32-欲望の塔
今日も今日とて忙しい日々を送る。
冒険者に飯を作り子供たちにお菓子を作り嫁達と一緒に寝る。
そんな日常は爆音と共に消え去った。
「な、なんぞや!?」
街は大パニック。冒険者は駆り出され、俺たちも例外ではなかった。
…聞いた情報だとまた勇者だよ。なんなんだよ、関わんなよめんどくさい。
「どうやら君を探しているようだね」
「うっへぇ。マジっすか。
会いたくないけど暴れられても困るな」
渋々。渋々!洞窟を破壊しながら進む勇者の前に出た。
あー、どうせ面倒事だよ。どうせ俺また死ぬんだよ嫌だぁぁぁ…。
「探したぞ」
「それはどうも。一体何用で?」
「一緒に来い」
「刑務所は勘弁で」
俺、現状賞金首だし、本当に行きたくない。
「いいのか。お前が拒否すればこんな街直ぐに消し炭にできるぞ」
「それは困りますが、準備したいので」
「…っち。『欲望の塔』だ」
…は?『欲望の塔』?
いやいやいや、死ぬなら俺の関係の無いところでどうぞ。
「行きたくないんですが」
「いや、来てもらう。お前が来ないと扉が空かないんだ」
「…拒否権は」
「拒否したらこの街はなくなる」
「…選択しねぇ。
分かりましたが条件です。準備する時間をください」
蘇生の指輪が最低7個いる。
どうせ、俺が全部の部屋巡って人柱。俺知ってんし。
「は?そんな時間あると思うな」
「いやいや、道中で死にますから。
君たちと私を同じにしないでもらいたい」
まじで。簡単だし、腕ないからね。
常に瀕死状態ってのを忘れない私偉い。
「だからそんなこと」
「私からもお願いしますわ」
どすどすと足音を立ててきたのはアリスだ。
急いできているのか汗が出ている。
「アリス様!どうしてこのようなところに!?」
「私用でこちら貿易を。
それより私からもお願いします、カズヤ様のせめてもの願いです」
「…分かりました」
「「ショウヘイ!」」「勇者様!」
「しかし、私たちが世界のため動いていることをお忘れなきよう」
勇者一行は何やら話し始め俺にはそっと貴族さんが話しかけに来てくれた。
「時間がない。これを持って行ってくれ」
「これは」
「色々とお世話になったからね。2人からの贈り物だ。
妻たちを失う苦しみは私も知っている」
「ありがとうございます」
蘇生の指輪を2つも頂いた。
本当に助かる。あとは魔王様だよりか。
「今回だけは姫様に感謝しろ。
お前のわがままを聞いてやる、さっさと行くぞ」
「ありがとうございます。魔王城に行きましょう。
では留守をお願いしますね皆さん」
「任せておけ!」「掃除は僕達がしておくから頑張って!」
パルム、ウルも連れて目的地である魔王城にワープした。
「べ、便利ですね」
「マリーの魔術だ。
これで『欲望の塔』までいける」
「ず、随分と早いんですね」
門番のところまで行くとパルムのおかげですんなりと行くことができた。
勇者もついてきているが気にしない方向で。
「おお、カズヤに…勇者御一行か。
何用か」
「魔王様、少々頼みが。
時間がないので早めにお話を聞いていただく」
「う、うむ。こちらに来い」
魔王様に簡略化して現状を話すとゴソゴソとマントから5つの指輪を取り出してくれた。
おお、ビンゴ!流石は魔王様だぜ。
「これしかないんだ。ごめん」
「いえ、これで必要数足りました」
「それと、死地に行くなら彼を連れて行くといい」
なんとなく察した。
俺はアグヴェルと拳を合わせてニコリと笑った。
「来てくれるなら心強いよ」
「何をいまさら。ほら、あいつらが血眼で見ているぞ」
「おー、こわ。んではいきますか」
すぐにでも行きたいのか睨んできた勇者。
…こいつら今から行くところ分かって睨んでるのか?ワンチャンあの情報知らないんだろうけど教えても信じないだろうし。
「話は済んだんだろう。行くぞ」
「はい。では魔王様逝ってきます」
「お、おう。必ず帰ってこい」
光が収まると目の前には草原と、白い塔があった。
あれ?これってどこかでたしか
「早くこっちに来い」
「あ、はいはい行きますよ」
アグヴェルにこそこそと塔の秘密を話しながら行くと円盤の前についた。
ギリギリ話し終わったが勇者一行は睨み警戒をガッツリしている。
おー、怖いね。そんなに睨まないで欲しい、睨みたいのはこっちだよ。
魔王城は昼だったがここは夜になっていた。
ここって魔王城からアホみたく遠いところにあるみたいだな。
「それで私が呼ばれた理由は?」
「どうしてだ!円盤が」
…ほう、無視ですかそうですか。
え?その円盤何かあるの?
「残念だが今日はここで野宿か。
皆準備するぞ」
「「はい」」「ふふふ、今日は腕によりをかけますね」
おお、野宿なのね。
せめて一言欲しいけどなんとなく察したよ。
「こっちも野宿の準備はじめるか」
アグヴェルが火の準備を始め、他2人は寝床の準備を進めた。
俺は俺で料理の支度だ。片腕ないから不便だけどそれくらいはできるだろう。
「手伝う?」
「おー、助かる。
こっちの肉を適当に切ってくれ」
「ん」
さて肉はアグヴェル好みの味付けにして、付け合せの野菜を適当に刻んで。
ご飯とかでいいのかな?
「ご飯でいい?」
「あまり食べれない」
「おk。そうなると」
パンケーキとか作れば食べやすいだろう。
材料はあるしちゃっちゃと作るか。
「あ、私もそちらのほうがいいです」
「了解。ちょっと待ってろ」
パンケーキとご飯を山盛り作ってアグヴェルに渡して美味しそうな匂いの食卓が完成した。
あっちは乾燥パンと干し肉か。ふふふ、ちょっとした優越感。
「けぷ。美味しかった」
「もういいのか?ってソースついてるから」
「お腹いっぱい。とって」
「…狙ってやってるのか?」
「あー、私もついてます。ここですよここ。
ほら早くとってください」
子供か!?なんて思いながらも嬉しい俺がいる。
いやー、男としての性には勝てないね。
「カズヤ、お風呂に入りたいです」
「あいよ、ならいつものお願い」
「手伝おう」
おや、あまり入りたがらなかったアグヴェルですら手伝うと?これは珍しい。
ウルが土魔法を使って土台を作って、アグヴェルがコーティングして風呂釜を作り上げた。
あとは俺が水魔法を使ってお湯を作る。これでお風呂の完成である。
風呂が完成すると羨ましそうにこっちを見てくる勇者一行。
ふはは、優越感ぱねぇ!絶対にこれ使わせないけどね!
風呂も終わり、3人に乾いた風を送り乾かしてから、風呂を壊し水を適当にばら撒いた。
「あ、今日は一緒に寝るのはダメだからね。
火の番あるからね」
「ちぇー」「私は気にしませんよ」
「俺が気にするから我慢の方向で」
火の番はウル、アグヴェル、俺、パルムの順ですることになった。
おお、結構よく寝れるんじゃないか?まぁ、あっちの方にも注意を割かなきゃならんからいつもと対して変わらないけど。
「んじゃ、おやすみ」
「はい、任せてください」
適当な寝具を使って火の回りに陣取って眠り始めた。
あー、久々だ。これ起きたら体べっきべっきだろうな。
「ほらほら起きた起きた」
「はい?もう順番回ってきた?」
「何寝ぼけてるんだい?
まぁ、夢の中で起きろっていうのも変な話だけどさ」
子供の声が聞こえる。火の暖かさはなく、ちょっと肌寒い。気がする。
この呼び出し方だと邪神か?
「ふぁ、お久しぶりです。邪神、さん?誰?」
「ちょっと酷いな。僕は邪神だよ。力を使いすぎて子供になっちゃったけど」
「お、おう。それでまた私は死んじゃったんですかね?」
この空間にくるってことは死んでから来てたからな。
俺が寝てる間に7回死んだってこと?
「いやいや、違うよ。
僕が話したくてここに呼ばせてもらったよ」
「そういえば話したことありませんでしたからね」
「そうそう、折角だから。
それと1つ頼みごともね。あ、どうぞこれ飲んででも話そうか」
机からちゃぶ台になりそこにあったかいお茶が出された。
こいつマジなにもの?まぁ、いいか。
「さて、君の冒険譚は見て来たるがその前のことを話してもらおうかな?
ほら、あの部族の前のことさ」
「あぁ、分かりました。ただ面白い話じゃないですよ」
「それを決めるのは僕さ。
さて、色々と話してもらおうかな」
俺は思い出しながら数年前のこちらに召喚されたあとのことを話した。
邪神は時に楽しそうに、苦虫を噛み潰したように表情をコロコロと変えながら話を聞いていく。
「それで像に出会ったわけですね」
「なるほどね。うむうむ、そうなると僕は君に頼みごとをするのは間違いじゃなったのか」
あー、はじめにそんなこと言ってましたね。
結局話していたらそのこと忘れてたよ。
「君を友達と見込んでの頼みごとなんだけど、勇者一行を『欲望の塔』に登らせて欲しい」
「え゛。なんでそんなことを」
「それにも理由があってね」
開いてるはずの目は閉じられており、開くと火の暖かさを感じ取れた。
どうやらアグヴェルが揺らして起こしたようだ。
「時間だ」
「ああ。ありがとう」
「何かあったら起こせ」
「ははは、そうさせてもらうよ」
俺は火で温まりなが夜空と『欲望の塔』を見上げた。
はぁ、面倒なことになったな。
「嬉しかったが難しい頼みごとだよ。田中」
火は燃え続け、夜は過ぎていく。
覚悟を決めて俺は。
「とりあえず夜食を作ろう」
焚き火で肉を焼いて食べていた。
夜中のカロリーってどうしてこんなに美味しいんだろうな。
朝になり、朝食の準備をしていたが昨日(?)のことが夢であったはずだが頭に残っていた。
あぁ、新しい朝が来た。残念な、天気のいい朝が来ちゃった。
「おい、塔に入るぞ。こっちに来い」
「ゆっくりする時間もないんですね。
あー、はいはい行きますよ」
円盤が4つしか光っていなかったが俺たちが行くと6つ光った。
これが勇者が言っていた円盤なのかね?
ゴゴゴゴ…と音を立てて扉が開いていき勇者は喜んで入っていく。
円盤は未だに2つの光が点っており閉じる様子はない。
「…っち、おい!こっちに来ないと始まらないみたいだ」
「えー、困る」
「困っているのはこっちだ!
誰でもいいから早く来い!」
…状況的に俺は確定。
そうなるとあと1人必要。
勇者一行は4人。俺らは2人選抜。扉は7つ。
あれれ、おかしいぞ?
「う、うわー。全力で拒否りてぇ」
「俺が行こう」
「…助かるよアグヴェル」
これに対して2人が反論したが、俺が落ち着かせアグヴェルと共に入ることなった。
門を潜ると門は閉じ、『欲望の塔』が始まった。
俺の視界が傾いたが。
あの腹黒早速仕掛けてきやがったな!いつか来ると思ったよ!
「「カズヤ!」」
パルムとウルが魔法で仕掛けるがとき既に遅し、塔は既に閉じられ。
俺の首も蘇生の指輪が発動し残り6個。首はあっという間に繋がり、俺はアグヴェルと自分の足に短剣をかすらせ麻痺毒をばら撒いた。
「ぐぉ、卑怯だぞ」
「仕掛けといて何を?
意識を奪うほどの濃度でやったんがおかしいもんだな?
勇者様方?」
いやー、気持ちがいいけど魔法使いと腹黒がなんか唱えてるからさっさと行くか。
途中で腹黒でも放り投げてやろうかな?
「カズヤ」
「ん?どうしたアグヴェル?
アグヴェル?」
アグヴェルさん?どうして扉に手をかけているのかな?
話したはずだよな?そこはダメだって。
「今まで世話になったな。
先に行かせてもらう」
「ま、待てって。お前がそんなことを」
「頼まれたんだよ、お前を支えてくれって。
あいつにさ。それにそろそろだろ」
そろそろ?あいつ?アグヴェルは誰のことを言っているんだ?
まさか田中に言われちまったのか?
「俺だってあいつに…会いたいからな」
そう言って取り出したのは白猫の短剣を取り出した。
待てよ、待ってくれよ!俺はまだお前に何も
「先に行ってるぞ、親友」
「待っ」
扉は無慈悲に閉じ通路が現れた。
上るための螺旋階段が現れた。…このまま待っていても勇者が起きてしまう。
アグヴェル、ありがとうな。俺が言ったら酒でも飲みながらノロケ話でも聞いてやる。
「ま、待て」
「待つわけにはいかないんだよ。
友達の頼みごともあるしな」
走って階段を上り空いている扉に飛び込んだ。
待っていると色々と考えそうだったから。
「ゴボッ」
水が肺に入っていき苦しく何も考えることができなくなっていく。
パニックになって意識を失う寸前、全身に冷たいものが走り思考が回り始めた。
何が起きている?呼吸ができている?
水に魔力でも伝わっているのか?
と思ったとたんまた苦しくなり意識を失う寸前また呼吸ができるようになる。
これが何回、何十回も繰り返され何度も死に目を見た。
気がついたら呼吸ができるようになっていたが、腕に激痛が走った。
血が流れ、目の前にはサメが優雅に泳いでいた。
水の空間には治癒魔法が施されていてなくなっていた腕は再生していた。
痛みは残っており何度も四肢を食われ痛みでついに言ってしまった。
「殺してくれ」
その瞬間サメは消え静かになった。
腕や足がべきべきと変な音と俺の叫びが水の中で消えていく。
どうやら水圧でだんだんと先から潰されていく。
そして胴体まで到達したとき俺は白い床に水を吐いていた。
「ゴホッゴホッ」
「おお、久しぶりのお客さんだね」
目の前には青い髪の毛の女の人が立っていた。
「君は生者?死者?」
「はぁ、はぁ…どちらかと言ったら生者ですかね」
「ならおかしいね。ここは死者来れないはずなんだけど。
これは研究のしがいがありそうだ」
珍しそうにこちらを見ながら体をペタペタと触っていく。
そして嬉しそうに、珍しそうに頷いた。
「なんだ、田中はまだ生きているんだね」
「あー、この体のことね」
「そそ、さみしさもあるけど嬉しさもあるかな。うんうん。」
「うん?どういうこと?」
「ここはもうすぐなくなってしまい、君は元の世界に帰れる。
僕ももうすぐここから消えることができるんだ。あぁ、やっとここから出られる」
青い髪の女性-アクア-はくるくると嬉しそうにそこで回った。
せ、説明が一切ないからなんというかおいてけぼり感がすごいな。
「時間がないからこの部屋のことだけ話そう。
いやー、退屈すぎて死ぬかと思ったよ。もう死んでるのに死にそうだなんてふふふ、面白いね。
さーて話を続けるよ。ここは初代勇者田中とその一行が最後に訪れた場所っていうのはわかるよね」
「は、はい。そこはなんとか」
それは遺跡内で読んだからわかるけど、昔話と違う点があるくらいにしか思ってなかった。
でもそれって重要な点なのかな?
「で、ここからは憶測なんだけどこの塔で死んだ人ってここに魂を閉じ込められちゃうと思うんだ。
未だに私しかいないからわからないんだけどさ。しかも魔法も使えない、何もかけない。時間をつぶせるものは一切ないんだよね。
でも、わかったことは私の後に人が来ると私はここから出られるってこと」
入れ替わり式で魂が閉じ込められるなら俺大丈夫かな?
もし、生きててもあかんやつならこの時点で詰んでるんだけど。
「あ、君は生者だから大丈夫だと思うよ。
うんきっと大丈夫。自分を信じて」
えーーー。何か結局自分の気持ちの持ちようみたいな雰囲気なんだけど。
そんなんで解決しないんだからここにいるんでしょ!?
「いやー、久々に人と話すと楽しいね。
あ、多分だけどここから先登るなら気をつけてね。
君の蘇生の指輪1つ使われてるみたいだし」
「あ、本当だ。あと、5つですよね」
「そうだよ、丁度だね。君は準備がいいねー。
あ、そろそろ時間みたい。それじゃ田中によろしく言っといてねー。
あ、僕はアクアって言うからね」
部屋にヒビが入っていき何かに引っ張られるように部屋が遠ざかった。
そして、アクアが笑顔で手を振って気がついたら扉は締まり階段が生まれていた。
「ゴホッガホッ」
どうやら蘇生されても体にダメージ残ってるみたいだ。
なんか変な黒い液体が口から出たんだけど。人間やめてんねー。
「行くか。勇者が来ちまうと面倒だし」
階段を駆け上り深呼吸してから扉にダイブ!
どうせエグい仕組み、恐れてもあれだろ?
「うおああああああ」
落ちる感覚が襲い内蔵がフワッとなってる。
ちょっと楽しいけどなんかおかしい。
「痛っ。ただ耐久してろってのも辛いな」
風の刃がひたすらに飛んできている。
1発目はかするだけで済んでるが切れないように調節。回復が付与されている。
「がっ。こふ。っち」
頭に当たらないように飛んでくる上、骨が折れても即回復。
いやー、魔族に初めて奴隷として来たとき思い出すね。
走馬灯が正しいかもしれないけどさ。
「はぁはぁ。おわ・・・!?」
また呼吸系か!?
なんでこの塔は呼吸器にダメージ与えに来るの!?
俺に対して効果抜群だよ畜生が!
こうして呼吸を止められ酸素を流され苦しむこと体感数十分。
なんかもう苦しい。酸素美味しい。
そして頭から地面に激突するようで正直ションベンチビりそうになりました。
すいません、少しチビりました。
恐怖のあまり目をギュッとつぶると周りから草の香りがした。
ああ、癒される。1つ難点があるとすれば体が風で拘束されて動かない。
目を開けると青空が広がり少しすさんでいた気持ちが晴れた気がしたがどうせここで殺される。
「お?え?ちょまって。流石にそれはエグいって」
目の前に現れたのはカラスだった。
1匹が鳴くとみんなが鳴き大量のカラスが俺の周りに集まった。
「ぐぁ、やめろぉぉぉ!俺を食うなァァァァ」
いくら暴れようが叫ぼうがカラスはそこを退かず俺を啄んでいった。
カラスの嘴には回復魔法がかけられていたがちゃんと回復せず地味に回復し、俺を苦しめる。
既に喉や目も啄まれ、かすれるような息しかできなかった。
これはカラストラウマになることほぼ確定なんだが。
『カァー』
この1声で完全に意識を失った。
生きながらの鳥葬って本当に怖い。
「おい人間。頼みがある」
「はい?…ああ、俺のことか」
目の前には緑色のグリフォンがこちらを座りながら見ていた。
周りを見渡したが俺1人。まぁ、確かに当然ちゃ当然なんだけどさ。
「おい、早くこっちに来い」
「つ、啄んだりしない?」
「…ははは、せんよ。われも人間に会うのは久しい」
「それで、何事で?」
「いや何、背中が痒くてたまらん」
あー、なるほど。背中に手(?)が届かないんだな。
わかる、わかるぞ。腕なくしてから初めの問題だったからな。
「ここですか」
「そうだ、そうだ。
もう少し強くてもいいぞ」
「はい」
「おお、素晴らしい。
次はもっち下の方をだな」
グリフォンの体を掻きまわすと満足そうにこちらを向いた。
なんか凛々しく見えるが掻き回したせいで可愛く見える不思議。
「お前からは田中殿の匂いがする。
田中殿に会ったのか?」
「まぁ、会いましたね」
「元気だったか?」
「元気?ま、まぁ人にお茶を振舞う程度には」
「そうかそうか。
かか、田中殿は元気にあらせられるか。それは良好」
嬉しそうに笑い、グリフォンは立ち上がりグーっと伸びをした。
で、でかいな。何よりも威圧感が半端じゃない。
「さて我々はどうする」
「えーっと、アクアさん曰く時間になれば部屋が崩れあなたは魂が解き放たられ、私は扉の前ですね」
「む。人がやる気を見せたらこのざまか」
「す、すいません」
「よいよい。では老人の話にでも付き合ってもらおう」
グリフォンの話は面白かった。
まずは風の守護者であるグリフォンが部屋に入ったとたん飛べなくなり怒ったり。
カラスに啄まれ現実に戻ったら世界からカラスを消すと誓ったり。
余りにも暇だから定期的に羽を取り自分の羽で巣を作った時は達成感がすごかったとか。
「む。そろそろ時間か。
最後に楽しかったぞ少年」
「私も楽しかったです。ありがとうございます」
「うむ。これを持っていくがいい。
残るかは知らんがな、かかか」
グリフォン-スカイ-は羽を一枚抜き俺に渡してきた。
受け取るとヒビが入っていき引っ張られるように部屋がなくなった。
「かか、強く生きろ少年」
うご、足に切り傷が残ってる。
体力も中々持ってかれるし登るのマジ大変。
「あ、スカイさん」
手元にはグリフォンの羽がありカバンに仕舞ってヒールをかけてから階段を登っていく。
次は土の部屋か。よし、こうなりゃヤケだ、一気に行くぞ。




