会行われてるみたいですよ」
レアと共に戻るとシエルがそう言ってきた。
濡れた分は魔法で乾かした。攻撃するようなものじゃないし大丈夫だろう。実際誰も来なかったから見逃されたのだろう。
「そうなんだな」
「それがどうかしたの?」
俺とレアはほぼ同時に口を開いてお互いに顔を見合わせた。
何故か2人して少し笑う。
「エリアスと行きたいと思って…」
もじもじしてそう口にしたシエル。
「俺と?つまらんぞ。レアやベティと行くといい」
「いえ、エリアスがいいんです」
「なら私も行きたーい」
ベティもそう乗ってくる。
「なら、猪隊長も呼んでみんなで行くことにするか」
「誰が猪って?」
相変わらず顔だけは笑っているレアだった。
「だいたいエリアスが突っ込みすぎるから…」
レアがそう口にした。俺も言いたいことはないでもないがそういうことにしておこう。
「突っ込みすぎる…?」
「どうしたの?」
それを聞いて何故か顔を赤くするベティ。
「突っ込みすぎるって…何を?」
「俺が突っ込みすぎるってこと言いたいんだろ」
「そうなの。エリアスったらすぐ突っ込んで暴れるから」
「突っ込んで暴れるんですか?」
シエルも顔を下に向けた。何なんだ。
「エリアスは突っ込むことしか能にないからちゃんと理解してあげないとだめだよ」
「は、はい」
「分かった」
シエルもベティも慎重な顔つきで頷いている。
「それほど突っ込まないからそう心配することでもないと思うけどな」
とはいえ俺自身そんなに突っ込んでいる自覚はない。
まだ積極的の域だろう。
「ほんとに?」
「ほんとだ」
ベティの質問に答える。
俺をもっと信じてもいいぞ。
「まぁいい。それより行くのか行かないのか」
「行くもん」
レアに聞いたところきちんと行くという返事を貰えた。
「魔王が倒されたって本当なのか?」
「あのユリヤ様が実際に倒れるとこを見たらしいぜ」
色々と話が聞こえてくる。
俺の名前は上がらずシドやユリヤの名前は聞こえてくる。
2人はかなり信頼されているらしいな。
「倒したのエリアスなのにね」
隣で不満そうな顔をしているレア。
「俺がそれを望んだから仕方がない」
「お、最弱。王都に来てるってのは聞いたけどほんとにいたんだな」
知らない奴が声をかけてきた。
「お前村にいたんだろ?魔王ってどんな奴だったんだ?」
どうやら俺があの村にいたことは広まっているらしい。
しかし俺が倒したことは広まっていないようで良かった。
「…さぁな。俺はすぐ寝ていて見ていないから知らない」
「ま、最弱ならそんなもんだよな」
笑って俺から離れるそいつ。
「…酷いですね。エリアスはあれから休めてないのに…」
「シエルがそんな顔する必要は無い。気にしていないし」
「無理しなくていいんですよ?」
「そうだよ」
シエルとベティがそう言ってくれる。
「無理しているわけじゃないんだけどな」
今となってはもう何も感じない。
何を思って何を願ったところで失ったものが返ってくる訳じゃない。
「俺はお前達がいればそれでいい」
「え?」
「はい?」
「ん?」
3人が口を開けて驚いている。
「どうしたんだ?」
「どうしたんだ、じゃなくて、それってどういう意味?」
「そのままの意味だ。お前達がいてくれるなら、それで構わない。それ以外に興味はない」
「…」
俯いてしまう3人。その顔が赤いのが気になったが何でなんだろう。
それよりも早く祭りとやらを見てみたい気持ちもある。
「よく分からんが屋台、回らないのか?」
「そ、そうだね」
レアに続いて残り2人も各々返事をくれる。
それを聞いて俺達はこの祝賀会に出店された露天を回ることにした。




