30-取り戻す代償
血吸いの森は霧がうっすら赤く葉っぱも赤く染まっている。
進むとミイラや白骨化している冒険者だったものが転がっている。
魔物も昆虫やアンデットが多く俺は戦力外だったがアグヴェルが上から叩き潰して進んでいく。
勇者は戦い方が派手なので魔力を追っていくと簡単に見つけられるだろう。
「移動早いんですよ。
もう少しゆっくりでもいいんじゃないですか?」
「なんだ、お前か。
もう話すことはないんじゃなかったのか?」
「いやいやすいませんね。
もう少しだけウルと話がしたく」
「しつこい男は嫌われるぞ?」
「いやー、もっともな意見で」
さて、どうせ戦闘になるんだし毒でも準備しておきましょう。
とりあえず、このオリジナルブレンドでも。
「私と話したんでしょゴミ虫。
勇者様方、先を急いでください」
…本当だ。あの女から魔力が耳から入ってるのか。
あの魔力切ってから話したいな。
「そうですね、私たちは先を急ぎましょう。
ウル、これを」
「あら、ありがとうございますお姉さま」
「頼んだぞ、ウル」
なにか渡していたが、なんぞあれ?
魔力の色が禍々しいんだが。
「さて、いきますよ、ゴミ共」
「!?ウルそれは使うな!!」
勇者がその場を去った瞬間地面に玉を投げつけ周りの木の根がウルに纏わりついていく。
ウルから木に赤い血が流れていく代わりに大量の魔力が流れていく。
「GRRRRRRRR!」
「っち、どうしてこう上手くいかないんだよ」
視界が狭い。寒い。お腹が減った。
私はどうしてここにいるんだろう?
『…る……識は…か?』
あ、目の前にカズヤがいる。
会いたかった、すごく寂しかったんだよ。
会いたかった会いたかった会いたかった会いたかった会いたかった会いたかった会いたかった会いたかった会いたかった会いたかった。
『ぐ……を』
口の中に彼の香りが広がる。
あー、美味しい。
ウルは暗い青をベースに赤い線の入った狼のような姿に変わってしまった。
そして、苦しそうにもがいていた。
あの魔力も切れているし、俺の知ってるウルなのか?
「ウル、意識はあるのか?」
『………』
近づいても反応がなく、ただただ苦しそうだった。
見るも耐えられず近寄った。麻痺毒なら影響なくいけると思うが後遺症残らないといいんだが。
「え?ぐ…ウル、なにを」
左腕を肩から噛みちぎられていた。
血が噴き出し思わず後ろに倒れてしまった。
「ぐあああああああああ!」
『GAAAAAAAAAAAAAAA!』
「「カズヤ!」」
熱いけど寒い!
痛みとかじゃなくパニックがすごい。
まともな思考が働かねぇ
しかし、目の前のウルは俺のことを餌のような目で見ている。
あ、動けないやこれ。
『GAF』
口から血を吐き、苦しみ悶え出し始めた。
あ、毒のオリジナルブレンド。ここで効くか…
早く解毒しないと命の危機じゃん。
「止血しないと」
痛みが引いていくが残念ながら止血ができない。
どうやら血液が霧になっていっているようだ。
「アグヴェル、ウルの蔦を切ってくれ」
「だが。わかった」
寒い、血が足りないのかどんどんと体温が下がっていくのが分かる。
ウルも毒で動けないのか黙って根を切られていく。
そして、最後の根も切られた時全身傷だらけのウルが人に戻って横たわっていた。
これ最悪の場合パルムに石化して運んでもらわないといけなんじゃ。
「あ、ああああ」
「パルム、ウル。悪い死にそう」
「ダメ!お願い、お願いだよ」
あー、そうか。パルムって運命共同体なの忘れてた。
そうなるとなおさら死ねないよな。
「カズヤ、ウルだが。
もう。」
「…そうか」
なんでこうなるかな。
救おうとするとどうしても裏目に出る。諦めたくねぇな。
「いやいやいや、君早すぎない?」
「えーっと、あー。お久しぶりっす」
目の前にはあの時見た青年。広がる青空。
つまるところそういうことみたいだ。
「え?何?命軽く考えてる?
これだから最近の若者は。
いいかい命ってのは」
ここから命について語られた。
いや別に軽く考えてるわけじゃないんだ。ただ、この世界は俺にとってハードモードなだけなんだ。
「…って事なんだけど」
「はい。はい。申し訳ないです」
今んとこ俺が邪神に合ってる理由って全部勇者が悪くね?
え?あいつ本当に勇者なの?世界救うなら手始めに俺を救ってくれません?
「それで今回の願いは?」
「…彼女を、ウルを救ってくれませんか?」
「ほう、君はまた他人を救うんだね?
いいのかい?君が死ねばもう1人の死んじゃうんだよ?」
「そこはなんとかしてみます。止血さえしてしまえば生きていけたら嬉しいな」
「はは、随分と希望的観測なんだね」
そりゃ、可能性なんて元から低いからね。
やりたくないけど方法なら思いついた。ショック死しないことを願ってくれ。
「さて結論だけど。彼女を救うことはできる」
「本当ですか!ではお願いします」
「…詳細を聞かないのかな?」
「ははは、聞いたところで変わりませんから」
「まぁまぁそう言わず。ちゃんと聞いて絶望してくれよ」
oh…流石は邪神様だぜ。
それを聞きたくないから話を進めたかったんだけど。
「まずは彼女の血をいただくね。彼女の血が色々と原因になってるから抜かないと彼女は壊れてしまうだろうし。
そして血の代わりに君の魔力を使って体を動かしてもらうよ。
そして君が死なない限り彼女も寿命以外じゃ死なないなんておまけ付きだ。
でも気をつけてくれよ、君が魔力切れを起こしたら彼女に激痛が走ってしまうからね、こんな感じの」
瞬間、呼吸は愚か視界が真っ白になり痛みで気を失えず内側から引き裂かれるような痛み?が俺を襲った。
「ね?この痛みが彼女を襲うから気をつけてね」
「はぁ、はぁ。わざわざ俺にかけなくても」
「僕は人間は学習しないものと思ってるからね。
でも実感すれば少しは学ぶだろう?」
言いたいことはわかるし、この痛みはもう無理。慣れる慣れないの話じゃない。
俺の縛りに魔力消費が加わっただけの話だな。
「…それで代償は?」
「あらら、そこは聞いちゃうか。
実はもう決めてたんだよね。代償は君の片目と感覚をいただくよ」
あー、やっぱえぐいですよね。
まだ人間続けれてるだけ儲け物か。
「…お願いしますね」
「あ、目に関しては君が目覚めてから自分でとるんだよ?
安心して欲しいのは君には数分間ショック死を無効にしてあげるから」
「畜生!ありがた迷惑だ!」
「ははは、僕は邪神だよ?頑張って生きてよ?
君の生活は娯楽なんだから」
ご、娯楽って言い切られた。俺の体を光が包んでる所をみるとそろそろ時間かな?
「それじゃ、これが最後のことを願うよ」
「俺も望んでますよぉ…」
こうしてそこは邪神と机だけの空間になったはずだった。
「さてとこれも人助け。僕も頑張っていきますか」
青年の髪が白くなっていきもう黒髪は残っておらず、体も透明度が増していく。
「僕がこんなに頑張ろうなんてね。
神になって初めてだよ本当。これも彼を見すぎちゃったのかな?」
誰もいないはずの場所に邪神は曇りのない笑顔でお茶を机に出した。
「長生きのしすぎたはずなのにまだ生きていたいなんて思うなんて。
さぁて、できることなら彼に邪神の祝福を」
少年は生きていることが楽しそうに、空を見上げた。
「やだ、やだよぉ…」
「起きてるから大丈夫。
さてお仕事しないとな」
あー、怖い。無茶苦茶怖いし、手が震えて力が入らない。
でも、ここでウルを失うほうがもっと怖いよな。男だろ?男見せろよ俺!
「がああああああああああああああああああ!」
ブチブチブチッ!
俺は残った手に魔力を乗っけて片目を引っこ抜き掲げると握ってる目の感触は消えた。
「何してるの!なんで」
「はぁはぁ、ア゛グヴェル。お願いだ。
俺の傷口を焼いでぐれ」
「な、なにを」
「早ぐやっでぐれ」
「…気張れよ」
「!?ぎゃあああああああああああああああ!!」
熱い痛いこんなの我慢できるわけ無いじゃん。
俺は喉が枯れてもまで叫び続け、喉はもう声が出るような状況じゃなかった。
「こひゅ…こひゅ…」
「カズヤ!お願い、お願いだから」
ごめん、今話せそうにないや。
ウルをみると呼吸をしっかりとし、穏やかに寝ていた。
それを見て、笑うと邪神の加護が切れたようで意識を手放した。
目を覚ますと夜でした。
なんか、焚き火の音とスヤスヤと寝息が聞こえる。
横目でみるとパルムそしてウルがいた。
よかった安心したがそこで気づいた。
今俺は2人に抱きつかれているがそれに気づかずに寝息で気づいた。
あー、なるほど。取られたのはそこか、代償でかいな。
「ん?起きたのか?」
俺は口に手を当て、アグヴェルに静かにするよう伝えた。
「う、うむ」
そっと抜け出しアグヴェルに近づいて、話そうとしたが喉が潰れて上手く声を出せない。
しゃーない、地面に書くか。
「………」
感覚がないからうまく書けない。
本当、大きな代償だこれ。
「…ゆっくりでいい。片目も失っているしな」
「!?」
そうだった。なんかもう1つ違和感があったけど片目ないのか。
道理で上手く歩けなかったのか。これから慣れるの大変そうだ。
全身が痛いけど眠気もないのでゆっくりと地面に経緯を書いていった。
「なるほど。それであんなことをしたのか。
とりあえず、こいつを巻いておけ。回復させたがないよりはマシだろう」
ありがとうアグヴェル。
「…あの時あの像があったら」
何も言えなくなり、アグヴェルと話しながら夜は開けていった。
「カズヤ!大丈夫!?」
b
健康面は大丈夫だぜ、血が足りないことを除けばね。
ウルも起きたみたいだけど背を向けてしまった。
うむ、もしかして本当に勇者の方に?
「………」
「………」
まずは近づこう、言いたいことあるし。
視界なれないから真っ直ぐに歩けなくて転んじゃったけど。
パルムが近づこうとしたがアグヴェルが止める。
サンキューアグヴェル。やっぱお前親友だわ。
「ち、近づか」
「お…お゛ばよう゛」
喉まじでいてぇ。
今オレンジジュース飲んだら死ぬる。
空気が固まったがウルが動き出し俺に抱きついてきたが、俺からすればタックルですよ。
喉から変な音出たし。
「ごめんなざい、ごめんなざい!」
俺はウルの頭を撫で落ち着かせようと努力した。
…撫でてる感触が無いのは本当に残念だし、恨むぞ邪神。
数分か数十分か。泣き止むのを待つと俺の代わりにパルムとアグヴェルが話を進めてくれた。
「私、辛かった。
お姉さまは洗脳の魔法を持っているようです」
「ん。やっぱり」
本当、パルムが気づいてくれて良かった。
大切なものを失うところだったんだな。
「お姉さまと一緒の部屋に入ってから、自分が自分じゃないような。
それに、カズヤにあんなことを」
思い出してまた泣きそうになっていたのでギュッとしてあげるとプルプルと震え始めた。
「わ、私、カズヤのこと、食べ…たべ?」
「?」
「ふふふ、そっか。私カズヤを食べたんだ」
「!?」
待って、俺のほうがプルプルしちゃうんだけど!?
寒気で凍えそうなんだけど!?
「ウル。カズヤは私も食べた」
「えへへ、一緒ですね」
勘弁してくれ!
こちとら散々失ってるんだぞ!
でもまぁ。
「あはは」
「えへへ」
この景色守れて良かった。
代償は本当に大きいけどね!!
「はぁ、お前ら幸せそうだな。
朝飯出来てるから冷めないうちに食えよ」
片腕、片目、感触。
失ったものは大きいけどそんなもの安いと感じるくらい今が幸せだ。




