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最弱の俺は死にました

新作です。

今回は前作ほど主人公は強くないですがそれでも最強レベルです。

読んでいただけると嬉しいです。


━━━━それは今までの歴史を見ても存在しなかった魔法だった。


「…ありえない…何ですか…これ…」


確かにあり得ない、こんな規模の…威力の魔法は存在していい訳がなかった。

少女の視線のはるか先で氷漬けになる魔物達。

その数は1000を超えているはずだったのに。


「な、何なんですか?この魔法…この魔力!魔法は使えないって…それに貴方は…世界最弱の…たった一人しかいない…Zランクじゃなかったんですか…?それがこんな…魔法を…」


「ピーピー喚くな。俺が知っているわけないだろ」


かつて存在した勇者や魔法使いたち。その全員がこんな魔法を使えなかった。

そんな人達ですらここまで広範囲の現実を書き換えてしまう魔法を使えなかった。

今のトップクラスの魔法使い達でさえもせいぜいが、小さい村一つを対象とした魔法が使える程度…それなのにこの最弱と呼ばれた少年は容易に村…いや…━━━━小さな街1つ分の範囲を対象とした魔法を使用した。


「誰なんですか…あなた。いくら…魔法を使える身体だと言っても…こんなのデタラメすぎます…。強力な魔法を使うのに必要な条件はまず一つに魔力…それから魔法のイメージをより強くするための詠唱…貴方はそれらの内1つ詠唱を破棄してこれを使った…こんなのおかしすぎますよ!」


訊ねる、というよりは理解不能な物を目の前にして半ばパニックに陥っている少女の言葉。

それを聞いているのか聞きていないのかは分からないが彼女の目の前で少年が手を握り締めると凍っていた魔物は全て粉々になって砕け散る。


凍らせるまではまだ、何とか理解できるだろう。しかし砕くのはより大変だと言われている。それをいとも簡単にこなしてみせる少年に驚かない者は少ないはずだ。


「俺か…俺はただの最弱だよ。最弱のエリアス、あんたも知ってんだろ?」


首が完全に隠れるくらいの長い髪を持った少年は面倒くさそうにそう答えた。



━━━━あれは数日前のことだった。


「気に入った」


「何だよ…」


右肩は踏み潰された。

何とか動く口で問いかける。


「俺が初撃を与えた時動いていたのはお前だけだった。その時から気に入っていた」


目の前には黒い服に身を包んだ男がいた。


「…」


最弱の俺では勝てなかった。

勇者もその仲間も皆死んだ。

こいつに殺されて死んだ。


「お前の目には憎悪と絶望…それから悲哀を感じる。負の感情…それは人を暴走させる良いエネルギーだ」


「…殺してくれ」


腕は潰れた。目は何も映さない。

ただガラス玉が眼窩に埋め込まれているだけのようだった。


「絶望の炎を灯せ」


「…」


「悔しくはないか?貴様はまだ立ち上がれるのだろう?立ち上がるための足は残されているだろう?」


「足があっても力が入んねぇんじゃ意味ねぇよ…」


何故こいつと普通に会話しているのかと気になったが答えを出した。

殺されたくない、そういう気持ちが心のどこかにはあったからこいつの意識を逸らしたかったんだ。


「名を教えろ」


「エリアス…」


「知らぬ名だな」


「当たり前だろう。俺はなんの変哲もない最弱だ。あんたが知っているわけないだろう…」


「貴様勇者になるつもりはないか?」


「勇者…?」


「見ての通り俺は強すぎる。故にこうして破壊の限りを尽くすのだがそれではつまらなさすぎる。お前に俺のライバルとなって欲しい」


「…舐めてんのか」


口の端から血が溢れるが怒る気力なんてもうない。意識すら既に危ない。


「辛そうだな」


「…当たり前だろうが…右目…割れた水晶は何も映してくれないんだ」


「本当は死体から物など漁りたくないのだがな」


奴はそう言うと勇者に近付きその死体に触れた。

それから何かをもぎ取ると俺のそばに投げつけてきた。


「それを持て。剣を抜け。貴様は俺の前に立つ資格がある。何年かかってもいい。必ず俺の前にこい」


もう一つ奪い取った瓶の栓を抜いて傾ける魔王。

瓶の口からトクトクと零れ落ちる液体。


「…」


それが俺の体を治していく。

何も映さなかった眼球も潰れていた部位もそれで治る。


「最高レアの回復薬かよ…そんなの隠してたんだな…」


熟練度の高い魔法使いのみが生み出せるというどんな怪我すらも治す回復薬。それを勇者が持っていたなんて。使う前に死んでしまえば意味が無いが。


「…それよりあんた意外と会話が出来るんだな」


「逆に何故会話が出来ないと思われていたのか不思議なくらいだ。お前達は俺が近付けばすぐ魔法をぶっぱしてくるから怖い」


その長い髪を振って歩き始めた魔王。

何となくその背中に続くがその歩みはすぐに止まった。


「見ろ。これは俺が生み出した」


指さしたのは丘の上から見える村の全貌。

家々も人々の遺体も焼けて灰となっていた。


「…何で…」


…万全の状態で改めてこの惨状を見るからこそ怒りが湧いてきた。

こいつが全てを奪った…。極度の疲労はマトモな思考能力を奪うのを今この時に俺は体験した。


「勇者の剣を取れ。俺に向けよ。それこそがお前を俺へ立ち向かわせる刃となるだろう」


「俺は…お前を許さない。グランアーシェ」


「名前を知っていてくれて嬉しいよ。未来の勇者よ」


その髪の色が変わる。赤色に。黒から赤に変わった。


「…未来?お前が倒れるのは今ここだ。ここが貴様の墓場となる」


剣を構えた。直前まで正当な勇者が握っていたもの。

刀身は血にまみれていた。誰のものでもない持ち主の血だ。


「覚悟を決めろ。ここで仇を取らせてもらう」


「仇…か。お前達が憂き目にあったのは勇者がこの村にいたからだというのに」


「!」


話している間に剣を叩き付けるように振るった。

しかし


「その程度の武器では俺に傷を付けることは出来んよ」


振った方の…剣が逆に折れた。

それどころか圧だけで俺の体を吹き飛ばす魔王。


「がっ…ぐっ…!」


丘の上から村の方へ滑り落ちる俺の体。


「だから言った。何年かかってもいい、と。今ここで俺を取ろうなどと言うのは無理な話だ」


斜面をザザザと滑り降りてくる魔王。

その前に殴りかかった。しかしやはり何のダメージにもならなかった。


「勇者の条件というのは何だと思う?」


「…」


答えずに殴り続ける。皮が破れ血が吹き出してもそれでも殴るのを辞めない。

どうせ死ぬのならここで思う存分殴っておきたい。


「まず1つ目に勇気。立ち向かう勇気。実の所これの時点で失格に値する者というのは意外と多い。何故だろうな。答えは単純だ。勇者と呼ばれる者は優秀だ。故に真の絶望というものを感じたことが少ないのだ。それは今回の勇者とて例外ではない。奴は確かに優秀だろう」


そう言って倒れている勇者の死体に視線をやる魔王。しかしすぐに興味を失ったようで俺を見る。


「だがその優秀さが仇となる。真の絶望…俺のような絶対なる君臨者を前にした時何をすればいいか分からなくなるのだ。漠然とした自信。それこそが破滅へと導く。しかしお前はどうだ?お前は絶望しか感じたことがない」


「ベラベラ喋ってんじゃねぇよ…」


既にずるむけとなった両拳。痛くなってきた。

そんな俺を蹴倒す魔王。

右肩に左足を置いて俺を固定する。


「お前は最弱だ。お前は約立たずだった。故に貴様が武器としたのは諦め。諦観だろう。『自分はダメだ。自分は無能だ。役立たずだ』そんな言葉でお前は自分自身を諦めていた。初めから諦めているからこそ、勝てないと諦めているからこそ絶望しない。初めから何をすればいいか分からないから、何をすればいいか分からなくなることも無い。現に今だってそうだろう?お前は何をすればいいか分からないから足を止めたのではなく、俺を殴ることを選択した。どうせこいつには勝てないのだ。初めから勝ちなど狙っていない。ならば気が済むまで殴ろう。貴様が選んだのはそれだ」


胸がズキリと傷んだ…確かにそうだ。俺は…なんでも直ぐに諦めていた。


「何…魔王のくせに人の事分かった気になってる…」


でも認めたくなかった。こいつが誰よりも俺を理解しているのを。


「こう人を見ていればだいたい分かってくるのだ」


「がぁ!」


ぐしゃりと踏み潰された右肩。

顔に血が飛び散ってくる。


「そして2つ目だ。勇者に必要なのは目を背けたくなる程の惨憺な過去。それこそが人を真に成長させるものだ。愛、友情、絆?そんなもので成長などしない。した気になっているだけ。負けた、奪われた、壊された、見返してやる。そんな時に感じた感情こそがお前を成長させる。現に貴様は今回家族を奪われて初めて芽生えただろう?俺を殺したいという気持ちが。それこそが貴様を成長させる。俺の前まで貴様を導く」


「がぁ!!!!!!」


魔法か何かでまた右目を失った。右の目はもう何も映さない。


「お前は今思っているはずだ。俺を殺したいと。それとも早く殺してくれと諦めているのか?許さんぞ。許さんぞ。認めない。俺こそが誰よりもお前を信じている。貴様は諦めないと。今こそお前は諦めないと」


「いい加減うぜんだよ…ベラベラ喋ってんじゃねぇよ。ボケが…敵なら早く殺せよ…久しぶりに孫に会ったジジババみたいに饒舌になってんじゃねぇぞくそじじい」


「くくく。お前は我が友だぞエリアス。勘違いをするな」


「お前みたいな友達いらない…」


「まぁいい。3つ目の条件を告げよう。俺を倒したいでは無い…俺を殺したいと願うその心を持ったものだ」


そう口にして屈みこんで俺の胸を右腕で貫く魔王グランアーシェ。


「ゴフッ…」


口から血が垂れ流れる。


「俺が貴様の心臓を握っているのを理解出来るか?」


「…」


「あったかいよお前の中。あぁ人と繋がれているんだなって実感出来る。俺は今お前に触れている。お前と繋がっている!誰でもない我が親友貴様と繋がれているのだ」


「…」


意識が朦朧としてきた。

でも声だけは嫌にはっきりと聞こえる。


「俺はお前の味方だ。世界が敵に回ったとしても俺だけはお前の味方だ。勘違いをするな。俺は貴様の敵ではない味方だ。常忘れるな俺がそばにいることを。そしてお前は俺に愛されていること。気に入られていること。俺はお前に勇者として、俺の前に立てるだけの力の全てをここに埋め込む。使い方は自ずと分かるはずだ。何年かかってもいい。辿り着け」


次の瞬間俺は心臓を握りつぶされ…死んだ。


ここまで読んでくださりありがとうございます。

定期更新頑張ります。

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