王の右腕になることを断った
「ほう」
俺の体は気付けば動いていた。
「エリアス…?」
「隊長は渡さねぇ…」
「お前を滅亡に導く隊長だとしてもか?」
「知るかよそんなもん。俺が着いてくって決めたんだ。つべこべ抜かしてんじゃねぇぞクソが!」
目にも止まらぬ灼炎の刺突。
それが…奴の胸を貫くことは無かった。
そしてお返しと言わんばかりの一撃。
それだけは俺の胸に入る。
「痛くねぇよ…」
地面を滑りながらも踵で勢いを殺す。
「…」
ふと気付いた。
俺の横に刀が地面に突き刺さっているのを。それを引き抜く。
「ぐぁぁぁ!!!」
多少の痛み。しかしそれは直ぐに終わった。
『適合確認。目の前の敵を掃討してください』
「そいつにも気に入られるとは面白い男だなお前は」
魔王が何やら話しているが知ったことではない。
体が動くならばやることは1つ。
跳べ!跳べ!跳べ!
俺に出来ることなんてそれだけだろうが。
「くたばりがれ!」
左手の灼炎を振り下ろす。
しかし…奴が避けたその隙を突くように右手の刃を差し出した。
「…ごふっ…」
柔い何かを突き刺すように奥まで突き刺さったこの刃。
直ぐに刃を引き抜くと今度は狙いを首に定めた
「これで…終わりだ…」
一撃だ。
一撃。
「…今度こそ終わりか…」
呟きながら崩れ落ちる魔王の体。
「偽物じゃないんだろ」
「…どうだろうな」
仰向けで倒れて天へと天を拝む奴の顔。
「くくく、ふふふ…」
「気色悪い声出して何なんだよ」
「いや、久しぶりに胸踊る戦いが出来たなと思っただけだ」
「そうかよ。地獄で永遠に戦ってろ」
「お前は強いなエリアス。流石俺の認めた男だ」
「…お前に認められたくなんてない」
刀を振り上げる。
「今更命乞いなどせんよ。存分にやれ」
「なら死ね」
「これは…」
ユリヤと他数人が俺達とあの場所で合流した。
「レア、ここは立ち入り禁止だと伝えていたはずですよね?」
「…ごめん」
「俺が連れてきてくれってそう言ったんだ。責めないでやってくれ」
知らなかったとはいえそれなら悪い事をしたな。
「でもまぁ…全員無事でよかったです。エリアスは何故か…あの伝説の装備に穴が空いてますけど」
「魔王に開けられたものだ」
「それでも勝ったんですよね?」
「あぁ」
「その装備に穴を開けられるなんて流石と言うべきか…どうなんでしょうかね」
苦笑するユリヤ。
「そんなに硬いのか?」
「はい。硬いですよ。普通の魔法使いでは一生かかっても傷一つつけらないと言われています。そんなに薄いのにですよ」
「…そんなもの着てたんだな」
「自覚なかったんですか?」
「ないよ」
「エリアスらしいですね。それより討伐ありがとうございます」
「俺もこいつにはムカついていたところだ。むしろ、自分の手でやれてよかったと思ってる」
「最強はお気に召さないんですか?」
「今更なってもな、という感じだ。もう長い間最弱だったからこそその感覚が抜けないしな。むしろ最弱だったことでトラブルもなかったしな」
俺を馬鹿にするやつがいたけどそれくらいだ。
「初めから最強なら少しは変わっただろうが」
自分の手を開いて見つめる。
「ずっと最弱だったから、そう言われてたからさ、はい、あなたが最強ですって言われても実感なんて湧かないんだよ。ま、いいや。こいつの体はどうするんだ?」
「二度と復活できないように封印か消滅、どちらかを行うつもりです」
「なら俺がやろうか?」
さっきは出来た。なら今回もできるだろう。
右掌を奴に向ける。
「お願いします」
頷いて魔王の体を燃やす。
「…もう帰ってくんな。迷惑だ」
今度こそ燃え上がり天に登る奴の灰を見送る。
「さ、行こうぜ」
「そうですね」
「魔王を倒した…くくく、ふははは流石勇者だな」
目の前でシドが腹を抱えている。
「何はともあれよくやった。褒美を取らせよう」
玉座に座りながら王はその下僕であるアーロイに声をかけた。
「受け取れ。世界を救った報酬だ」
声をかけられた彼は真顔で近付いてくると俺に皮袋を渡してきた。
「凱旋は興味ないか?貴様はただ歩いて帰ってきただけ世界を救った勇者がそれでは締まらない」
「いや、構わない。そういうのは好きじゃない」
「力を誇示しない…か、それもまた良い選択だ。悪くない」
顔を抑えて笑い声を上げるシド。
それを聞いて俺の横に来るレア。
「馬鹿じゃないの?」
「何が馬鹿なのだ」
「いや、だってエリアスの凱旋なんて見たらみんな見返せるよ?」
「別にどうでもいい。名を売りたい訳でもないし。俺はただ今まで通りの日常があればそれでいい」
「多くを望まぬ謙虚な勇者か。気に入った。俺の右腕にしてやろう」
くくくと笑う王。
「…」
しかし反対にレアは顔を下に向けた。
「そっか…エリアスにはもう…私たちと一緒にいる意味ないもんね…」
「…」
「分かってたよ…。あそこ攻略したら別れなくちゃいけないこと」
「王が珍しく謝罪しよう女。お前の剣を奪って悪い、とな」
そう告げた王の顔を見るレア。
「仕方ないことなんですよね。私なんかと一緒にいるより王様の隣にいた方が絶対いいですし」
「分かってもらえているようで嬉しいよ。アーロイ」
呼ばれたアーロイが俺に紙を渡してきた。
「サインをすればお前は晴れて王の側近だ」
「なるほどな」
俺が紙を受け取ると下がるアーロイ。
「よく分からないけど俺抜きで話を進めないでくれ。お断りだ」
そう言って紙を真っ二つに引き裂き床に落とした。
静まり返るこの部屋。
「くくく…ふははは…まさか。破かれるとはな」
最初に音を出したのはシド王だった。
「…え?」
隣のレアは口を開けて俺を見ていた。
「あんたの泣き顔は見たくなかった。それだけだ」
「…」
「これが俺の答えだシド王。悪いがあんただけの右腕になるつもりはない。それに俺みたいな何の変哲もない最弱が右腕だとあんたの名まで地に落ちるだろう」
そう答えるとレアの手を取る。
「って訳だ。悪いな。それに俺はこの特攻することしか能のない隊長のお守りも任されてるんでな。悪いがパスということで」
「それが貴様の答えか。ならばよし。俺は去るものは追わん」
「悪いな」
もう一度謝罪してから王の間を退室する。
「最後にひとついいか勇者」
「何だ?」
その足を止め振り向いて返す。
「何かあれば依頼は頼んでもいいか」
「構わない」
そう返し手を振りながら今度こそ退室する。




