初めての治癒魔法だが凄い効果だったみたいだ
迷宮の地下を降りていた俺たちの目に入ったのは女の子のピンチだった。
「た、助けて…」
「くそっ!無理だ!」
駆け抜けた先そこにいたのは百足と人間を足したようなモンスター。
上半身は人間の体。下半身は百足だ。
「置いてかないで…」
それからさっき入口で出会ったパーティ。
助けを求めていたのはこの男のパーティにいた女の子だった。
「悪いことは言わねぇ。あれは無理だ。最弱、逃げた方が賢明だぞ」
俺とすれ違うように逃げようとした男がそう言ってきた。
「あれはお前の仲間じゃないのか?」
「そうだが、あぁなったらもう無理だ。俺達まで巻き込まれる訳にはいかない」
「本来なら助ける気はないんだがな」
そう答えてあのモンスターに向かって足を進める。
「馬鹿!寄せ!死ぬぞ!」
「馬鹿はお前だ。ここで猪のように特攻せずしていつ特攻する」
「思い直せ!討伐難易度が高いデビルカイザーだぞ!」
「知るか。そんなもん」
俺の肩を掴もうとした男の手を振り払って前へ進む。
右手に氷の剣を作りながら進む。
「バカだろお前…ここでデビルカイザーの相手をするなんてイカれてる」
「デビルカイザーだか何だか知らないがそんなもの関係ない」
冷気を溢れ出させる剣を振りながら前へと進む。
眼中には最早あのモンスターしか入っていない。
「シャー!!!!」
口を開けてこちらを威嚇してくるが意味は無い。
「…もう知らねぇ!後は勝手にしろよ!」
「仲間を見捨てるなら勝手にしろ。俺はあの子を救う」
「お前イカれてるよ…あのデビルカイザーだぞ…」
そう言いながら引き返す男達。
「残るのが何で最弱なのよ…」
デビルカイザーと呼ばれたモンスターの腕に捕まりぶら下がっている少女の声がここまで聞こえる。
「俺の事を知っているのか。悪かったな最弱で」
「エリアス、来るよ!」
答えていたらモンスターの一撃が来ていた。
しかし、遅い。
「この数年俺が何してきたか分かってんのか百足如きが」
その一撃は俺の体から溢れ出る冷気で凍った。
「…」
首を捻るモンスター。
「な、何この魔力…」
囚われの姫がそう呟くのが聞こえた。
それを無視して魔法を使う。
俺の足元から広がるのは氷の世界。俺の認めた存在以外はここで生存など許されない。
『凍れよ。止まれよ。誰がその生を許可したモンスターよ』
奴に向けて歩く。
逃げることなど間に合わない。
「…ギ…」
一瞬で顔以外が氷漬けになるモンスター。
「何…この魔力…この魔法…」
彼女を捕えているその腕をぶった切って落ちる少女を抱き抱えた。
「最弱の最強魔法だ」
俺が手を出すまでもない
『砕けよ。その罪までも凍り砕け散るがいい』
この何もかもが凍結した世界。そこで凍った魔物は消えた。
視線を落とすとこちらを見て目を見開いている彼女の顔があった。
「…最弱のエリアス…なんだよね?」
「どうだろうな」
「どうして…逃げなかったの?貴方みたいな最弱が」
「逃げて欲しかったか?」
「…ううん」
首を横に振る少女。
「…ごめん。…今まで笑ってきてごめん」
「気にするなよ。俺だって自分自身を笑ってきた」
そのフロアを抜けてレア達の待つ通路まで戻ってきた。
「…怖かった…」
俺の胸に顔を押し付けてくる少女。
「泣いているのか?」
「もう…ダメかと思ったから…。仲間にも見捨てられて…」
「なら、俺達の仲間になればいい」
「えっ?」
顔を俺の胸から離す少女。
「いいだろ?猪隊長さん?」
「猪はエリアスだけって言ってるでしょ?!」
「今そこはどうでもいいだろ…」
フフッと笑うレア。
「そうだね。いいよ。どうせここは私たちみたいな人が最後に辿り着く場所だし」
「そ、その言い方酷くないですか?」
シエルが抗議しているが俺にもそう見えるのが悲しいところだ。
「ま、こんなところだがどうだ?」
「何時でも歓迎するから」
その何も無い胸を張るレア。
「その何も無い胸を張られても困る」
「この、変態、何処見てるのよ!」
「いや、見てほしそうに胸を張るもんだからさ」
「あんたに見せたんじゃないわよこの変態!」
顔を赤くして反論してくる。
「ふふっ…」
俺の中でクスッと笑う少女。
「面白そうなパーティね」
何時までも抱えてるのも悪いしここで降ろすことにした。
「…ありがとうエリアス」
「気にするな。俺も後悔はしたくなかっただけだ」
「…ありがとう。嬉しかったよ」
そう微笑む少女。
「私ベティ、よろしくね」
ベティがそう口にしたのを聞いて各々自己紹介をする。
「じゃあ奥行くか」
紹介が終わったのを確認してから奥へ進むことを再開しようと提案したのだが…
「そういえばエリアス達はどうしてここに?」
ベティはまだ話したいらしい。
「奥に眠る宝を探しに」
「最奥の宝を…?でもあそこにはドラゴンが…でも…今のエリアスなら大丈夫かもね」
クスッと笑う少女。
さっきから思っていたがその顔は少し辛そうに見えた。
「お前何か隠してないか?」
「え?」
「見せてみろ」
薄いマントを捲りシャツを捲った。
「へ、平気だから…」
その白い腹部には傷があった。
「ね?何でもないから…」
「いや。毒だな。さっきあの男が言ったもう無理だってのはそういう意味なんだろ」
その傷に手を当てる。
瞬間傷口から溢れ出てくる毒らしきもの。それから切れていた傷口は治り塞がる。
「…今のは…治癒魔法…」
シエルがそう呟いた。
「言ったろ?全属性に適性があるって。今更驚くことでもない」
答えながらシャツを戻して立ち上がる。
「でも…それでもデタラメすぎるよ…治癒魔法は全魔法の中でも1番難しいって言われてるのに…しかもそれを無詠唱でなんて…」
レアにも言われたがそんなこと初めて知ったな。
「そうなのか」
「そうなのかじゃないよ。有難いけどエリアス今何したか理解してるの…?」
ベティにもそう言われた。
「いや」
「…何か辛くなってきた。それでこんな魔法使えるなんて…」
俯く彼女。でも小さく笑っていた。
「私も治癒魔法使えるから言うけど無詠唱であそこまでは普通出来ないよ?」
「そうなんだな。それより行こうぜ。先行かれちゃうしな」
「エリアスはエリアスだね」
苦笑するレア。
「置いてくぞ」
言いながら歩き出す。ただでさえあのパーティに先を行かれたのだ。急がなくてはな。
そう意見を揃えた俺たちは地下への階段を更に降り始める。




