最弱と呼ばれる方が気は楽だ
あの後初めての迷宮攻略を終えた俺たちは、レアの家まで帰ってきていた。
「入団者とくてーん。部屋を上げまーす」
そして相変わらずレアがそんなことを新しく入団してくれたベティに向かって言っている。
「ま、ボロい部屋だけど寛いでいってくれ」
「人様の家借りときながらよくそんなこと言えますね?エリアス君?」
顔は笑っているが雰囲気は笑っていないレアが近付いてきた。
「冗談だ。そう怒るな」
「どうだか…」
「俺はお前の匂いが残るあの部屋は好きだぞ」
あの部屋はところどころ古さを感じさせるが、それでもレアの匂いが残っていて居心地良かった。
何というか俺が家を失って初めて覚えた匂いが彼女のものだからそういったところで安心感を覚えているのだと思う。
「な、な…」
「どうかしたのか?」
「どうかしたじゃなくて…変態じゃない…?」
「変態か?」
顔を赤くしているレアに聞き返す。落ち着く香りだと好きな匂いだと言われたら俺は嬉しいところだが。俺の考えがおかしいのだろうか。
「ま、ま、悪気はないようですし、ここはスルーしておきましょ」
イマイチ噛み合ってなさそうな俺とレアの会話に入ってきたシエル。
「そうだ。悪気があった訳じゃないからそう怒るな」
「…まぁいいよ」
そう呟くとレアはベティに案内を始めていた。
「エリアスはほんとに最弱だったんですか?」
俺も部屋で落ち着こうとしていたところシエルが声をかけてきた。
「あぁ、最弱だったよ。それに今でも最弱だと思ってる」
「…信じられないですけどねそんな話」
「信じられないも何も信じてもらうしかないが。まぁ信じたくないなら信じなくても構わないが。俺は最弱だった。間違いなく最弱だったけど」
誰が何を言おうが俺は最弱だった。その事実に変わりはない。
「ほら、これ」
そう言ってシドに貰ったカードを見せた。
「魔力0って書いてあるだろ」
「ほんとだ…魔力0って問答無用で戦闘評価も最低になるんですよね?」
「あぁ。どれだけ他が秀でていようが結局魔法には勝てない。魔法を扱える奴らには勝てないんだよ。いくら取り繕おうがそれが現実。俺はそんな現実を今まで生きてきた。長い間ずっと。だから今更最弱じゃないなんて言われても正直実感が湧かない。それに俺は早い段階で諦めていたからそれ系の勉強は全くしてこなかった」
「だから神刀系の話などは知らなかったのですか?」
「そうだな。灼炎もただほんとに名前がかっこよかったから、強いんじゃないかなと思って取りに行っただけだ。魔王がわざわざ用意したものが弱いとも思わなかったし」
「罠とは考えなかったのですか?」
「別に。そもそも殺すつもりならあの時にあいつは殺している。いくらでも俺を葬る機会なんてあったのにそれをしなかった。それにあいつは俺を気に入ってるみたいだから信じてみた。それだけだ」
信じたといえば聞こえはいいが、実際は諦めていただけだ。
奴の言った通り諦めているだけ。どうせ何をしても俺とあいつの戦闘能力の差は埋まらないし。それなら僅かな可能性にかけようと思っただけだった。
「自分を過小評価し過ぎだと思います。今のあなたは…間違いなく最強ですよ?」
「…」
頭をかく。実感がないんだよな。
「もっと慎重になってください。あなたの代わりなんてもうほんとの意味でいないんですよ?」
「…分かったよ」
「これからは…ちゃんとご自身を大事にしてくださいね?」
「ならお前は俺を大事にしてくれるか?」
「それってどういう…」
「一つに決まってんだろ?そんなもん」
灼炎を置いてシエルに近付く。
後ずさる彼女。
「行き止まりみたいだが…?」
「…な、何を…」
壁に背中をつけるシエル。
その顔のすぐ横に手を押し当てた。
「俺を大事にしてくれよ?」
「…それってどういう…」
「だから、一つしかないって俺言ったよな…?」
顔を近付ける。
「…それは…まだ…」
「なんてな」
微笑みながら顔を離す。
「びっくりしたか?」
「そ、それは…もう…」
顔を赤くして俯くシエル。
「…心臓に悪いです…」
「悪かったって」
離れて灼炎を手に取る。
「でも…嫌ではないです…」
「そうか。礼儀がないのは謝っとく」
それと…振り向いて口を開く。
「明日は…村に行こうと思う。レア達に伝えてくれると嬉しい」
俺が倒れて何日目か…細かいことは覚えいないが戻ってみたい気持ちがある。…何が待ち受けているのかは分からない。でも見ておきたい。俺が負けたせいでどうなったのかを。
「分かりました」
「ありがとうな。もう寝る」
「おやすみなさい」
丁寧に腰まで折った彼女にひらひらと手を振ってから部屋に入る。
明日は…戻ろう。
「最強…か」
正直な話をするならば自分がそんなものになるなんて思いもしなかったし思ったこともなかった話だ。
最弱のエリアス。それこそが俺の名前であって事実だった。
そんな最弱の俺が最強になんて冗談でもなれるとは思っていなかった。
ずっと奴隷みたいに働いて一生を終えるものだと思っていた。
でもこの力があるならば…。
最強呼びは慣れない。それならば最弱と呼ばれた方がうれしいとさえ思う。でも俺は…魔王を倒せるかもしれない。
「なんてな…」
口では否定しながらそんな妄想に口元を歪ませながらベッドに寝転がると寝ることにする。
現在タイトル変更を考えています。
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