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また誰もしたことがないことをしてしまったらしい

一通り作戦についての話が終わった後は適当に会話をする時間となった。

そんな時間、ジェクスとユリヤが会話をしていた。


「団長殿。作戦開始はいつなのだ?」


「現在のところ明朝の予定です。そのくらいのタイミングでモンスター達はこちらの砦に辿り着くと予想されています。勿論これより早くなることも考えられますが」


「了解した。それまでは休んでいても構わないか?」


明朝と聞いて休んでおきたいと考えたのかそう聞いたジェクス。


「えぇ、結構です。作戦が開始されましたら説明したとおりに動いてくださいね」


「承知した。正直3000と言うとかなり不安だが。やってみよう」


「私たちがここで食い止められなければ終わりです」


「分かってるさ」


そう答えたジェクス達は先に酒場をあとにした。


「あの偉そうな奴は誰なんだ?」


俺に対してベラベラと話しかけてきたジェクスという男の正体が気になった。


「あの人達は世界を渡り歩いているかなり強いパーティですよ」


「へーそうだったんだな」


「へーって。知らなかったんですか?」


大きく目を見開いて俺にそう聞いてくる彼女。


「知らない」


そんなの初めて聞いたな。


「レア?もう少し色々教えてあげても良かったのではないですか?」


「だって私もそれくらい知ってると思ってたから」


「俺は敬語も満足に使えないレベルの下民だったのだぞ。この辺りのパーティ勢力など分かるはずもないだろう」


不敵に笑う。そうだ俺は何も知らない。


「ちょっとそれ自慢する事じゃないからね」


いつものジトッとした目で俺を見てくるレア。でもその視線にはどこか優しさが混じっているようだった。


「この際言っておきますよエリアス」


人差し指を立てて俺に説明をしようとするユリヤ。


「無駄な問題を起こしたくなかったら敬語くらい覚えてくださいね」


「何でだ」


「シド様もジェクスもまだ穏便だったから良かったものの全員が全員そうではないんです。あの手の立場ある方は敬語を使わなかった。それだけで逆鱗に触れることもありえますので」


「触れさせておけばいい」


「え、エリアス?!」


そう答えると驚きの目で俺を見てくるユリヤ。


「何を馬鹿なこと言ってるんですか?」


「馬鹿で構わんよ。それよりも馬鹿と罵られるよりも誰かにへりくだる事の方が俺には耐えられん。せっかく力を得たのだ。存分に使いむしろ他の奴らを支配したいくらいだ」


今まで俺を馬鹿にしてきた連中を今度は俺が見下すことができるかもしれない。そんな力を持っていて不必要にぺこぺこする理由が見つからない。


「本気で言ってるんですか?」


目を丸くして俺だけをその瞳に映す彼女。


「本気だ。俺は誰の下にも付かん。それは今決めた。例え王とて俺は対等の関係として接しよう」


「馬鹿なことは言わないでください。本当に面倒事に巻き込まれますよ?」


「そんなもの跳ね除けて進もう。障害にならんよ」


「面倒事は嫌いなんじゃないんですか?」


「嫌いだ。しかし、言ったろう?俺は誰かに媚びる事の方が耐えられんと。皆対等な存在だ。対等に接しよう」


そんな俺とユリヤの会話を見て笑うレア。


「ほんと、馬鹿だよねエリアス。そこまで突き抜けてる馬鹿な人見たことないよ」


「でも気持ちのいい馬鹿だよね」


ベティもそんなことを言っている。いい加減誰か俺が馬鹿なことは否定して欲しいが期待できそうにないか。


「馬鹿ですね。でもエリアスらしくていいと思います」


シエルまでもがそう言っていた。


「…ほんとにあなたには驚かされますねエリアス」


「そうか」


結局は他の三人と同じようにその顔に微笑を浮かべるユリヤの言葉に答える。


「それより、俺達も眠っていいか?朝早いなら寝ておきたいが…」


「えぇ。大丈夫ですよ」


ユリヤがそう返してくれたその時だった。


「団長!団長!」


酒場の机で水晶を眺めていた衛兵の少女がユリヤに声をかけた。


「何事ですか」


険しい顔をする少女に険しい顔で近付くユリヤ。


「急速に…モンスター達が近付いてきます…」


「ば、馬鹿な…何体ですか?!」


慌て始めるユリヤ。かなり想定外の事が起きたように見える。


「計測開始…1000…2000…3000…その数5000です…」


「…どこからそんな数が?!」


「分かりません…どうしましょうか?」


「作戦を早めます…」


「それと…魔王の加護が…全員にかけられている模様です」


「加護ですか?!」


そうやって二人が言い合っていた時だった。


「た、大変です!」


酒場の扉が開き全身血塗れの少女が姿を見せた。

鎧に身を包んでいるはずなのに全身は血に染っていた。


「大量のモンスターがこちらに…向かっています!それと…魔王グランアーシェは生存しています…」


その小さな口から飛び出た小さな言葉。それはこの空間を静寂に包むには十分すぎるものだった。


「今、なんと言いましたか?」


現実を受け入れられないのか質問するユリヤ。


「魔王グランアーシェは…生存しています」


「馬鹿な。奴はこの手で俺が倒したはずだ」


何故そんなやつが生きている。


「分かりません。でも…活動していまし…た」


そう言ってふらついた少女の体を支える。


「血で汚れちゃいますよ…」


震える手で俺の手に重ねてくる少女。


「そ、そうだ!誰か治療してやってくれ!治癒魔法の使える奴はいないのか?!」


少し遠くからそう叫ぶパリスの声が聞こえた。


「…」


しかし、誰も名乗りを上げなかった。奴の声だけが虚しく響いただけだった。


「あれは…ヒーラーが回復出来るものじゃないですよ…」


誰かが呟いた。


「あんなの回復できる人なんていませんよ…治癒魔法で、欠損は治せませんよ…」


確かに声の聞こえた通り少女は右手を失っていた。肘から先が何かに食われたように無くなっていた。

誰もが沈痛な顔を作る中聞こえるのは少女の声だけ。


「いえ、…いいんです。私に魔法なんて使って下さらなくても…しょせん私は使い捨ての奴隷なのですから」


その言葉の通り誰も何もしない見ているだけだ。仕方ないな。


「…待ってろ」


そう言うと少女の鎧を脱がし始めた。


「お前、何してやがる。いくら奴隷でも死ぬ時まで辱めるつもりか?!」


パリスが俺の胸倉を掴んできた。


「黙ってろ無能。邪魔をするな」


「む、無能…?てめぇ何様のつもりだ」


「やめて!喧嘩してる場合じゃないでしょ!」


ベティが間に入り込んできて俺とパリスを引き離した。


「俺が今からこの子を治す」


「最弱が…適当なこと抜かして体ベタベタ触りたいだけだろうが…いい加減解放してやれ。このクズが」


「ベティ、そのアホを頼む」


そう言うと何やら言っているあいつの声を聞かないようにして少女の腹部に手を当てた。


「神の加護を…」


俺が呟いた瞬間少女は光を帯びた。


「…!!」


誰もが眩いばかりの光に呻いた。その数秒後。


「…あれ…」


少女の体は完治していた。欠損した部位も傷も全部元通りだ。


「お前…その子に何をした…」


「ただの治癒魔法を使っただけだ」


「お前が…治癒魔法を…?詠唱抜きでこんなこと出来るわけがないだろ!」


俺を指さして騒いでいるパリス。

それは奴だけではなかった。


「ありえない…あそこまでの魔法を無詠唱で行うなんて記録歴史にありません…」


誰かがそう呟いた。どうやら俺は初めてのことをしてしまったらしい。しかし今はそんなことどうでもいい。


「うるさいな。現実を見ろ。傷は治っているだろう?」


まだ騒いでいるパリスを無視して会話を進めることにした。


「魔王がいた、というのは本当なのか?」


「は、はい」


「偽物…じゃないのか?」


「偽物では絶対にないです…あれは本物です。私たちの目の前でモンスターに加護を与えましたから…」


「そうか…」


どういう訳か分からないが…とりあえず目先のモンスターの始末が最優先事項だな。

加護というものも分からないが強化系の魔法という認識で構わないだろう。


「ユリヤ。行こう」


「…え、えぇ。はい。ジェクス達には先に向かってもらっています。急ぎましょう」


歯切れの悪い返答を聞いてしまったが、俺達は他のメンバーと共にユリヤの案内に従う。

魔王が生きている、それに強化されたモンスターもいるならのんびりとしている場合ではない。

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