26-助けるための犠牲-
・・・はい?なんか生温かいのが俺の顔に?
鉄の匂いもあるし、これって。
「血?パルム!」
パルムは石化解除と同時に血を吐きその場に崩れた。
なんで?え?なんでこんなことに。石化の解除はうまくいったはず。
パルムが倒れると同時に魔物たちの剣は抜かれ、阿鼻叫喚となった。
「ごほ・・・カズ」
「パルム!お願いだ、死なないで」
「き・・・て・・・い・・・」
「何、パルム!何か」
「生きてくれて、ありがと・・・」
パルムの手は冷たくなり、まるで人形のように。
助けたかった人は余りにも早く、一瞬で死んでしまった。
俺は全身から力が抜け、魔物たちに抱えられパルムの元を離された。
ウルは泣き崩れ叫び、パルムの死を受け入れることができていない。
アグヴェルは周辺に犯人探しにいつもの余裕もなく探している。
「カズヤこれはどう」
「・・・」
意識がはっきりしない。
どうしてパルムが死ぬんだ?石化は解除したはずだよな?素材も間違っていないはずだよな。
視界が暗くなり同時に明るくもなっていく。もう無理、何のための3年だよ。
なんかもう楽になりたいかも。・・・死ぬのもありかもな。
「やはり人間は脆いね」
「・・・」
「聞こえているでしょ、人間。
それとも壊れた?」
あは、あはははははははは!
ついに壊れたか、俺も耐え切れなかったんだな!
「くははは、人間の壊れた様を見るのは楽しいもんだ」
「あははははは」
あー、もうダメなんだな。
だって、目の前にはあの部族の渡してきた像が浮いてるんだぜ?
もう俺は正気じゃないね。
「だが完全に壊れているわけではなさそうだね」
「あははhゴホゴホ。うぇ、むせた」
「おーおー、大丈夫か?これでも飲め」
「あー、ありがとうございます」
お茶が中に浮いてきたため飲んで少し落ち着いた。
いやー、熱いお茶は染みるね。
「落ち着いたか?」
「ええ、中々には。ってここどこ!?」
「おお、その反応。懐かしいね」
いやいやいや、笑ってる場合じゃないよ!
何が起きたんだよ、説明プリーズ。なんか青空広がってるしなにここ?
「いくつか質問を」
「ほう、私に答えれるものならね」
「あなたは?」
目の前の黒に白髪の混じった青年はなぜかお茶を飲みながらのんびりと話している。
なんで椅子に座って優雅にお茶を飲んでるんだよ。
「ふう、私はただの呪いの像。
人の望みを聞き、対価をもらう。そんな存在。邪神なんて呼ばれてたり」
「じゃ、邪神。でも望みを・・・
俺の望みを聞いてもらえるんですか!」
「構わないが、対価は貰うよ。
私の気分、望みの大きさ関係なく構わず貰うから」
「・・・構わない」
パルムを救うためなら。
あー、でも会えなくなるのもさみしいな。
「いいの?どんなものを要求されるかわからないよ?」
「まぁ、怖いことには変わりないですが目的は彼女を救うことですから」
あー、お茶うめぇ。やっぱ緑茶最高だわ。
なんか今までのこと考えれば我慢できたりするかもしれないし。
「まぁ久々の仕事だし。私も頑張らせてもらおうかな」
「うぐ・・・きっつ」
青年は手を伸ばすと鋭い痛みが心臓に走った。まるで抜かれるような潰されるようなそんな痛みだ。
そして手元にある赤い物体でギュッと握り潰した。
「これで願いは叶った。
彼女はどうやら心臓がなくなっていたようだね。
君が死ぬと彼女も心臓が止まり死ぬ」
「心臓が?」
心臓だけがなくなっていたのか?ん?どういうこと?
「さて代償だが・・・
そうだ、記憶をもらおう。それもこの世界じゃない、幸せな頃の記憶、友の記憶が欲しいかな」
「うむ・・・どうぞ。悲しいですが仕方ない」
「さて、世界に帰るといい。私はまた気が向いたときにでも訪れよう」
黒い世界はなくなりお茶もなくなってしまった。
さて、俺の妄想でなければ状況は良くなっているはず。
・・・おかしくなってるんだな、俺。
「なっているんだ!」
「少し確認させてください!パルム、頼む生き返ってくれ!」
なりふり構ってられない。魔物の拘束を振り切って、パルムの脈を図った。
あー、よかった。脈は正常だ。でも心音は聞こえないか。
「おい!説明しろ!」
「脈は正常に戻りました。パルムは生きています」
「!?確認を」
魔族も脈を図り、生きていることがわかったが心臓が動いていないことが判明した。
うーん、どうやら本当に心臓だけ抜き取られているようだ。
「カズ、冒険者どういうことだ?」
「あー、説明し辛いんですが・・・
話が長くなりそうです」
「では、パルムが目覚めてから話してくれ」
そうだな。パルムが目覚めたら残念だけどどっかに旅に出ないといけないからな。
あんなクソみたいな元の世界には絶対に帰らないからこっちに永住出来るように考えないと。
なんて話しているとパルムが目覚めた。
「おはよう、パルム。どう体に」
「GAAaaaaaaaaaaaaa!」
パルムは目から大量の黒い魔法を出し体を包み込んでいく。
あー、もう次から次へと一体何なんだよ!
「あら?そう石化が解けたのね」
森の中で女は面白そうに顔を綻ばせた。
「でも残念、あなたは無駄な時間を過ごしただけね」
女は興味が無さそうに赤い袋を森に捨てた。
「勇者様少々いきたいところがございますの。
そろそろ、あの魔王を倒しても良い頃合かと」
勇者一行は全員が頷き光となって消えた。
残った森には狼が赤い布の中身を美味しように食べ始めた。




