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アンはっぴーディファレントわーるど!?  作者: Mgl5566l
02勇者の知らない物語
39/41

終章-それぞれの思い。死んでしまった勇者


 扉に飛び込むとそこは砂漠だった。

ここのトラップは。ああ、わかりやすいね。


 砂で皮膚が削られ部屋には止血と肉体の回復が施されているようでリアル人体模型の完成だ。

服があるんだが魔法で削られ服が擦れて無茶苦茶痛い。

しかも寒くなってきたから服は必須だしこれは恐ろしいトラップだな。


 で、このまま進むのか。

砂嵐の奥に建物の影が見えそこを目指すが1歩1歩が辛い。

泣きながら進んで行くと遺跡のような物があった。


 砂嵐に生身を晒すのも嫌なので遺跡に入ると周りから蔦が現れ俺を雁字搦めにしていく。

抵抗はしたが皮膚がなくて短剣が握れずこまねいているともうダメだった。


 蔦に運ばれて引きずられていくと大きな部屋についた。

そこで中ずりにあいガスを浴びせられた。


「ペッ。なんの毒だこれ?

グガァァァァァ」


 体が痒い!しかもなんか腐敗臭が俺からする!

これ腐らせてんのか!?やべぇこれは効くなぁ。


カサカサカサ…


「う、嘘やろ」


 目の前には大量の蟲。

足からジワリジワリと食われ始めた。


 またこういうのか!!

しかもメンタルに来る奴じゃん、マジつらいっす!


 痛みと痒み、嫌悪感で初めは気絶しなかったがだんだんと意識を失っていった。


「…ここはどこだ?」


 目の前にはアメジスやショネーク、白猫さんにアグヴェルと言った俺と親しくしてる人も多かった。

俺は俺で十字架に貼り付けにされていた。みんなは笑顔で石を持っている。


「お前が来たから家族が危険に晒された!」

「ぐっ、お父さん」

「その名で呼ぶな疫病神!」


 石は腹にあたりアメジスは10点なんて言って喜んでいる。

次に投げてきたのはショネークさんだ。


「あなたを一度でも息子だと思った私を殺したほど恨んでます」

「ぐぁっ」

「でも死んじゃったらこんなふうに投げれませんから悩みます」


 頭に当たり血が流れる。

ショネークは100点と言って喜ぶ。


 ここからは何年間も旅をしてきて仲良かった人もいたけど覚えているのはこの人達だけだ。

それからはもう記憶にない。


 白猫さん

「お前にゃんかいるから私は死ぬし幸せを掴めなかったにゃ」



 アグヴェル

「貴様のせいで俺は…貴様など親友などではない!」


 ゴンッ


 ウル

「あなたさえいなければ私たちは幸せになれた。あなたさえいなければ!」


 ゴンッ


 パルム

「死ね」


 ゴンッ


 最後直球だけど心にきた。

皆俺に対して人間を見る目ではなかった。ゴミ以下を見る目だった。


「みんなで投げる」

「おお、いい案だねパルム。

あんなでもみんなを楽しませることはできるんだね」

「それは素晴らしいですね」


 皆で石を構えて俺に投げつけた。

俺はもう喋る気力すらなくなっていたが声だけははっきりと聞こえる。


『お前なんて生まれてこなければ』

『消えろ諸悪の根源』

『消えろ』


 消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ


「やめてくれぇぇぇぇぇぇ!」


 最後の最後にでできた言葉で目の前の人と目があった。

パルムとウルだ。


「「さっさと死ね」」


 そこで俺の意識がなくなり部屋の中にいた。

目の前に誰かいるがもうわからない。


「だ、誰?」

「…はは、俺はカズヤ。

ここで休んでもいいかい?」

「う、うん」


 はぁ、もうやだ。メンタルズタボロだよ。

こう、言葉にできない虚しさがさ。


「大丈夫?」

「あぁ、大丈夫じゃないみたい」

「そ、っか」


 隣にだれか座った。なんか女の子?パルムと同じくらいの背格好だ。


「辛かったよね。ここは心に…だもんね」

「ああ、辛かった」

「だから泣いてもいいんだよ」


 幼女に頭を抱えられて心に暖かさが広がっていく。

…ふぅ、俺何やってるんだ?


「もういいの?」

「ああ、ありがとうな。君は?」

「アース。オーガ族だよ」


 角が生えているが小さくパルムのように壊れそうな雰囲気が漂っている。

こんな子が勇者パーティ?大丈夫か田中?


「そ、それと。あれは幻覚。虫は本物みたいだけど」

「なるほどね。あのガスが…」

「だ、だから!信じてあげて。あなたの好意を信じてあげて」


 …そうだな。確かに信じてあげないと虚しくなるだけだ。

俺のパルムたちへの思いは嘘じゃない。本当の気持ちだ。


「はは、まさか君みたいな女の子に言われるなんてな」

「お、おねぇちゃんだから」

「そうかもな、お姉ちゃん」


 そう言うと驚いたように嬉しそうに笑った。

そして無い胸を張ってふふんと威張り始めた。


「た、田中さんは元気?」

「ああ、あいつは元気だぞ。

なぁ、聞いてくれよ」


 俺は田中との話をこの子にした。

なぜかその話をしなければいけない気がした。


「うん。田中さんだ」

「あぁ、やっぱりその性分は変わってなかったか」


 俺があぐらをかいて、その上に座って話を聞いていた。

とてとてと立ってこちらを見た。


「楽しかった。時間だから頑張ってね。

あなたが死んじゃったら悲しむ人が多いから」

「そうだな、それじゃまた。

みんなにもよろしく言っておいてくれ」


 驚いたような顔してからニコッと笑って背を向けた。

その背は大きく見えたような気がした。


「うん。またね。

あー、スカイだ!」


 ははは、あっちでもよろしく出来そうだな。

帰ってきた俺は頭には靄がかかっていたので顔を一発殴り気合を入れ直した。


「かぁ、痛ってぇ。

うし、次に行ってみよう」


 下から足音が聞こえてくる。

こいつは急がないとな気合入れ直して行ってみよう!


 気合を入れ直し拳を握って階段を駆け上った。

光る指輪は残り2つ、部屋も残り2つだ。



 駆け上りながら怖いという感情を考えないことにした。

そうしないと扉の前で尻すぼみしてしまう気がしたから。


「イヤッホー!」


 こうして気分を変えながら闇の部屋に飛び込んだ。

こうでもしないとおかしくなりそうだ。もうおかしくなってるか?


「で、ここは真っ暗と」

『ほう、久々の人間か』


 うお!?びっくりした。

ここの人いないからか?


「どうも」

『貴様には3つの試練を受けてもらう。

安心しろ、ほかの部屋よりも死にはしないさ』


 うわぁ、安心できねぇ。

だってここ闇の部屋だよ。絶対なんかあるって。


『では1つ目だ』


 魔力が俺に伝わり俺に何かしらのエンチャントがかかった。

そして見えてくるのは他人が成功を収めている姿だった。


 宝くじが当たり歓喜する者


 国を作り王にまで上り詰めた者


 多数の女性と関係を持った者


 中には身近な人ですら成功し幸せそうな顔をしている。


『妬ましいか?お前の手1つでこの幸せを壊し、同様のものが手に入るぞ』

「ほう、マジでか」


 あ、俺をはめてうまくいった人もいる。

あそこから這い上がったんだなスゲー。


『ナイフで刺してみろ。全てが手に入るぞ』

「あ、大丈夫っす」

『…これでもか?』


 そこには俺を奴隷商に売り渡し結婚式を挙げているかつての師匠。ダンロンさんも映っていた。

そしてそれに至るまでのネタばらしもされた。


「あー、この人が犯人だったのか」


 俺を奴隷商に売り渡し金を手に入れたのは付きメイドさんの方だった。

結婚は考えていたが金と時間がなくそこを何とかするために俺を売った。

ほかの勇者とも関係が薄かった俺を売っても問題ないだろうと考えて売ったそうだ。


『妬ましくないのか?殺したくないのか?』

「まぁ、妬みますし殺したいですよ」

『なら』

「でも、俺を売ってでも幸せになってくれたなら良かったです」

『今が幸せじゃないなら?』

「ダンロンさんを殴ります。なにやってんだって」


 てか、他人に興味がないからな。

今の俺に害がなければそれでいいや。ただし勇者てめぇはダメだ。


『なるほど。では次はこれだ』

「どんどんこいやー」


 映像は変わり他者が殺してでも奪う。

他人を陥れて利益にしている場面が映されている。


「あらら、大変なこって」

『心が痛むだろう。かわいそうな彼らを救いたいだろう?

ならナイフを刺せ貴様の1突きであいつらを救えるぞ?』

「いや、大丈夫っす」

『…またか』


 なぜに落胆する。

めんどいし関わりたくない。


「有名な言葉で人を呪わば穴2つなんて言いますし。

彼らは運がなかった」

『貴様が手を汚さずに救えてもか?』

「私だって利益で動いてますからね?

冷酷かもしれませんが私は動こうとは思えません。

リスクだってあるかもしれないんですよ?」


 なんせここは闇の部屋だ。

下手な事して命を奪われるのは俺のほうだ。


『かわいそうだとは思わんのか?』

「思いますよ?でも俺はヒーローになりたいわけじゃないですし。

そういうのは私の仕事じゃないといいますか」

『貴様本当に人間か?』


 酷いな。俺だって立派に人間してると思ってる。

こんな歪んでしまったのは大体勇者のせいだと思いたいね。


『っち。ならば次だ』

「舌打ちしたな?

どういう部屋か分かってきたぞ」


 次は俺の体に力がみなぎってきた。

今であればなんでもできる気がする。


『ほら憎め。貴様が殺したほどの相手が目の前にいるのだぞ?』


 あー、これはあかん。

見事にやられた。映像から勇者は現れこちらをみてにやりと笑う。


 今なら殺せる。こいつを殺すことができる。

映像は俺を裏切り最愛の人を殺した場面ばかり映り神経を逆なでされる。


『殺しても罰は当たらんぞ?ほら殺せ。欲望のままに殺して見せろ』


 俺はまずナイフの柄で顔を殴り、マウントを取り刺した刺しまくった。

とても気持ちが良かった、いつまでも続けたい衝動にかられたが人が変わった。


 勇者の1人で俺にシャンプーを要求してきた女だ。

こいつも同罪だ!殺せ殺せ殺せ!


「あははは、最高だぜこの部屋は!」

『やっと本性を出したな人間!そうだそれでいい!

殺せ!恨め!犯せ!壊せ!全部を奪ってやれ!』

「あははははははは!」


 何度も全力で刺し続けると人が変わり勇者で俺を睨んできた女に変わった。

あの目が気に入らなかったので目玉をえぐると叫び歪んだ表情になった。


 ヤバいまじで楽しい。

こいつらが人間であろうがそうじゃなかろうがどうでもいい。

今が最高に楽しければそれでいいじゃないか!


『ほら次の人間だぞ』


 性悪女だ。コイツだけは簡単に変わってもらったら困る。

じっくりいたぶってやんないとな!足も手もゆっくりと刻んでいかないと!

こいつのせいで俺の人生は、人生がな!


「苦しめもっと苦しめ!

お前がやってきたことを理解しろ!」


 どんどんと歪んでいき悲鳴を挙げている。

ざまぁ!お前はもっと苦しめ!だいたいお前のせいだろうが。


『次は…おやおや可愛いお嬢さんじゃないか』


 パルムだった。

なるほど、次はこうして欲しいのね。

んじゃお望み道理やってやろうじゃないか!


「パルム」

「来て」


 俺はナイフを突き上げそのまま自分にぶっ刺した。

ははは、ざまねぇな、俺。


『おいおい、折角の余興なのにどうして』

「ははは、残念だったな。

あいつらを出してくれたのは感謝するぜゴホッ」


 でもダメなんだ。多分この場にウルでもアグヴェルでも同じことをしたと思う。

いやー、一気に冷静になれたね。


「人間なめんな。自分の大切なものくらいわきまえてる。

守って争う。俺は醜く汚い人間なんでね、守るものは何をしても守るさ」

『理解できない理解理解理解』

「ゴパっ。醜いだけが人間だと思うな。そこから輝くから人間は美しい生き物なんだぜ」


 アイタタタタタ。テンション上がってるからってこれはないわー。

こんなんほかの人に聞かれてたら飛び降りるレベル。


『わからぬわからぬわからぬ!

どうして、貴様はそんなことができる!』

「汚いところなんていくらでもある。だけど綺麗なところを見つけるは難しいけど楽しいもんだぜ」

『…ではそれを見せてもらおう』

「はい?」


 あ、ダメだ意識がなくなっていく。

なんか魔法が俺にかかっているが対抗できねぇ。


『俺の分身を付けさせてもらった。

大切に育てるがいい』

「ちょいらねぇぇぇぇぇぇ」


 そこはもう扉の前で通路も出来上がっていた。

俺の影になんかいるんだけど?見えないようになっているけどなんか潜んでるんですが!?


「ゴホッゴホッ。

はぁはぁ…」


 下の階から音がする。

急がないと追いつかれる。


 階段で転んだりしたが這いずりながら扉の前にたどり着いた。

うっし、さっさと行こう。もう勇者が来ちゃうし。


「追いついたぞ卑怯者」

「…ははは、残念。先に行かせてもらうぞ!」

「させるか!」


 勇者が剣を振るい剣圧が俺の体を真っ二つにした。

お前なにするか!?指輪が残り…残り0個!?


「こんのばか勇者こらぁぁぁぁ!」


 剣圧に飛ばされ光の部屋に入っていった。

あー、これ大丈夫か?俺もダメじゃないのかな?


『己の罪を見つめよ』

「はい?」

『己の罪を認めよ』


 ここはどんな試練だ?

さっきから罪罪言われるんだけど?中二病かな?


『度し難き人間。貴殿を罰し浄化することで罪は消える』

『認めよ。貴殿の罪は重い』

『認めよ』

『『貴殿は浄化されるべきだ』』


 光の柱が部屋の中心に生まれ太くなっていく。

光は熱く、逃げ場はない。あれを無効化出来るだけの力もない。


「考えろ。闇の部屋は生き残れるはずだった。

この部屋もいけるかもしれない」


 考えろ。罪を見つめる?認める?

どういうことだ?


「これでワンチャンか」


 光が近づき熱線が俺を焼いていく。

こういくことしかないのか。


「俺はパルムとウルに興奮したことがある」


 ジョワ…


 あれ?違うの?

俺は一瞬で浄化されてしまったようだ。




「まったくもう、困るよ。

こっちはこれから立て込むんだよ?」

「いやー、こればっかりは申し訳ない」


 邪神-田中-は子供のようすで杖と剣を準備していた。

まぁ、これからあの勇者たちと戦うわけだしね。


「あら?田中じゃないですか!!」

「ムグッ。グロウじゃないか」

「そうですよ。あなたの恋人のグロウですよ。

きゃー、こんなに可愛い姿できゃー!」


 な、なにこれ?

なんかいちゃこら始めちゃったんだけど?


「そ、それで君はどうしたい?

諦めるのかい?」

「俺が諦めたら2人が死んでしまいます。諦めたくない」

「うんうん、そういうと思ったよ。

むぎぅ。グロウ手伝ってくれないかい?」

「はいもちろん。あなたのために身を捧げていますからね」

「…ありがとう。いつも迷惑かけるね」

「いいんですよ。私は楽しんでやってますから」


 …なんか無茶苦茶羨ましいぞ。

俺も戻ったらイチャコラしたいところだ。


「結論から言うと君は死なないけど君は死ぬ。

代償は君の記憶全てだ」

「…どうなるんですか?」

「生まれたての赤ちゃんの状態になる。

だから今の君は死ぬだろうね。体は死ななけど」


 …なるほど。確かに俺が死ぬみたいだ。

でも、それだけできればなんとかなるだろう。


「でも、いいのかい?今の君は死んじゃうんだよ」

「いいですよ。生まれ変わっても彼女たちを愛せますから」

「きゃー!素晴らしいです!

ね、ね!田中も生まれ変わっても愛してくれますか?」

「は、恥ずかしいこと言うな!」

「あはは、可愛いですね。

それなら私も1肌脱ぎますよ」


 グロウは何かを詠唱すると俺の体が光り輝いた。

一体何したんだ?


「グロウは魂の巫女なんて呼ばれていてね。

君の概念のようなものを1つだけ魂に閉じ込めてあげれるよ」

「それは助かります」

「でも記憶じゃないから、うーん、体が覚えているって感じかな?」


 なるほど。それだけでも助かるな。

本当にこの人には頭が上がらない。


「ふふふ、田中がここまで肩入れするなんてなにしたんですか?」

「彼には同情かな?見てて楽しかったしね。

それで決めたかい」

「はい。………でお願いします」

「…ははは、いい選択だ」


 お願いすると俺の頭から何かこぼれ落ちていくような恐怖を感じた。

あー、なるほど記憶ってそういうことになるよね?


「僕ができるのはここまで。

あとは頑張りなよ」

「は、はい。ありがとうございました。たな…か…さ」


 誰だっけこの人。とても優しい感じがする。

やさし…やs…??


「さて彼も行ったし早速仕掛けよう。

僕はきっと1太刀で消えちゃうし」

「あはは、そうですね。

では一緒に行きましょうか。あちらでみんなも待ってます」


「お前が初代魔王か?」

「…ハロー、勇者さん?

早速殺し合おうじゃないか?」

「ふふ、楽しそうですね」


 半透明な魔王が剣を振るい、グロウが杖を振るうと勇者は黒く覆われ頭を抱え始めた。


「ああ、あああああ!ああああああああああああああああ!」

「いきなりなんて!」

「こんの!!」


 他3人の力で魔王とグロウは消し飛んだ。

2人の表情は嬉しそうに、やっと解放されたのかのような表情をしていた。


「た、倒したの?」

「ショウヘイ!しっかりしてショウヘイ!」

「ああ、なんだこれは、なんだってんだぁぁぁぁぁ!」

「何が起きているの!?」

「わ、わかりません」


 ショウヘイは死んだ少年の夢を見ていた。

後悔と狂っている夢を見続ける。






「こっちからあの人の匂いがします」

「こっち?」


 カズヤと分かれて1時間近く。臨戦態勢を整えるために魔狼になっていると、塔の近くの森からカズヤの匂いがして急いで向かった。

でもどうしてこの森から?彼は塔に入ったはずなのにどうして?


「近いです!」

「あ、こっち!」


 どうやらパルムが魔力の塊を見つけたようだ。

そちらに向かうと膝を抱えて座っているカズヤがいた。


「カズヤ!カズヤ!」

「大丈夫です。怪我はほとんどありません。

良かった、全部終わったんですね」

「……ぅ」


 本当に良かった。意識もあるみたい。

あとは帰るだけですね。これで幸せな


「ああああ、うぁあぁぁ!」

「え、はい?」


 急に泣き始めた。もしかして私たちに安心して泣いているとか?

いやでもこの泣き方って?


「あうわぁぁぁ!」

「カズヤ落ち着いて!何が」

「ああああああ!」


 なんというかこの泣き方って


「赤子」

「ああああああ!」


 カズヤは赤子のように泣き続けた。

まるで私たちが恐ろしいようにひたすら泣いている。


「大丈夫だよ。大丈夫」

「パルム。そうですね、どんなになってもカズヤはカズヤです」

「あぁぁぁ!…あう?あーあー!」


 私たちはカズヤの頭を抱えると初めは泣いていたが今じゃ2人の髪の毛で無邪気にはしゃいでいる。

一体何があったのか私たちに知るすべはないのだろうか。


「ウル、これ」

「これは?」


 邪神像は壊れ中からは丸く透明な宝石。

それと1枚の手紙が入っていた。


『彼の新しい人生を支えてあげて欲しい。

彼の夢の友人より』


「…はぁ」

「なるほど。これは」

「「私たちを舐めてる!」」

「うーわ?」


 私たちが塔の前に来ると先ほどの宝石が光輝き、光が収まると目の前には魔王城があった。

さっきの光でカズヤは泣き始めたが手をギュッと握ると笑ってくれた。


「ひ、姫様。お早いお帰りで」

「馬車お願い。急ぎで」

「はい。ただいま」


 馬車で動くとカズヤは泣き続け魔王城でも泣いていた。


「そ、それでこれは?」

「『欲望の塔』から出て来てからこのように」

「そうか…

残念だけど手紙の内容もあるからカズヤはもう戻らないだろうね」


 …場には暗い空気が流れていった。

それでも私たちはなにも怖くなく決意は変わらない。


「それでも。私たちは彼を育てていきます」

「もちろん。だって」

「「大好きだから」」


 どんな状況でも私たちは変わらない。

この思いだけは替え用のない事実だ。


「あらあら、パルムも大人になったわね」

「うん。だからお母様。

育て方教えて」

「任せなさい。

ふふふ、ちょっと早いけど男の子も育てたかったの」

「あう?」


 私たちはカズヤをここで育て始めた。

彼が忘れても私たちは忘れない。忘れるわけがないのだから。

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