24-冒険の始まり-
ある日、俺たちは魔王様に呼び出された。
今回は魔獣部隊も一緒のようだ。さーてどんな難題を出されることか。
「勇者一行がまたしてもこちらに来ているようだ」
「は?この前来たばっかりだったのになんで?」
「僕にもさっぱりだよ。
とりあえず、こっちに向かってきているようだからまたお願いしたいんだけど」
「了解しました。はぁ、めんどくせぇ」
今回は森を抜けて来るようだ。
森に詳しい魔獣部隊を引き連れて勇者一行を向かい入れる予定だ。
「隊長さん、隊長さん」
「ん?白猫さん?あー、マタタビね」
いつもの通り影に隠れて渡した。
白猫さんはマタタビをほかの人に見せたくないようだ。
「いつものお礼ね」
「え?別にいいのに」
赤い指輪を中指にはめられた。
あー、こんな高そうな物渡されても困ってしまう。
「ごめんね」
「え?いまなん」
俺は空を見ていただろうか?ってかなんでこんなに視界がグルグルと回るんだ?
あれ?あれって俺?なんで頭がないん
「これで満足でしょ。
早く私たちの国から遠くに行って!」
「あらら、嫌われてるね。
はいはい、遠くね遠く」
白猫---私は女勇者と取引を行った。
元勇者の首を差し出せば私たちの国を救ってくれる。
大切なあの人との居場所を壊さずにいられる。
「でも、あなたどうして自分の国を裏切ったの?」
女勇者は質問してきた。
なぜ?まぁ、人間の考えてることを考えたとこで無駄か。
「今の生活を守りたいからよ」
「へぇ、そうなんだ」
「そうよ、だから早くかえ」
あれ?なんかお腹が熱い。
違う、寒い?痛い?
ドサ。
私の本来お腹の中に入ってるはずの物が垂れてる?
どうして?女勇者の手には赤く暗く光るナイフが握られている。
「き、貴様ぁ!」
「ふふ、どうして私が動物の約束を守らないといけないのかしら」
「・・・よかった」
隊長に渡しといて本当によかった。
でもあれだって高かったんだよ。
「さて、その薄気味悪い顔も見なくて済むのね」
「・・・ごめんね」
目の前に落とされる鈍い色の鋼が最後に見た光景だ。
明日のデート間には間に合いそうにもないや。
魔獣部隊は酷く混乱していた。
「殺す。誰、カズヤを殺したのは!」
「・・・お嬢様、落ち着いてください」
「落ち着け?カズヤが殺されたのにどうして!」
「許さないわ!必ず殺してみせる!」
首を落とされ頭が見つからない死体が見つかったのだ。
指には光る指輪があるが誰も気にしてはいない。
「・・・まさか」
一人を除いて。
どうやらアグヴェルは犯人に心当たりがあるようだ。
「お嬢!勇者一行が見つかりました!」
「殺せ!あいつら人間をひとり残らず殺せ!」
「お姉さま、今お母様たちの後を追わせてあげる!」
これを止められるものはおらず、1人が冷静であったとしても取り返しはもうつかないだろう。
「見つけたぞ勇者!」
「え?姫様?」
「あれは!」
勇者達のそばには白猫の無残な死体がまるでボロ雑巾のように転がっており、もう助からないことは目に見えてわかった。
「殺せ!殺せ!殺せ!」
『殺せ!殺せ!殺せ!』
「ど、どうして」
「勇者様、相手は魔物です。
情けをかけては殺されます」
魔獣たちは勇者を殺そうと襲いかかるが流石は勇者。
みるみるうちに返り討ちに遭っていく。
「お姉さま、もうすぐお母様に会えますよ」
「ウルが私を殺そうとするなんて・・・
あぁ、私はなんて不幸なんでしょう」
そこは森から血みどろの戦場に変わっていた。
バチョ、ベキッ、ゴチョ!
「あぁ、気持ち悪い、吐きそう」
うわ、なにここ?血だまりができてるんだけど。
これが怪我とかなら大怪我じゃすまないだろ。
「?あ、あああああ!」
やべ、早速もらった宝石が砕けてるんだけど!
どうしよう、白猫さんに怒られるかも・・・
「ん?あっちの方が騒がしいな。
まさか、俺が寝てる間に到着しちゃったとか」
どうしよう、怒られる要素しかない。
早く行かないと、今ですら遅刻なのに・・・
戦場は酷かった。むせ返るような血の匂い。大量の魔獣の死体。
地面に倒れ込み血だまりを作るウル、目の前では石に変えられつつある
「・・・どういうことですか、先輩」
パルムの姿があった。
あれ?パルム?どうして?
ウルもなんでそんなに真っ赤に・・・
「あ、ああ、ああああああああ!!」
俺の中で何かが砕けた、なくなってしまった。
なるほど、心にポッカリと穴が開くってこんな感じなんだ。
「はぁ、はぁ」
「残念ながらあの子は既に洗脳されています、家族とて嘆かわしい」
「っち、増援か、撤退するぞ。
・・・やっぱり、先輩、クズが洗脳をしていたか。
次に会うときは殺す。二度と顔を見せんなクズが。」
・・・そう言うと勇者一行は国とは反対方向に向かった。
どうやら俺を見て数での戦闘を警戒したようだ。
「勇者様?国はあちらですよ」
「気分じゃない。俺の見えないところでくたばれよクズ」
勇者は光になって消え月明かりに照らされたのは俺と死体、石化したパルム、瀕死のウルだった。
それから何分たっただろう。俺には一瞬の出来事だ。
そこに森の戦闘に気づいた魔物の部隊が応援に駆けつけウルは運ばれ、周辺には警備が入った。
「カズヤ」
「・・・」
「聞け、お前は諦めるのか」
部隊と共に駆けつけたアグヴェルが俺を無理やり立ち上がらせ何か言っている。
どうしろってんだ?俺には力もなければ何もできない。
「無力なんだよ俺は。
無駄だ、何をしても無駄だよ。
もういっそパルムと同じく死んだほうが」
「・・・食いしばれよ」
殴られた。歯は何本か砕け、口は鉄の味が広がる。
もう、どうだっていい。このまま殴り殺してくれよ。
「お嬢様はまだ死んでないことがなぜわからん」
「・・・」
「石化なら治す術があるはずだ。
なぜ貴様は諦めようとする。
なんで、救えるのに救おうとしないんだよ」
頬に水が落ちてきた。
なんで泣いてるんだろアグヴェル。お前には関係ないことじゃないのか。
どうせ皆他人事なんだ・・・
「くそ・・・くそ・・・」
「・・・白猫さん」
何度も踏まれたのだろう。もはや顔がわからない白猫さんを抱いて泣き崩れるアグヴェルがそこにいた。
「・・・アグヴェル」
「殺したければ殺してやる。
愛した人を見殺しにするというなら今すぐ殺してやる。
その後お嬢様をバラバラにしてやるぞ」
こいつ、どれだけ強いんだよ。
・・・そうだよ、石化なんだ。まだ解除手段があるはずだろ。
「悪い、アグヴェル。手間かけた」
「ふん、本当だ。
だが、探すのは明日からでもいいだろう。
今は」
「ああ、わかってる」
その日2人は一生分と言えるほどの涙を流した。
パルムは持ち上げると脆く壊れそうだったのでその場で守ってもらうことにした。
「あれそんな荷物あったけ?」
「あー、これですか?」
勇者一行の腹黒女は1つ新しく布で包まれた何かを持っていた。
「これはちょっとした保険ですよ」
「へー、ちょっと見せてよ」
「ふふふ、ダメですよ。
保険がダメになっちゃいますからね」
腹黒女は素敵な笑みを冒険者に向けた。
「なるほど。報告を受け状況はわかった。
それでこれから貴様はどうするつもりだ」
次の日魔王の前で今にも殺されそうな俺は無理やり座らされながら面会を果たした。
ま、命あるだけましだな。死ぬのはいいがここじゃない。
ウルは未だ救護室で眠っているので今の状況を知らないだろう。
「貴様がいたから招いた状況。このままのうのうと我が城で暮らせると思うな」
「わかっています。
私が対処を間違えなければパルムも」
「サル如きがその名を口にするな!」
「・・・失礼しました。
しかしながら魔王様、何卒教えていただきたいことが」
「貴様の一声が命の重みと知れ」
「・・・石化の解除方法を教えて欲しいのです」
「ふざけるな人間風情!なんの力があってそんなことを聞く!」
「そうだ人間。全て貴様が招いたことだろう!!」
効くねー、でもこんなとこで折れちゃいけない。
折れてたら俺がパルムを助けられない。
「何故」
「自分の責任は自分で。
これくらいしないと死にきれません」
「力をつけて裏切るかも知れぬ相手をか」
「私はまだ奴隷です。殺すのは容易いかと」
「・・・貴様はなぜそこまで動くことができる」
動く理由か。そうだよな、素材が険しかったら死ぬ可能性すらあるんだからな。
でも、やるなら今しかない。
「今は恨みです。
冒険者を殺すまでいかずとも彼らには不幸になっていただきたい。
それに・・・パル、お嬢様を命にかえても救いたい」
沈黙が痛い。だけどこれが俺の本心だ。
頼む魔王様!
「その言葉信用に値するか」
「魔王様!」
「信用していただくものは出すことができません。
私の言葉を信用していただくしか」
その言葉を最後に魔王は家臣を散らし、アグヴェルを含め4人での対話となった。
「カズヤ君、本当は今君をここでバラバラにしてやりたい気持ちでいっぱいなんだ」
「はい」
「でも君の言葉、信用してもいいんだね」
「いいえ、人間を信用なんてしないでください。
どこまでも汚く、醜いのが人間だと私は実感してしまいました」
人間の俺が言うのもあれだけどね。
でも信用なんてダメだ。俺も100%なんて言えないし。
「ですからお嬢様がちゃんと帰ってきたら僕はどこかに行こうかと。
もう勇者なんて関わってはいけないものですから」
「・・・わかった。
それで君はどうするんだ」
「私は彼について監視をしようかと。
彼が裏切りしだい殺して帰ってきます」
「・・・そうか。
ではカズヤ君、君にはパルム解除のための旅を言い渡す。
それまではこの街に入ることは禁じる」
その後石化解除のためのアイテムを教えられた。
完全な石化となるとかなりの量のアイテムが必要になるようだ。
「・・・君の冒険に良き風が吹くことを」
「ありがとうございます。
では罪人勇者。行ってきます」
パルムを救うため、そして勇者を不幸にするための力をつけるため旅は始まった。
「さて行きましょうか」
城門を出ると包帯で満身創痍のウルが立っていた。
「お前な」
「ふふふ、私はまだあなたの奴隷ですよ?
それにあなたの考えてることつぅぅ・・・」
「はぁ、今のウルじゃお荷物だ。
黙って魔王城で過ごしてろ」
ウルは1歩、また1歩と全身に走る激痛に耐えながら近づいてくる。
普段の病気は発症せず至ってまともだ。
「私は、あなたが、いるところに向かいます!
たとえあなたが、遠くへ行こうと!野垂れ死んでも近くに」
「あー、わかった!だから無理しないでくれ」
「へへへ」
そして脂汗と涙でひどい顔のウルは力尽きたように俺に体を預けてきた。
「準備に手間取ってな」
「さてアグヴェル、出発だ。
お荷物も増えたけどな」
アグヴェルの悩みの種が早速1つ増えた。
ホントごめんなアグヴェル。




