欲しいのはただの日常
朝起きて身支度をしていると扉がノックされた。
「エリアス?いますか?」
声を聴く前から何となくそこに誰がいるかは分かってはいたがやはりシエルがそこにいるらしい。
彼女以外はノックの一つもなしに入室してきそうな気がするからだ。
「うん。いるぞ」
「入ってもよろしいでしょうか?」
「いいよ」
「失礼します」
「どうしたんだ?」
窓の外を見ていたが振り返りながら訊ねる。
いつものような顔ではなく真面目な顔をしているから俺の顔も自然とそういう風な真面目なものに変わる。
「ゆっくり話してくれて構わない」
「ごめんなさい…」
「何がだ?」
「昨日エリアスに言われたこと、すっかり忘れちゃっていたんです。本当にすみません…」
「ということは…レア達には俺があの村に戻りたいということは伝えていないし、今日は行けない…ということでいいか?俺の認識に間違いはないか?」
「はい」
顔を下に向けながらそう答えてくれたシエル。
「謝らなくていい。次から気をつけてくれ。それに俺が頼んだことだ。自分から伝えればそれでよかったのにそうしなかった俺の落ち度だ」
本来なら俺が言うことだったものだ。そこをさぼったのは誰でもない俺だしシエルを責める気には到底なれなかった。
「ごめんなさい…」
「仕方ないだろ。忘れるのは」
首を横に振ってからシエルを見ると彼女も下を向いていた顔を上げて俺を見ていたところだった。
目が合ってしまい顔を赤くしてシエルが俺から視線を逸らした。結構な恥ずかしがりのようだな。初めからそうではないかと思ってはいたが。
「それよりこんな部屋に長居していても変に思われるだけだな外に出ようか」
彼女を促して俺たちはリビングに出ることにした。
そこにはレアやベティもいたがそれより俺の目を引くものがあった。
「おはようございます。エリアス」
「あぁ、おはようユリヤ」
彼女が俺達の家に訪ねてきていた。
「エリアス、少しいいですか?」
「構わない」
「シド様からの伝言です」
「分かった」
「少し前に行ったステータスの測定覚えていますか?」
「あの水晶のやつか?」
俺が壊したやつのことか。謝ったはずだが何か大切なものでその賠償でもさせたいのだろうか。
尤もこんな一文無しから何かを搾り取れるとも思えないが。
「そうです。あの水晶は特別級で本来壊れることが無いのですがあなたは壊しました。その結果から貴方の魔力量は測定不能とされています。悪い意味ではなく良い意味です。間違いなく世界最高峰の魔力量だと考えられます」
へぇ、そんな測定だったんだな。あの検査は、それより俺の魔力量が測定できないなんてことがあるとは露にも思っていなかったことだ。
「それで?」
「…大変遺憾なのですが貴方には最弱を継続してもらうことになりました。昔から魔力が作れなかった者がある日突然作れるようになったという前例はありませんし、エリアスのパターンを認めてしまえば世界の常識が覆ってしまいます」
そんなことか。別にどうでもよかった。
「分かった」
「分かった…って不満じゃないんですか?そんな力を持っていながら正当な評価を得られないのは悔しくないのですか?」
「別に。今まで最弱としてきて生きた人間にそれ以外は似合わない。そういうだけだ。最弱は最弱と呼ばれることで納得している。それだけだよ」
「あなたの評価は変わらないんですよ?今まで同様心無い言葉を浴びせてくる者もいるもしれません」
「俺も色々と考えてみたんだ。この力があれば…俺はどこまでだって上がっていけるって。なら上がるのは簡単だ。でも今から落ちるのは難しい。俺は今まで馬鹿にしてきたヤツらを見返せる最高のタイミングで最弱の名を捨てようと思ってるよ」
それに最弱と呼ばれてきた俺がいきなりいい思いをしても違和感がすごいだろうし。それならば紙面上だけの最弱でも構わない。
「…そうなんですね」
「そういうことで理解していてくれ」
「それと、いいですか?」
「まだ何かあるのか?」
「正式に魔王討伐の依頼がシド王からエリアスに出ました」
そう言って俺に紙を渡してくるユリヤ。
「こちらが詳細です」
「断る」
「なぜですか?」
驚くユリヤ。その顔はまさか断られると思っていなかったようなそんな顔だった。
「逆に何故俺が奴を倒さなくちゃならんのだ」
「…なら、何のために灼炎を手に入れたんですか?」
「あいつがいつ来てもいいように、言ってしまえば護身用だ」
俺を気に入っただのなんだのうざいことをベラベラ話して去っていった魔王グランアーシェ。あいつが本当に俺を気に入ったと言うならまた俺の元に来てもおかしくない。
あれだけの戦闘狂だ。また来ると思ったし、だからこそ俺はただでは死なないようにこうしてこの武器を手に入れに行っただけだ。
「自分から向かうつもりは無いと?」
「俺は勇者じゃない。ただの最弱だ」
「…考え直してもえませんか?あれの恐ろしさはあなたが1番知ってるんじゃないんですか?」
「一番知ってるからこそいかないんだろ。よく考えてくれ。あんたらが倒したいなら勝手に倒してくれ。俺は行かない。喝采も名誉も何もいらない」
一番欲しいのはこうして何でもない日常だ。今まで手に入らなかったもの。それこそが一番欲しいものだった。
「…分かりました。でも、考えが変わったら教えてください」
「変わったらな」
もっともそんな時が来るなんて到底思えない話ではあるが。
「大事な話してたみたいだけど平気?」
俺達の会話が終わった時点でレアが近寄ってきた。
「ただの世間話だ」
「そうですね」
ユリヤも合わせてくれたらしい。あんまり空気を重くさせるつもりもなかったしありがたい話だ。
「なら今日は雑魚でも倒しに行きましょ!昨日は強かったしね」
そう言ってみんなをまとめるレア。
俺達は頷いた。
次の次くらいでタイトル変更予定です。




