防衛線は一発で終了した
ユリヤの案内で最前線まで来た俺たちはそこで信じられないものを見た。
「に、逃げろ…」
ジェクスの震えた声。それが俺の耳に聞こえた。
「…これは…」
「グルゥゥゥゥ…」
砦を抜けた先。草原に広がっていたのは想像を絶する光景だった。
強いと言われていたジェクス達のパーティメンバーが全員這いつくばっていた。
一応モンスターも少しは倒せたのか何百体かの死体も転がっていた。
それでも総数を考えればほとんど倒せていないという状況だが。
「ギャァァァァ!!!!!!」
天を向いて鳴き声を上げるドラゴン。それが3体はいた。
他は雑魚モンスターなのに彼らが負けたのは…こいつらの存在だろう。
「━━━━永遠氷界」
迷わずに魔法を使った。
俺の足元から広がっていく氷の世界。それは人間は巻き込まずにモンスターだけを狙って凍らせていく。
「…何て魔力…」
ユリヤの呟き。
しばらくすると見渡す限り全てが氷った世界が目に入った。
そこではドラゴンすら例外ではなく凍っている。
「━━━━砕けろ」
開いていた手を握りしめ氷の世界を砕く。
「冗談…だろ…」
ジェクスも初めてそれを見て目を見開いていた。
そういえばユリヤにも始めこんな反応をされたな。自分の特異さがよく分かるものだ。
「ありえない…何なんだよ…この魔法は…」
「ユリヤ達はジェクス達を運んでやってくれ。俺は残党が残っていないか見てから戻る」
「は、はい!」
勢いよく答えたユリヤ達を信じて俺は感覚を研ぎ澄ませてみた。
しかしこの辺りにはもう何も残っていない。
「戻ろう」
「…残党は?」
「いない」
「もう調べたんですか?!」
驚くユリヤ。それにしてもいちいち驚くなこいつは。
「終わった。いちいち驚かないでくれ大したことではない」
「…予想以上の化け物だな…最弱…」
咳をしながらそう呟いたジェクス。
「喋らないでください。傷が開きますよ」
「いや、これが喋らずにいられるかよ…」
「そうやって口を開けている間は問題ないだろう」
「そういうこった」
「にしても…意外と早く終わったな」
魔力を温存しておこうか迷ったがこれ以上の攻撃はなさそうだしそもそも底が見えないくらいの魔力があるし使っておこう。
指を振るう。
その瞬間緑の波紋が広がりそれに触れた奴らからその身に負った傷を癒していく。
「これは…治癒魔法…しかも無詠唱で…かよ」
「そうですよ。言いましたよね。エリアスは間違いなく最強を狙える存在だ、と」
「最弱で構わんがな」
そう呟きながらユリヤの横に並ぶ。
「一先ずはこれで問題ないだろ?」
砕けた氷の欠片を踏み鳴らすような音もなければ気配もない。
この辺りに他の敵はもういない。
「はい。エリアスご苦労様でした。戻りましょう」
「そうか」
声をかけられて頷いた俺はユリヤたちと共に戻ることにした。
「まさか本当に最強…だとはな」
酒場に戻り水を飲むジェクスの前に座っていた。
「だから言いましたよね?彼は最弱どころかもう最強を狙えるレベルです、と」
ユリヤが呆れたような顔でそんなことを言っていた。
それにしても最強ね。まさかそこまでの力があるとは今でも思えないが。
「ジェクス、騙されてんじゃねぇぞ。何かタネがあるんだよ。大体魔力を生み出せないやつが魔法を使えること自体がおかしいんだよ」
ジェクスの隣にドカッと腰を下ろすと俺を睨むパリス。
「確かにな。普通はそう考えたいところだが…あの魔法は確かに最弱が使ったように俺には見えたがな」
「お前それがどういうことか分かってんのか?それを認めれば今までの常識が覆るんだぞ?」
「そうだな。これが本当でそれを認めてしまうとなるなら、太古から続く常識というものが覆ることになるな」
そう言って俺を見るジェクス。
「しかし、俺はこいつが正当な評価を受けられないのもまた違うと思う。事実俺は最弱…いやエリアス達に救われたのだ。それだけの実力を何かしらの形で持っているのを俺は認める」
「でもよ」
「あんたが最弱だと思うんならそれで構わない。俺は事実最弱のままだしな。未だに俺は最弱を継続している」
言いかけたパリスの言葉を遮って俺は彼にそう言った。
「たりめぇだろうがお前は最弱。それ以外の何者でもねぇ」
「なら、俺はそれで構わない。いちいち最強だのなんだのと言われて面倒になるなら最弱で構わない」
それを聞いて満足そうな顔をするパリスとは逆に驚いたような顔をするジェクスだった。
「おい…お前本気で言ってるのか?せっかく評価されるチャンスが巡ってきたんだぞ?」
「本気だ。俺は最弱意外にはなれない。そうやって生まれてきたしこれまで最弱だったのならこれからも最弱でいい」
ジェクスの質問にそう答えた。
どうでもいい話だ俺が最弱か最強か、なんてものは。
ただ、俺は俺であればそれでいい。
「みたいだぜ。本当に強いなら自分で最弱…だなんて言わないよなぁ?ジェクス?」
パリスを無視してジェクスと話す。
「お前がそう言うのなら俺にとやかく言う権利はない、な」
「あぁ。そこのそれもうるさいからそれでいい」
「あ?俺の事言ってんのか?」
ガタッと音を鳴らして立ち上がるパリス。
「辞めろ。喧嘩腰なのはお前だったろ」
「最弱が最強に逆らっちゃダメだよな?しょせん神刀の力を借りただけの雑魚がイキがってんじゃねぇぞ?」
ジェクスの言葉も耳に入らないのか奴は俺の側まで歩いてきたと思えばそのまま胸倉を掴みあげる。
「ちょっと、辞めてよパリス」
ベティが止めに入ってきた。
「うるせぇよベティ。こいつが無様に這いつくばって許しを乞う姿を見せてやるよ」
「…」
「自慢の神刀も今は持っていない。恐ろしくて声も手も出ないか?」
はははっと大声で笑うパリス。
「いや、何でもいいから早くしてくれないかと思っていたところだ。殴りたいなら殴ればいい」
「ムカつくんだよ!てめぇ」
「辞めろ」
振りかざした右手を仲間に止められるパリス。
「すっこんでろ。こいつを殴らねぇと気が収まらない」
「辞めろと言っている。店主の顔が見えないのか」
「…わぁったよ」
酒場の店主がこちらを見て呆れているような顔を見てか、それでようやく手を下ろすパリス。
「最弱と呼ばれた奴が今こうなっているのにムカつくのは分かる。だが抑えろ」
「…くそが」
そう吐き捨てて酒場を出ていくパリス。
「…」
止めた方の男も直ぐにそれに続いて外に出て行った。
「あんま、気にすんなよ」
「別に気にしてる訳じゃない」
椅子に座りながらジェクスにそう答える。
「それにしても下らんよな。最弱がどうのとか最強がどうのとか」
「俺が最弱じゃなくなったのがそんなに気に入らないんだろ」
何となく分からない話ではない。
「人間が出来ているんだな」
「いや、別にそういうわけじゃないと思うが」
「ま、何はともあれ感謝するエリアス、助けられたのは事実だ」
そう告げるとジェクスも立ち上がった。
「縁があればまた出会えるだろう」
そう言って仲間を連れて酒場を出て行った。
その姿をただ目で見送る。




